幸運の女神様と共に(リメイク版)   作:圏外

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作者が体調不良を拗らせてしまったので今回は短めです。


第十話

「ほー、ここがベルディアさんの店か……結構立派じゃないか」

 

 大通りから離れたところにこじんまりと佇む店、『ベルディア魔道具店』。魔道具店とは名ばかりで、実際は知る人ぞ知る武具店だ。

 

 店の稼ぎはそれほどでもないものの、推奨レベルの高い装備が棚に並ぶこの店には、質のいい武器防具を求める常連は多いらしい。

 

 間違っても俺みたいな新米が足を運ぶ場所ではないが、先日の一件から、俺はこの店を訪ねて来ていた。

 

「すみませーん、ベルディアさんいますかー?」

 

 店内を見渡すと、キラキラと光る美しい装備の数々。今のところ客はいないが、だからと言って寂びしい感じはなく、アンデッドが店主とはとても思えないほどの清潔感を感じることができる。

 

「いらっしゃい……おお!カズマ君じゃないか!」

 

 店の中に入ると、ベルディアさんが快く迎え入れてくれた。

 

「カズマ君1人か?他の女の子たちは一緒じゃないのか?」

 

「ええ、クリスを連れてくるわけにもいかないですし、他の2人もね……」

 

 クリスは正直何をするか分からんし、クレアも曲がりなりにも聖騎士(クルセイダー)のクラスなので論外。連れて行くとすればゆんゆんだが、クリスが露骨に嫌がるので誘う事もできずに置いてきた。そもそもクリスは俺が店に行くのにもかなり渋っていたが。

 

「おお……それは……まぁ、しょうがないよな。あのプリーストの子は敬虔な信者のようだし……」

 

 流石はベルディアさん、察しがいい。酸いも甘いも噛み分けた壮年の頼もしい雰囲気がある。何でこんな人がアンデッドなのだろうか。

 

 まあ、それを聞くのはさすがに失礼だ。ベルディアさんの過去に何があったかなんて知らないが、幾ら何でもアンデッドになった事情なんて聞かれて嬉しい人(人ではないが)は誰も居ないだろう。

 

「ええ、それは良いんですよ。今日来た理由はですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、他のパーティメンバー全員が上級職なのに自分一人だけ最弱職なのを気にしていると」

 

「ええ、それで色々なスキルを覚えられるという利点を活かして、デュラハンのスキルを習得したいんです」

 

 実際ウチのパーティはかなり強い。前衛のクレアに後衛のゆんゆん、そして支援役のクリス。序盤中盤終盤隙がないと思う。……俺を除けば。

 

 現在の俺の役割は敵感知と隠密を活かした司令役だが、前にも言った通りこの街のクエストのレベルではそもそも司令役が必要ない上に、高レベルで経験も多いクレアの加入で俺の価値は殆ど敵感知のみになってしまった。

 

 クリスがいるので捨てられることは無いと思うが、それでも気まずいし、何より周りの目が痛い。スキルを教えて貰っていた時に冒険者連中とかなり仲良くなったので何も言われていないが、普通に考えると美人で上級職のパーティメンバーに寄生している最低男に見える事だろう。

 

 普段の俺なら特に気にする事では無いが、クリスの人気っぷりを見ているとこのままではいつか寝首を掻かれる恐れがある。クリス曰く一度死んでいる俺はもう蘇生魔法でも生き返る事は出来ないらしいし、何とかしなくてはならない。

 

「良いだろう。アンデッドスキルとなるとあまり教えられるものは多くないが、俺は元々とある国に仕えていた騎士でな。普通のスキルもそれなりに持っている。色々見繕ってあげられるだろう」

 

 ふむふむ……だが騎士系のスキルはクレアの下位互換にしかならないし、できればもっと別のがいい。

 

「ありがとうございます。でも前衛はクレアで事足りているので、何かオンリーワンになれるようなスキルは無いですか?」

 

「そうだな……流石にアンデッド召喚の魔法は教えても使えないだろうし……それなら、俺もよく使っている【魔眼】スキルなんてどうだ?習得コストも安いし、使い勝手が良い。デュラハンの固有スキルだから他にはないしな。ホレ、【魔眼】!」

 

 ベルディアさんが提案したのは【魔眼】というスキル。それを使用すると、ベルディアさんの顔の後ろに一瞬だけ巨大な眼のイメージが出現し、ベルディアさんの眼に魔力が宿る。

 

「【魔眼】スキルと言うのは、都合良く言えば敵の動きを見切ったり弱点を見破ったりする事ができる。俺が使うときはこうやって首を外して……」

 

「うぉお!?」

 

 ベルディアさんは急にガチャリと首を外す。初めて会った時からずっと首が繋がっていたのですっかり忘れていたが、そういえばこの人は首無し騎士(デュラハン)じゃねーか……首が無いのが普通なんだ。

 

「フフ、懐かしいなこの反応……

 俺が使うときは首を外して上に投げ、俯瞰視点でこのスキルを使うんだ。全方位から襲いかかる敵の急所も太刀筋も、魔力の動きさえすべて見えるから重宝するぞ?

 ただ見るだけだから魔力消費も少ないし、使い所も多い。どうだ?」

 

「すごいっすベルディアさん!マジ最強っすね!」

 

「はっはっは、そうだろそうだろ!」

 

 煽てられて上機嫌なベルディアさんを尻目に冒険者カードを見ると、既に習得可能スキル欄に【魔眼】の文字がある。習得コストもそこまで高くなく、さっきの説明からするとかなりお得に見える。

 

 キャベツの件でレベルが上がったのでポイントには余裕があるし、覚えておいて損は無いだろう。俺は即座に【魔眼】を習得した。

 

「……よし、これで俺も魔眼を使える。【魔眼】!」

 

 俺が【魔眼】を発動すると、徐々に魔力が減っていく感覚があった。分かりやすく言うと軽くランニングをしている感じで、冒険者になって体力が上がった俺なら30分ほどは使えるだろう。

 

 そして視界にも変化がある。一瞬だけ視界が黒色に染まり、周りにあるものすべてにオーラのようなものが見え、ベルディアさんの動きが遅くなったように見えた。

 

「おお、習得したみたいだな」

 

「はい!凄いっすねコレ。なんかその辺のもの全部に赤いオーラ的な何かが見えますし、すげースローになったみたいな……」

 

「後はより意識して対象を見ると、細かい魔力の流れを見る事ができるから行動の先を読む事だってできる。

 後はそのスローになった視界に慣れれば完璧だな。少し練習してみるか!」

 

「ありがとうございます!行きましょうベルディアさん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《数十分後》

 

「うひゃひゃひゃ!これで俺は最強だぜ!あざっすベルディアさん!また今度武器とか買いに行きますんで!ひゃっほーい!」

 

 やけに高いテンションで店から出て行くカズマ。店の裏には、床に座りこんで首が床に転がっているベルディアの姿がある。

 元はカズマが習得した【魔眼】スキルに慣れるという目的だったはずだ。その為に店の裏にあるちょっと広いスペースで軽く手合わせしていたのだが……

 

「……マジか。マジかあいつ」

 

 ベルディアは後悔した。考え無しに有用なスキルをカズマに教えてしまった事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どぅわぁあああああ!!!!」

 

「ギチギチギチギチギチギチ!!」

 

 俺は今、2メートルはあろうかという二足歩行の巨大な虫に追いかけられている。ちょっと離れたところにゆんゆんがいるが、動き回る標的に狙いが定まらず、また俺が標的の近くにいるため魔法を放つことができない。

 

 新しいスキルを覚えた俺は、早速みんなを誘ってクエストを受けた。クリスは俺が自発的に働く意欲を見せたことに大層感激していたが、【魔眼】を使ってみたかっただけなので、使い心地を確かめたら金が尽きるまでは働く気はない。

 

 今回の討伐目標は冬牛夏草(とうぎゅうかそう)。名前から連想される通り他の生物に寄生するタイプで、日本にもいる冬虫夏草(とうちゅうかそう)はキノコの一種だが、こちらは昆虫のような見た目をしている。

 他の生物に寄生して栄養を摂取し、成体に成長する夏になると繁殖のため寄生した生物を喰い殺して成長し、他の生物に卵を産み付ける。なかなか危険度の高いモンスターだ。

 

 そして今は晩夏、栄養満点の寄生元の生物を食い、育ちきった成体に、時期は繁殖期の終わり頃。気が立ち成長した個体は1番危険な時期になるだろう。

 

 動きも素早く力も強いが、追い詰め過ぎて仲間を呼ばれたりしない限りは群れることがないのでさほど討伐が難しい訳ではない。平均レベル10以上のパーティなら問題無いとされている程度の危険度だ。

 

 俺はこの前のキャベツでレベル11になったし、ゆんゆんもレベル10。クリスは殆ど討伐はしていなかったが、先日大量のゾンビ(ベルディアさんが召喚していた奴)を浄化したのでレベル7になった。それにレベル31のクレアがいるので、適性レベルはバッチリクリアしている計算になる。

 

 話に聞くところ、ゆんゆんは主にこのモンスターを討伐して生計を立てていたらしい。なら大丈夫だと思って討伐クエストを受けたし、受付嬢も問題無いと言ってくれていた。

 

 失念していた。俺は能力値が足らずに基本職になることしか出来なかった冒険者。そんな簡単にパーティで挑むことを推奨されているモンスターを倒せる訳がない。カエルみたいに動きが遅く、肉質も柔らかい訳ではないのだ。

 

「クッソ!【魔眼】!」

 

 魔眼スキルを発動し、俺の視界に映る全ての動きがスローになる。俺に襲いかかる冬牛夏草の動きを読んで攻撃を余裕を持って躱し、脚の節にダガーで突きを食らわせる。

 

「ギッ!?」

 

 やけに硬い甲殻に傷が一つ刻まれるが、ダメージは入らない。だが足の節を正確に攻撃したことにより、膝カックンの要領でバランスは崩れる。

 

「ゆんゆん!いまだ!」

 

「【カース・ド・ライトニング】!」

 

 俺が冬牛夏草から離れると、ゆんゆんの杖から黒い稲妻が迸り、何かが弾けるような音ともに冬牛夏草は倒れた。

 

 【カース・ド・ライトニング】、雷属性の上級魔法だ。高位のモンスターにも高い効果を望める攻撃力の高い魔法。最近習得したらしい。

 

「ハァ……ハァ……ゲホッゲホッ!」

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

「マジで死ぬかと思った……」

 

 もう一歩も動きたくなくなるような倦怠感の中、俺はさっきの【魔眼】スキルを使用していた時のことを思い出す。いつもより体力の消費が重く、ダッシュの後だったこともありかなりキツかった。

 

 魔力を消費しながら激しい動きをしていると、体力を多く消費するのだ。魔力が多いベルディアさんならいざ知らず、低レベルの俺にはこのスキルは長く使えるものではない。何もしていない時でさえ30分ほどが限度なスキルを使いながら戦闘をしたりすると、マジで5分が限界なんじゃないかと思うくらい消費が激しい。

 

(使い方によっては最強クラスのスキルではあるけど、戦闘に使うには俺のレベルが足らないぞ……)

 

 遠くの方ではクレアが数匹を相手に戦っている。

 態々一体を軽く痛めつけ、仲間を呼ばせて一網打尽にする作戦らしい。

 

「やっぱりクレアは強えな……あんな恐ろしい冬牛夏草複数相手に……やっぱりあいつに任せときゃそれで良いだろ」

 

「何を言ってるんですか……」

 

「【ゴッド・ハンド・インパクト】ッ‼︎」

 

 冬牛夏草の顔面が俺たちの方に転がって来た。飛んできた方向を見てみると、クリスがいつの間に買ったのかメリケンサックを装着した拳を握りしめ、首の無い冬牛夏草を踏み付けている。

 

「あ、カズマさん!どうやらこいつ、打撃が弱点みたいです!今日は私も前線で頑張りますよっ!」

 

「…………」

 

「喰らえ!【ゴッド・ハンド・クラッシャー】!」

 

 振り返りざまに、迫ってきていた冬牛夏草を光る拳で殴り飛ばす。例の如く顔面が千切れ飛んだ。

 

「…………」

 

 最近、クリスのキャラ崩壊が激しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうクエストには行かない。絶対に行かないからな」

 

「カズマさん!?何を言い出すんですか!レベルも上がって、これからって時に!」

 

「いやバッタバッタ薙ぎ倒せるお前らは良いだろうけど、俺はあんな奴らに囲まれた日にゃマジで死ぬぞ!」

 

 シュワシュワを煽りながら宣言する。

 

「あんなのを相手に戦うくらいなら、俺は最初に勧められた商人への道を選ぶね。つーか、カエルから急に難易度上がりすぎだろ……」

 

「お前……自分から行こうって誘ってきておいて……」

 

「まあまあ……繁殖期のモンスターは気が立っていて見境なくこちらを襲って来ますし、流石に成体の冬牛夏草(とうぎゅうかそう)はジャイアントトードとは訳が違いますから……」

 

 ゆんゆんがやんわりとフォローしてくれるが、全く役に立っていなかったと言われているようで地味に心にくる。

 

「そもそも冬になるとこんな楽なクエスト一つもなくなるぞ?今のうちに稼いでおかないと厳しい冬を乗り越えられんだろう」

 

「そう言われればそうなんですけど……冬のモンスターを倒すことができないのは私も同じですし……」

 

 そう、冬が来るとモンスターの強さが格段に上昇する。厳しい冬の環境を跳ね除け活動できる上級モンスター以外は冬眠に入り、楽な依頼がなくなってしまう。

 

 そのため、この時期になると皆こぞって大量に依頼を受け、お金を貯めて冬に備えるのだ。

 

「ちくしょう……この虫が楽なモンスターってどうなってんだこの世界……」

 

「お前が弱いだけなのでは?」

 

「……」

 

 ふざけんな嫌いだこんな世界!!




また、一向に体調が回復する気配がないので、次回の投稿も遅れる可能性が高いです。ごめんなさい。

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