西住まほは俺の嫁……らしい。   作:江波界司

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雪原の茶会

 戦車道大会準決勝。

 第一試合、結果は――黒森峰の勝利。

 まほは一足先に決勝進出を果たした。

 今回はまひろも直接観戦し、まほとエリカに賞賛を送る。

 聖グロとの戦いを見た感想は、やはり流石だと思う。

 黒森峰は、一言で言ってしまえば脳筋戦法。力ずくのゴリ押しだ。

 それを戦略的にまとめ上げ、戦術として完成させているのは、まほの手腕と言える。西住流後継者、大会MVPは伊達ではない。

 

 

 

 

 一度寮に戻ったまひろは、次の対戦――大洗対プラウダの日程と場所、そして戦いの行き先を鑑みる。

 ゲームついでに愛里寿に聞いたが、プラウダは前年に優勝するだけあって実力は申し分ない。

 特に現隊長、地吹雪のカチューシャとやらは戦術家としても能力が高く、包囲戦を得意とするらしい。それは確かに強い。

 本来、包囲戦とはそこまで成功率の高い作戦ではない。確かに決まれば強力だが、それ以前に問題がある。

 有り体に言って、分かってしまえばどうということはないのだ。

 これは包囲する気だと、露見した時点で策は崩れる。俺も愛里寿に何度かゲームで仕掛けたが、看破されればすぐに陣形は崩壊した。

 それこそ、使ってくるという策を警戒しない筈はないだろう。ましてや相手はみほだからな。

 だが逆に言えば、それだけ難しい作戦を成功させる指揮能力と思考力があるということでもある。

 陽動にしろ誘導にしろ、手の内がバレて尚罠に嵌めるには数手先を読むのでは足りない。

 そしてプラウダに勝っても、決勝はまほのいる黒森峰。みほや大洗にとっては連戦難戦の超激戦だな。

 

『――――』

 

 そんなことを考えていると、枕元に置いた携帯が震える。ベッドに仰向けになった体を動かし、コールする音に応えた。

 相手は、西住まほ。

 

「もしもし?」

「私だ。今、大丈夫か?」

「ああ。どうした?」

「実は――」

 

 何かあったのかと、まひろは体を起こして耳を澄ませる。

 

「みほが勘当されるかもしれない」

「…………」

 

 正直な話、まひろはこの展開を想定こそしていた。ただし、それに打てる手があるのかは別問題。

 まほが言うには次の試合、西住しほも見に行くという。その時に、勘当を告げると。

 戦車道のやり方は人それぞれ、誰がどんな方法で戦うかなどをとやかく言う権利は誰にも――西住流にも島田流にも存在しない。

 だが、他所は他所、内は内理論ならば西住しほは彼女のやり方――西住みほの戦車道を否定できる。

 確かに、あれは西住流ではないだろう。

 西住流を受け継ぐ者ならば許されない邪道の攻め方か。いや、だとしてもと。まひろは誰に言うでもなく反論する。

 みほが追ってきた背中は確かに西住流(まほ)だ。彼女の中にも、西住流があるはずなのだ。

 みほとまほは違う。持つものも、強さの根源も違う。

 だからきっと、どれだけ真似ようと、真の西住流なるものをみほが手にすることはない。それを選んだら、彼女は彼女じゃない。

 それでも彼女は、勝ちを捨てた勝負はしていない。むしろ今まで以上に勝利に貪欲だ。

『勝たないと』ではなく、『勝ちたい』と。信頼できる仲間を得た彼女の戦車道は、発展途上だろうと彼女なりの答えだ。

 それは、それだけは――たとえ実の母だろうと否定させたくない。

 

「まほ――」

「いや、大丈夫だ」

「大丈夫……?」

「みほなら、きっと……」

 

 その先はいらなかった。

 先にまほは、勘当されるかもしれない(・・・・・・)と言った。

 つまり、まだ決定した訳ではない。

 西住流の考えが勝利を何よりも尊ぶものなら、どれだけ悪足掻きだろうと、勝てばいい。あの西住しほを説得するなら、それが最大の材料になりうる。

 もちろん、プラウダに勝つのが難しいのはまほも承知の上だろう。――その上で、大丈夫だと。

 

「……そうだな」

「私もできる限りの事はする、つもりだ。どれだけ意味を成すかは分からないが」

 

 弱気とはまた違うが、西住しほの性格を知っている故だろう。まほに不安がないわけではない。

 

「大丈夫なんだろ?」

「……私はそう、思う」

「なら大丈夫だ」

 

 根拠はない。まほがみほを信じたという、ただそれだけの事しか。

 それでも、まひろはたったそれだけを信じる。信じて疑わず、暖かい言葉をかけた。

 

「――ああ」

「いざとなれば呼んでくれ。一緒に叱られるくらいはできるからさ」

「叱られることが前提なのか」

「それ以上になると俺の心がもたねぇ」

 

 小さく、クスクスというまほの笑みが聞こえ、まひろも内心安堵する。

 

 電話を切り、強ばった体から意識的に力を抜いた。

 はぁ……とため息が盛れる。

 天井を見つめても、何も起きはしない。変わりはしない。

 ――こんな時に、何もできない自分も……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「――寒っ!」

 

 大洗とプラウダの一戦。その会場に来た第一声が、これである。

 

「公正にしたいのは分かるが、ルーレットで場所を決めるのはどうなんだよ」

 

 戦場はフィールドだけでなく、大凡の天候も決まってくる。

 北緯に傾いたこの辺りは、寒さ故に雪も降る。雪上となると、やはりロシア戦車を使うプラウダが有利か。

 試合開始も近く、巨大モニターの方へとまひろは移動する。モニター前には座席が設けられているし、もしかしたら暖房もあるかもしれない。

 

「…………」

 

 そんな道半ばで、西住しほとあとに続くまほを見つける。

 近付いても良かったが、なんとなく近付き難い。自分にできることはないと分かっていることが、声を掛けることを躊躇わせた。

 居心地が悪くなり、まひろは踵を返す。

 

「あら?お久しぶりですわ」

 

 そんな彼に声を掛けたのは――いつかの金髪淑女。

 

「えっと、ダージリンだったっけ?」

「覚えて頂いてありがとうございます。あなたの名前も聞かせて頂けないかしら?」

「あぁ、まひろだ。東条まひろ」

「よろしくお願いします、まひろさん」

 

 聖グロリアーナ高校。かつて大洗とも練習試合で一戦交え、今大会では黒森峰と、ひいては西住まほと戦ったところだ。

 その隊長であるダージリンなら、西住みほについて興味を持つだろう。何せ、一度会っただけのまひろに興味を示してしているのだから。

 

「観戦か?」

「ええ。宜しければ、ご一緒いたしませんか?紅茶もありますし、いかがでしょう?」

 

 正直、寒いし暖かい飲みのが欲しかった。それに、今あの客席に戻るのは避けたい。

 まひろはあまり迷うことなく、ダージリンの誘いを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅茶です」

 

 ダージリンに招かれ、特設の観覧席とでもいうべきか、お嬢様な雰囲気の椅子に腰を降ろすまひろ。その正面のテーブルの上に、聖グロの生徒がカップを置いた。

 

「ありがとう。えっと、ペコだっけ?」

「オレンジペコです。呼びにくければペコで構いません」

 

 小柄な少女はそうお辞儀をすると、ダージリンとは反対方向のまひろの右側に座る。

 ペコがいれた紅茶に口をつけると、まひろは思わず声を漏らす。

 冷えた体に熱い紅茶が染み渡り、味覚が刺激を受けて感激する。

 

「美味いな」

「良かったです」

「ところでまひろさん?一つ宜しいかしら?」

「ん?なんだ?あ、敬語は別にいいぞ?」

「これは癖みたいなものなので、お気遣いなく」

 

 上品にカップを持つダージリンは紅茶で唇を濡らすと、気になっていたのだろう質問を口にする。

 

「あなたは大洗とどういったご関係で?」

 

 思わず黙り込む。

 別にやましい事があるわけではない。むしろ驚きが大きかった。

 まひろは一度もダージリンの前で大洗について言及していない。にも関わらず、まひろと大洗を繋いだのは何故か。

 

「俺、一度も大洗のファンなんて言ってないけど、なんで?」

「ある物理学者が言ったそうよ。『私には特別な才能などありません。ただ、ものすごく好奇心が強いだけです』と」

「アインシュタインですね」

 

 勘などではなく、普通に調べたか。だが今日名乗ったばかりでどう調べようと?

 まひろが疑問を隠さず聞くと、ダージリンは少し得意気に語り出す。

 

「あなたは戦車道をしている知り合いがいると言っていましたね」

「ああ、初めて会った時だな」

「気になって調べましたわ。男の人で戦車道に興味を持つ人は珍しかったから」

 

 紅茶の入ったカップを傾け、ダージリンは続ける。

 

「それでこの前、カチューシャに聞いたら、そんな知り合いはいないって」

「なるほど」

 

 カチューシャはプラウダの隊長だ。ダージリンが抜け目のない者ならきっと部下含めての情報を聞いたのだろう。

 それでプラウダとの繋がりがないとなれば、この試合を見に来た時点で大洗に知り合いがいると決定する。

 だが、と。まひろはその事実に違和感を見つける。

 

「知ってるならなんで聞くんだよ」

「私が分かるのはあくまで大洗に知り合いがいるということだけ。できることなら、どなたなのかも知りたいところですわ」

 

 妖艶な笑みを浮かべるダージリン。そんな彼女見たまひろの感想は、いい性格してそうである。

 

「そうだな。じゃあ、勝負に勝ったら教えてやるよ」

「勝負?」

「賭けないか。大洗かプラウダ、どっちが勝つかで」

「よろしいわ」

「俺は大洗に、俺の知り合いが誰かを賭ける」

「なら私はプラウダに。何を賭ければ満足して頂けるかしら?」

「そうだな。俺が勝ったら、紅茶のおかわりを貰おう」

「よろしくて?」

「ああ」

「始まりますね」

 

 ペコの一言に、ダージリンとまひろも同じ一点を見つめる。

 プラウダと大洗。両校両車が臨戦態勢を整えて並ぶ。間もなく時間である。

 ツンという緊張感がここまで伝わるように、肌を刺す冷たさが際立つ。

 そして、拡声器によって広がる声が――激戦の開始を告げた。

 戦車の数からして戦力が違う。プラウダは余裕を持って責められるだろう。

 だが大洗も引く気はない。むしろ先手必勝とばかりに雪上を進む。

 展開するプラウダと行進する大洗。

 今回の大洗の相手、プラウダ。サンダースのケイとは違い、プラウダ隊長のカチューシャは戦術家としての評価が高い。

 さながら知将対知将。真っ向からの頭脳戦が、戦車を介してぶつかり合う――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、プラウダ戦開始。
ダージリンさんのセリフが難しい。お陰様で時間かかりました。

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