幸運の女神様と共に(リメイク版)   作:圏外

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第一話

「ようこそ死後の世界へ。私は、あなたに新たな道を案内する女神。佐藤和真さん、あなたは本日午後14時21分に亡くなりました。辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

  ————豪華な椅子に座る、この世のものとは思えないほどの美貌を持つ女性が、慈悲と憂いの感情を思わせる声で俺に語りかける。

  例え初見だとしても、この女性の事を女神だと思わない奴は居ないだろう。そう思わせる程の神聖さを、女神(仮)は身に纏っている。

 

 

 

 

 

 

 

  目が覚めると、そこは真っ黒な空間だった。

 

  何処まで続いているのかわからない深い闇の中だが、不思議と不安な気持ちは湧いてこない。

 

  何故なら俺は、ついさっき死んだからだ。普通はこういう場面だと、まず思い出すところから始まるものなのだろうが、俺はハッキリと自分が死んだ瞬間を記憶していた。

 

  無防備に携帯をいじりながら歩く女子高生。

  女子高生に迫る大型トラック。

  咄嗟に体が動いて、俺は女子高生を突き飛ばす。

  そして、俺はーーー

 

「佐藤和真さん、貴方には幾つかの選択肢が有ります。このまま元の世界に赤ん坊として生まれるか、死後の世界に向かわれるか、それとも、」

 

「あの、一つだけ聞いても良いですか?」

 

  目の前の女神は頷く。

 

「どうぞ?」

 

「あの娘は……俺が助けた女の子は、助かったんですか?」

 

  とても大事な事だった。結果として俺の命を絶った直接的な原因とはいえ————学校にもいかず引きこもり生活をしている俺の、人生最初で最後の見せ場だったのだ。

 

  女神は一瞬だけ気まずそうな顔をするが、すぐにさっきまでの優しげな表情に戻って、

「ええ、彼女は無事ですよ。今も生きてます」

 

  良かった……

  俺の死は、無駄じゃなかったんだ……

 

  心の底から、そう思えた。そんな俺の安堵の表情を見てか、女神も心底ホッとした表情をしたが、すぐに真剣な顔に戻って俺に語りかける。

 

「さて、先程も言ったように貴方には幾つかの選択肢が有ります。元の世界に記憶をなくして転生するか、死後の世界に向かうか。それと後一つ、この姿のまま異世界に行って、魔王を倒す任について貰うかです」

 

「魔王を、倒す?俺が?」

 

「ええ、実は数多くの世界の中の一つが、少々面倒な事態になっていまして。私たち神に敵対する魔王の勢力が現地の人々を蹂躙し、人口が急激に減ってしまっているのです」

 

  女神は哀愁を漂わせるような顔と声で説明をする。聞いているだけで泣き出してしまいそうだ。

 

「それに、魔王軍やそれに生み出されたモンスターによって殺されてしまった人々が転生を怖がるようになり、魂の絶対量のバランスが崩れてしまってこのままではその世界は滅んでしまいます。

  事態を重く見た我々は、他の世界の若くして亡くなってしまった勇気ある方々にその世界に出向いてもらい、魔王を討伐、または魔王軍やモンスターから住民を守って貰うという事にしたのです」

 

  ふむふむなるほど。つまりは『魔王が恐いから生まれ変わりを拒否られて人がいなくなる。だから魔王を倒して!』って事か。

  世界を運営するというのも大変なんだな。

 

「無論、平和な世界から送られる方々では魔王どころか低級モンスターだって倒せません。ですので、何か一つだけ好きなものを持って行ける権利をあげているのです。

  それはとんでもない才能だったり、強力な固有スキルだったり。神器級の装備、というのもあります。それらを手に、世界を救って欲しいのです」

 

  おお!つまりチートを付けてくれると言うのか!これなら俺みたいな元引きこもりでも安心して冒険が出来そうだ。

 

  そして俺は妄想する。パーティメンバーに囲まれ、時に苦労し、時に笑い合い、そして英雄と崇められる未来を。

 

「わかりました女神様。この佐藤和真、必ずや魔王を打ち倒し世界に平和をもたらして差し上げましょう」

 

 俺はキメ顔でそう言った。……女神様は小慣れた様子だったが。

 

「勇気ある行動に感謝します、佐藤和真さん。魔王を討伐した暁には一つだけ願いを叶えてさしあげましょう。

  それではこの書類の中からお選びください」

 

  その言葉とともに、今まで何もなかった床に大量のカードが現れる。どうやらこのカードに記された能力や武器などを持って行けるという事らしい。

 

「オススメは持っているだけでステータスアップの効果が得られ、更にこの上ない威力を発揮する神器級の武器です。特殊能力系の特典も人気ですが、使いこなすには相応の期間が必要となる場合が多く……」

 

  ……魔剣や神槍、凄い魔力がこもった杖や指輪などの装備を見ていくが、いまいちパッとしたものがない。どれもこれも持っているだけで勇者になれる程の装備なのだろうが、大体同じレベルの性能ばかりだ。これでは今まで送られた奴の二の舞……

 

  そこまで考えて、ふと気付く。

  今まで送られた奴にもオススメを教えたならば、つまりは失敗した例という事ではないか。俺はお世辞にも特別な人間とは言えないだろうし、今までの転生者と同じ事をしていては簡単に返り討ちに遭うだろう。

 

  つまり、何か今までの転生者とは違う事をしなければ、魔王を倒すなんて夢のまた夢なのだ。

 

  そこでこの佐藤和真は考える。どんな能力を持っていれば魔王を倒す事ができるだろうか?

  能力を漁ると、敵を惑わす不可避の幻術、仲間の力を最大限に引き出す能力、あらゆる魔法を操る、攻防一体の格闘術を操る肉体などがある。

 

  確かに強力なものばかりだが、ありきたりすぎる。出来ればハメ技に近い初見殺し能力……しかし魔王軍が情報戦に長けていれば、直ぐに対策されてしまう危険性もある。

 

  ああでもないこうでも無いと考えを巡らせていると、女神様が困った表情をこちらに向けていた。

 

「……あの、早く決めてくれると助かります。確かに迷うところでしょうが、他の死者の案内もしなければならないので……」

 

  「ご、ごめんなさい!すぐに決めますから!」

 

  女神様が申し訳なさそうだ。悪いことをしてしまったな。

  ああ、そうだよな。女神様だもん、まだ沢山やる事が……ん?女神様………………

 

  後になって彼はこの思いつきを、何て事をしでかしたんだこのバカズマが!と死ぬ程反省する事になるのだが、この時の彼は自分の事をまるで天才のように思う程舞い上がってしまっていた。

 

「女神様!持って行くものが決まりました!」

 

「漸く決まりましたか!それは良かったです!さあ、佐藤和真さん。一体何を持って行くんですか?」

 

「ふふふ……それはですね……

 

 

 

 女神様、貴女です!」

 

 

 

 女神様は、『は?』という文字が頭の上に浮いていそうなほど驚いた表情。

 フフフ、やはり今までこの発想に至った俺のような天才はいなかったと言う事だな!

 

「より正確に言うならば貴女の能力が欲しい!女神様が使える全ての能力をください!」

 

「……面白い事を考える人ですね。そんな事を言われたのは初めてです。貴方の発想力には驚かされますが、それは不可能です。

 我々神が持つ能力は権能と呼ばれ、力が強すぎて人間には扱う事ができません。そもそも我々神は「承りました」

 

  今度こそ本当に「は?」と口に出して唖然とした女神様の前に荘厳な魔法陣が出現した。そこから羽を生やした天使のような女神が現れ、言い放つ。

 

「佐藤和真さん。貴方の願いは受理されました。これより新たな世界に向かっていただきます」

 

  直後、青い魔法陣が俺と女神様の足元に現れた。この流れから察するに……異世界に飛ばす用の魔法陣だろうか。

 

「は!?え、ええ!?ちょっと、ちょっと!どういう事⁉︎」

 

「いやほら、さっき其の方が仰ってたではありませんか。『女神様、貴女です』と」

 

「そんな屁理屈みたいな……!

  ねぇ嘘でしょ?嘘だと言ってよ!私女神なんですけど!!下積みからコツコツやってきて漸くこの立場まで……ちょっとノエル!?何で何も言わないのよ!」

 

  女神様はそれはもうこれ以上無いくらい焦っていた。魔法陣の壁(どうやら外に出られないご様子)をばんばん叩いて顔面蒼白になり、新たに降りてきた女神に喚き散らしている。

 

「申し訳ありませんエリス先輩。ですがこの男性に私たちが差し上げたのは何でも一つだけ異世界に持ち込める権利。

  つまりあのカタログに無くとも、世界を滅ぼしたり破壊したり出来る危険な物以外なら特に指定は無く、何でも持って行く事ができるのです。本当にこの男性の発想力には驚かされますね」

 

「そうじゃなくてぇ!!!

 だ、だって私神なのよ!?確かに世界を滅ぼすとか、そんな物騒な力持ってないけども!!

  それにこの役職に就くためにどれだけ努力したか、ノエルも知ってるでしょう!?可愛がってあげてるじゃない!た、助けてくれても……

  !?」

 

「フフッ……恩を仇で返すようでごめんなさい、先輩。ですが……」

 

  そこまで言った所で、俺たちの体が浮き上がり、上空に光が現れる。いよいよ異世界に旅立つ事が出来るらしい。

 

  これからどんな冒険が待っているのだろうか。強力なモンスターを倒し、周りからの評価を一気に上げ、時には自然の脅威に打ちのめされたりしながら、……ら、ラブロマンスも……!?

 

  隣の魔法陣で慌てふためく銀髪の女神を連れて、俺はワクワクドキドキが待ち構える冒険の世界へと旅立つのだ。

 

「今の先輩の立場を得るためなら何でもする神なんて、いくらでも居るんですよ」

 

「は、謀ったなー!!ちょ、まっ」

 

「それでは行ってらっしゃいませ、佐藤和真様、先輩。このお仕事は今後私が責任を持って受け継がせていただきますね」

 

  そうして、俺たちは光の中へ飲み込まれた。




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