落第騎士の英雄譚 頂を目指して   作:トワコ

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第4話 入学初日(4)

 廉貞学園 保健室

 

 「ふう、もう猿芝居は結構よ。それで貴方はこの私にどんな用なのかしら、”雷童”西京亮くん」

 

 診察台に腰掛ける俺の正面に立つ女性は確信を持った顔で言う。

 

 

 緑色の髪に黒色のロングドレス、そしてその上にまっさらな白衣を羽織った女性、俺は彼女のことを知っている。

 廉貞学園3年 薬師キリコ。

 学生にして日本一の医者。

 そして日本一の医者にして全国クラスの騎士。

 それが彼女、”白衣の騎士”薬師キリコである。

 

 「まさか、あなたに名前を知っていただけているとは思いませんでしたよ」

 「あら気付いていなかったの?あなたこの学園じゃ、知らない人がいないくらいの有名人よ」

 「それこそ、どの口が言うんだか、ですよ。それはあなたのことじゃないですか」

 

 あら、そんなことないわよ。と彼女は上品には笑う。

 この女性――薬師先輩はここ廉貞学園で間違いなく最強の伐刀者である。

 伐刀者にも様々な異能の種類がある。薬師先輩の異能は、水使い。それ異能自体は正直さして珍しいものではない。

 しかし、彼女の場合はそこら凡百の水使いとは全くの別次元の伐刀者である。

 彼女はの得意とするのは治癒魔術、そしてその実力は死者すらも蘇らせると評されているのだ。現代においても医療技術の発達の賜物である再生カプセルをで治療できない怪我は多い。それこそ、一定を超える人体の欠損となればカプセル治療では手に負えない。

 

 しかし、伐刀者の戦いにおいては怪我が絶えないのも事実である。その為、過去の伐刀者にも多くのものが試合で追った怪我が原因で引退を余儀なくされたものがいた。

 そんな状況下で、カプセルでも治療しきれない怪我や病気の治癒を可能としてしまう彼女の力はとてつもない価値がある。もし今が有事であれば、彼女の確保のために各国がこぞって千金を積んでもおかしくない。

 もちろん、以前に比べて平和となった現代においても彼女の価値が見劣りすることはない。

彼女は現在、この学園に在籍していることからもわかるように連盟に所属する騎士である。連盟も彼女の能力を認識しているからこそ、彼女には特別の待遇がなされ、生徒でありながら授業への出席が免除されている。さらには、多額の資金を出資して彼女を院長とする総合病院まで用意し、彼女の研究に最大の支援をしているのである。

 

 「やっぱり、貴女には全部お見通しでしたか」

 「ええ、自惚れでなければ貴方は私に会うためこんなことをしたんじゃないかしら。ほんと困った患者だわ」

 「光栄です」

 「褒めてないんだけどね」

 

 彼女が言う通り、俺がしたかったことはこの状況、”薬師キリコと1対1で話せる場を作ることであった”

 その為に、入学式ではわざと反感をかってもおかしくないような行動をし、誰かが俺に襲い掛かてくれるように仕向けた。まぁ、それは失敗に終わったが、凛奈達が来てくれたのは本当にラッキーであった。

 だから、怪我をする為にスフィンクスを能力で操って、俺に噛みつくようにさせた。

 そして今俺は怪我をして、保健室に来ることができた。これさえ達成できた今、俺の目的は成功したといえる。

 

 「私に会うためにわざわざ怪我をしたクランケは初めてよ。どうしてそこまでしたのかしら」

 「貴方の治療を間近でみたかった、まさかその為に誰かを怪我させるわけにはいきませんから」

 

 薬師キリコという最高の治癒術師の治療をこれ以上ない特等席で見れたのだから、損得勘定で言えば間違いなく得である。

 

 「ところで、どうしてこの怪我が俺の自作自演だとわかったんですか。怪我の経緯なんかも不自然なところはなかったと思うのですが」

 「ああ、そのこと。理由は2つね。まずは、貴方の傷が不自然だったからよ。動物の咬傷は大きく分けて2種類がある、野生としての動物に咬まれた傷と敵意のない愛情表現として咬まれたもの。貴方の傷はそのどちらともいえない微妙なラインの傷だったわ。思いっきり咬まれたにしては浅すぎるし、愛情表現としては深すぎる。まずここで違和感を持ったの。」

 

 なるほど、そこまでは考えてなかった。

 

 「そして2つ目だけど、そんな不自然な傷をつけたライオンちゃんを診たら、わずかだけど他人の魔力の残滓が感じられたわ。この2つから”あなたがわざとライオンに咬ませるように仕向けた”っていう仮説が生まれた」

 

 そこもばれていたのか。確かに俺はライオンの神経組織に干渉してその行動を操作したが、本当にわずかな魔力で細心の注意を払っていたのだが・・・。事実、その場にいた凛奈やシャルロットにも俺の行動は全くばれていなかったと思う。

 

 「あとは、その動機が分からなかったけど、治療をしている際のあなたを見てたら確信が言ったは、ああ、この子は私の治療を受けるために怪我してきたんだって」

 「そこまでばれているとは・・・恥ずかしいです」

 「ふふ、クランケが医者をだますことなんてできないわよ。これに懲りたら二度とこんなことはしないようにね。私も自分から怪我する子を治療するほど暇じゃないんだから。」

 

 めっ、といった様子で薬師先輩はこちらを指差してそう告げた。

 

 「それにしても今日は偶々、私が登校していたからこうして治療してあげられたからいいけど、もし私がいなかったら骨折り損もいいところじゃない」

 

 呆れたように彼女は言うが、その通りである。

 さっきも言ったが、彼女に登校の義務はない。その為、彼女が学校にいないことは多く、近くにある薬師総合病院にいる時間のほうが多いといっても過言ではない。

 だが俺は、空振りに終わる可能性はないと隠していた。

 

 「そうならないとわかっていましたから。今日は入学式ですから、在校生である学校行事にはあなたも参加されると思っていました。それに・・・」

 

 俺は一拍おいてから、先ほど俺の企みをすべて当てられた意趣返しの意味も込めて理由を伝える。

 

 「あれだけ入学式の時こちらを見ていたら、いやでも気付きますよ。あなたが今日ここにいることがね」

 

 笑顔でそう告げた俺に、薬師先輩は意外そうな顔をしてから笑った。

 そう、入学式の時明らかにこちらへ意識を向けていた上級生は彼女だったのだ。だからこそ、俺はこうして怪我をして保健室に来たのだ。

 

 「まさかあの距離で気付かれちゃうなんて、不躾なことしてごめんなさい。校内で話題の新入生がどんなものか私も気になっていたのよ」

 「意外です。あなたほどの人が俺に興味を持ってくれていたなんて」

 「本当よ、私もあなたとおんなじ。あなたに興味があったのよ、特にあなたの”本当の能力”にね」

 

 俺は思わず、目を見開いて薬師先輩を見つめる。

 薬師先輩は仕返しよ、といった様子で悪戯成功を喜ぶ子供のように笑っている。

 

 スフィンクスを自分に仕向けたことが気付かれていた時点でもしかしたらとは思ったが、この騎士の前では隠しことはできそうにない。

 

 「ええ、その通りです。俺の異能は公には”電撃操作”となっていますが、本当は違います」

 「あら、あっさり白状するのね」

 「もともと貴女にはすべて話すつもりでしたから」

 

 シニアの試合においても俺は電撃を操る伐刀者として認識されていたが、それは俺の能力の本質ではない。

 電撃操作や知覚への応用はあくまで俺の能力の本質は”電荷操作”である。

 電荷とは様々な物質が自然と帯びている電気のことであり、あらゆる電気現象の根本となるものだ。

 電撃の射出は大気中にある静電気を魔力によって集約し放ち、周囲の把握も同じく周囲の荷電子との知覚神経を接続させて行っているものだ。

 

 「なるほどね、貴方はその力でライオンちゃんの活動電位を操って見せたと・・・」

 「ご明察です。生き物人も含めてその活動はすべて電気信号で行われています。人間の思考ですらそうです。その電気信号を能力で歪めて、行動を操作しました」

 「そのレベルでの電気操作となると私もあまり聞いたことはないわね。もしかして人の思考ですら操作できたりしちゃうの」

 

 興味深そうな顔で、薬師先輩は聞いてくる。

 

 「理論上は可能かもしれませんが、今は不可能です。人の思考、特に脳内ニューロンの信号伝達パターンはまだ未解明な点が多く複雑すぎます。そこに干渉して思考誘導に成功しても、どこかで歪が生じれば本人にとてつもなく違和感を与えてしまいます。それすら克服するような操作は俺の実力じゃ全然できません」

 

 確かに簡単な刷り込みならば可能だ。例えば、なんか無性に今日はカレーが食べたいと思わせることやトイレに行かせることくらいならできないでもないが、本人の人格や趣味嗜好まで操れるようなレベルではない。それをしようとすれば、明らかな不自然に人間本来の持つ脳活動がそれを否定してくる。

 

 「それでも十分に恐ろしい能力に思えるけど・・・」

 「薬師先輩ならご存知でしょ、人間がもつ生命力は。俺の力じゃそれを乗り越えて理不尽をを押し付けることはできません」

 「ええ、実に興味深いは。私もまだ人間のすべて、特に脳活動にはわからないことが多い、私たちのような伐刀者が生まれてくる理由もね」

 

 薬師先輩の目が研究者としての鋭さをみせる。

 

 俺の戦闘スタイルはシニアでは周囲の電気を使ったアウトレンジを主体とするものであったが、本当に目指すのは自身の身体活動をすべて支配下に置たうえで、肉体そのものを最強の武器として戦う、超クロスレンジでの格闘である。

 ただ何気なく打つパンチではなく、自身の体すべてを活用し、そのうえで魔力の上乗せによる一撃、さらにはその連撃。

 人間としてできる限界の行動をすべてにおいて行う、それができれば俺はさらなる高みに行ける。

だがそれのためには足りていない者がある。

 それは、

 

 「それで貴方はさらに強くなりため、人体についての理解と魔力制御を磨きたいということね」

 

 俺が言わんとしたことを薬師先輩が言い当てる。

 

 「人間の運動には本来どうしても無駄が生まれてしまう。でもそれをもし、徹底的に排すことができればただの蹴り出会っても、それは通常の人体では出せない必殺の一撃となる・・・、実に興味深いテーマだわ」

 

 俺はその言葉に頷く。

 ここまで理解している薬師先輩ならもうすべて俺の気持ちを分かっているだろうと思い俺は口を閉ざして、薬師先輩の言葉を待つ。

 

 「あなたほどの伐刀者が、お世辞とも競合とは呼べない廉貞にきた理由は分かったわ。それに私に会いたがった理由もね・・・。いいわ、貴方に私の持つ人体の知識と魔力制御を教えてあげる」

 「ありがとうございます」

 

 俺が廉貞に来た最大の理由は"薬師キリコ"という当代随一の魔力操作技術を持ち、そのうえでだれよりも人体について熟知している騎士に師事を仰ぐことにあった。

 

 この騎士に師事することで、俺は七星剣王となるのだ。

 

 「ううん、貴女の話を聞けば聞くほど、確かにあなたを教えるのに私以上の人はいないでしょうから。それに私自身、人体の理解のために貴方のという貴重な実験台が手に入るのだから悪くない話よ」

 「指導してもらえるなら、この体、煮るなり焼くなりいかようにしてもらっても構いません」

 「あら、なら今晩私の部屋で相手してもらえる?」

 「・・・未熟者ですが、喜んで」

 「冗談よ、真に受けないで」

 

 大人の余裕を見せて笑う薬師先輩――いや師匠は改めてみてもきれいな女性だ。そのお相手なら男として喜びこそあれ、いやな気など一切ない。

 それに俺は、どちらかといえばお姉さんに甘えたいほうなので、師匠は正直どストライクである。

 閑話休題。

 

 「じゃあ、詳しいことは後で話すから、学校が終わったら病院に来てくれるかしら」

 「はい師匠!」

 

 事は成った。薬師キリコの弟子になれたのである。

 もうここは仁義を切るしかないだろう。

 俺は診察台から飛び降り、大袈裟に床に頭を打ち付ける。傷口が若干痛むが関係ない。

 

 「手前、姓は西京、名は亮、昨今の駆け出し者で御座います。生国は、日本国 日向は鶴御崎。縁あって身の片親と発しますは、”夜叉姫”西京寧音、に従います若輩に御座います。以後、万事万端、お師匠であります薬師親分の子分となりましてにお頼り申し上げます」

 「何その口上。・・・次にそのチンピラの子分みたいな態度をとったら、破門するから」

 「あ、すみません」

 

 俺の渾身の仁義も師匠は気に入らないようである。

 おかしいな。施設で見た映画で主人公が子分となるときの口上を真似たはずだが、何か違ったらしい。

 とにかく、師匠がやるのというなら。もう二度とすることはい。

 

 さて、話も終わったようだし、俺も遅ればせながら教室に向かうとしよう。

 改めて治療のお礼も含めて、礼を述べてから俺も部屋を出ようとする。

 

 

 

 「ほんと、手にかかる弟子ができたわね。こんなに手のかかる子は久しぶりよ」

 「師匠、それは諸星選手以来ですか?」

 

 部屋を出る直前、師匠からかけられた言葉に俺はそう返した。

 諸星選手とは廉貞学園と同じ騎士学校の1つである、武曲学園の3年生にして現七星剣王――学生騎士の頂点に君臨する伐刀者、諸星雄大選手のことだ。

 

 彼と師匠には浅からぬ因縁があることを俺は知った上で、その名を口にした。

 

 「貴方、どこでそのことを!」

 「師匠、俺はあなたに弟子入りするためにここに来たんです。師匠のことはそこらのマニアよりも存じております。その上で最後に1つだけお願いします。もう俺は師匠の手足と同然と思ってください。自分の手足を実験に使うことを躊躇わないでいただきたい、それこそが俺の本望ですから」

 

 それだけ言うと、俺は再度礼をして保健室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

***************

 

 

 

 

 

 

 

 

 亮が出て行ったあと、保健室に1人残された薬師キリコは先ほどのやり取りを思い出す。

 最後に彼が言った言葉を何度も繰り返しながら。

 

 彼は言った。

 ”自分は師匠の手足だ。それを実験に使うのを躊躇わないでほしい”と。

 

 諸星雄大を再び伐刀者として再起させたのはほかでもない自分である。彼がそのことを知っているのはそれほどおかしいことではなかったが、まさかその出来事の前後での自分の変化まで知られているとは思わなかった。

 

 諸星は事故で両足を失い、その失った両足を自身のほかの体細胞から形成するというキリコの治療を受けた。しかし、1人が持つ体細胞の数は限られるため、諸星は確かに自分御足を取り戻したが一方で、その足を作るために体の他の部分から体細胞をとったため、彼の体の中はボロボロの状態であった。

 到底、伐刀者としての今後は見込めぬほどの枯れ木のような体になった彼は、それでも伐刀者としての復帰を望んだ。

 ”人体欠損から伐刀者としての復帰”、前例がないその偉業はキリコとしても興味をそそるものであり、本人の希望もあるのだからと、彼女はそれをいい実験台ができたと喜んだ。

 

 ・・・そう最初はそう思ったのだったが。

 

 人体を引き裂くような苦痛を伴うリハビリの日々の連続に心が折れてしまったのだ。

 諸星ではない、心が折れたのはキリコであった。

 モルモットの実験のように淡々と経過観察をしていた彼女であったが、日々の苦痛にもがく彼女と同じ人間の姿を見続けることに、自分が悪魔の研究をしているような気分になった。

 

 正気でいられない、夢の中にまで諸星の呻き声が聞こえてくるのだ。もう耐えられない・・・

 

 3か月がたった時、彼女は諸星に治療の中断を懇願した。限界だったのだ。ほかでもないキリコの精神がだ。

 

 それでも彼は歩みを止めなかった。ただ1人の為に、もう一度伐刀者として返り咲くために。

 

 結果として彼はリハビリを完遂し、昨年の七星剣舞祭で優勝して見せるというこれ以上にない成果をもぎ取った。

 人はこのことを薬師キリコの功績と称えるが、違う、そうじゃない。

 

 あれは、私ではなく、諸星君自身が勝ち取った成果なのだ。

 

 それ以来、彼女は危険な人体実験はすべて自身の身をもって行うことにした。他人を使っての行う実験に彼女の精神が耐えられないと思い知らされたからだ。

 

 つい先ほど弟子となった少年は間違いなくその変化を知ったうえで、

 ”自分を使ってくれ”と言ってきた。

 あれだけ豪語したのだから、諸星のリハビリの地獄のすべてとはいかなくともその一端を彼は承知しているはずだ。

 

 その上での発言ということであれば、

 

 「覚悟が足りなかったのは私のほうかもしれないわね」

 

 諸星がそうであったように、彼にもまた何か譲れないものがあるのだろう。

 半分は興味本位でとった弟子だが、キリコはその認識を改める。

 

 彼のその覚悟に私も付き合ってあげよう。

 可愛い初弟子なのだ、やるならとことんやってあげよう。

 

 弟子になって教えられるだけじゃない、役にもたってみせるといった彼のちょっとした背伸びもなんだか可愛いものにも思えた。

 

 

 




インフレについていくにはオリ主もインフレさせねば

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