落第騎士の英雄譚 頂を目指して   作:トワコ

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原作最新刊を読んで過去に書いてたものを思い出し、書きたくて書いた。
原作のインフレが進みすぎてやばい。


プロローグ

この世界には伐刀者と呼ばれるものたちがいる。

 己の魂を武装――《固有霊装》として顕現させ、自身に眠る魔力を用いて超常の力を行使する者たち。千人に一人と言われる特異存在。

 

 最高のクラスであれば時間すら支配下に置き、最低レベルでも常人と比して超人とも呼べる身体能力を発揮する。

 

 過去の時代では「魔法使い」とも評された彼らは、あらゆる兵器や武道をもってしても太刀打ちできない存在であった。もう少し近い時代では、彼ら伐刀者は国の最高戦力として戦争の主役であった。1人の伐刀者が戦争の趨勢を決めることも間々あった。

 

 軍隊も警察も伐刀者なくしては成り立たないのがこの世界である。伐刀者を抑えられるのは同じ伐刀者だけであるからだ。

 

 しかし、時代は流れ、今は世界大戦もすら過去のものとなり伐刀者の活躍の舞台は競技へと変わった。

 KOK、闘神リーグ、各国のナショナルリーグに現代の伐刀者たちは属し、日々その力を競い合っており、一般大衆からしてそれは興行として大きな人気を博していた。

 

 しかし、この時代にあっても、優秀な伐刀者を抱えることが有事における国力になることは疑いがない事実である。そのため、現代においても各国は優秀な伐刀者の確保、育成に腐心している。

 

 この国、日本においてもそれは同じである。

 日本は伐刀者を管理する3つの組織の1つである「国際魔導騎士連盟」に所属している。指定の認可を受けた伐刀者育成機関を卒業した者に「魔導騎士」の資格を付与し、社会的な地位とそれ伴う能力使用の制約を課している。

 そのため日本国内には、7つの認定機関が存在していた。

 九州・沖縄の”文曲学園”、中国・四国の”廉貞学園”、北関東の”貪狼学園”、東北の”巨門学園”、北海道の”禄存学園”、近畿・中部の”武曲学園”そして、南関東の”破軍学園”。

 以上7校である。

 この7つの「騎士学校」には元服を迎えた15歳以上の若き伐刀者たちが目的は様々だが己の技を磨き、切磋琢磨している。 

 

 逆に言えば日本で魔導騎士を目指すのならば必ずこの7つの学園のどれかに通わなければならない。そうでなければ無所属の伐刀者は世界にとっての危険分子として国際指名手配されてしまう。それが国家の手にも余る伐刀者たちが跋扈するこの世界を廻すために決められた管理機構の1つである。

 もちろんそれに反発し、伐刀者の支配による世界秩序を目論む「解放軍」のような国際テロ組織も存在するが、それもある種、伐刀者を管理するための機構であった。

 

 話は戻るが、とにかくこの国においては若き伐刀者は7つの騎士学校いずれかに通うことになっている。

 そして、この7つに属する伐刀者ならば必ず目指す1つの大きな祭典が存在する。

 

 それが”七星剣舞祭”である。

 

 七星剣舞祭とは各年に一度7校から各々、代表選手を輩出して、学生最強の騎士”七星剣王”を決める武の祭典である。7校のどこかに通い、騎士としての高みを目指すものなら誰もが一度は目標とする舞台である。

 

 そして、ここにもこの七星剣舞祭に憧れる1人の幼い伐刀者がいた。

 

 

 

 

 

****************

 

 

 九州某所 若葉の家

 

 

 「もう、亮君!!こんな時間まで起きてちゃだめじゃない!・・・また七星剣舞祭のビデオを見てるの」

 「刀華ねえ、今ほんとにいいところなんだから、あと10分だけ!」

 「ほんとに亮君は伐刀者が好きなんだね。もうしょうがない、私も一緒に見るからあと30分だけね」

 「え、ありがとう!、刀華ねえ大好き!」

 

 そんな顔されたらだめなんて言えないじゃない・・・、刀華ねえと呼ばれた少女――東堂刀華はテレビの前に座り一心不乱に伐刀者同士の試合を見つめる少年――鶴見亮の隣に腰掛ける。そして、ちらりと隣の少年の横顔を見遣る。しかし、少年は隣に座る刀華の視線も一切関せずにテレビに釘付けだ。

 

 テレビの前に座る2人――刀華と少年はどちらも伐刀者として己の《固有霊装》を顕現させた騎士の卵である。自分もこの子も何れは魔導騎士を目指す身として、騎士学校に進み、そこで七星剣舞祭を目指すのだろう・・・。未来は確定ではないし、刀華は予知能力者ではないが、そのことは確信できた。

 なぜなら、

 

 私もこの子もこんなに胸が躍る世界を知ってしまい、その権利だってもらったのだから。

 

 目指さないなんて選択肢は刀華にはなく、それは隣の少年も同じだろう。いや、同じではないかもしれない。隣の少年の伐刀者への気持ちは自分以上である。

 彼の魔導騎士への憧れは刀華よりも根深い。彼がある惨劇によって天涯孤独の身になってから彼にとって魔導騎士を目指すことは生きる意味そのものであるのだから。

 

 ちょっと危ういかな、でもこの子が魔導騎士を目指す道程は必ずこの子のためになるだろう。その中で、もし騎士以外の生きがいを見つけてくれれば、私としては嬉しいかな。

 

 刀華は2つしか違わないこの少年を母のような心境で見ていた。

 

 あ、でも、この子が生涯を遂げたいような恋人ができたらちょっと妬いちゃうかもしれないな・・・

 その時は、うちの子は渡しません!なんて姑みたいに言ってやろう。

 

 将来のことを考えて少し、刀華はふふっと笑う。

 

 「?どうしたの刀華ねえ」

 「ううん、ほんと亮君は魔導騎士がすきなんだなって思って」

 「うん、僕、必ず七星剣舞祭で優勝して魔導騎士になるんだ」

 

 直前まで考えていたことを誤魔化すように言った刀華に対して、 それが僕の夢なんだ、と純粋な瞳を向けるいう少年。

 

 刀華はもう一度、小さく笑う。何気ない会話であったが、そこには夢なんて言葉では表現できないほどの気持ちがあるように感じた。

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 九州某所 若葉の家

 

 2人の会話から幾らか時は流れ時は初春、3月。

 凍てつく冬の寒さも幾分か和らぎ、頬を撫でる風も温かさを宿す。それまで冬の寒さに耐えてきた草木、動物たちも賑わいを見せる。

春は昔から”出会いの季節”と表現されることが多い。実際、年度の初めにあたるこの季節は多くの出会いを生む。

しかし同時に春は、年度の終わりも意味する。すなわち”別れの季節”でもあるのだ。

始まりと終わり、出会いと別れ、相反する2つをどちらも備えた、この時期は人の世もまた、めまぐるしく変化してゆく。

そしてここにもそうしたひとつの別れがあった。

 

陽は既に傾き、辺り一帯が黄昏色に包まれる頃、夕日に照らされた施設の玄関口には多くの人影があった。

 

「ええーん、とうかお姉ちゃん行っちゃヤダー」

「ごめんね、かよちゃん。でも、また時間を見つけて必ず戻ってくるから」

その集団の中心にいる少女――東堂刀華は自身に縋り付くようにして泣く女の子に膝をついて目線を合わせると、髪を撫でながら優しく諭すように呟いた。

「それまで、かよちゃんはもう5年生になんだから、お姉ちゃんとして他の子の面倒をみてあげて欲しいな」

 そんな彼女の所作に、かよちゃんと呼ばれた少女も幾分か落ち着いたように、涙で腫らせた瞳をゴシゴシと擦ると、小さく頷いてみせた。

 「そっか、ならお姉ちゃんも安心して行けるよ」

 幼くも強がる姿は愛らしく、刀華はたまらずもう一度優しく頭を撫でた。

 

 

 「相変わらず刀華はすっごい人気だねー」

 そんな2人のやり取りを少し離れたところから見つめつつ少年――御祓泡沫は間延びした声をあげる。ともすれば小学生にも見える風体の彼だが、実際は東堂刀華の同い年であり、幼馴染でもある。そして彼も刀華と同じく、ここ『若葉の家』を今日付で旅立つ身であった。

 

 「ええ、本当に。でも、あなたは皆さんに別れを言いに行かなくてもよろしいのですか?」

 「いいよ、僕は。そんな柄じゃないし、みんなも僕よりも刀華と話しておきたいだろうしさ」

 「あらあら、そんなこと言って、本当はそばへ行ったら泣いてしまうからではないのでわありませんか?」

 「ち、違うよ!!僕はもう昨夜の内に別れを済ませただけだから!」

 

泡沫は隣に佇む貴婦人然とした少女――貴徳原カナタの言葉に慌てつつ応える。

そんな彼にカナタは微笑みながら、そういうことにしておきましょうか、と追求するのを止め、もう一度、子供たちの中心にいる刀華へ目を向けた。

 

 刀華、泡沫、カナタの3人がいるこの養護施設『若葉の家』は様々な理由で家族をなくした子供たちが集められている。刀華、泡沫たち自身もそういった子供の1人であり、幼い頃からここで一緒に暮らしてきた。

 一方でカナタはというと、この施設に出資する貴徳原財閥の令嬢であり、そういった経緯から刀華、泡沫とは長年の友人であった。3人は共に、今年で中学を卒業する年齢であり来年からここ、九州の地を離れ、東京にある魔導騎士養成学校”破軍学園”へと入学することになる。

 それ故に、刀華や泡沫はまだ施設に居る子供達と今日で暫しの別れとなるのだ。

 

 その光景は不朽の名画にも劣らない美しいものだとカナタは感じたが、いつまでも浸っていることはできない。時間は残酷であった。

 

 「非常に名残惜しいかと思いますが、飛行機の出発時刻を考えますと、そろそろここを発たないといけませんわね」

「りょうかい。なら刀華を呼んでくるね」

 

微笑みながら刀華と子供たちのやり取りを見つめていたカナタが時計を見てそう告げる。

泡沫は未だに子供たちを優しくあやしている刀華を呼びに向かおうと動き出した。

 

その泡沫の気配に気づいたであろう刀華は、彼が呼びに行くよりも早く、2人の方を向いた。

そして、分かったと言うかのように一度手を振って応えると、再度周りに集まった子供たちに別れを告げ、その奥にいる年配の女性――施設の先生だろうに深々と頭を下げた。

刀華は惜しむように子供たちへ手を振りながら、泡沫とカナタのところまで駆け寄った。

 

「ごめんね、2人共。随分と待たせちゃって」

「いえいえ、こちらこそ急かすようにしてしまい申し訳ありません」

「ちゃんとお別れできたかい、刀華?」

 

泡沫の問いかけに、刀華はうん、と強く頷く。

確かに、子供たちの方へ目を向ければ、最初は別れを悲しみ泣き喚いていた子達が、今では目を赤くしながらも、笑みを浮かべながら一様に「お姉ちゃん、お兄ちゃん頑張って」と手を振っていた。

 

(やっぱり刀華はすごいなー)

 

そんな子供たちに、頑張るよー、と手を振り返す隣の幼馴染を横目に見ながら泡沫は、これからもこの子達の心の支えで有り続ける彼女に改めて感心する。そして、これこそが東堂刀華という伐刀者の強さの源泉なのだ、と確信する。この子達がいる限り、東堂刀華が歩みを止めることはない、と。泡沫は柄にもなく真面目にそんなことを考えていた。

 

 

「どうしたんだい刀華、早く乗りなよ」

「ちょっと待って、うたくん。もう少しここの景色を焼き付けておきたくて」

 

 

子供たちとの別れを済ませた刀華たちは、カナタが手配した空港までの車に乗ろうとしたが、その時、刀華は何かを思い出したかのように、再び『若葉の家』をじっと見つめた。刀華にとっても泡沫にとっても、ここは間違いなくかけがえのない居場所であったのだ。

いざ離れるとなれば万感の想いが浮かんできて当然であろう。一心不乱に施設を見る幼馴染の姿は凛として美しくも、もう割り切ったと自負していた泡沫の胸にも一抹の寂しさを去来させるものであった。

 

 

 実際の時間にすれば1分にも満たないが、それ以上にも感じられた時間が過ぎ、刀華たちは車に乗り込もうとする。

その刹那――不意に西から一陣の風が強く吹き抜けた。

その風に、後ろ髪を引かれるように振り返れば、道路の先、遥か遠いところから必死に駆けてくる小さな人影がいた。

遠くてその姿ははっきりと見えないが、刀華にも泡沫にもそれが誰であるかは自然と理解できた。間違うはずもない、あれは自分たちを”刀華ねえ、うたにい”と呼び慕ってくれる少年。自分たちと同じ抜刀者、あの夜に刀華とテレビを見つめていた少年――鶴見亮である。

 

今朝もいつもの通り何処かへ修行しに行くと出かける際には、見送りには絶対帰ってくると言っていたのもかかわらず、こんなギリギリで駆けつけてきた”弟”に刀華と泡沫は顔を見合わせて苦笑いする。。

すでに車に乗っていたカナタにも彼が来たことを伝えると、カナタは上品に微笑む。そして隣の運転手に少し待ってくれるように伝えてから、彼女も助手席を立った。

 

 外に出た3人の頬を撫でる風は、春の温かみを宿し、どこまでも心地良いものであった。

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

 

 「はぁ、なんとか、間に、合った」

「いやいや、全然間に合ってないよ。僕たちが待ってあげてたから、間に合ったように見えるだけだよ。やれやれ本当に手のかかる弟だよ」

「リョウくん!ボロボロやないの!一体何しとったと?!」

 

 息も絶え絶え、服装もボロボロで駆けつけた亮を見て、泡沫は憎まれ口を言いながらもその顔にはいつもの笑みを浮かべる。刀華はボロボロの彼を案じながら迎えた。刀華は動揺し少し訛りが出てしまっている。

2人に遅くなってごめんと謝りながら、改めて向き合う。

 

 「ねぇ、リョウくん。本当によかと?」

 「大丈夫だよ、刀華ねえ。ちょっと帰ってくるときに転んだだけだから」

 「ちょっと転んだだけでそんな風になるなら、世の親たちは危なくて子供を家の外に出せないと僕は思うけどなぁ」

 

メガネの奥から、心配そうにこちらを見つめる刀華に亮は大丈夫と返すと、泡沫はニヤニヤしながら皮肉を述べる。そんないつもと変わらない様子に亮にも自然と笑みがこぼれる。

 

「りょーーくーん!!、見送りに来てくれたんですね!!もう、ほんとに可愛いんだから」

「ちょ、カナタさん、胸が当たってるって!!」

「フフフ、当ててるんですよ。それに前も言ったじゃないですか。私のことはカナタさんじゃなく”カナタお姉ちゃん”と呼んでくださいと」

 

話が一段落したところで刀華たちの後ろに控えていたカナタがものすごい勢いで、亮を抱き上げてその胸に押し付けるようにする。

彼女は下手すれば刀華や泡沫以上に亮のことを可愛がり、しきりにお姉ちゃん呼びを強制していた。

 

「もう、カナタちゃん、リョウくんも苦しかろうけんほどほどにね」

「あー刀華ちゃん、もう少しだけ―」

 

 相も変わらぬ友人の様子に刀華はあきれながらも、これ以上は弟の情操教育によくないと思い彼女を引き剥がす。

 名残惜しそうにするカナタだが、これ以上やって亮が変な趣味に目覚めてるのは見過ごせない。

 

刀華と泡沫そして、亮は、ここ『若葉の家』に暮らす”家族”である。

 

ここ養護施設『若葉の家』にいるのは皆、何らかの事情で親をなくした身寄りのない子供たちである。当然、3人ともそうであり、施設で過ごす間、刀華と泡沫は実の弟のように亮と接してきた。

同時にここにいる、カナタを含めた4人はみな伐刀者であった。

 

中でも刀華は伐刀者としての保有魔力もさる事ながら、日本でも有数の伐刀者、”闘神”南郷寅次郎に師事して、武術や剣術においても類まれな才能を発揮しており、今後日本を代表する伐刀者になることが期待されている。かの”闘神”には亮も同様に師事しており、そこでも刀華は彼の姉弟子であった。

そして刀華の魔力系統――雷は亮の魔力系統と同じであり、よく彼を指導してあげたりもした。

 

「破軍学園だったよね?3人が入学するのって」

「うん、そうだよ。破軍学園といえば、南関東にある魔導騎士養成の専門学校で、近畿・中部の武曲学園に並んで、多くの優秀な伐刀者を輩出してきた名門校だよ」

 

泡沫が自慢げに胸を張って言う。

刀華と泡沫、カナタの3人とも同世代では有数の優秀な伐刀者である。来月からは騎士学校の1つである破軍学園への進学が決まっている。

騎士学校はそのほとんどが全寮制を採用しており、入学に先立ち彼らは今日で若葉の家を旅立つのである。

 

「ということは、勿論出るんだよね、“七星剣舞祭”にさ」

「うん、勿論」

「はは、僕は刀華みたく武闘派じゃないからそういう舞台は向いてないなー」

はいはい、私も出ますよ、とカナタもつづく。

 

刀華は当然というように肯定し、泡沫は困ったように否定する。確かに彼は刀華やカナタに比べ、戦闘が得意とは言えない能力だから仕方ないのかもしれない。

 

 

 「そっか、やっぱり刀華姉の七星剣舞祭に……」

 

 なら、今日の一時的な別れもなんら悲しいことはない。亮はにっこりと満面の笑みを浮かべた。

 

 刀華も彼も、目指す場所が変わらないならば、遠くない未来に必ず会えるだろう。そしてその時には、願わくば姉と弟という立場ではなく……

 

 「うん、だからリョウくん。次会うときは、互いに“騎士”として、だね」

 刀華も同じことを考えていたのだろう、小さく微笑むと優しくも確かな強さを含んだ口調で告げる。

 

 2年後、当然、亮自身も魔導騎士を目指す為に7つの騎士学校のどれかへと進学する。その時、刀華たちは3年生。

 学年は違えども、それは関係ない。互いに学生騎士であるならば、目指す場所は七星剣舞祭。道を違わなければ、図らずともそこで出会えるだろう。

 

 姉と弟ではなく今度は、七星剣王の座をかけて競い合う“ライバル”として。

 

「ふふ、2人が七星剣舞祭で戦うことになったら、僕はどっちを応援したらいいんだろう」

 

刀華と亮が七星剣舞祭の場で対峙できる未来を想像しているところに、うた兄が笑いながらひやかすように言う。

その声で、半ば見つめ合うかたちで固まっていた亮と刀華も顔を緩める。2人の思いは一つである。

 

 もう、やるべきことは済んだ。目指すべき場所が確認できた今、すべきことはいつまでも別れを惜しむことではない。少しでも、七星剣王へと近づくためにも鍛錬あるのみである。

 

 

 

 「じゃあね、刀華ねえ、うたにい、俺はまたトレーニングに戻るよ。2人とも向こうに行っても元気でね」

 「うん、リョウくんも体に気をつけるんよ」

 「さみしくなったら、いつでも会いに来てくれていいんだよー」

 

 若干の名残惜しさを振り切るようにして、手短に別れを済ませ、亮は2人に背を向ける。

 まだ、施設の夕飯の時間までは時間がある。彼はもう一度、オリジナルと称する山でのトレーニングを死に行ったのだろう。

 

 そんな彼の後ろ姿に刀華は、遅くならないようにと声をかけようと思ったが、その言葉は胸にしまい、彼の姿を静かに見つめる。

 

 もう、あの子は私が心配する弟じゃない。同じ頂を目指す1人の伐刀者なんだ。

 なら私がすることは心配なんかじゃない。

 

 刀華はいずれ来る、彼と対峙する未来を確信して、伐刀者として彼を見つめる。

 自分にできることはいつまでも彼の目指す壁として高みを目指すことだ、と。

 

そんな刀華の思いを感じてか、山に向かってかけていく亮は振り返らずに右手を大きく掲げることでそれに応えた。

そして足を止めることなく前と進み続けていった。

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

 「行っちゃったか」

 走り去る弟のように可愛がってきた少年、いやもうあ1人のライバルの背を見送りながら刀華は感慨深そうに呟いた。

 

 ほんとに大人になっちゃったんだから

 自分が思っていたよりも頼もしく見えた背中に、弟の確かな成長を感じ、嬉しくも少し寂しい気持ちにもなる。もしかしたら息子の成長を見る母親の気持ちとはこういったものなのだろうか、あの夜と同じく年齢に見合わない感想が胸に浮かんできた。

 

 「あー、ついにあの刀華も弟離れかー」

 「もう!そんなんじゃなかとよ!うたくん」

 

 刀華の思いを知ってか、泡沫が言う。

 リョウと交わした約束、七星剣舞祭の場で騎士として再会するその時までお互いにすべきことはもうわかっている。

 

 「フフ、そうはいっても2年後には彼も破軍学園に入れば、毎日会えますから。刀華ちゃんもまたすぐにお姉ちゃんになりますよ」

 「あー、でもさカナタ。亮ならたぶん余裕で破軍には入れると思うけど、そうなると刀華と七星剣舞祭の場では戦えないんし、あいつは賢いからそれぐらい気付いてると思うよ。だから破軍には来ないんじゃないかな」

 「はっ、私としたことが・・・、刀華ちゃん、今すぐに他校に転校してください」

 「なんでそうなると?!」

 「はは、カナタが弟離れできてなかったじゃん」

 

 

 予想外の展開に刀華はつい素で返してしまう。

 カナタも口ではこんなことを言っているが本気ではないだろう。・・・本気ではないと思う。

 

 それに別に刀華は亮に破軍学園へきてほしいとは思っていない。

 会う場所は決まっているのだ、ならばそこに至るその道のりに自分が口を出すべきではない。

 何より、彼の前に再び立つためには自分もやらなければいけないことは多い。先ほど泡沫が弟離れといったが、もう刀華は亮のことを弟とは思っていない。

 

 

 

 「フフ、刀華ちゃんは決意した顔をしていますね」

 「うん、私も私の道を行くよ」

 「では6校から行きたいところを選んでくださいね。貴徳原財閥が全力で転校をバックアップしますよ」

 「まだその話すると?!」

 「必要のための犠牲というやつです」

 「ははっは、ならカナタが転校すればいいじゃん」

 「もう、うたくんもいい加減にしなさい!それにカナタも。私は2人と一緒にいたいし転校なんてしないしさせないからね!」

 「刀華ちゃん・・・。なら名残惜しいですがでは仕方ないですね」

 

 私はこの2人とならどこまでも高みに行けるんだから。

 偽りざる刀華の本音であった。

 そんな刀華を見てはもうカナタも泡沫も黙るしかない。

 

 

 

 

 

 「ちなみに亮君の進学に圧力かけるのもなしだからね」

 「・・・善処いたしますわ」

 「ははっ」

 

 台無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

 

 

 

 

 九州某所 山中

 

 

 刀華ねえたちとの別れから2年の時が流れた。

 別れが悲しくなかったか聞かれれば、悲しかったし寂しくもあったが、それ以上に俺にはワクワクしていた。うたにいに言ったら、恩知らず、なんて言われそうだが仕方ないじゃないか。

 

 七星剣舞祭で刀華ねえと戦える。

 それにわくわくするなというほうが無理というものだ。

 

 あれから俺もここでの鍛錬は欠かさずにしてきた。以前、シニアで試合をした知り合いにはこのトレーニングをしていることを話すと、

 「山を嬉しそうに駆け回るのはサルかゴリラくらいのものですよ・・・ああ、あなたはゴリラでしたか」

とも言われたが、今なら自信を持って言える。

 

「ゴリラだろうと俺ほど早くは山を駆けれない」

 

 だが、ここでのトレーニングも今日で最後だ。

 これから俺は騎士学校に入学し、魔導騎士への1歩を踏み出すのだ。

 

 入学に当たっては親切な年齢不詳のロリが身元保証人になってくれたし、もう明日にも若葉の家を出て学校に向かう予定である。

 

 七星剣舞祭、それに刀華ねえ・・・あとはカナタさんもか。

 進む道に迷いはない。

 

 沈みゆく夕日を山の山頂から眺めながら、俺は笑う。

 

 次に目指す頂は、七星の頂、すべての学生騎士の頂である。

 この山の頂からの景色も好きだが、その頂からの景色はきっともっと素晴らしいに違いない。

 

 「待ってろよ、全国の騎士たち。全員ぶっ倒してやるからな!!」

 

 誰にも聞かれていない俺の決意は、山に反射していつまでも響いていた。

 




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