幸運の女神様と共に(リメイク版)   作:圏外

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第二話

「あ、ああ……あああ……あ……」

 

 眩しい日差しに照らされる中世ヨーロッパ風の街に、俺達は降り立った。

 

「ああああ…………あ……ああ…………」

 

 辺りを見渡すと、遠くの方に高い壁が見えた。有名な巨人マンガを思わせる巨大な壁に囲まれた巨大な街である。

 

  当然、敵に攻め込まれることを想定した防御壁なのだろう。日本に生まれた俺の常識とはかけ離れたその光景は、本当に魔王の軍勢と戦っているという現実をまざまざと見せ付けてくる。

 

「…………ああ…………嘘……でしょ……」

 

「うお、アレもしかしなくても本物のエルフか!?あっちのケモミミはワーウルフ!?スゲェ!俺本当に異世界に来たんだ!生きててよかった!いや死んだけども!」

 

 多種多様な姿をした人々がそこら中を闊歩している。どうやらこの世界には人間種以外にも様々な種族が生活しているらしい。

 

「と言うことは人間以外は魔物として扱われるみたいなダークファンタジー的な世界観は無いのか。となるとやっぱパーティにはエルフの弓使いとか憧れるよな!

 そういえば冒険者ギルド的な組合ってどこに……あっ」

 

「………………」

 

 いっけね、忘れてた。

 

 俺が異世界の光景に感動してはしゃいでいる横では、転生特典として連れて来た銀髪の女神様が、茫然自失とした表情をして座り込んでいた。

 

「……ふふ……懐かしいなぁ……この世界……確か2回目の担当だったっけ……それから幾つも担当が変わってさぁ……何百年も頑張って……ようやく地球世界担当にまでなったのに……これで……これで終わり……ふふ、全部終わり……」

 

 この世の終わりみたいな顔をしながらぶつぶつと呪詛を呟いている。

 

「えっと、女神様?まあ確かに可哀想だとは思わなくはないんですが、どうやら転生特典は貴女みたいなので……とりあえず冒険者ギルド的な所に案内して貰えると助かるんですけど」

 

 普通なら慰めたり、それが出来なくともそっとしておく所だろう。だが、そこはカズマ。一応敬語は使っているものの、自分が連れて来た女神に対して最低な発言である。

 

 だがエリスの耳には、そんな鬼畜発言も届いていないようだ。

 

 

「……ノエル……良い子だったのに……ぅ……とっても……ひぐっ……頭も良くて……先輩想いで……ぐすっ……それなのに……わたし、尊敬されてなかったのかなぁ……そうだよね……えぐっ……」

 

「あの子には、私なんかより、役職が……ぅぁ……だいじで……わたしなんか……ぁあ……先輩だから……それだけ……」

 

「……ぅえぇ……あやまるからぁ……せんぱいらしくできなかったことも……あんまり……えぐっ……ひぐっ……かまって……あげられなかった……ぅあ……こともぉ……だから……かえしでぇ……」

 

「……てんかいに……かえしてよぉ……かえりたいよぉ……ぅぇええん……ぁあああ……だれかぁ……たすけてぇ……うあぁああ……」

 

 …………おっと?

 

 これはこれは。

 

 急に不安になっていくカズマ。それもそのはず、仮にカズマがやった事を某有名マンガに例えると、願いを叶えてくれる緑のにょろにょろに『神の力が欲しい』と言った事と同じなのだ。

 

 ……まあ目も覚めるような美人……美女神?であるエリスと共に冒険が出来るのなら最高だし、そこはもう割り切っている。むしろ役得だし。

 

 それはさておき、カズマはこの際エリスに全てを任せる気でいた訳だ。そのエリスが帰りたいと言って泣いている……不安になるのも無理はないだろう。

 

 更に言えば、彼は童貞。デートはおろか、そもそも女の子を何かに誘った事すらない。

 そんな男が、泣いている女性を慰めるなんて高度なテクニックを持ち合わせているはずもなく……さすがのカズマも、決して少なくない罪悪感を感じ始めていた。

 

 トドメに、ここは大通りのど真ん中。そんな所で妙齢(に見える)女性が泣いているのだ。

 そりゃあたいそう注目を集めることだろう。

 

「うぇええん……やだよぉ……かえりたいよぉ……ひぐっ……ぐすっ……ぇえええん……」

 

 

「ちょっと、何アレ?痴話喧嘩?」

 

「あんな可愛い子を泣かせるなんて……いったい何をしたのかしら?」

 

「女の方はシスターみたいな格好してるな……美人のシスターを誑かした上に泣かせるなんて許せん、俺と代われ」

 

「何という鬼畜……いったい彼女はどんなプレイをされたと言うのだ……」

 

「おい、これ憲兵を呼んだ方が良いんじゃ……?」

 

 

「うおおおおい⁉︎ちょ、ちょっと向こうに行きましょうか!話し合おう!いや、悪かった!俺が悪かったからお願いいたします泣き止んでください女神様ぁ!?」

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ほんとすみませんでした!調子こいて変な事口走ってマジすみませんでした!」

 

 取り敢えず人が居ない所へ行ったカズマは流れるような動きで土下座をかました。漸く自分がしでかした行為がどれほど理不尽なものか気づいたようだ。

 

「ちょ、ちょっと……土下座なんてしないでくださいカズマさん。取り乱しちゃったのは私が……」

 

「やめて!これ以上聖人みたいな言葉を言わないで!罪悪感で死にそうになるから!」

 

「聖人と言うか、女神なのですが……」

 

 慌てふためくカズマの様子を見てか、ここにきてエリスは多少の余裕を取り戻した。

 

 彼女は非常に真面目な女神である。品行方正を体現したかの様な性格をしているエリスは、自らの置かれてる立場を静かに反芻し……覚悟を決め、笑顔でカズマの謝罪を受け入れた。

 

「さっきは情けない姿を見せてしまってごめんなさい。えっと、まずは自己紹介をした方がいいですよね。私の名前は……えっと、クリス、と呼んでください」

 

「クリス?でもさっきの天使はエリス先輩って……」

 

「あ、いえその、実は私、この世界で国教として信仰されているものでして。ですのでエリスという名前はさすがに……」

 

 なるほど、一理ある。国教で信仰されている女神と同じ名前で、同じ容姿。それは流石にまずい。

 地球で言えば、それっぽいコスプレをした人が「私の名前はイエス・キリストです」と言ってくるようなものだ。本物ならなおさらだ。

 

「それと、そんなにかしこまらなくても良いですよ?今となっては、カズマさんも私も立場は同じようなものですし……」

 

「うっ……」

 

 エリスからしたらそんなつもりはなかったのだが、エリスを下界に引きずり込んだ張本人であるカズマからしたら全力の皮肉にしか聞こえなかった。

 

「そ、そうですね……はい……」

 

「?ですから砕けた口調でも……」

 

「わかった!わかったから!……えっと……じゃ、じゃあさ。クリスはどんな事が出来るんだ?」

 

「え?」

 

「何かあるだろ?〜を司る女神ーとか。あとは特別な能力とかさ」

 

「……いえ、特に無いですけど」

 

「えっ」

 

 一瞬でカズマの表情が硬くなる。

 

「い、いや、さすがに何も無いってことは無いだろ?下界を見通す神の目とか、女神の加護で超強くなれたり……ほら、さっきだって権能がどうのって……」

 

「うーん……地上に降りるに当たって神格も削られてるようですし、権能を振るうことはできないようですね」

 

「え、ええ……」

 

「天界に居るのならまだしも、下界に降りてきているので把握とかは難しいですね……加護と言われましても、魔法が使えるわけでも無いですし……あ、私が魔力を込めたものだったらアンデッドや悪魔など限定で効力を発揮したりしますよ」

 

「……」

 

「え、えっと……そ、そうだ!私幸運を司る属性を持って居ますので、連れているだけで運気が多少上昇する効果がある……と思いますよ?ちょっとした護符くらいの効果はあると思います、多分」

 

 マズイ。

 

 ひょっとして俺はとんでもなく勿体無いことをした挙句、こんなに美しい女神様を下界に引きずり込んで……

 

「……ごめんなさい、カズマさん」

 

「はい?」

 

 申し訳なさげに謝罪をするエリス。

 

 実際には自己嫌悪で今にも崩れ落ちそうになっているだけなのだが、そんな絶望的な表情をしたカズマをみて、自分が使えない女神だということを嘆いている、と受け取ってしまった。

 

「私の力では、カズマさんのご期待に添えないようです……ですが、私は貴方に選ばれて連れてこられた身です。神器や特殊能力の代わりとまでは行かなくとも、出来る限り冒険のサポートをします。

 私、これでも女神ですから!」

 

「ほんとすみませんでした!俺みたいなカスが調子こいて転生なんてしてマジすみませんでした!」

 

「な、何もそこまで……私からしても魔王を打ち倒さないといけませんし……自ら出向いたと考えればそれほど悪くも無い……ですから」

 

「ま!まずは!冒険者ギルド的なところへ行きましょう!身分証明書と寝床を探しに!さあ!」

 

「え、ちょっとカズマさん?」

 

「良いですから!俺働きます!エリス様の為なら身を粉にして働きますから!」

 

 ————早くこの場を離れたいッ!もうどこでも良いからとにかく走り出したい!死ぬほど気まずい!

 

 エリスの手を取り早歩きで元の大通りに戻ろうとするカズマ。流石のカズマも相当堪えたらしく、かなり嫌な汗をかいている。

 

 

 

 エリスは「クリスと呼んでって言ったのに……それに敬語……」と呟いているが、案外騒がしいのも嫌いじゃないのか、意外にも楽しそうに笑顔を浮かべている。

 

 普段は品行方正を絵に描いたような立ち振る舞いをしているエリスだったが、本来は結構活発な女神だった。それこそ、別の世界線では自ら下界に自分の分身を降ろして、冒険者生活を楽しんでいた程に。

 

 更に言えば、彼女が就いていたのは女神らしい僧侶職ではなく盗賊職。心の奥にはやんちゃな一面もあるのだろう。

 

 送られた当初こそ余りの理不尽さに取り乱したが……実のところ、なんだかんだでこの世界も悪くないものだと思っているのだ。

 

 自分を連れてきた(カズマ)に対して若干の不安はあるものの、この世界を担当していた頃は冒険者たちを観察し、この素晴らしい世界を気ままに生きる彼らの生き様を楽しんでいたこともある。

 自分も自由な冒険者生活を楽しんでみたい。地球に住む少年と同じ気持ちを、エリスは少なからず持っていた。

 

「カズマさん」

 

「ッ……は、はい……なんでしゃうか……」

 

 情けないカズマを見て、本当に大丈夫かと思いながら、まさに女神の微笑を浮かべるエリス。その顔を見たカズマは顔を赤くする。

 

「私、前にこの世界を担当していたことがあったんですよ。この駆け出しの街アクセルは、よく覗いていたんです。冒険者ギルドの場所は分かりますから、案内しますよ?」

 

「え……あ、はい。す、すみません……先走っちゃって……」

 

「ですから、もっと砕けた口調で。

 そうですね、冒険者がパーティの仲間に掛けるような言葉遣いをしてください」

 

「あ、そ、そうです……そうだな、ごめん」

 

 女性に耐性がないのだろうか、カズマは未だに目を合わせてくれない。一抹の不安を感じたが、これからの冒険生活で慣れていけば良いだろうと、エリスは迷いを振り払うように宣言した。

 

「ええ、この世界に来た以上、私たちは女神と人間ではなく、仲間です。私が天界に帰るためにも、さっさと魔王を倒して世界に平和をもたらしましょう!」

 

 太陽のような笑顔を見せるエリスに、カズマはいともたやすく心を奪われる。この世の全てを恋に落としてしまいそうな笑顔に、童貞のカズマが逆らえるはずがなかった。

 

「あ、ああ!が、頑張ろうな!」

 

「はい、その意気です!」

 

 鈴が鳴るような声を聞き、カズマはますます張り切ってしまう。「やっぱり、エリス様を連れてきて良かった……!」と、エリスの後に着いて歩きながら感涙している。

 

 勿論そんなカズマには、エリスが発した呟きなんてとてもじゃないが届かなかった。

 

「カズマさんには私を連れてきた分頑張ってもらうとして、早く天界に帰ってノエルにキツイお仕置きをしなきゃいけないしね……」

 

 幸運の女神と幸運しか取り柄のないヒキニートの明日はどっちだ。

 




ストックが切れるまでは毎日投稿をしたいと思っています。それなりにスピーディに話を進めていきたいと思っていますので、お付き合いいただけると幸いです。
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