今回はシリアスですね、ちょっと触れにくい部分を敢えて触る。そんな感じです。
それではお楽しみくださいませ
「・・・いい加減。息子の事、認めてやればどうなんだ?」
開口早々、私は旦那からそう言われてしまい、そのまま沈黙がこの空間を支配する。
”息子が提督になった”。それは、私たちの家系からすれば大変喜ばしい事である事は、私が一番良く理解しているじゃないか。
「・・・別に。あの子が勝手に提督になっただけの事。私には関係ないもの」
違う。そうじゃないでしょう・・?私が私に声をかけている。
本当は違う、本当はもっと。もっとあの子の事をー。
「・・・千尋(ちとせ)」
「・・・あなた。」
”お前の夢をしっかりとあの子が叶えてくれた”だろう・・?
「・・・・」
そう・・。私の夢。昔から抱き続けてきた・・憧れでもあり。”足枷”でもあった夢ー
ーーーー。
ーー。
私、柊千尋は、優秀な両親の間から生まれた、一人娘。
まだ今現在のような激しい海上戦が繰り広げられてはいないものの、敵深海棲艦が次々と制海権を奪っていたあの時代から、海軍は闘い続けていた。
そんな海軍に属していた提督であり私の父。そして、そんな父の部下でもあり、優秀な秘書艦でもあった”千歳”は、海軍でも有名な存在であった。
父が居た鎮守府は、まさに海軍の最後の切り札とも呼べる巨大艦隊で、そんな父と共に、小さい鎮守府の時から支え続けてきたのが私の母でもある千歳だった。
海上機母艦とも呼べる時から。そして、軽空母になったときまで。ずっと、ずーっと。
母は父を支え、そんな父は母を愛していた。
敵深海棲艦とのにらみ合いが続く中で、両親の娘である私は産まれた。
”千尋”という名前も、母がつけてくれたもので、そんな私は、いつか母のように立派な艦娘になると幼きながらも決意し、勉強も、運動も頑張った。
それは全て、”いつか艦娘として、両親のようになりたい”という事だった・・。
・・そう。私は、父と母のようになりたった。しかしー
「残念ながら、貴方には艦娘としての素質がありません」
「・・・え・・・?」
齢16。私の夢は、突如として崩れ去った
「・・私は、お父さんやお母さんのような人になれない。」
”私は出来損ないなんだ”
・・・・・・・。
それからというもの、私は両親に反発するようになった。
お父さんもお母さんも、私の事を心配してくれている、なのに私はー
「ほっといてよ!!!どうせ私は・・!!私は出来損ないなんだから!!!!」
その時初めて、私は母にぶたれた。
「千歳!!!だめだ!それだけはだめだ!!」
「待ってください提・・あなた!!私は・・私はこの子に・・っ!!」
温厚な父が慌てて母を止めて、母は涙を流しながら私を見つめていた
その時の表情はとても悲痛なもので、私はなんてことを言ってしまったんだろうという罪悪感と、自分自身の劣等感から苛まれてー。
”家を、抜け出した”
うつろうつろでなんとかアパートを見つけて、その時通っていた大学を途中で辞める訳もいかず、アルバイトを始めた。
裕福な家庭から一転して、私はたった一人になった。そんな時、同じ職場で働いていたのが、今の旦那で。
彼もまた、提督になろうと決意したものの、妖精さんが見えないという理由でダメだった一人。
似たような経験の持ち主だなと私は思い、それから私たちは付き合うようになって
そして、籍を入れて、一人息子を身籠って・・。
幸せになろうと思った。そして、父と母にもう一度言おうと思っていた。
”ごめんなさい”と
「おめでとうございます。男の子ですよ」
私はー
「・・・もしかしてこの子、妖精さんが見えているのかもしれませんね」
「・・・えっ・・?」
医者から言われた言葉に、私は愕然として。あまりにも信じられないといった表情に医者も慌てて
「あぁいえ。気のせいかもしれません・・ただ。」
”私も見えるので、この子の前に今、妖精さんが飛んでいて、同じように視線を追っているんですよ”
私はダメだったのに。
どうして私の息子はいいの?
それは、「私」の中に黒い何かが芽生えてしまった瞬間でもあったのかもしれない。
育児との奮闘。慣れない事ばかりでストレスも蓄積して、時には旦那に強く当たり、時には泣いて。
そんな中に、きっと”夢”の事も含まれていたんだと・・思っている。
「まま、あそこになにかいるよー?」
優月が喋るようになって、それからも平穏とした生活が続いていた日々。
その時、優月は何もいないところを指をさしていたり、誰もいない筈なのに喋るようになった。
”「妖精さんは、いろんな所に居る。例えば、この家にも隠れていたりするかもしれないぞ、千尋」”
父が喋っていたことを思い出して、私の心の黒い何かが、また少し・・大きくなった。
「ほら、居ないじゃない。お母さんを困らせないで」
でもいけない。この子は私の大切な・・・大切な子
・・とても大切な子。なのにー
「でも・・」
今でも、私は後悔していて、もしも許してくれるのであれば。私はー
「・・・っ・・いい加減に・・いい加減にして!!!居る訳ないの!!そんなところに!!誰も!!!静かにしていなさいっ!!!!」
この日を境に、私の黒い何かがとてつもなく大きなものに変わって。それが私の防波堤を一瞬で崩してしまったことー。
そして、そんな私に怯えたような目で見つめる優月を見て。私は・・。
手をーだしてしまったー。
・・・・・・・・・・・。
「千尋。お前は私の大切な妻だ。お前の事を何より理解してやりたいと思っている」
「・・・あなた。」
彼は一度言葉を区切り、視線を手元にある写真に目を向ける。そこに置いてあったものは
”優月から送られてきた手紙と、1枚の写真”
「・・私は、優月の父親でもある。だからこそ、二人の心意を汲み取りたいと思っている」
そしてお前は、優月の母親。そうだろうー?
・・・・。
父さん、母さんへ。
私は今、大本営から遠く離れた小島に位置する小さな鎮守府で、新人提督として日々切磋琢磨しています。
私の任務は主に、最前線にて戦闘を繰り広げている艦娘達の後方支援で、毎日様々な鎮守府から色々な艦娘達がやってきては、補給や修繕を行い、戦前へまた戻っていきます。
父さんと母さんは問題なく普段通りの生活ができていますか?もし生活に厳しくなったのであれば私も送ります。困ったことがあれば頼ってください。私をここまで育てて頂いた両親には感謝しています。これからは私が、お二方を守っていく、そんな男になれたらうれしいと思います。
短い文章ですがお許しください。また家にも帰省しようと思っています。その時は迷惑をかけてしまいますがよろしくお願いします。
・・・。
「なぁ千尋。私は時々思うんだ」
「・・・?」
彼はそう言って、どこか遠い、海の彼方に居る息子を、優月を見つめるような眼差しを向ける。
「あの子は、私たちをずっと憎んでいると思っていた。私は・・情けないが、お前を前にして、あいつに何もしてやれなかった。だからこそ、この手紙を読んで私は一つ、思ったことがあった」
「・・おもっていたこと?」
私はつぶやくと、彼は頷き、その視線を私に向けている・・。
「私は、あの子から憎まれていると思っていたんだ。そしていつか、その仕返しをする日が必ず来る。
私や、お前が息子にした事を、いつまでも根に持ち続けて。」
その言葉に、私の胸は酷く締め付けられる。
わかっている。そう・・理解している。私のしていたことは、母親として失格。優月から見れば、私や彼は模範となるべき両親ではなかっただろうということも。だからなお、私は苦しかった。
しかしそうじゃなかった。私たちが考えていた事の正反対の事を、優月は思っていた。
それでもなお、”彼”は私たちの身を案じているという事にー
「あの子が戻ってきたとき。二人で出迎えてやろう。な?」
「あなた・・・っ」
”私たちは、大切な家族なのだから”
・・・・・・・・・・・。
「あの手紙。無事に届いてくれただろうか?」
青い海の向こうにある本土。そこに住んでいるであろう二人の肉親を思いながら、私は提督としての職務をこなしていく。
「問題なく届いていると思われますよ。提督♪」
隣で私が仕上げた書類のチェックと捺印をしている鹿島が私の呟きに返事をしてくれている、恐るべし耳。
そして、そんな彼女のおかげさまで今日の仕事も大半を終了しようとしている。仕事が早すぎて追いつけない私がここに居るわけですが
「提督のご両親にもいつかお会いできるといいですね・・(ぼそっ)」
「どうかしましたか?鹿島さん」
「あぁいえ!なんでもないですっ。」
・・・・またいつか会おう。そして、ゆっくりと3人で私の居るここ(鎮守府)の話をしようか?
そして帰り際に挨拶を交わして。
”笑顔でここに帰ってこよう”私は、そう思った。