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これからも更新続けます。
戦車道全国大会。
戦車道を歩む女子高生を対象とした現段階最大の大会だろう。
熱い戦いの火蓋は切られ、戦乙女達が文字通り火花を散らす。
会場となる学園艦に泊まりながら、まひろもまた、その熱戦を瞼に焼付けていた。
――大洗対サンダース。
今日も今日とて大学をサボり、ダージリンに知り合いと言った妹分の応援に駆け付けた。
しかし、遠目に分かる通り凄い戦力差だ。みほから聞いてはいたが、流石に戦車の地の数が違いすぎるだろう。
さながら物量対精鋭。だが大洗のメンツは最近始めたばかりの急造にも近いチームだ。
初戦から難戦だな。
「何故わざわざこんなチームを視察に……」
「これも偵察だ。それに、いずれは戦うかもしれない相手だろう」
「……んお?」
「…………」
「あ――っ!」
観覧席の最後尾に立っていると、見知った二人が歩いてきた。いや、片方は名前くらいしか知らないが。
「初戦突破おめでとう」
「ありがとう。だがまだ道の途中だ」
黒森峰が初戦を圧勝した際、まひろは次の試合観戦の為に移動を開始していた。時間的には余裕もあるのだが、学園艦の混雑はゴメンだったのだ。
それで仕方ないとはいえまほとは電話越しにしか話せておらず、彼は理念に従って賞賛を送る。
言わずもがな、まほとは知り合い以上な関係のため、彼女も自然に隣でモニターに目を向けた。
「いや、隊長っ!?」
「どうした?」
「あの、この人は――?」
この人、とはまたご挨拶だな。まぁしかし、エリカとはあのカフェの一件以来だ。あまりいい感情は持たれていないだろう。というか嫌われているまである。
「あぁ。彼は東条まひろ。大学生で、私の古くからの知り合いだ」
「よろしく〜」
「え、あ、はい」
「まひろ。彼女は逸見エリカ。黒森峰で副隊長をして貰っている」
まほが凄く簡潔に分かりやすく紹介を始めた。
エリカに対してまひろとの関係性を詳しくは話さなかったが、まぁ確かに、いきなり「私の許婚だ」とか言ったらびっくりじゃ済まないだろう。世間体というか、部下からの見方も変わるだろうし。
説明は受けたが、エリカはタジタジだ。接し方に迷うのは確かに分かる。
「聞きたいことがあればどうぞ?」
「あ……。えっと、その、お二人はどういったご関係で?」
いまいち距離感が掴めないエリカ。
対してどう答えればいいかと悩むのはまひろだ。流石にまほが言わなかった内容を伝える訳にも行かないし、かといってどんなと言われれば幼馴染というべきだろうか。
そもそもまほとエリカがどこまでの親密度なのか分からない以上、まひろは口を紡ぐことにした。
「昔馴染みだ。家ぐるみの付き合いがあってな」
「そうなんですか……」
「あ、逸見さん?俺には敬語とかいいから。俺も逸見って呼ぶし」
「あ、はい。わか……った」
まひろは敬語で話されるのがあまり好きではない。それは距離を感じるのもあるが、もっと根本的に東条家の息子として扱われている気がするからだ。
もちろん彼の杞憂であることが多いが、それでも気にしないことはできない。
「――隊長。少し彼と話したいのですが」
「……?」
「俺は構わないよ」
「そうか、分かった」
「ありがとうございます」
何を思ったのか、エリカはまひろの手を引きながらまほから離れる。あまり隊長に聞かれたくないことだろうか。
まほまで声が届かないであろう場所で、エリカは立ち止まって振り向く。
「それで、あんたは隊長とどういう関係なのよ?」
いきなりグイグイ来た。単に敬語をやめてもらっただけなのだが、それが彼女には弱気に見えたのかもしれない。もしくは踏み込みやすいと。まぁ大した問題ではない。
「ただの昔馴染みだって」
「なら――隊長と一緒に走っていたのはッ?」
「――?」
はて、と。まほと戦車に乗ったのはガキの頃くらいだし、そうでなくとも一緒に走る?
……あぁ、そういえば。
まほと再会して西住家に泊まった次の日、ランニングに付き合ったのだった。その時をたまたま見られたのだろう。
これで少し分かった。彼女――逸見エリカはバミューダ先輩達と同種だ。本当に同類かは分からないが、少なくとも敬愛する相手に近付く奴に容赦ないだろう。
「ただまほの日課に付き合っただけなんだけど」
「――まほッ!……っ」
答えたはいいが、それ以外のところにリアクションを割いている気がする。
「いやほら、西住って呼ぶとややこしいから」
「あ……そうよね。確かに……」
「で、それがどうしたんだ?」
「……いや、本当にただの知り合いなのかと思っただけよ」
鋭いな。何を根拠にしたのかは分からないが、それだけまほことを見ている、あるいは知っているのかもしれない。少なくとも、それだけ気にされているのは確かだ。
「そろそろ始まりそうだし、戻らないか?」
「……そうね」
ふと目線を向けたモニターの先では、大洗とサンダースが整列している。もうすぐ開戦だ。
まひろとエリカはまほの所へ戻り、お互いが彼女の隣に位置取った。
「何かあったか?」
「いや何も。それより、サンダースって強いのか?」
「なんで知らないのよ?」
「戦車道には疎くてね」
「大学も忙しかっただろうしな」
まほの言う通り、しばらくお勉強な時間を過ごしていた為、大学選抜の情報はともかく高校戦車道の話は中々入って来ずらかった。聞こえてくるのはそれこそ何処がどんな活躍をしたかという大きく大雑把な話くらいなもの。例えばまほが準優勝でMVP取ったとかそんな話。
やれやれね、と言いた気にエリカが説明を始める。
「有力校の一つよ。アメリカ戦車を多く使っていて、でも何より財政力ね。戦車の保有数は学園艦で最多」
「戦術としては、数と戦力の理を生かした殲滅型と言うべきか」
「要するに脳筋かよ」
「確かにな。だがそれで勝っていけるだけの指揮と士気がある。サンダースの強みは、やはりその火力だろう」
「黒森峰には及ばないけどね」
まぁ根底のところでは西住流も脳筋戦法ではある。統率された動きと隊長の的確な判断で全てを蹂躙する。
戦車道では大きな火力がネックになることはまずない。暴論ではあるが、勝者が正しく強さこそ正義なのだ。
――さて。
幕を開けた大洗公式戦初陣。
俺がよく見ている大学チームまでとは行かなくても、どうにか足並みを揃えて進行していく。
大洗の隊長、みほは戦車から顔を出して周囲を見ながら指示を出す。
彼女が明確に隊長を務めている姿は初めて見るが、妙に似合っている。まほに似ているのかもしれない。その辺、やはり才覚があるのだろう。
開始からそこまで経たない内に、早くも事態は動く。
サンダースが短期決戦とばかりに仕掛けてきた。
奇襲に近い動きに大洗は混乱する。
「…………」
「…………」
なるほど、サンダースが強豪と呼ばれるのは頷ける。
……だが、何かおかしい。
「なぁ、まほ」
「なんだ?」
三人はモニターから目を離さない。偵察に不満がありそうだったエリカもやるとなれば真剣だ。
「まほだったら、みほの動きを読めるか?」
「どうだろうな。確かに戦い方を知っていれば有利には動けるだろうが、完璧には無理だろう」
それもそうだ。誰かのことを完全に理解して先読みするなど、できようものなら心理学者にでもなってしまう。
となれば、やはりサンダースの動きは恐ろしく速い。それこそ、対処ではなく先回りだ。
思わぬ先制にたじろぐも、みほの判断で大洗は難を逃れた。
正直、危ない場面だっただろう。一歩間違えば数機やられるでは済まなかった。
みほの強みは基盤となる西住流の教えと、それを取ってあまりある対応力だ。昔から奇想天外通り越した無茶苦茶な戦法にも、彼女はすぐに対応して反撃する。
力強さと柔軟性。相対す性質を見事に持ち合わせているのだろう。その点だけを見れば、才能はまほ以上だ。
ならば、そんなみほの動きを、まほすら読み切れない思考を読めるものだろうか。
「サンダースの隊長って、どんな奴なんだ?」
「カリスマ性があり、サンダースらしい直球な性格だが決して思慮の浅い者ではない」
「ケイ、ね。むしろ火力だけのチームを引っ張っていけるだけの実力があるのよ」
直接ねぇ。確かにいきなりガンガン飛ばして来たな。まぁ元から戦力差が大きいのだし、当然といえば当然か。
もしかしたらさっきの攻撃も、ガンガンいこうぜがうまく機能しただけの偶然かもしれない。
だが、そんな希望的観測を裏切るかのように、サンダースの動きは確実に大洗を先読みしていた。
もとより劣勢な中、次々に読まれる行動に大洗は更なる苦戦を強いられる。
「流石におかしい」
まほも、そしてエリカもこの異常さに違和感を抱き始める。
サンダースは、ここまで来れば疑う余地なく大洗の動きを掴んでいる。それは偵察隊のような観測ではなく、もっと正確な情報としてだ。
「他校にスパイを忍び込ませるってのは……」
「難しいだろう。仮にできるとしても、他ならともかく大洗相手にはほとんど不可能だ」
「そりゃ今年始めたばっかだもんな」
「隊長。ということは……」
「エリカ、見えるか?」
まほが示したモニターの端には、見慣れぬ物体が映り込んでいる。
「まさか、通信傍受っ!?」
「それってありなのかよ」
「規則として禁止はされていない。どちらかというと倫理的な問題だな」
かなり黒塗りのグレー。
倫理的にはアウトな作戦で、サンダースは大洗を追い詰めている。
「前大会のMVP、黒森峰隊長西住まほ選手。今の戦況をどう見ます?」
正直なところ、悪辣とは言わないまでも卑怯な手を使うことにまひろは引っ掛かりを覚えた。が、それはお門違いだと改める。
勝つ為にできるだけのことをする。それはスポーツに限らず前向きで力強い生き方だ。
ルール違反でないなら問題はないだろう。少なくともまひろならそう思う。
「その口調は何なの?」
「いや、ノリで」
「そうだな。サンダースの動きを見て、大洗の方も違和感に気付いただろう。何か手を打つならそろそろだ」
「隊長?」
意外にも乗ってきたまほ。その辺、まひろに毒されているのだろうか。
それはそれとして。解説というには些か主観も入っている様ではあるが、まほの推測は概ね正しい。
追い詰められたかに見えた大洗、その隊長は通信機を操作し隊を動かす。
その動作に今までと変わった所は見られず、一見すればなんの策もない苦し紛れの行動に見えただろう。
しかし、一つだけ――サンダースの動きだけが乱れたように盤面に変化をもたらした。
「これは――!」
「サンダースが自ら誘いに入ったか」
誘導にしては明らか過ぎる。だが、サンダースの戦車は吸い寄せられるように進み、待ち伏せた大洗の反撃に沈んだ。
「みほも気付いたな」
「ああ。こっからは、見ものだろうよ」
エリカは二人の言葉に振り向く。
まほもまひろも、普段と面持ちでモニターを見つめている。
驚きも動揺もない。たとえサンダースがどれだけ裏をかいた策謀を巡らせようと、彼女はその先をいくと知っている――否、信じている。
人に言うのも大概だろう。
まひろもまた例に漏れず、シスコンである。
次回、サンダース戦決着。
そして主人公のシスコンが発覚しました。実際は血の繋がりがないのでシスコンに分類できるのか曖昧ですが。
感想、誤字報告ありがとうございます。