落第騎士の英雄譚 頂を目指して   作:トワコ

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週末に間に合いませんでした、すみません。


第6話 入学初日(6) VS風祭凛奈・シャルロットコルデー

廉貞学園 第3訓練場

 

 

 

 

 「竦めぇぇーー、《獣王の威圧》ーーッ!!」

 

 「ゴォォォッーー!!」

 

 

 

 

 試合開始の合図と同時に動き出したのは凛奈であった。

 

 彼女が霊装であるスフィンクスに命じると、黒色のライオンは天に向かい大きく雄たけびを上げると、その体躯が一回り、いや二回りも大きくなって強烈なプレッシャーを放ってくる。

 

 

 

 

 「言ったはずだ。我が血脈の力を邪神呪縛法にて暗黒の力に目覚めしスフィンクスは視線を結ぶだけで、敵の魂を震わせ上がらせるのだ!やれ!スフィンクス。その百獣の王の力を脆弱な人間ごときに堪えられぬことを思い知らせてやれ!!」

 

 「ゴォォォォーーー!!」

 

 

 

 

 高らかに叫ぶ凛奈の説明通り、千里にも響かんとするスフィンクスの咆哮を正面から受けた俺は、自身の体が意志の通りに動かないのを感じる。

 

 そして、当然凛奈がその決定的な隙を逃すわけがない。スフィンクスに命じて俺に向かって突貫させてきた。

 

 人の体を優に上回る巨躯の獣の突撃はそれだけで勝敗を決定するほどの威力になる。そのうえ彼女の言う《獣王の威圧》によって行動を制限された相手であればその理不尽な暴力を躱すこともできずに必殺の一撃となりえる攻撃だ。

 

 

 

 

 なるほど、これがスフィンクスの必勝パターンというわけか。

 

 

 

 

 自身に向かってくる暴威の化身を前にしながら、俺の頭では冷静に分析をしていた。

 

 行動を制限されたこの状況で攻撃をもらえば、普通ならばガードも受け身も取れないまま、吹き飛ばされてしまう。

 

 

 

 

 凛奈はもちろん、訓練場にいるもの誰もが次の瞬間には無様に俺が吹き飛ばされることを予想した。しかし、結果は全く違っていた。

 

 

 

 

 バシンッッ!

 

 

 

 

 直撃の瞬間、大きな音がし、俺を中心に土埃が激しく舞う。

 

 

 

 「な、なにー!スフィンクス!!」

 

 「確かに思うように体は動かないけど――思わず避けてしまったよ」

 

 

 

 

 土埃が収まり、そこにあったのは無傷で立つと俺と、地面にめり込んだスフィンクスであった。

 

 直撃の瞬間、俺は体を少しねじることでスフィンクスの突進を躱し、そのまま横を通り過ぎる巨大な背中に手刀をいれて地面に叩きつけた。

 

 

 

 

 想定とは全く事態に凛奈も驚きの声を上げるが関係ない。どうやら《獣王の威圧》の効果も切れたようで、思うように体が動くように俺はスフィンクスの後ろ首をつかむと、ハンマー投げの要領でその巨体を凛奈に向かって投げ飛ばした。

 

 

 

 

 先ほど俺に向かってきた巨体がそのまま凛奈に向かって飛んでいく。質量はそのまま威力になる。軽トラック並みのスフィンクスが飛んでこれば、武器がそのまま脅威となって凛奈を襲う。

 

 直撃すれば、ただでは済まない脅威だが、それは凛奈に届く前に遮られた。

 

 

 

 スフィンクスが投げ返されるやいなや、すぐに凛奈の前に出たシャルロットが”指一本”でスフィンクスを受け止めたのである。

 

 

 

 「なるほど、それも先ほど仰っていた能力の応用ですか。流石ですね。」

 

 「軽々と受け止めておいてよく言うよ」

 

 「どういうこと!確かに《獣王の重圧》は発動していたはずなのに!!クゥ、スフィンクスもう一度だ!その暗黒の力に強化されし力で蹂躙せよ!!」

 

 

 

 

 受け止めたシャルロットが感嘆したように言う。

 

 

 

 確かに凛奈が言うように、俺の体はスフィンクスの重圧で竦み、意思に反して固まっていたが、別に体が動かなかったわけではない。

 

 

 

 

 その後、受け止められたスフィンクスは気を取り直すように数度、身震いをしてから、主の命令通りこちらに向かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういうことだ。

 

 

 

 

 シャルロットは目の前で繰り広げられている攻防を眺めながら思考する。

 

 初動を迎撃されたあと、再度スフィンクスは凛奈の命令通りに亮に攻撃をしているが、その悉くが寸でのところで躱され、躱されるたびに出されるカウンターは確実にスフィンクスを捉えていた。

 

 

 

 

 飛び掛かれば躱されて、顎に蹴りを喰らう。

 

 爪で切りつけようとすれば、その手をはじかれてフリーになった顔に正拳突きを受ける。

 

 体躯を生かして突進すれば躱して、背中に手刀を下ろされる。

 

 

 

 

 シャルロットは攻防と称したが、その実態は一方的なものであった。

 

 常に攻めているのはスフィンクスなのに、亮に一撃も入れられずカウンターを喰らい続けているため、人を凌駕する丈夫さのスフィンクスも明らかにダメージを蓄積した様子である。

 

 

 

 

 そして、ダメージと疲労でスフィンクスがふらついた瞬間、亮の回し蹴りがその腹に直撃し吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 「ス、スフィンクスー!!」

 

 

 

 シャルロットは亮が最初のスフィンクスの突進を躱して見せたカラクリにはあたりをつけていた。彼の能力――電気操作によってスフィンクスの行動を操って見せたように、それを自身の体にかけることで《獣王の威圧》で竦んだ体を強制的に動かしたのだろう。

 

 

 

 

 確かにスフィンクスの初撃は相手の体が動かないことを前提としたものであり、直線的であった。そのため、《獣王の威圧》を破れば回避と反撃することはさほど難しいことではないが、シャルロットが思考しているのはそのあとの攻防である。

 

 

 

 

 スフィンクスは凛奈が言うように、凛奈の魔力で強化されたライオンである。通常の人に比べ獣であるライオンの力は圧倒的である。膂力はもちろんのこと、速度や野生の勘による反応速度も人間以上である。なおかつ、魔力で強化されているとあれば本気になったスフィンクスの攻撃は人間があらがえるものではない。

 

 

 

 

 にもかかわらず、目の前には強化された百獣の王が一撃を加えられないままに地面に沈む姿であった。明らかに亮の反応は人間のそれを超えていた。

 

 

 

 

 そして、一連の攻防が終わった時点でシャルロットは1つの仮説にたどり着いた。

 

 その仮説を確認するため、シャルロットはスフィンクスを蹴り飛ばした亮に向けて、彼女の能力で生み出した刃を投擲する。それは亮の視界には入らないところからの攻撃であったにもかかわらず、予想通りに難無く躱されてしまう。

 

 

 

 

 「なるほど。亮さん、あなたはすべての回避と攻撃を反射で行っているのですね」

 

 「…驚いた。まさかこんなにすぐ気付かれるとは」

 

 

 

 

 そう、亮は回避とカウンターのどちらも反射による行動で行っていたのだ。

 

 

 

 通常、どの生物であっても何かに対して反応をする際にはまず、知覚した情報を知覚神経が脊髄経由して脳に伝達する。そしてその情報をもとに脳が体に対して運動神経を介した電気信号を発し、それが再度脊髄を経由してから腕や足に伝わることで反応行動をとることになる。

 

 

 

 以上が通常の生物の反応までの経路であるが、じつはそれとは別の経路が生物には存在している。 

 

 それが”反射”である。

 

 

 

 

 通常の神経伝達経路と異なり、知覚した情報が脊髄についた時点で各器官に行動の信号を発する脳を介さずにショートカットされて行う行動が”反射”である。

 

 脳を介さないで行われる行動のため、その速度は通常の反応よりも圧倒的に早い。

 

 例えば、熱いやかんを触ったときに、すぐに手を引く反応や目にゴミが入ったときにすぐ目を閉じるなどといった、考える前に体がとる反応がこの反射による運動である。

 

 

 

 

 「その反応ですと、正解みたいですね。ですが、この目で見るまでは信じられませんでしたよ」

 

 

 

 種は分かったが、はいそうですがと簡単に受け入れられるものではない。

 

 通常の反射は先ほど挙げたような生物としての防衛のために機能するものであって本来、意識して行うものではない。それもそうである。脳を介していない反応なのだから、意識して行うものではないのだ。

 

 

 

 

 なのに亮はその反射で複雑な攻撃の回避に加えて反撃まで行っているのである。だからこそ、相手が反応できない速度でのカウンターが可能になっているのである。

 

 

 

 

 「まぁ、正確には反射じゃないんだけどね。まぁばれているようだし教えるけど、俺がしているのは”相手が行動すると決めて発した電気信号を相手よりも先に知覚して、それに合わせた行動を能力が勝手に体に命じている”ってところかな。結構苦労したんだぜ、相手の行動を知覚した瞬間に考えずに体が動くようにするのは。名付けて伐刀絶技《自動操縦》!!」

 

 「・・・なかなかにぶっ飛んでますね」

 

 

 

 

 亮の説明ならば彼の動きは反射すら凌駕しているものである。

 

 相手の運動神経の電気信号を本人よりも把握するということは”相手が動くよりも先に相手の行動を知覚している”ということになる。

 

 つまり、相手が動こうと考えた時点で亮はその行動に対する反応が可能なのであるという。それも神経回路を介さずに自身の能力が直接体を動かすという形で。

 

 

 

 

 これは神経伝達のショートカットの反射ではなく、それを超えた神経伝達のワープである。

 

 武道でいうところの”後の先”ではなく”先の先”をまだ起きていない事実で可能ということなのだ。

 

 

 

 

 これでは近接戦闘で彼に攻撃をあてることすらできない。まさしく異常で過剰な反応で、知覚できないところで反撃を受けてしまうだろう。

 

 

 

 

 「まぁ、欠点としてはこの伐刀絶技を発動している間は脳で何も考える必要がないから、かなり暇を持て余すんだけどね。ちょうど車の自動運転も完成させると”運転する楽しみ”がなくなるみたいな感じ!」

 

 「ぬぬぬ、そんな片手間でスフィンクスをボコボコにしよって・・・」

 

 「お嬢様、ここは私にお任せください」

 

 

 

 

 確かに反則じみた能力だが、種が分かれば対処の使用もある。

 

 スフィンクスでは彼の反応を突破できないとはっきりした今、私も参加するしかいない、といった様子でシャルロットはスフィンクスと並び立つ。

 

 

 

 

 「亮さん、ここからが本番です。このまま何も考えずに戦えると思ったら大間違いです」

 

 「シャルロットも参加するのか・・・まぁスフィンクスと戦闘しながら、暇を持て余した頭でシャルロットの能力も予想はつけているけどね」

 

 「ほう・・・ならその予想が正しいか試して差し上げるとしましょうか」

 

 「ふ、まさかリョウがこうも早く我が《漆黒の右腕》を使わせるとはな・・・、これまで通りにいくと思ったら大間違いだからね!!シャル!やってしまうのだ!」

 

 「Yes My Lord!!」

 

 

 

 

 想定外にスフィンクスが通用しなかったことに凛奈は向きになって素の態度でシャルロットに命じ

 

た。

 

 

 

 主が望むなら、自分のすべきことはそれに沿う結果をもたらすことだ。

 

 

 

 ここに亮と凛奈の戦いは第2幕へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スフィンクス単体との戦闘後、能力についての歓談を経てから今度はシャルロットも参戦することになったが、俺のすることは特に変わらない。

 

 

 

 

 凛奈たちがとってきた連携は近距離と遠距離の両方からの攻撃というものであった。先ほど同様にスフィンクスが俺に肉薄して、巨躯を生かした攻撃をする。その戦闘の最中、俺の回避や反撃に合わせた絶妙なタイミングで、シャルロットが遠距離から能力で生み出した刃で攻撃してくる。

 

 

 

 

 スフィンクスに痛打を入れれないようにシャルが援護し、スフィンクスは無尽蔵ともいえるスタミナで攻撃を続けることで、シャルロットに注意を向ける暇を与えない。お互いを完全にフォローしあうように繰り出されるクロスレンジとアウトレンジの連携は見事で、先ほどから自動でスフィンクスに対して放つカウンターはシャルロットに邪魔をされて決定打とならないでいる。

 

 

 

 

 しかし、こちらが決定打を欠く状況であるがそれは相手も同じであった。

 

 スフィンクスの攻撃を俺は先程同様にすべて完全にかわして見せ、シャルロットの攻撃も放たれる前に感知できるので躱すこと自体には問題ない。

 

 そのため攻め手がないのは向こうも同じな様子である。

 

 

 

 

 「2対1になってからかなり勝負が落ちつたね」

 

 「いや、近距離の相手をいなしながら遠距離にも対処するんだ十分すごいだろ」

 

 「でもあのライオンとメイドの連携も完璧に反撃を抑えているぞ」

 

 「これは先に集中を切らしたほうが負ける持久戦になるかもしれないな」

 

 「でもあの新入生の伐刀絶技って意外に地味だよねぇ」

 

 「はは、確かに。なんかこう雷や炎をドーンとぶつける感じじゃないんだねー」

 

 

 

 この拮抗した状態がしばらく続いているおり、周囲の観衆も若干退屈なように各々の感想を述べていた。

 

 能力で最大限の知覚を高めている今の俺からはしっかりとそれらが聞こえていた。

 

 

 

 

 地味っていった子は覚えておけよ。あとでお望みのやつを見せてやるよ・・・

 

 勝手に戦闘を続ける体をよそに、俺の頭ではそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 さて、とはいえ今の状況では観客たちが感じているように持久戦になりそうである。俺も体力にはそれなりに自信があるが、相手にしているのは魔力で強化された獣である。体力自慢の人間でも野生の獣と比べれば持久戦で勝つのは厳しい。

 

 

 

 

 おそらく凛奈とシャルロットはそれを理解したうえでスフィンクスをけしかけながら消耗戦に持ち込んできたのだろう。

 

 なんとなく凛奈は派手な戦い方を好みそうで、こういった戦法をとってきたことに驚きもあるが、よく考えればこれこそ彼女たちが最もリスクなく勝つ方法であるのだから当然ともいえるだろう。

 

 

 

 

 俺の《自動操縦》も勝手に体が行動しているといっても当たり前だがガソリンを消費する。その為、この状況がずっと続けば、それはよろしくない。

 

 

 

 

 んー、まぁ《自動操縦》の戦闘経験ももう十分とれたし、このあたりでいいかな。

 

 

 

 

 だが、俺ももともと《自動操縦》で勝ち切れるとは思っていない。

 

 俺がこの戦闘を《自動操縦》でしているのはひとえに、この伐刀絶技のバージョンアップの為だ。

 

 

 

 

 俺の伐刀絶技《自動操縦》は話した通りに、考えずに体が最適の回避と反撃をするものであるが、何も万能な能力ではない。

 

 これまで想定していない事態などに直面すれば、体も勝手に最適な反応を選択できないのだ。それに、俺が行う回避も反撃も結局は”反応”であるため、受動的にならざるを得ない。こちらから能動的に仕掛けたり、反撃のリスクをとった攻撃などまではできない。

 

 

 

 この伐刀絶技はまだまだ改良余地があるものだと思っている。

 

 様々なタイプの相手と戦うことであらゆる戦い方に対して最適な対応法をデータとして体に覚えさせていかないといけない。AIのディープラーニングのように、戦闘の経験を得ていくことで自動操縦もより最適化できていくのだ。

 

 これまでは寧音さん、刀華ねえ、南郷師匠との組手を繰り返して来たが、今回のスフィンクスのような獣との戦闘は殆どなかった為、非常に有意義な経験になった。

 

 しかし、まぁこれくらいでいいだろう。

 

 スフィンクスとの戦闘も大分積み重ねることができた。これ以上はいいだろう、と俺は判断した。膠着した現状を打開するため、伐刀絶技を解除しながら大きく後ろに飛びのくことで、スフィンクスと大きく距離をとった。

 

 

 

 

 「む、どうやら観念したようだな・・・」

 

 「ああ、このままやっても勝負はつかなさそうだしな」

 

 

 

 俺が距離をとったことで、凛奈は得意げに言ってくる。

 

 

 

 

 「ふむ、なにか策があるという様子ですね」

 

 「ああ、策というわけではないがこのままじゃ埒があかないからな。別の方法をさせてもらうよ」

 

 

 

 

 俺は訝しげなシャルロットにそう告げて、自身の周りに能力で電気を帯電させる。自動操縦は非常に使い勝手のいい戦闘方法だがあくまでそれはオートマであるのだ。

 

 オートマティックがマニュアル操作に敵うわけがない。

 

 

 

 「お嬢様、お気を付けください!」

 

 

 

 シャルロットが叫ぶが遅い。

 

 能力で目の前に電磁力のトンネルを形成し、そこへ己の肉体を突っ込ませる。飛び込んだ体は電磁力と俺が纏う電荷により反発しあって、体を浮遊させ、そのまままっすぐに破壊的な加速をしていく。

 

 目標は正面のスフィンクス。自身の肉体を弾丸に見立て、レールガンの仕組みで暴力的なスピードで相手に正拳を突き付ける。

 

 

 

 

 「”紫電一閃”」

 

 

 

 

 刀華ねえとの修行で一緒に開発した、必殺の一撃。

 

 加速によって生じたソニックブームの轟音が訓練場を包み込んだ後、俺の拳を正面からうけたスフィンクスは訓練場中央から凛奈の後方の壁に叩きつけられた。スフィンクスが壁に叩きつれられたこと衝撃が場内を包んだ。

 

 

 

 

 「な・・・スフィンクスぅぅぅーーー」

 

 「お嬢様、危険です!!お下がりください!」

 

 

 

 

 凛奈が叫び声をあげる一方でシャルロットは俺の次の狙いに気づいたようにすぐに俺と凛奈の直線状に身を入れた。

 

 破壊的な加速による摩擦で俺の制服はも所々が焦げ、破れている。・・・これって代えの制服もらえるのかな。

 

 白基調だった制服はすでに一部が黒く焦げ、ぼろぼろといった状態になっており、関係ない心配が頭をよぎる。

 

 

 

 

 ただ、今はそんなことを考える場合ではないと切り替え、次の標的に狙いをつける。

 

 

 

 俺は再度、”紫電一閃”を凛奈とシャルロットに対して放った。

 

 スフィンクスを襲った圧倒的なスピードにで放たれた拳を彼女たちに放ち、この一撃で試合を終わらせようとしたがそうはうまくいかないようだ。

 

 

 

 

 音速を超える速度で放った拳は、凛奈とシャルロットに届く直前で見えない壁に阻まれてしまった。

 

 

 

 「咲き乱れなさい!《千弁楯花》ァァーーー!!」

 

 

 

 

 獣のような雄たけびを上げながら、シャルロットは手を自身の正面で組み合わせて俺の拳を正面から受け止めたのだ。

 

 俺の渾身とシャルロットの渾身の激突は、すさまじい暴風と光をまき散らした。

 

 

 

 

 「まるで鋼鉄でも殴ったような気分だ、とんでもない硬さだな。それがシャルロットの能力というわけか」

 

 「お褒めに・・はぁはぁ、預かり・・・光栄ですね」

 

 

 

 

 シャルロットの能力は魔力によるバリアを形成するという防御系の伐刀絶技なのだろう。先ほどまでは、遠距離から魔力のバリアをこちらに放つことで鋭利な刃として攻撃していたのだ。

 

 ただ単に防御だけではなく、バリアの形次第では攻撃にも転用可能な能力であるからこそ、彼女は凛奈の”盾”でもあり”剣”でもあると言ったのだろう。

 

 今、彼女が正面に展開したのは、彼女が現状で出せる最硬の盾。

 

 彼女が通常で使用するバリア――《一輪楯花》を佐野所が持てる魔力を全て、つぎ込んで生み出す最強の守り。《一輪楯花》の1000倍の強度を誇る《千弁楯花》。

 

 その強度は俺の最強の一撃を正面から受け止め、俺は自分の拳が確かに砕ける感覚を感じ、すぐに痛覚を遮断した。

 

 拳の骨は砕け、激突の衝撃をもろに受けた右腕もスクリューに巻き込まれたように傷つきボロボロだ。

 

 

 

 一方、受け手のシャルロットも無事ではすんでいない様子だ。

 

 額に珠の汗を浮かべ、息も絶え絶えといった様子だ。先ほどの《千弁楯花》は彼女の魔力を全てつぎ込んだものなのだろう。彼女の姿は魔力枯渇の状況に似ており、立っているのもやっとといった様子である。

 

 地に着く足はは震え、肩で息をする彼女に向けて俺も素直に称賛を向けたのだ。

 

 持てるすべての力で自分の主――凛奈を守り切った彼女は、まさしく誇り高き騎士に思えたのだ。

 

 

 

 「シャルロット、今日の俺の対戦相手は凛奈だ。訓練場の隅で休んでおくならこれ以上お前を狙う理由はないんだが・・・」

 

 「はぁはぁ、愚問ですね。私はお嬢様の《盾》です。たとえこの身が朽ち果てようとも、お嬢様の敵を前にして逃げるなどありえません」

 

 「・・・すまん。ならこっちも遠慮なくいかせてもらうよ」

 

 

 

 シャルロットは何をばかなことを、といった様子で一度小さく笑うと、再度こちらに向き直るとその身を盾にするように立ちはだかった。

 

 俺は再度、目の前の騎士――シャルロット・コルデーの高潔な誇りに敬意を払い、いまだ健在な左拳を構える。騎士がその覚悟を示したのだ、ならばこちらも全力を持って応えるのが礼儀であろう。

 

 

 

 「この勝負、ここまでである!!シャルよ、もう十分だ!リョウよ、もうシャルの魔力は尽きておる。こちらの負けである」

 

 「お、お嬢様!!まだ私は・・戦えます!」

 

 「いいのだシャルよ。もうすでに魔力が尽きていることはわかっている。・・・敵の最強を正面より受け切り、我を守り切ったこと、誠に大儀であったぞ!引き際を心得ることも覇者の資質である!」

 

 

 

 俺がもう一度、”紫電一閃”を放とうとしたところで、シャルロットの後ろに控える凛奈から待ったの声がかかった。シャルロットはまだ戦えるといっているが、凛奈はもうよいと諫めるように彼女に告げた。

 

 あくまでシャルロットは凛奈の霊装だ。シャルロットの状況は彼女自身よりもよく知っているのだろう。

 

 その彼女がこれ以上は不要というのであれば、俺としても勝負を続ける理由はない。俺は確認もかねて審判を務める綾瀬先生のほうへと目を向ける。

 

 

 

 「両者そこまで!!風祭凛奈のギブアップをもって、勝者――西京亮!!」

 

 

 

 綾瀬先生は一度うなずいてから、高らかに俺の勝利を宣言し、一拍を置いてから会場の観客たちの歓声が場内響き渡った。

 

 入学初日に行われた俺と凛奈たちの決闘は、俺の勝利で幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「申し訳ありません亮さん。あなたも怪我人だというのにご迷惑をおかけしてしまい」

 

 「気にしないでくれ、シャルロット。今日の決闘は俺もいい経験になったよ」

 

 

 

 決着の後、訓練場の後始末は綾瀬先生に任せて俺と凛奈とシャルロット、そしてスフィンクスは傷の治療のため、学園内に設置されたiPS再生カプセルに向かって歩いていた。

 

 魔力を使い果たしたシャルロットは自力でカプセルまで行くことはできず、彼女は俺の肩を借りて体を引き擦るように歩いている。ちなみにスフィンクスは試合の後すぐに目を覚まし、今は凛奈を背に乗せて自分で歩いている。

 

 

 

 「今日の《最終闘争》は敵ながらあっぱれであったぞ、リョウ。ふむ、やはり卒業後は我が家の執事となっては見ぬか?特別な待遇を約束するぞ」

 

 「それは何度も断ったろ。けど凛奈、シャルロットの伐刀絶技もすごかったぞ、俺の右手もボロボロにされたしな」

 

 

 

 俺はいまだに感覚が戻らない右手をふらふらと見せながら凛奈に答えた。

 

 

 

 「ククク、《我が漆黒の右腕》の鉄壁を破ったのだ。家族にも高らかに自慢するとよいぞ」

 

 「あー、俺さ小さいときに両親をなくして孤児院にいたから、自慢するにも相手がいないな」

 

 「あっ・・・ごめんなさい」

 

 「いや、もう昔のことだし気にしないでくれ。いまは身元引受人の義理だけど母親もいるしな」

 

 

 

 凛奈はしまったというような顔をしてから、素直に謝ってきた。この凛奈という少女は普段は芝居かかった口調で話すが、根では素直な子なんだろう。

 

シュンとする彼女に、俺は気にしてないと告げると大袈裟に安堵して見せた。

 

 

 

 「亮さん、お嬢様が失礼をしたようで申し訳ありません」

 

 「いや、本当に気にしないでくれ。まぁ俺にとっては孤児院のみんなが本当の家族と思っているから」

 

 

 

 俺の肩を借りるシャルロットも気にかけてくれる。

 

 

 

 初対面の時には2人を利用して、そのあとには決闘までしたにもかかわらず、こちらを気にかけるようにしてくれる2人に俺は入学してすぐにいい友人が出来たことをうれしく思いながら、治療室へと歩き続けていった。

 

 

 

 こうして俺の波乱万丈の入学初日を終え、師匠と友人に出会うことができたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




誤字脱字のご報告ありがとうございます。

ご指摘お願いします。

次回は幕間になります。

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