書きたくて書いている作品なので、正直酷評覚悟でした。
本当に嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
「状況終了」
いつもと変わらぬ声が、自ら――すなわち島田愛里寿の勝利を告げる。
自分がすべき事をする。およそ13歳で到れるはずのない境地の中で、彼女は戦車道を歩む。
今日もまた、沈めた戦車を視界に捉えながら、彼女は試合の終わりを自覚する。いつも通りに――。
「だぁ〜、また負けたぁ〜」
否、いつも通りではない。
まず相手が戦車乗りではなく、男だ。戦車道ならば明らかにおかしい。だが異常はこれだけではない。
島田愛里寿が目の前の彼と激戦を繰り広げたのは、盤上である。
高校戦車道大会の一回戦が終わり、勝ち上がった各校は次なる試合の準備に入る。
当然のことではあるが、戦車を動かすのに終わったから次の試合とスピーディーに行けるはずがない。
作戦や修理、メンテナンスなどの最終調整も踏まえて、ある程度の期間が開くのだ。
そうなれば、これもまた当然の流れで。東条まひろは暇を持て余して大学に足を運ぶ。
「やっぱ強いのな、愛里寿」
昼時。弁当をつまみながらまひろは呟く。
午前の内、大学で行われている戦車道の模擬戦を観戦してきた。少し前に高校生の試合を見たこともあるが、やはり彼女の動かす戦車は別格に強い。いっそ感動すら覚えるほどに。
大学選抜というだけあって、島田愛里寿の名に負けないその道でトップを走る者達が集まっているのだから不思議はない。
だがいくら流派とはいえ、一機であれだけの数を相手に善戦どころか全滅させるのは、驚くを通り越して笑ってしまう。
「ところで愛里寿。午後の戦車道開始まで時間ある?」
「……三十分はある」
互いに昼食を食べ終えたところで、まひろはそっかと返す。
そして質問の意図が分からず無言の愛里寿の前に、彼は折り畳み式のチェス盤のような物を取り出した。
「ゲーム盤……?」
「まぁな。ルール教えるから、一勝負しないか?」
「…………」
乗り気でない訳ではなかった。
愛里寿が答えを渋ったのは、単に経験がなかったから。戦車道しかしてこなかった為、ゲームというのがよく分からないのだ。
だが無言を貫く態度とは引き換えに、愛里寿の興味は膨れ上がる。
「一応、戦車道のゲームなんだけどさ」
そう言いながら、まひろはボードに収納された戦車型のコマと、その戦車に乗せるのだろう人型――というより熊型のコマを取り出した。
「――ボコ!?」
「正解」
「これ、どうしたの?」
愛里寿もボコが好きなのは言うまでもなく、グッズについてもそれなりに知っているし持っている。
そんな彼女が、全く知らないボコグッズが目の前にあるのだ。驚きと興味が愛里寿の目を輝かせる。
「うちがボコ関連の所のスポンサーやっててな、それで」
「そうなの!?」
「まぁ、俺が親父を困らせる為に勝手にやったんだけど」
「すごい行動力……」
まひろが高校生になった頃。比較的自由が認められた彼は、反抗期とばかりに売上が良くないであろうボコ関連の会社と契約の話を付けた。
まぁ実際、その時彼の狙いは外れて、これといったお咎めはなかった。父の方は結んだ契約は守ると損は出させないように動いたようで、結果的になんの反抗もできぬまま終わったのだ。
「んで、今戦車道の大会やってるだろ?だからコラボしたらいいんじゃないかって提案したら通った」
「そんな簡単に通るんだ」
「もともと資料は揃ってたからな。これ、昔あったボードゲームの改良型みたいなもんなんだよ」
まひろが言い出したのは言うまでもなく、昔みほとやっていたゲームが題材だった。
あの頃は小さいこともありただ戦車のコマを動かしていたが、リメイクに当たっていくつかルールを付け足した。
「これはその試作なんだけど、やらない?」
「やる」
即答だった。
こうして、昼には戦車道のボードゲームをするのが二人の習慣になりつつあった。もっとも、習慣と呼ぶにはまだ日が浅い。
ゲームをするのは初めてだったが、愛里寿は戦車道ということもあってすぐにハマった。愛里寿はまた、自分の手番にあるボコが乗った戦車のコマを動かす。
かつてまひろがやっていたゲームは、子供用な為に簡略的だった。それを改良したのが今のボードゲーム。
とはいえ、それそこ乗り手の士気や技術が反映されないのは仕方がない。
だがそれを差し引いても、あの島田愛里寿が満足するだけのゲーム性があった。
戦車のコマは軽戦車、中戦車、重戦車に超重戦車と選択ができ、各戦車ごとに能力値が割り振られている。かつてのゲームにはなかった、戦車の性能を選べるというのがまひろには新しい。
もちろん能力値が固定であるため重戦車が有利にはなるが、その分機動力を落とすといったリアルな再現をしていた。
また、殲滅戦とフラッグ戦を選択できる他に、隊長車を選択でき、ボコのコマを乗せた戦車は少し性能が上がるというルールも付けた。
適度に現実に近付けた分、より戦略の幅が広がったのは戦車道を歩む者でなくとも、面白いと言わざるを得ない。
「楽しい……」
「愛里寿、強すぎ……」
トドメを刺されたまひろは背もたれに体を預けて項垂れる。
既に通算15連敗。もちろん勝ちはない。
流石に勝てるとは思っていなかったが、ここまでとは想定外だった。
まひろは戦車道に疎いとは言ったが、決して素人ではない。それこそ、幼少の頃からみほとゲームをしたり、まほの戦いも見ていた。戦術家としてはそれなりの実力があるとも言える。
現に、ルールを理解した愛里寿に対し、善戦くらいはできている。天と地ほどの差があるわけではないだろう。
そのことを誰よりも理解しているのは、戦った愛里寿だった。
まひろは、このゲームを小さい頃によく知り合いとやってボコボコされたと言っていた。
今の彼はお世辞抜きで強い部類に入る。そんな彼を、たとえ幼少期とはいえ完封し続けた相手とは、一体何者なのか。
「……つか、休み時間も戦車道させて悪いな?」
「ううん、私がしたいから。それに、楽しい」
「そうか。それは良かった。んじゃもう一戦」
「……うん」
目の前で意気揚々とコマを並べ直すまひろを見て、愛里寿の口元は少しだけ緩む。
ここまでやって、未だ勝ち数はゼロ。なのに、彼はなんとも思わないかのように、またやろうとゲームを始める。
――ボコに、似てる。
彼の知り合いが言ったことを、愛里寿はなるほどと思った。
彼は負けてばかりだ。なのに諦めない。ボコみたいに、次こそと挑んでくるのだ。
その姿が、勇ましく愛らしい。
「よし、行くぞ?」
歳上なのに、自分より遥かに子供のような笑みを浮かべながら、彼はまた戦車を前進させる。
「……、……はぁ」
とある日。いつもの陽気さはどこへ行ったとかと思える男がそこにはいた。
「……どうしたの?」
「おう、愛里寿。いや、ちょっとな」
愛里寿はまひろから貰ったプリン(手作り)を食べながら、項垂れる寸前の彼に問うた。
正直、元気のない彼を見たのは初めてだった。
「明日、高校戦車道の二回戦あるのは知ってるか?」
「うん。明日は、確か大洗とアンツィオ高校……?」
「それそれ。んで、大洗に俺の知り合いがいるんだが――どうしても明日の授業には出ないといけない」
「あぁ……」
愛里寿が想定してた十倍はくだらなかった。
とはいえ、知り合いの応援に行けないだけでここまでになるのは、彼が優しいからだろう。そんな彼にくだらないとは言えない。
「あの白髪ジジイ、許されるなら殴りたいんだけど」
「それは流石に……」
許されないと思う。
「なぁ愛里寿、今日の午後にうっかり砲弾校舎にぶつけない?」
「あ……。……ん」
ちょっと考えてみたが、どう考えても教諭を殴る以上にしてはならないだろう。
「きさまは隊長に何をさせる気だっ!」
「いって――」
「隊長、考えなくていいですから」
「というか無理です色々と」
「……分かっている」
飲み物を買いに行っていた三人が帰ってきた。会話を聞いていたらしく、ルミはまひろの頭にチョップを落とす。
それぞれが買ってきた飲み物を自分の座る席に置き、アズミが愛里寿に、そして本当に珍しくメグミがまひろにいちごオレを渡した。
「プリンと、この前のティラミスのお礼よ」
「ありがとうございます、先輩殿方」
「少し遅かったか」
「すみません隊長。自販機が混んでました」
「そうか」
まひろと同じくいちごオレを受け取った愛里寿にアズミが笑顔で告げた。
ちなみに、愛里寿に渡す役を決めるために壮絶なジャンケン大会を開いていて遅くなったのは内緒の話になる。
後日。
まひろはみほからの電話で、大洗が二回戦を突破したことを知る。
強豪サンダースを倒しているのだから当然とも思えるが、それを為したみほはやはり凄い。素直に賞賛の言葉を送った。
まほ率いる黒森峰も既に三回戦に駒を進めている。
三回戦準決勝。第一試合は黒森峰対聖グロリアーナ。どちらも優勝候補、強豪同士の激突だ。
対して大洗の次なる相手は、前年の優勝校――プラウダ高校である。
というわけで愛里寿回。
アンツィオファンの皆様、お詫び申し上げます。
サンダース戦書いて分かったのですが、基本的に主人公が戦車道に関われないのであまりにも原作通りなんですよね。
なので最初からそのつもりでしたが、人間ドラマというかそういった部分多めで書いていきます。