廉貞学園 中庭
入学式後、新入生たちは全員校内の中庭へと向かった。
そこの掲示板にクラス割が張り出されており、それ確認し各自HRへ向かうように指示を受けたからである。
ここで新入生は1クラス40人、A~Dクラスの4つのいずれかに振り分けられる。
ここでのクラス分けにはクラス分け以上に意味があるものではないと聞いている。伐刀者ランクよろしく、A~Dの中で序列のようなものはなく、むしろ各クラスの入学成績での実力が等しくなるようにしたとのことであった。
俺は手早く自分のクラスを確認すると、いまだに掲示板の前で思い思いに友人と話し合う同級生たちを遠巻きに眺めていた。
「お前はどこだった?」
「Cクラスだよ。お前は」
「Dだよ。お互いBクラスじゃなくてよかったな」
そんな会話が聞こえてきた。
Bクラスに何かあるんだろうか、俺、Bクラスなんだけど・・・
彼らの話の内容は気になるが、俺にはやることがあると思いなおし、話しかけに行くことは控えた。
俺はできるだけ目立つよう、人混みから外れた位置に植えられた桜の木の幹に背を預けながら、入学式のことを思い出しながら目的の人たちが来るのを待った。
しかし、それ以外にやることもない為、事前に配布されていた廉貞学園の生徒手帳を見る。
騎士学校に入学したものには各校ともに通信機能をもった生徒手帳が配布されるが、廉貞学園でもそれは同じであり、俺が持つ生徒手帳にも携帯電話としての機能がついている。
この生徒手帳を通じて学校側は生徒に連絡事項などを伝達するそうである。
その説明を受けた入学式を思い出したところで、そこでの挨拶についても思い出した。
最初こそは大きくやらかした俺であったが、その後はおおむね考えていた通りに上手くできたと思いたい。
挨拶の内容も予定通りに滞りなく話すことができたし、事前に綾瀬さんから言われていた在校生への発破についてもしっかりと盛り込めた。
「・・・私たち新入生は、在校生先輩方の後輩ではありますが、同時に伐刀者としては同じ立場にあると思っています。この廉貞学園は近年、七星剣舞祭において表彰台を逃して久しいと聞いております。・・・私たちの入学がそれを打開する契機になれるよう精進するとともに、先輩方には是非、先達として私たちを”可愛がって”もらいたく思っています。その時には正面から付き合わせていただきますので・・・」
この廉貞学園の不振を新入生風情に指摘され、あまつさえこんな舐めた口を利かれれば当然、全力でつぶしに来るのが先輩伐刀者というものだ。
血気盛んな人であれば「なんだあいつ、一発〆ておくか」とおもうことだろう。
そんな人が、俺のところに来てくれることを期待して、ここにいるのだがなかなか来ない。
せっかく、声もかけやすいように1人でいるのに・・・
そんなことを俺が考えていると、
「おい!そこの《強者の名を冠する者》よ!」
こちらに向かって歩いてくる、少女2人と1匹の黒いライオンがいた。
ラ、ライオン?!初めて生で見た。
何か変な呼びかけられた気がするがそれ以上の目の前の事態に驚きを隠せない。
「おい、汝のことだ。《雷童》よ」
「あ、ああ、俺のこと? えーと、どちら様ですか?」
「ふん、人に名を尋ねる時はまず自分からと教わらなかったのか。まぁ、おいそれと人に真名を明かさんとする姿勢はさすがともいえるか・・・、よかろう我が名は風祭凛奈。《星の啓示》により《雷童》、貴公とは《同学の輩》となった故、どんな奴かと見に来たというわけだ、ククク」
「お嬢様は「クラスメイトになった風祭凛奈だよ!よろしくね!」と仰っております。申し遅れましたが私はお嬢様の専属メイドを務めております、シャルロット・コルデーと申します。以後お見知り置きを」
風祭凛奈と名乗った小柄な少女はこちらを見上げるようにしながら、シャルロット――メイド服の少女は恭しく一礼をしながらそう告げた。先輩かと思ったがどうやら違うようだ。
なんだか聞いているこっちが恥ずかしくなるような言い回しをする風祭に対して、シャルロットが注釈のように彼女の言葉を言い直す。
ああ、これは所謂”厨二病”というやつなのだろう。本で読んだことがある。
それに、メイドというものも生まれて初めて見た。今日は本当に初めてのことばかりだな。
どうやら、先ほど彼女の言った《強者の名を冠する者》という、よくわからん呼び名も俺のことらしい。
「ああ、わざわざご丁寧に。風祭さんにシャルロットさん、1年Bクラスの西京亮です」
「ふっ、その名は次元管理局を欺くための仮初にすぎぬ。だが、汝と我は《同学の輩》なのだ、そのような堅苦しい呼び方の必要はない。特別に名をよぶ栄誉を下賜しよう」
「お嬢様は「クラスメイトなんだから、気軽に凛奈と呼んでくれればいいよ」と仰っております。私のこともお気になさらずシャルロットとお呼びください。」
「それもそうか。こちらこそよろしく。凛奈、シャルロット。なら俺のことも亮って呼んでくれ、名字で呼ばれるのには慣れてないんだ」
それが貴様の仮初の名か、承ったと、満足そうにする凛奈とかしこまりましたと再び一礼するシャルロット。
凛奈は赤のドレスといったおおよそ学内では不自然な装いだが、気さくな様子で話してみればどこか小動物的な感じの印象を受ける。施設にいる妹のようでなんか世話をしてあげたくなる。
シャルロットはそんな彼女を立てながらも、こちらには先ほどから一定程度の警戒をしている様子だが、それは彼女のメイドという立場からのことであって、特別こちらに敵意があるわけではないだろう。
「そしてこいつは我が僕、魔獣「スフィンクス」だ!」
「いや、どう見てもライオンじゃん」
先ほどからちらちらと俺が、隣にいるライオンを気にしていたことを気遣ってか、凛奈が説明をしてくれる。
「それは世を忍ぶ仮の姿。我が邪心呪縛法でこのような姿としているまでのことよ。こいつの真の姿はおおよそ人が認識できぬものであるからな」
「お嬢様は「私の伐刀絶技でペットにしているライオンだから、スフィンクスはちょー強いんだよ」と申しております」
結局ライオンじゃないか。
それにしても、動物を使役できる伐刀絶技か面白そうな能力だな。
伐刀絶技とは伐刀者各々が持つ固有の異能である。
伐刀者は己の《固有霊装》を用いて伐刀絶技を行使する。
当然、各人ごとにその能力は様々であり、彼女の伐刀絶技は、「動物の使役」というものなのだ。
ただ、単に「動物の使役」が彼女の伐刀絶技であるとも思えない。初対面の俺にそれを話すぐらいなのだ、本質はもっと強力な何かなのかもしれない。
もしそうであれば、どこかで手合わせをしたいものだ。人間以外の生物と本気で戦える機会なんてなく、さらにその先もあるというなら尚更だ。
「なんだ、急ににやにやして。はっ、なるほどリョウよ。さては汝、スフィンクスの毛並みを触りたいのだな」
「いやそうじゃなくて、ライオンも使役できる伐刀絶技なんてなかなかに強力そうだし、是非、手合わせをお願いしたいなと思って」
「おお、そこに気付くとは流石は音に聞きし”雷童”だな。何を隠そう、我の伐刀絶技はただ単に眷属の使役に過ぎないのではなくだな・・・」
なんだか勝手に伐刀絶技について教えてくれそうな雰囲気だ。
先ほど表現した小動物のような仕草で、こちらを見上げる凛奈はキラキラした瞳で自分の伐刀
絶技についてすべて話し始めそうな様子である。
「お嬢様、リョウ様が困惑しておりますし、今日のあたりはそのあたりでよろしいのでは」
主を諫めるようにシャルロットが凛奈の話を遮る。
伐刀者にとって伐刀絶技とは奥の手にもなるものである。こんな公の場でつまびらかにするのは褒められた行為ではないだろう。
それを理解しての彼女の行動はメイドとして真っ当なものだろう。
「むー、そうか。・・・じゃがリョウ。我が異能に着目するとはなかなか良い目をしているな。ふむ、その威圧的でないマスクもスフィンクスを前に動じぬ胆力も見事だ、どうじゃ、もしよければ風祭家の執事として雇われてはみぬか?」
「名家の執事か、魅力的な提案だ。・・・だが断る」
風祭家というのがどれほどの名家か知らん、メイドとライオンを従える彼女が言うのだからかなりの家格なのだろう。しかし、執事なんてものに興味はない。
以前漫画で見たフレーズを使ってみながら俺は間髪入れずに断る。
でも、執事として仕えながらポンコツなお嬢様をいじるのも楽しそうではあるな。
「お嬢様、リョウ様をあまり困らせてはいけませんよ。リョウ様はお嬢様のご学友なのですから」
「むー、わかったよー、シャル」
シャルロットに再度諫められ凛奈は不承不承といった様子で唇を尖らせながら返した。
彼女はまだ勧誘をあきらめていない様子だが、シャルロットは先ほどよりも刺々しい、警戒をこちらに向けている。
その雰囲気は、お嬢様の傍は私のものだ、てめえみてえな馬の骨がしゃしゃるなよ、おおん?といいかねない様子だ。
なんか本当にからかいたくなる主従だな。
さて、結構な時間2人と話していたがもう新入生もほとんどが中庭を離れて教室のほうに向かったようで、掲示板お前も先ほどより閑散としていた。
しかし、一向に目当ての人たちが来る気配もないしどうしたものかと考えていると、ふと2人の隣でおとなしくしているライオン、スフィンクスに目がいく。
ああ、ちょうどいい子がいた。この子にお願いしよう。
「そろそろHRも始まる様子だし、俺たちも移動しようか。これからよろしく、凛奈、シャルロット」
俺は話を切り上げ、友好のしるしとして握手を求める。
その手を、凛奈はうむ、と握る。続いてシャルロットもはい、よろしくお願いしますと優雅な振る舞いで握手をする。
そして俺はしゃがみ込むと、お前もよろしくなとスフィンクスの頭を撫でた。
そこで事件が起きた。
頭を撫でられたスフィンクスは顔を上げると、急に俺に飛び掛かってきたのだ。
突飛なペットの行動に、凛奈とシャルロットは驚き、これスフィンクス何をするんだ、止めぬか!とその行動を止めようとするが。
スフィンクスは動きを止めない。
そのまま俺の上に乗っかると、大きな口をあけ、頭に噛みついてきた。
「こら!スフィンクス、早く離れて!!」
凛奈が普段の芝居かかった様子ではなく、慌てて声をかけるが当のスフィンクスは困惑した様子である。
ちゃうねん、これはちゃうねん、確かに噛みついてるけどこれはちゃうねん!
苦し紛れの言い訳をするみたいに自分の主を見ているが、その顎は依然として俺の頭を咥えたままだ。
頭を噛まれた当の本人である俺は、
「ふ、なかなかにいい牙を持ってるじゃないか。今度、一緒に山にいこう」
と、親指を立ててから意識を手放した。
「衛生兵ーー、衛生兵をよべー」
「お嬢様、ここは学校です。衛生兵はいません。こういったときは保健室に搬送すべきです」
薄らぐ意識の中で、そんな声が聞こえた。
***************
廉貞学園 保健室
「・・・それであなたはそこのライオンちゃんに食べられたということね」
「いやー動物には好かれる質だったんですけどね」
苦笑いする俺に、どの口が言うのだかといったあきれた様子で、正面に座る女性は俺の診察を続ける。
中庭でのスフィンクスの噛みつきの後、すぐに凛奈とシャルロットは頭から血を流す俺を廉貞学園の保健室に運んでくれた。
保健室につくところで目を覚ました俺はこうして、現在、診察台に腰を掛けて、患部を彼女に見せている。
「それで先生。傷は大丈夫なんですか?なんか血がピューっと出てたけど・・・」
自分のペットが負わせた傷ということもあって、凛奈は気まずそうに彼女に尋ねる。
申し訳そうな彼女の様子に居心地の悪さを感じる。
「ええ、幸い傷も深くないし、そこのライオンちゃんも甘噛みだったのじゃないかしら。とにかく大丈夫よ」
そんな彼女の言葉に、凛奈はよかったーと安どした様子である。
「でも、治療があるからあなたたちはHRには参加できないわね。あなたたち、このこと同じクラスよね。悪いけど、このことをクラスに伝えてきてくれないかしら?」
「その程度、お安い御用よ。では、シャル、すぐに教室に向かうとするぞ。スフィンクスはしばらくおやつ抜きの刑だ」
「その子には悪気はなかったのだから、情状酌量の余地ありね」
「そうですね、不用意に撫でた俺も悪かったし、あんま責めないでやってくれ」
減刑を要求する言葉に、俺の前の女性は再び、まったくどの口が言うんだか、とあきれた様子だ。
俺たちにそう言われた凛奈は、では処罰は保留といたそう、と言いながら保健室を後にした。凛奈に続くようにシャルロットもお大事にと一礼して、部屋を出たが、その顔にはどこか釈然としない様子が浮かんでいた。
彼女たちが去った後の保険室には、俺と件の女性だけの2人が残った。
この部屋にはもう俺たち以外には誰もいない。
そして、凛奈達の足音が遠ざかっていくのを確認しながら、彼女は改めて俺のほうを向き直った。
その目線は、先ほどまでとは異なり俺の傷口ではなく、まっすぐと俺の目へ向けられている。
「ふう、もう猿芝居は結構よ。それで貴方はこの私にどんな用なのかしら、”雷童”西京亮くん」
***************
廉貞学園 廊下
「なあ、シャルよ。どうしてスフィンクスはあのような愚行に及んだと思う?かつてこのようなことはなかったと思うんだけどな」
「いえ、私にもなんとも」
保健室を後にし、教室へと向かう道すがら、シャルロットは先ほどの一件について考えていた。
先ほどの少年、”雷童”西京亮についてだ。
入学式の様子や、事前に聞き及んだ話から彼女の主の風祭凛奈が彼に興味を持ち、中庭で彼に話しかけた際、シャルロットはメイドとして主人に害するものであるかどうかを見極めようとしていた。
だが、その心配は杞憂に終わった。
彼は、客観的に見れば普通とはいいがたい凛奈や自分の姿を見ても、偏見もなく接し、こちらに対する害意は一切感じられなかった。
それに、凛奈が執事に勧誘した際に、シャルロットの様子に気付いてかはっきりと断っていたのも、好印象だ。
誤解を招きがちな彼女の主が学園でうまくやれるのか、月影おじさんに入学を依頼された際には一抹の不安を覚えたかが、彼のような態度であれば、それも取り越し苦労であったとすら思ったのだ。
立場上、なかなか同年代の友人が少ない凛奈に、 友人ができればという優しさも含めたおじさんの配慮はシャルロットとしても同じ気持ちがあったのだ。
お嬢様のご友人としては及第点である。あくまで友人としてはだが。
それがシャルロットの下した判断であった。それほどまでに彼女は西京亮のことを評価していた。
ここまではよかった、しかしそのあとの出来事がどうにも釈然としない。
あの時、お嬢様はスフィンクスに対して彼を攻撃するような命令は出していなかった。いや、むしろおとなしくしているように自分ともども命じていたはずだ。
凛奈の伐刀絶技《隷属の首輪》は首輪をつけた対象を凛奈の《固有霊装》として扱えるようになるものだ。単なる使役ではない。
つまり、スフィンクスやシャルロット自身は凛奈の《固有霊装》として強化するものである。
ただでさえ強い伐刀者をさらに《固有霊装》として強化する力、その強力さは計り知れないものだ。
彼女のデバイスとして戦ったことがあるシャルロット自身だからこそ、そのことをよく知っている。
同時に、凛奈の《固有霊装》である自分たちが、凛奈の命令に背きことは当然できない。
故に、「スフィンクスが突然、彼にかみつくこと」など本来であれば「絶対にありえないのだ」。
凛奈自身は首輪の効果を身を持っては知らないがゆえに、今回のことをスフィンクスの気まぐれと考えているみたいであるが、シャルロットはそうは思えない。
何か別の”作為”があの場にはあった、そうとしか考えられない。
シャルロットは凛奈が興味を持つだろうと思われる生徒の1人として、西京亮――調べたときは鶴見であったが、のことは一通り調べた。
彼はこの学園に首席で入学する実績の持ち主であり、風祭家の情報網をもってすればさして苦も無く一定の情報は集められた。
「西京亮、旧姓を鶴見亮。彼は中等部1年と2年の時にシニアで全国優勝。2年時にはU-15の国際大会においても優勝をしている。その異能は”電撃操作”、収束した電気を射出した遠距離攻撃を中心とし、また知覚にも電気を活用し、相手の行動を予見しているかのような立ち回りは、おおよそ中学生の域を超えるほどの完成度であり、事実、15歳以下の連盟所属伐刀者の公式戦では無敗であった。雷系統の能力も学生騎士であれば破軍学園の”雷切”、以前国内リーグで活躍した”裁きの雷”のように今後の成長も期待できる。」
概ね、そんな評価であった。
彼のシニアの試合をシャルロットも見たことはあるが、電気による知覚で相手に先んじた行動を続け、常に相手との間合いを保ちながら、強力な雷撃を相手に浴びせる彼の戦闘スタイルは実力者であるシャルロットをしても感心させられたものだ。
あの予知ともいえる立ち回りを突破するのは、凛奈の強化を受けたシャルロットをもってしても容易ではない。
以上のことから考え、彼の異能がスフィンクスの行動の原因とは判断できない。あの時、彼からなにか電気が発せられるている様子は感じなかった。
そこまで考えて、シャルロットはあることに気付く。
”私は感じなかったのではなく、”感じられなかった”のではないか。”
そして、再び彼のシニアの試合のビデオの1つを思い出した。
彼の中等部2年の時のU-15 決勝。相手は同じ日本人の水使いの少女の試合だ。
前評判では、日本人で同じく遠距離戦を得意とする伐刀者、かつ同ランク同士の試合に注目度は高かかった。そして内容もそれにたがわないほど、白熱したものであった。
彼はいつものように優れた知覚能力を駆使し、相手の遠距離から放たれる水や氷の弾幕を完全にかわし切っていた。一方、対戦相手の少女も電気を通さない純水を精製する離れ業で、彼の雷撃を封殺して見せていた。
互いに決め手を欠く攻防に試合は膠着したが、決着はあっけないものであった。
それまでは抜群の精度だった魔力操作を誤ったことで、少女は鶴見亮の雷撃、伐刀絶技――”電磁砲”の直撃を受けてしまった。そこから先は、一方的な展開であった。ダメージにより精彩を欠いた彼女の守りを彼は難なく突破し、そのまま勝利した。
文字通りこの試合は、高度な遠距離戦の中、先に根負けした少女のミスが勝敗の要因である。
しかし、シャルロットが気になったのは当のミスをした少女がその瞬間、明らかな困惑を見せたことだ。その困惑は自分がミスしたことのいよるものではない、彼が強力な伐刀絶技を放ったその最悪の瞬間に限って、ミスをした理由が全く分からないといった表情をしているように思えた。
あの時の少女の顔が、なぜか今回スフィンクスが自ら噛みついておきながらも、そのあとに困惑して見せた様子と重なってしまうのだ。
”あの試合のミスが偶々ではなく、”必然”のものだったとしたら・・・”
結局のところのその仮定が事実と裏付けるだけのものを彼女は持ち合わせていない。
もし仮に、今回のことが彼の仕組んだこととしても、試合とは違い、怪我をしたのは彼自身なのだ。わざわざそんなことをする理由なんてない。
”結局のところ、わかりませんね”
シャルロットはこれまでの思考をそう結論付けた。
いまだはっきりしないことは多いが、シャルロットのすることだけははっきりしている。自分の役目は今も前を行く主人を守ることだ。
彼に下した先ほどの評価はいったん保留としよう。もしお嬢様の脅威となるようならばその時は・・・
”排除するまでだ”
シャルロットは前を行く、自分の愛すべき主人の背中を追っていった。
ルビってどうやってふればいいんだろう。
誤字脱字等のご指摘お願いいたします。