朝起きたらお気に入りが170件をオーバーしていた。
夢かと思って二度寝した。
ご愛読の皆様、ありがとうございます。
誰かは分からない。
カフェ店内の通り道を歩く一人の少女。まひろが唯一判断できるのは、彼女がまほと同じ黒森峰女学園の生徒であるということだけだった。
「あぁ、元、でしたね」
続く言葉で、まひろは彼女が誰に対して言っているのかを理解した。
目線だけを向けると、隣にいるみほは何も言えず俯いている。大洗の皆も、状況も分からず口を開かない。
「エリカ、どうした?」
みほを元副隊長と呼んだ少女の後からもう一人、同じく黒森峰の制服を纏った西住まほが現れた。
「……みほ?」
「――っ!……お姉、ちゃん?」
思わぬ対面を果たし、姉妹は互いに見合わせた顔を背けることすらできずに固まっている。
視線を移すと、エリカと呼ばれた少女と目が合った。というか睨まれている。
まひろの性格は、陽気といえば聞こえはいいが、ある意味人の事情を無視しているとも言える。それはまひろ自身よく分かっていて、自分は人から好かれにくいと戒めている。まぁだからこそ、嫌われるかもという感情を度外視して人に接することができるのだが。
ともかく、そんな思考は持っているが、流石に初対面の相手から恨まれる覚えはない。何故睨まれているのか。
しかし、エリカの真意を聞くより先にすべきことがある。
まぁ言うまでもなく、この姉妹だ。さっきから無言で、目と目が合う瞬間好きだと気付いたのかと思うほど動かない。姉の方は最初から溺愛だろうけど。
「……まだ、戦車道を続けているとは思わなかった」
意を決してまほが口を開くが、対してみほは俯いてしまう。
……というか、である。
まひろはまさかと思いまほを見上げる。視線に気付いたまほは、合った目線を気まずそうに逸らした。
おいおいと、内心ツッコむまひろは寝ぐせごと頭を掻く。みほの方も見てみるが、何か行動を起こす様にも見えない。
うっかり出てしまいそうなため息を堪え、まひろは立ち上がる――。
「あの!西住殿は悪くないと思います!」
それとほぼ同時、秋山がまほとエリカに向かって言い放った。
まぁ確かに、まほの言い方はエリカの台詞も踏まえると過去の事を責めている様にも聞こえる。エリカの方は恐らくそのままだろうが、まほの場合は……。
「部外者は黙ってて」
「うっ……」
みほを庇って反撃に出るも、秋山はエリカに一蹴される。
つか怖いなエリカさん。もうちょっと笑えば?
しかし、いい仲間を持ったなと。口には出さないがまひろは素直にそう思った。
立ち上がったまひろは秋山から視線を移し、形の上では並ぶ様に立つまほの方を向く。
「西住まほ、少しいいか?」
「…………」
「ねぇあんた――」
「部外者は黙ってるんだろ?」
「――っ。……」
エリカとまひろは初対面であり、互いが互いをどういった立場の人間なのかは知らない。だから、エリカが隊長と見知らぬ男の接触を止めようとした事に、まひろはなんの疑問も持たなかった。
しかし、流石にそれだけが睨まれる理由ではないだろうが……。
「エリカ。先に行っていてくれ。私は、彼と話がある」
「隊長っ……」
「大丈夫だ。すぐに追い付く」
「……分かりました」
隊長には逆らえなかったらしく、エリカは渋々出口へと向かう。
去り際まで、彼女はまひろを睨んでいた。――だから、俺が何かしました?
何となくバミューダな先輩を思い出しながら、小さなため息と共に頭を切り替える。
「みほ。悪いが、ちょっと黒森峰の隊長と話してくる。もし帰るんだったら俺の事は気にしなくていいから」
まひろはそう言いながら三千円をテーブルに置くと、まほと共に別のテーブルへと移動した。
この時まひろがまほと他人であるかのように接したのは、大洗のメンバーに対してみほが、自分と実の姉の関係を話していないようだったからだ。理由は分からないが、彼女なりに何かあるのだろうとまひろは考える。
「――さて、言い訳を聞こうか?」
「…………」
カフェオレとコーヒーを新しく頼み、みほ達から離れた所に座り直したまひろとまほ。
まひろの問いに、まほはただ顔を背けることしかできない。
「…………」
「……はぁ、全く」
まひろがため息をつく理由。それはさっきのまほの一言にある。
まほはみほが戦車道をしていることを知らない。つまり、まだ彼女はみほと連絡を取ってはいなかったということだ。
まひろがまほと再会してからはしばらく経っている。それなのに、未だに気まずくてメールすら送れていないと。
……流石に、不器用にも程があるだろう。
ついでに言うと、不器用さはワードセンスにも出ている。
さっきみほに言ったセリフ。事情を知らない者――というかまほの内心を知らない者からすればただの糾弾だった。みほが俯くのも無理はない。
「気まずいのは分かるが、それはみほも同じだろ?」
「……あぁ、すまない……」
「いや俺に謝ってどうすんだよ」
別に責めているわけではない。それはまほも分かっている。彼は単に、早く仲直り――でもないが、とにかく
それならば早い話、彼自身がまほとみほの間を取り持てば済む話かもしれない。がしかし、それはまひろ自身がしたくなかった。これは二人の問題であり、自分が動いてどうこうするべき事ではないと。
「……正直に言うと、なんだが」
「ああ」
「何を話せばいいのか、分からないんだ。その、みほとどう接すればいいのかが、私には分からない」
「…………。はぁ……」
本当に、戦車道以外になると不器用さが半端じゃない。特に妹の事になるとそれに拍車が掛かかる。
まほはお喋りという質ではない。それに、遥かに薄い表情から感情を推測するのはそれなりに付き合いがないとできないだろう。
みほも付き合いこそ長いが、その辺の察しは苦手なところがある。
「言わなきゃ分かんないこともあるぞ?みほだって、人前に出るのが得意な方じゃないだろうけど、今は隊長だってやってる」
もしかしたら、今みほがああしていられのは、彼女の周りにいる大洗のチームメイトのお陰かもしれない。
しかしそれでも、みほは過去を乗り越えて戦車道に戻ったはずだ。それには大きな決心があったことになる。
みほにできたんだ。妹ができたのに、姉が立ち止まってられないだろう。
「多分、みほはみほのやり方で進むんだと思う。なら、まほはまほのやり方をすればいいだろ」
「私の、やり方……」
「西住流――違うか?」
「…………」
――西住流に逃げるという道はない。
遠回しな言い方だが、まひろが言いたいことを、まほは聞き直す必要もなく理解する。
逃げるな。妹から、そして自分から。
嫌われるのが怖いなら、それ以上の勇気を持て。
傷付けるのが怖いなら、それ以上の慈悲を持て。
「そう、だな――」
多分、こうして彼に背中を押されなければ、きっと踏み出せなかった。仮にできても、それにはもっと時間が掛かっただろう。
悩みすら置き去りに、まほは正面の彼を見据える。
優しい彼には、助けて貰ってばかりだ。けれど多分、彼は礼を言われることを拒むだろう。
いつも通り、「俺は何もしてない」なんて謙遜をしながら。
だから、まだ言わない。今は、まだ。
その代わりに、と。まほは迷いなく告げる。
「約束する。今日、必ず、みほと話す」
その代わりに、今は決意を語ろう。
そうすることが、彼の思いに対する答えになるから。
「おう、約束だぞ?」
「ああ」
いつも通りの笑顔に、まほも頷き応える。
目線だけで確認すると、どうやら既にみほ達はここを後にしたようだった。
――ある日の夜。
『……もしもし?』
『もしもし……みほ?』
『お姉ちゃん……?』
『ああ。……大洗では、上手くやっているか?』
『えっと……うん、多分』
『そうか』
『その……どうしたの?』
『いや……。初戦の相手はサンダースらしいな』
『あ、うん』
『厳しい戦いになるだろうな』
『そうかも。……でも、私やるよ』
『ああ。きっとみほならできる』
『――うん。……お姉ちゃん』
『……なんだ?』
『――ありがとう』
『…………。いや、私は何もしてやれていない』
『そんなことないよ』
『…………』
『あ、それと今の。まひろくんみたいだった』
『……確かにな。彼なら、きっとこう言う』
『そうだね』
『……みほ』
『……なに?』
『――頑張れ』
『――うん』
『じゃあ、おやすみ』
『うん、おやすみなさい』
エリカ、退散。
そして主人公よりイチャイチャし始める姉妹とは。
百合ですねそうですね。
次回、ようやく大会が始まる……かも。
毎度の事ながら感想、誤字報告ありがとうございます。