西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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すごく分かりやすく言うと、愛里寿回。



島田流の友だち

 とある大学。戦車道に特に力を入れているそこは、日本でも有数の飛び級を採用している大学として有名だ。

 当然ながら戦車道以外の分野も手を抜くことはなく、やはり文武ともに名門であるといえよう。

 

「…………」

 

 そんな中で異彩を放つ少女。これは言葉の綾ではなく、真の意味で彼女は少女だ。

 島田愛里寿。十三歳にして飛び級で大学に通う、島田流正統後継者。普段の落ち着いた面持ちは戦車に乗っても崩れず、立ち振る舞いは年上に負けず品がある。

 だからではないが、無口な性格も相まって彼女に話し掛けるのは中々に勇気がいる。現に今も彼女の周りには遠巻きに眺める者達しかいない。

 昼食をとるであろう少女は、今日も一人で弁当を広げた。

 

「愛里寿、ここ座ってもいいか?」

 

 つまり、こんな気軽に声を掛けようとする男は異彩を通り越して異常である。

 愛里寿の座るテーブルの向かいに、陽気な挨拶替わりを言い放つ男――東条まひろが椅子を指さしながら問うて来た。

 

「……どうぞ」

「ありがと。あ〜腹減った」

 

 半ば返事を返す前に座ろうとしていた節があるが、そこまで愛里寿は気にしない。周りからすればどんな間柄なのかと推測の声が密かに飛び交うが、それこそ気にする以前に耳にすら入っていなかった。

 

「あ、そうだ。戦車道お疲れさん」

「いつものこと。……」

「そっか」

 

 もとより愛里寿は口数が少なく、こうして短い言葉ですら戦車道以外での会話というのは珍しい。それは彼女が人見知りであることも含まれるだろう。

 

「午後からもあるのか?」

「……うん。私、戦車道でここに来てるから」

「飛び級って、すげぇよな普通に。流石は愛里寿隊長だな」

「そう、かな……」

 

 食べるペースが落ちない程度に、二人は世間話程度の会話を少しづつ交わす。

 傍から見れば、戦車道を知る者あるいは島田流や愛里寿に憧れを抱く者ならなんとも羨ましいと思ってしまう絵面ではある。

 ――つまり、こうしてなんの脈絡もなくまひろが後ろからヘッドロックを食らうのは何ら不思議ではない。

 

「隊長!お昼、ご一緒してもいいですか?」

「……メグミ達か。構わない」

「ありがとうございます隊長。でもその前に――」

「少し東条と話があるので、借りていきますね〜」

「うん、分かった」

「――――っ!」

 

 戦車道の大学選抜チームで中隊長を務めるメグミ、アズミ、ルミの三人は食堂のとある一角に島田愛里寿を見つけ、その向かいに座る男を愛里寿に声が聞こえない範囲まで連行した。

 

「――っくは!死ぬかと思ったんですけどっ!?ルミ先輩?」

「ッチ、死ななかったか」

「次はもっと強く締めなさい、ルミ」

「そうね、隊長に近付く男は誰であろうと」

「あの、怖いですよ御三方?」

 

 さながらカツアゲでもされているような構図になってしまった。

 これはかなり厄介だろう。何が、といえば全く状況を知らずに見ればただ美人三人から囲まれる男にしか見えないのが特にまずい。

 

「というか、なんでいるんですか?」

「それはこっちのセリフだ」

「隊長に何か用でもあったの?このロリコン」

「大人しく帰って欲しいのだけど?」

「事実無根の冤罪で無罪の一般人にバミューダアタック仕掛けないで下さい」

 

 彼女ら三人はその連携の高さからバミューダ三姉妹と呼ばれており、血の繋がりはないものの凄まじいまでの息の合った攻撃――通称バミューダアタックの恐ろしさは想像にかたくない。

 

「私達は午後からの訓練の話ついでに隊長と仲良くなりに来ただけだ」

「それついでにしちゃうだ」

「ルミ、それはついでにじゃなくて同時展開のミッションよ」

「いや意味変わってないですよね?」

「ともかく、それであなたは何しに来たの?ロリコンまひろくん」

「東条です」

 

 こと残念なことに、声の聞こえない範囲からはハーレムに、声の聞こえる範囲からは漫才と思われるような状況。まひろは不幸な男ではないが決して幸運でもないのだ。

 やれやれと寝ぐせの上から頭を掻き、まひろはさっきまで自分が座っていた席を指さす。正確にはその椅子の足元だ。

 

「ティラミス作ったんで、ついでがてらお裾分けに来たんですよ。先輩方も、良かったら食べます?」

「え、ちょっと待って」

「ティラミスって作れるの?お店のとかじゃなくて?」

「簡単なものならできますよ」

「どうしよう……何故か負けた気がするわ」

 

 攻撃力で勝っていたであろう三人は思わぬカウンターパンチを喰らい、バミューダアタックは無念にも不発に終わった。

 学力も高く戦車道も優秀で、その美貌もまた彼女らの魅力ではあるが、欠点を上げるとすれば料理ができないなどの女子力の低さだろう。

 むしろ、何故まひろの方が女子力で勝るのかとも思えるが。

 

「ひとまず戻りませんか?隊長さんも待ってると思いますし」

 

 まひろの言葉に三人は少々落ち込みながらも賛同し、計四人は愛里寿の元へと帰る。

 どういう意図か愛里寿には分からないが、自分を挟むように左右にアズミとメグミが座り、対面にはまひろとルミが並ぶ。

 愛里寿は単に仲がいいのかと思っていたが、まひろはこの配置の意味を理解している。

 ――何かあったら真っ先に首が締まるだろう。

 基本的にテーブル内の会話はバミューダ三姉妹の展開に愛里寿が応えるという図になり、まひろに口を挟ませまいと必死のようにも見えた。

 対してまひろはそれらを気にする素振りもなく、自作の弁当を食べ進める。

 

「……あっ――」

 

 話しながら食べていた為に気が付かなかった。愛里寿は周囲に聞こえるか聞こえないかの小さな声を漏らす。

 弁当の隅に一つ、プチトマトがサラダの隣に鎮座していた。

 まだ十三歳ということもあり、苦手な食べ物は少なくない。トマトもその一つなのだが――。

 

 そう思った矢先、小さなトマトを二本の箸が貫く。

 

「も〜らい」

「あ――」

「「「なぁっ!?」」」

 

 三者一様のリアクションとは対象的に、目の前で起きた現象に愛里寿はただ困惑した。

 

「きさま、隊長の食べ物を!」

「泥棒!」

「ロリコン!」

「いや最後のおかしくねっ!?」

 

 ルミが激しく体を揺するのは既に時が遅く、愛里寿の弁当から強奪されたプチトマトはまひろの喉を通過した。

 

「謝れ!そして償って死んでおけ」

「罪と罰が合ってないんですが」

「クズ」

「変態」

「だから最後のおかしいですよね、メグミさん!?」

「…………」

「いや、悪かったって。愛里寿、ごめんなさい」

「……気にしなくていい」

 

 テーブルに両手をついて上半身だけで土下座をするような体勢に、愛里寿は控えめに返した。苦手な食べ物を取られて怒ることはあまりないだろう。ただ、複雑な気分ではあった。

 

「お詫びにじゃないけど、これどうぞっ」

「えっ?」

 

 無意識に俯きかけた愛里寿の顔を上げさせたのは、まひろが鞄から出した控えめに彩られた容器とその中身――手作りのティラミスだった。

 

「……すごい」

「これ、本当に手作りなのか」

「見た目はすごく美味しそうね」

「東条くん、あなた何者?」

 

 次こそ四者四様といえる反応。だが共通しているのはやはり驚きだろう。普通の男子大学生が女子大生にティラミスを持ってくるなんてことがあるだろうか。

 

「ただのしがない大学生ですよ。ささ、どうぞ」

 

 まひろは持参したナイフで食べやすい大きさに切り分けると、それぞれにフォークを差し出した。

 もとは愛里寿だけに渡す予定と言っていたが、それにしても四人分のフォークを用意している辺りが彼の気遣いだろう。

 実は単に、愛里寿のいるところにバミューダありと思っていただけかもしれないが。

 さて、そんなよくわからない男から受け取ったフォークで一口大のティラミスを捉えると、四人は図らずも同時に口へ運んだ。

 

「ん!何これ!?」

「え、美味しい」

「これが、手作りって……」

 

 疑う余地なくまひろのことを良くは思っていないであろう三人は、そんな印象を度外視に世辞無く感想を漏らす。

 謙遜で返すまひろ。そんな彼を正面から見つめる少女が一人。

 

「どうだ?愛里寿」

「……美味しい」

「それは良かった」

 

 その後も女子達四人はティラミスを摘みながら会話を楽しむ。

 まひろはそれを眺めながら少し遠巻きにいちごオレのストローを咥えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後に出る授業はないと、まひろは愛里寿達と別れて帰宅支度を手早く済ませる。とは言っても寮なのだが。

 帰りにまたいちごオレでも買って行こうかと考えていた廊下で、後ろ髪を引かれるように自分の名前が呼ばれた。

 

「メグミ先輩ですか。珍しいですね、一人で」

「一応聞いておこうと思ってね」

「なんですか?」

「なんで隊長にティラミス?美味しかったから文句はないんだけど、気になって」

 

 まひろはそれなりに切迫したことでもあるのかと思っていたが、あまりの空振りに肩を外したかと錯覚した。

 

「俺甘党なんで。自分用に作ったら、作りすぎたってだけですよ」

「まぁ、あなた大体いちごオレ飲んでるものね」

「ええ」

 

 要件は終わったらしい。

 メグミはそれだけよと言い残し、踵を返した。まひろもそれを見届けると、自分の寮へと向かう。

 

 

 

 疲れた時には甘いものがいいと言うが……と。愛里寿と合流するために進む道半ばでそんなことを思う。

 最近は戦車道連盟も国際大会などの話もあって大学選抜にやたらと期待と重圧を掛けて来ている。それは隊長も感じていることだろう。

 

「まさか……ね」

 

 もしそこまで気を遣ってやったことなら、あざといを通り越してちょっとカッコイイではないか。

 そもそも東条家の息子というだけあって財産は多く、女子である自分よりも遥かに女子力がある。顔もそこそこなのだし、寝ぐせくらい直せとも思う。

 

「これだけ並べると、優良物件なのよね」

 

 別に彼女はまひろをそんな対象として見てはいないが。

 しかし、と。そんな彼がやけに皮肉的だと思ってしまう。

 親しいわけではないが、彼からはどこか一歩引いた感覚をメグミは感じていた。明確にどうとはいえないが、彼は心のどこかで壁を作っている。

 

「……なんて、ね」

 

 そんなことは知らないと、メグミは自己暗示に近い声を吐き出す。

 かぶりを振って向いた先には、隊長と並ぶ義理ですらない姉妹の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「状況終了」

 

 いつも通り、そしていつも以上に。

 愛里寿は目の前の課題と目に見えぬ課題をクリアせんと戦った。

 一区切りついた訓練の合間で、彼女は東条まひろという男を考えてみる。

 自分の短い人生の中でだが、あそこまでよく話した男の人は彼くらいだろう。

 彼は自分を子供扱いしない。それは戦車道に取り組むメグミ達やメンバーもそうだが、それとは別に。

 尊敬とか憧れとか、そういった漠然とした感情ではない何かを彼は持っているのだろう。

 ならば自分は彼をどう思うか。

 言葉にするのは難しい。だが、優しい人だとは思う。

 そういえば、前にボコのことを話したことがあった。彼の知り合いもボコが好きで、彼はその人にボコに似ていると言われたらしい。

 ……確かに、会う度メグミ達に色々言われているけれど、彼は一度だってへこたれていない。

 

「ボコに似てる……」

 

 彼をそんな風に評価した人は、きっと自分よりも彼のことをよく知っていて、そしてボコの事も大好きなのだろう。

 ――会ってみたいな。

 顔も、名前すら知らぬ誰かを思い浮かべながら、愛里寿はいちごオレに口をつけた。

 

 

 

 

 

 

 




おっと、途中が完全にバミューダトライアングルになっている(?)。
この三姉妹の会話がだいぶ難しいですね。
大体は上からルミ、アズミ、メグミの順です。分かりにくい。
感想頂けると嬉しいです。
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