落第騎士の英雄譚 頂を目指して   作:トワコ

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短めです。


幕間(1)

破軍学園 理事長室

 

 「きっかけについては予想外であったが、概ねは予定通りになったな」

 

 伐刀者養成機関の1つである破軍学園の理事長室で新宮寺黒乃は胸ポケットから取り出したタバコに火をつけながら先ほどまで目の前で繰り広げられていた喧騒を思い出す。

 

 騒ぎの原因となった2人はすでに退出しており、ここにいるのは新宮寺ただ一人である。

 前理事長と騎士連盟の思惑によって”前代未聞の落第騎士”との烙印を押された少年、黒鉄一輝と世界最高のAランク騎士”紅蓮の皇女”ステラ・ヴァーミリオン。

 誰が見ても不釣り合いな2人はこれから決闘を行う。その目的は”勝ったほうが負けたほうを下僕にできる”という普通は教育者として看過すべきでないものであるが、それを咎める気は彼女にはない。そもそも決闘のきっかけが、新宮寺が意図して”2人が同室”という事実を隠していたことによる、事故――ステラの着替えに黒鉄が乱入するという、の原因なのだから。それに、決闘の後に2人がどんな関係になるのか興味深くもある。

 

 だがまぁ、黒鉄にも伝えたとおりだが、賭けるのはただの”権利”であり、彼が勝ってもおおよそ社会通念、公序良俗に反するような事態にはならないだろう。

 

 そう、意外なことにも新宮寺はAランクとFランクの騎士の決闘である今回の戦いを十中八九・・・いや10回やっても10回すべて、”落第騎士”黒鉄一輝の勝利以外ないと考えている。

 通常、100人に聞いても100人が”紅蓮の皇女”の勝利を疑わないのが今回の戦いであるが、新宮寺にはその確信があった。

 なぜなら、

 

 黒鉄一輝はハンデ戦とはいえこの自分、”KOK トップリーグ元3位に勝った男”なのだから。

 

 ちなみに「KOK」とは「King of Knights」という国際的な伐刀者同氏の格闘競技の略称である。

 伐刀者が世間の尊敬を集めるこの世界で、最も人気のあるスポーツであり、その放映権は年間で3兆円を下らない。これはサッカーの世界トップリーグの放映権の10倍以上でありその人気がいかに大きいのか一目瞭然である。

 

 そんな男であれば実戦の経験が薄い小娘程度、ランク差など関係なく一刀のもとに下して見せるだろう。

 その下剋上がこの学園の歪んだ空気”騎士ランク至上主義”を幾分か取り払ってくれることを期待している。

 それは新宮寺がここに呼ばれた理由である破軍学園の最高のための改革の1歩となるのだから・・・

 

 さてそろそろ、私も闘技場に行くとするか

 新宮寺は吸いかけのタバコを乱暴に灰皿へと押し付け、席を立とうとした。だが、その瞬間、自分しかいないいないはずの部屋に、よく見知った人間の気配を感じた。

 

 「おい、部屋に入るときはノックくらいしろ」

 「かったるいことゆーなよー、くーちゃん。うちとくーちゃんの仲じゃないか」

 「今の私たちは上司と部下の関係だ、生徒への示しがつかんだろうが」

 

 新宮寺の言葉に、件の闖入者はくーちゃんが権威を振りかざす嫌な女になったかー、とおどけて見せる。彼女は白の着物の上に赤の派手な振袖を羽織り、足元は天狗下駄という奇妙な格好の少女?、であった。

 子供にしか見えない見た目で乱雑な口調で話す彼女、”西京 寧音”はこれでもれっきとしたこの破軍学園の教師の1人である。

 彼女は新宮寺が学生騎士であったころからの友人であり、今回新宮寺が理事長として破軍学園に就任する際、前理事長の息がかかった教員を大量解雇した教員不足を補うためにわざわざ来てくれた経緯がある。

 そのこと自体、優秀な人材はいくらいても困らない新宮寺としては有難い話であるが、彼女については同時に悩みの種でもあった。

 

 この西京寧音という女は有名人なのである。なぜなら現在KOKのトップリーグに参戦する現役のプロ騎士であり、日本最強の騎士はだれかと聞かれれば必ず名前が挙がる1人であるのだ。それだけならばいいが、この女は別の意味でも有名であった。日々の私生活の乱れや、興味を持った騎士にちょっかいをかけてはワイドショーを賑わすこと片手では数えきれない。

 ”歩くスキャンダル”のような彼女であり、それを雇用するのは国の機関である破軍学園としてリスクがあるが、それと天秤にかけても西京寧音という騎士の実力を新宮寺はかっているのだ。

 

 破軍の再興に彼女が助力してくれれば、多少のことには目を瞑ってもいいと思えるほどに。

 新宮寺はそう考え、彼女が「くーちゃんの手伝いをしてやるよー」という申し出を有難く了承し、この学園の教師に迎え入れたのだ。

 なぜか彼女は教員免許も持っていたので特に断る理由もなかった。

 

 「まったくお前というやつは、ほんとに私を困らせてばかりだな」

 「もう、あたしがこんなのするのはくーちゃんだけだからね」

 

 うねうねとしなを作るような動作で寧音が言う。

 迷惑な話である。その動きが妙に妖艶なのも新宮寺は腹立たせる。

 

 「しかし、お前が自分で手伝いを申し出たのには驚いたが、就任翌日に辞職を願い出たのには本当に勘弁してほしかったぞ」

 「あれには悪かったと思うよー。うちにもうちの事情があったのさぁ」

 

 そう、彼女は教員就任後すぐにとんでもないことをしてくれた。

 あろうことか、自分から申し出ておいて教師になってすぐに辞職願を出してきたのだ。

 あの時は本気でこの女の時間を永遠に止めてやろうかと思ったが、聞けば彼女が言う通りそれなりに理由があったのでそれはなんとかこらえた。あの時の新宮寺の寛容さはガンジーも無言で肩をたたいて親指を立てるものであった。

 

 「だが、息子が破軍に来ないから廉貞に転任するとお前が言った時の私の立場にもなってみろ」

 「うはは。くーちゃん、それが子を愛する親の気持ちってやつだよ」

 「まさか、私がお前に親心について諭される日が来るとはな・・・」

 「ああん。誰が未婚の生き遅れのくせにだとぉぉ!」

 「だれもそこまでは、言っとらんだろうが!」

 

 理不尽な言いがかりをつけ凄んで見せた寧音だが、本気ではなさそうである。

 寧音は先月ほど、同じ門下の中学生の1人――彼は事故で幼くして両親を亡くしていた、が高等教育機関進学に際し身元保証人となり里親申請と養子縁組をその子としていたのだ。彼女は義理とはいえ今や一児の母になっていたのである。

 そして寧音はその子が破軍に進学するものだと思って、新宮寺に教師就任を申し出てきたのだった。ともすれば過保護のようだが、そのことを新宮寺が咎めるつもりはなかった。

 新宮寺とて子を持つ親である、義理とはいえ同じ親になった彼女の気持ちがわからないでもなかった。

 

 新宮寺は寧音の説得や「将を射止めんとすれば馬から」ということで原因の生徒に破軍学園入学を勧めて引き留めを図ったが、結局は廉貞学園側が「西京寧音を教員として採用する気はありません」と言ってきたことや、息子から説得されたことで彼女は予定通り破軍学園に留まった。わざわざご丁寧に彼からは新宮寺宛に寧音の行動を謝る手紙まで郵送されてきた。

 ちなみに「あの”けつ青女”に息子が寝取られた!」と寧音はひどくご立腹であった。

 それを聞き、彼女が言う”けつ青女”――”不屈の蒼炎”と呼ばれた伐刀者が廉貞にいたなと懐かしく思ったものであった。また機会があれば彼女と酒でも飲みながら話を聞くのもいいかもしれない、彼女は学生の頃から自分と寧音の好敵手であり友人でも会った、そして今は3人とも後進の育成に立場となっていることに数奇な因縁を感じたものだ。

 

 新宮寺は思う。以上の経緯はともかくとして、

 寧音はともかくとして、彼女の息子は1人の伐刀者としても破軍に来てほしかった、と。

 

 直接話したことはないが、シニアの実績や伝え聞いた話では破軍の再興に優秀な生徒を集めていた新宮寺としても彼に興味があった。

 しかし意外なことにも彼は廉貞学園にこだわっており、彼を呼ぶことはかなわなかった。

 だが、ここで届かぬ葡萄をとやかく言っても詮無きことである。とにかく西京寧音という人材が確保できたことを安堵するべきなのだろう。新宮寺はそう考えてこのことには決着をつけた。

 

 ふっ、それに子供からの拒絶にこいつが珍しく落ち込む姿を見れたし十分か。

 「むーなんか、くーちゃん、失礼なこと考えてんじゃねーか」

 「いやいや、友人が立派に親になったことをうれしく思っただけだ」

 

 あれは見た目からは子供にしか思えない友人の思いがけない一面が見えた一件であった。

 納得いかねーな、といった様子の寧音。

 

 「それで、お前は何しに来たんだ」

 「あー、なんか面白いことになってるなーて見に来たのもあるんだけど、くーちゃんにお願いがあってさ」

 「お前が私にか?珍しいこともあるな」

 「明日さー、広島で廉貞学園の入学式があるんだけどさー・・・」

 「却下だ。許可できん」

 「まだ、全部言ってねぇじゃんか!!」

 「大方、「息子の入学式見に行くから有休頂戴!」といったところだろう。お前はもう前期の有休をすべて使っただろうが、ばかもの」

 「だから後期のやつの前借をお願いしに来たんだろうがよー」

 

 バカっていうほうがバカなんだよー、と言いながら寧音は言うが答えは変わらない。

 

 「明日働いているのかもわからんお前に前借など許すと思うか?」

 「くーちゃんの横暴だ、このブラック企業経営者め!!、こうなったら出るとこ出てやんからなぁ!!」

 「勝手にしろ。それだけなら私は第4訓練場に行かせてもらうぞ」

 

 このわからずやーー、と喚く寧音を残して新宮寺は部屋を出た。

 

 部屋を出て決闘の舞台となる訓練場に向かう新宮寺は思う。

 

 それにしても、あいつが有休取得をお願いに来るなんてなと、先ほど言った言葉とは違い素直に感心する。

 以前までの彼女ならば、そんな義理を通さずに問答無用でバックレていただろう。誰にも縛られないのが西京寧音という女なのだ。

 それがわざわざこんな風にお願いに来るなんて、彼女を知るものならその変化にハトが豆鉄砲を食らったような顔をするだろう。おそらく、勝手に飛び出していけばいい顔をされないことを知っているのだろう。

 本当に彼女と少年の養子縁組の仲人をした南郷さんの慧眼には恐れ入る。

 

 転任希望の際の対応といい、彼女の義理の息子とやらはしっかりと筋を通す男のようである。自分のことではないのに寧音のことを新宮寺に手紙で謝ってきたくらいなのだ。

 息子に免じて、前半休くらい許してもよかったかもしれないと思いつつも、それをすればますますあいつをつけあがらせてしまうと思いなおし、やはり却下だと変わらぬ結論を出す。

 そして、新宮寺は結末が決まっている今日の決闘の審判を務めるべく、破軍学園第4訓練場に入っていく。さて、私も自分の仕事をするとしよう、と理事長就任の目的をしっかりと見据える彼女の眼はまさしく一流の教育者のそれであった。

 

 この後、寧音が亮に新宮寺のことを電話で愚痴った時には、

 「新宮寺さんい迷惑はかけないこと、もし入学式に来たら本気で嫌いになる」と言い含められたそうだ。

 翌日、しっかりと破軍学園に彼女が出勤したのを見て、新宮寺は手に負えない友人にいい手綱ができたと満足するのであった。

 

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