幸運の女神様と共に(リメイク版)   作:圏外

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お久しぶりです。難産でした……


第十三話

 いつの間にやら宴会はお開きとなっており、この部屋にはたった3人しか居なくなっていた。

 

 因みにクリスは酔い潰れたアクアを介抱するために何処かへ行ってしまい、ゆんゆんとクレアはそもそも宴会に参加していない。この場にいるのは俺とミツルギと……

 

「おいっ!この野郎俺の飯を……まだ食うかこいつ!」

 

「お構いなく!お構いなく!」

 

 この、謎の少女である。

 

「まあまあ……お嬢ちゃんも、あんまり食べすぎるのは良くないと思うよ」

 

「あなたは黙っててください!食料費も出してない癖に偉そうに!」

 

「君も払ってないだろう!?何で僕にだけこんなに辛辣なんだい!?」

 

 黒髪に黒いローブ、大きなとんがり帽子を頭に被った、どこかでみたような格好をした少女は、俺に羽交い締めにされながらも逞しく飯を貪っていた。

 

「そもそも誰なんだよお前は!」

 

「おっとよくぞ聞いてくれました!」

 

 さっきまでの抵抗が嘘のようにするりと羽交い締めから抜け出すと、自信満々にかっこつけたポーズを決めて名乗りを挙げる。

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とする紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者!」

 

 俺とミツルギは目が点になった。ドヤ顔でポーズを決めるめぐみんは満足げだが。

 

「なんですかその目は」

 

「馬鹿にしてんのか……いや待て、なんかどこかで聞いたような……」

 

 どさっ、と何かを落とすような音が、部屋の入り口の方から聞こえてきた。振り返るとそこには目を見開いたゆんゆんが。

 

「あ、ああああああ!!!

 め、めぐみん!?」

 

「どうもお久しぶりですねぇ、ゆんゆん」

 

 めぐみんに指を向けぷるぷると震えるゆんゆん。そこで俺は漸く答えにたどり着いた。

 

「あ、そうか紅魔族って言ったらゆんゆんと同じ……つまりこいつも惑星ベジータ出身のエリート戦士か……

 ん?めぐみん……あっ」

 

 思い出した。めぐみんと言えばあの駄女神アクアと一緒に墓を荒らしクレアやベルディアさんやらに迷惑をかけたという例のゆんゆんの友達じゃねーか。ヤバい奴じゃん……

 

「あの紅魔族の出身か。それに爆裂魔法とは……この子、かなりすごい魔法使いなんじゃないか?」

 

 顔を引きつらせる俺を尻目に、ミツルギは感心したように呟いた。

 

 やはり王都の辺りでは紅魔族出身の魔法使いが幅を利かせているのだろうか。

 

「……んで、そのエリートがなんでこんな所で飯を貪ってたんだ?」

 

「宴会の匂いを嗅ぎつけましてね。因みに大抵の宴会には紛れ込んでいて、お金の節約のためタダ飯を頂いています」

 

 さらっと言い切りやがった。逞しいなこいつ……

 

 そんな事を話していると、ゆんゆんが急に俺の前に出てめぐみんのことを指差して声高らかに宣言する。

 

「めぐみん!ここであったがなんとやらよ!今日こそ決着をつけるんだから!」

 

 いつもより声のトーンも高い。ここまでテンションが高いゆんゆんを見るのは初めてだ。

 

「おいおい、やけに元気じゃないかゆんゆん。いつもはあんまり喋らないで俺たちの後ろに隠れてるくせに」

 

「よ、余計なこと言わないでください!

 さあめぐみん!勝負よ!怖気付いたっていうなら見逃してあげないこともないけどねっ!」

 

 めちゃくちゃ上機嫌だな……久々に友達に会えて嬉しいのか?思えばゆんゆんがまともに話せるのなんて俺たちくらいしか居ないからな。

 

 それに対してめぐみんの方は……

 

「……食事の席でいきなり勝負とか頭大丈夫ですか?」

 

「ええっ!?」

 

 ……なんともまぁ慣れたご様子。

 

 昔からこんな関係だったのだろうか。

 

「それに先ほどそこのカズマさんとお話をして居た最中だったというのに、急に割り込んで勝負だ勝負だって……そんなんだから友達の一人もできないんですよ」

 

「うぅ……で、でも私はもうパーティも組んでる立派な冒険者で……!」

 

「パーティメンバーがお友達ですか?つまりはお友達との遊び半分で仕事をしていると?」

 

「えっ!?いやそんな事は……」

 

「はぁぁ……そんな責任感も常識もないような有様でよくパーティなんて組めましたねぇ。大方自分からメンバーに入れてもらう勇気もなく、酒場でうじうじして居たところを拾ってもらったとかそんなんでしょうけど」

 

「い、いやそんな……そんな……こと……」

 

「わかりました、パーティ云々は置いておきましょう。流石にこれ以上踏み込むのも不躾ですしね。それで、なんでしたっけ?勝負?はぁ、まだ学生気分が抜けてないんですねぇ……」

 

「……」

 

「はいはい、で、何が良いんですか?魔力でも比べます?それともチェスでも打ちましょうか?火力の勝負は爆裂魔法が使えないゆんゆんが不利になるので辞めといてあげますから。私の食事が終わるまでに何か考えといてくださいね」

 

「きょ……」

 

「きょ?」

 

「今日のところは見逃してあげるわああああああああん!!!!」

 

「「……」」

 

 半泣きになってリビングから飛び出したゆんゆんを尻目に、めぐみんは取り出した手帳に◯を付けた。

 

「今日も勝ち」

 

「お前……お前…………」

 

 なんだか、ゆんゆんに優しくしてあげたくなってきた。

 

「ま、ゆんゆんの事はいいんですよ。話しかけるだけで機嫌が直るチョロQですし」

 

「……友達のことをそんな風に言うのはどうかと思うけどな」

 

「事実なので。それに10年近い仲になる私たちの関係に、昨日今日会っただけの貴方が口を出すのもどうかと思いますけどね」

 

「……」

 

 難しい顔をするミツルギに対し、食事をしながらさらっと論破するめぐみん。さっきも思ったが、めぐみんはかなり口が達者だ。

 

 魔法使い職にとって、知力は魔力に並んで重要なステータスだ。見た目はちんちくりんだが、頭は俺なんかと比べ物にならないほど良いんだろう。

 

 

「……で、なんでそんなエリートのアークウィザード様がうちなんかで飯食ってんだ?」

 

 さっきから疑問に思っていたことだ。

 

「だから食費の節約の為に……」

 

「爆裂魔法だったか?そんなすごい魔法を使えるアークウィザードなら普通金持ってるだろ」

 

「それは確かに。紅魔族出身のアークウィザードなら、王都の高レベルパーティにも引く手数多じゃないのかい?」

 

 そう、なんでそんな奴が食費の節約なんてやっているのか。駆け出しのパーティなら財布事情が火の車なのは日常茶飯事だが、めぐみんにそれは当てはまらないだろう。

 ソロ時代のゆんゆんも、あまり金に困った様子はなかったはずだ。

 

「……その事も踏まえて、一つカズマさんにお願いがあるんですよ」

 

「お願い?」

 

「ええ。

 その、冬の間だけでいいので……ここに泊めてください」

 

「「は?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お願いします!皿洗いでもトイレ掃除でもなんでもします!泊めてください!泊めてください!」

 

「ちょ……離せ!離せこいつ!」

 

「もう嫌なのです!冬の寒さに凍えて、街のおばちゃんから憐れみの目で毛布を差し出されて泣いて喜ぶような冬を迎えるのは嫌なのです!馬小屋よりはマシかと思いわざと軽犯罪を犯して入った独房で迎える新年はもう嫌なのです!」

 

「やめろ!聞きたくない!そんな地獄みたいな思い出話聞きたくない!」

 

 ……さっきまでの飄々とした態度は何処へやら。めぐみんは必死の形相で俺にしがみついて懇願した。

 

「だいたいなんなんですか!不公平ですよ!ゆんゆんは族長の1人娘で、友達はいなかったですが生きるのには困らなかったはずです!ずるいじゃないですか!冒険者になってもこんな豪邸に住んで!羨ましい!とても羨ましい!ぐううううう!!!」

 

「めぐみんちゃん、涙が……」

 

「泣いてなんかいません!泣いてなんかいませんとも!」

 

 目に涙を浮かべ、顔をぐしゃぐしゃにしながら恨みつらみをぶつけるめぐみん。それでも強がろうとするところを見ると、さっきまでは昔からの友人であるゆんゆんにこんな姿を見られまいと必死だったのだろうか……

 

 なんだか、俺までもらい泣きしそうになってきた。

 

 そんな俺の様子を一目見ると、一瞬で泣き止んだめぐみんは俯き、先程までよりうんとトーンを下げて語り始めた。

 

「私は……家が貧乏で、満足に食事も食べられない生活を送ってきました。時には一切れのパンを家族で分け合い、その辺の葉っぱを食べて飢えを凌ぎ、果ては学校でゆんゆんから奪い取ったおべんとうをこっそり持ち帰って妹とはんぶんこに……」

 

「だからその心にくるエピソードをやめろ!紅魔族ってのは精神攻撃をしなきゃいけない決まりでもあんのか!?」

 

 流石に強かだ……と言いたいところだが、エピソードが悲惨すぎてそうも言ってられなくなってくる。話の流れでさらっとお弁当を奪われるゆんゆんにも同情したくなるが。

 

「いいじゃないですか!部屋なんていっぱい余ってるでしょう!?自分のことは自分でしますから!迷惑はかけませんから!」

 

「だから離せって!お前アレだろ!なんか致命的に問題があるタイプだろ!めんどくさい臭いがプンプンする!」

 

「なっ!?た、確かにお金が足りずあんまりお風呂とか入れてないですが体臭は大丈夫のはずです!紅魔族の汗はバラの香りなのです!」

 

「そういうことじゃ、」

 

 ない、と言おうとしたところで、後ろの扉が開く音がした。

 

「おーい、宴会は終わったか?全く、あいつらと来たら……おい、何やってる」

 

 宴会が終わったことを嗅ぎつけ帰ってきたクレアは、こちらを見るや否や、目を細めてこちらを睨み付けた。

 

 今の状況はといえば、俺とミツルギがめぐみんを見下ろし、めぐみんは半ベソかきながら片膝ついて俺にしがみついている。必然、腰の辺りにしがみつく形になっていて……

 

 …………………………

 

「お願いします!その、2()()()()()()()()()()()()()()()()、ここに」

 

「……貴様ら」

 

「「違うんです!誤解です!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて、我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操る者。そして今日からここに居候させていただくこととなった者!よろしくお願いする!」

 

「はい!宜しくお願いします、めぐみんさん」

 

「しょ、しょうがないわね!そんなに私と一緒に住みたいっていうのなら……」

 

「いえ別に。広い屋敷にタダで泊めてくれるっていうのでご相反に預かっただけで、ゆんゆんとはなんの関係もありませんが」

 

「ええっ!?」

 

 そして、どうにかこうにか誤解は解けたが、めぐみんはクレアを味方に付けて居候の地位を勝ち取り、同居人が一人増えることとなった。

 

 そも、あの性格のクレアがめぐみんみたいな女の子を放っておくはずがなく。しかも最初は食費くらいは家に入れるという確約だったはずなのだが、いつの間にか食費もタダで三食昼寝付き、家事は分担制に落ち着いてしまっている。クレアをうまいこと丸め込んだのだろう……

 

 その後、クレアがめぐみんをパーティに誘っていたようだが、それは断っていた。ゆんゆんと同じパーティでは、ゆんゆんに情けをかけられたようで嫌なんだと。

 

 ……さっきまで自分の悲惨なエピソードを語って同情を誘ってた奴が言うことか?

 

 変な意地張ってないで、使えるものは使えばいいのに。ゆんゆん共々まだまだ子供だな。

 

「むっ、なにやらカズマさんから邪な目線を感じた気がしたのですが」

 

「……」

 

 俺はまず、ゆんゆんを見る。年齢に見合わない豊満な肢体。こう言っちゃなんだが、ぶっちゃけとてもエロい。

 

 対してめぐみんは……

 

「……………………へっ」

 

「ほう、売られた喧嘩は買うのが紅魔族の習わしなのだが?」

 

「おうおう、こちとら上級職との決闘では百戦錬磨と謳われるカズマさんだぞ?ま、剥いたところでその貧相な身体じゃあな……」

 

「ぶっころ」

 

 そう呟いためぐみんは、魔法使いとは思えない力で俺に掴みかかってきた。望むところだ。力まで後衛職に負けてたまるかよっ!

 

 

 

「なんだか、相性良さそうですねあの2人。ふふふ、ああしてると兄妹かなにかみたい」

 

「カズマめ……あの子と取っ組み合いとは羨ましい……私もクリスさんとプロレスごっことかしてみたい……」

 

「ほう?プロレスごっこですか。いいでしょう受けて立とうじゃありませんか。後衛職と侮るなかれ、この私の卍固めを喰らったとき、貴女は私に戦いを挑んだことを後悔するでしょう……」

 

「ふあっ!?い、良いんですか!?で、ではその、私の部屋のベッドで……ぐへへ……」

 

「ふふふ、賢明な判断です。確かに床でやるには危ない技もありましょう。

 ……ちょっと、こういうの憧れてたんですよね。兄弟姉妹とか居ないですし」

 

「いやぁ憧れますよねプロレスごっこ!わかりますわかります!私もクリスさんとそういうことするのすっごく憧れでして!」

 

「そ、そうなんですか……?

 ……なんだか、クレアさんって私の事妹か何かみたいに思ってる?スキンシップ多いし、ひとりっ子なんですかね……?」

 

「めぐみん……まさか、このパーティの魔法使い枠を狙って……!?

 め、めぐみん!改めて私と勝負よ!絶対に負けないんだからーっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……それにしても、騒がしくなったもんだ」

 

 めぐみんがゆんゆんを変なチェスでこてんぱんにして泣かしたり、クレアがクリスに関節技を決められて光悦とした表情を浮かべて居たりと一悶着あったが、俺たちは漸くこの屋敷に初めての就寝を迎えようとしていた。

 

 俺たち4人にめぐみんが加わり、総勢5名。この屋敷の規模からしたら相当に少ないだろう。

 

 密かに考えていた事がある。この屋敷を冬の間だけ冒険者連中に有料で貸し出せば、働かなくても収入が得られるのでは無いだろうかと。

 

 ぶっちゃけ、俺は冒険者には向いていない。あの受付嬢にも言われたしな。

 

 不労所得を得られるのならそれに越したことはない。

 

「となると、まずは掃除とかしなきゃな……長い事誰も住んでなかったみたいだから埃とかも溜まってるだろうし、()()()()()()()()()()()片付けないと……?」

 

 最初に部屋を見て回った時、あんな西洋人形なんてあっただろうか。

 

 ……気のせいか。そんなにしっかりと見回したわけでは無いし、多分初めからそこにあったのだろう。

 

 ま、後のことは明日考えよう。()()()()()()()()()()()()()()()()()、俺は早めに寝るとしよう。

 

 明日は冬の間の過ごし方を考えないとな……

 

 そんなことを考えながら、俺は————

 

 

 

 

 

 

 ————()()()()()()()に気付く事無く、眠りに就いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ———————————————————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィズという女の話をしよう。

 

 ウィズとベルディアは長い付き合いで、もう200年ほどにもなろうかという昔。ベルディアは現役時代の彼女率いる冒険者パーティに襲撃を受けた事があった。

 

 とは言え、人間の冒険者パーティに苦戦するベルディアでは無い。難なく退けたのだが、問題はその後だ。

 

 魔王軍の幹部狩りなどという物騒な事をしていたウィズは、特に名も知れていなかったアンデッドに敗れた事で過剰なまでに力を求め……禁呪に手を出し、リッチーとして転生し復讐を果たさんと今度は単独でベルディアに挑みかかった。

 

 それはもはや神話の戦いと言うべき死闘だったそうだが、そもそもリッチーに物理攻撃は通用しない。武器に付与されている魔法効果程度のダメージソースしか無かったベルディアに勝ち目はなかった。

 

 その後、魔王城にベルディアが逃げ込み、それを追ってウィズが結界を無理やり破壊し侵入、魔王本人も加わる程の戦いに発展した。

 

 その後、一旦体勢を整えようと街に戻ると……そこには、ウィズが見知った顔はどこにもいなかった。彼女がリッチーになる為の禁呪を発動した結果、副作用として100年ほど眠っていたのである。

 

 人類側に居場所が無くなったウィズは、スカウトという形で魔王に拾われ、その人柄に惹かれ……その恩義で、幹部として仕事をこなしているのだ。

 

 

 

 所変わって、ベルディア魔道具店。

 

「なるほど、アクセルの街に大いなる光が降り立った……ね」

 

「はい。曰く未だ嘗て無いほどに強大な光を感じたと。()()()()()()()()()()()()()()()この街の事だから何があるか分かったものでは無いので半端な戦力を差し向けるわけにもいかず、かと言って大袈裟に調査して神に勘付かれても面倒ですので、人間に混じっても違和感の無い私が派遣されたわけです」

 

 ベルディアは頭を抱えたくなった。

 

 それもそのはず。大いなる光とは、十中八九クリスの事だと言うことは明白であった。

 

 一応魔王軍に身を置くベルディアはカズマのパーティがどうなろうと不干渉を貫く所存だ。彼らは冒険者であり、賞金目当てとは言え頻繁に魔王軍とも戦う身。中立という姿勢を保っている故、片方に肩入れする気は無い。

 

 問題はカズマ達ではなく、目の前の女魔導師、ウィズについてだ。

 

「本来こう言う任務はハンスさんあたりが適任なのですが、今あの方は紅魔族相手に手一杯のようで……」

 

「ああうん、そうだな……

 ……あのな、ウィズ。その光というのは……」

 

「ああ、心配しないでください。()()()()()()()()()()()()()

 

「ウィズとは相性が…………えっ?」

 

「その反応からして、あの銀髪の少女に対して何か手がかりがあるのでしょう?ですが心配なさらずとも、今の時点で危害を加える気はありませんよ。あくまで私がやるのは偵察程度ですので」

 

「……ああ、うん。そうか……」

 

 ベルディアが心配しているのは、この荒事に向かない性格をした彼女が()()()()()()()()()()()()()、という点である。

 

 特性上、ウィズは神聖属性に滅法弱い。

 

(明らかに相性は最悪……普通の勇者なら物理も魔法も弾けるウィズを差し向けるのは正道なんだが……)

 

 相性が悪いのは属性だけでなく、性格面もだ。アンデッド相手だと異常に攻撃的なクリスに対し、魔王への恩義だけで魔王軍幹部の座に就いているウィズ。

 

 もし2人が出会ってしまったら、話し合いをしようとするウィズとそれを完全に無視したクリスが初手最大火力のターンアンデッドをぶちかますという様子が容易に想像できる。

 

 地面に倒れこんで、命乞いをするウィズとそれを罵倒しながら殺意を放つクリス。実に不自然で、現実的な予想図だ。

 

「あ、それはそうとベルディアさん!実は私、このお店のお手伝いをするにあたって衣装を作ってきたんです!それから売っているのは武具が中心だとお聞きしましたので、売れそうな武具以外の商品のアイデアも色々考えて……ど、どうしたんですか?ベルディアさんその両手にある護符は……」

 

「いいから持っとけ。神聖魔法の効果を減らす護符だ。いっぱいあるぞ」

 

「い、いえ……魔王様から加護をもらっていますし、神聖魔法対策はもう……」

 

「いいから」

 

「えっと……じゃあ、お言葉に甘えて一つ貰っておきますね」

 

「遠慮すんなって。10個くらい持ってたほうがいい」

 

「そんなに!?」

 

 流石に、同僚を見殺しにするのは夢見が悪い。ベルディアは、この何処か頼りない雰囲気を纏う同僚を守ろうと固く心に誓った。恐らく敵意剥き出しで消滅させようと迫る()の手から守ろうと。

 

 ————ウィズの真なる矛先が向いているのは、自分だという事に気付かずに。




ベルディア魔道具店に明日はあるのか(白目)

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