「着きました、ここが冒険者ギルドですね」
「おお!それっぽい!それっぽいぞ!」
「何ですかその反応……」
エリス様……もといクリスの案内で、俺は冒険者ギルドまでやってきた。夢にまで見た光景に、ほとんど反射的にギルドの中へ駆け出す。
扉をくぐると、まず酒の匂いが襲ってきた。未成年の俺には少々刺激の強い匂いに困惑し辺りを見渡すと、ギルド設営の酒場で多くの冒険者たちが酒盛りをしている。
世紀末を絵に描いたようなムキムキのモヒカン肩パッドも居れば、どう見ても冒険者には見えない華奢な身体の女の子も居る。
腰に剣を刺したフルプレートの剣士に、杖とマントを携えた魔法使いに、シスターのような格好をした僧侶職と思われる女性。その他様々な格好をした色物集団がみんな分け隔てなく、同じ場所で酒を飲んでいた。
真昼間から呑み明かす冒険者など、この世界の人々から見たら唯のロクデナシなのだが。
俺はそんな荒くれ者たちを見て少なくない感動を味わっていた。
(これが冒険者!何者にも縛られない、まさに自由を謳歌する職業って感じだ!)
以前は部屋に引きこもってゲームばっかりしていただけあり、期待通りの『ザ・冒険者!』と言った雰囲気が気に入った。多分俺は今目をキラキラと輝かせていることだろう。
酒場を通って奥に行くと冒険者用の窓口があった。取り敢えず一番可愛い人が受付をしているところへ行く。
「はい、どうぞー。今日はどうされましたか?」
ウェーブのかかった栗色の髪の美人がにこやかに対応してくれる。うん、愛想笑いが実に堂に入っている素晴らしい受付だ。
「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて……」
「そうですか。では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」
「えっ」
登録手数料?
思わずクリスの方を見ると、クリスはポケットの辺りを指差した。確認すると、俺のポケットには幾つかの金貨が入っている。
後から聞いた話だが、これはクリスが転生者を送る仕事をしている際に『異世界に送られたはいいが、寝床はおろか飯を食う金もない』と嘆く転生者を見て、送るときに最低限の小遣いを持たせる事にしたそうだ。送る用の魔法陣に細工をして、ポケットに一万エリスの金貨を入れる設定にしたらしい。
そんな転生者に親身になった制度改革が認められ、クリスはスピード出世を果たしたそうだ。天界も下界も結局社畜になるしかないのは変わらない事がわかって、ちょっと夢が壊れたが。
「はい、ありがとうございます。九千エリスのお返しになります。それではこちらの機器に触れてください。冒険者カードが発行されます」
冒険者カード。
冒険者ギルドに冒険者登録をすると発行してもらえるカードで、このカードには所有者のレベル、職業、ステータス、習得スキル、過去に討伐したモンスターの種族・数などの項目が表示される。
余談だがこのカードは、年齢や職業が正確に記されるという特性上、身分確認にとても便利なので日本における免許証のような役割を果たしている。そのため一般にも広く普及しており、街にいる大人ならば基本的に所持しているのだが、名前は冒険者カードである。
閑話休題。
(おお!ここで俺の凄まじい潜在能力が露わになってちょっとした騒ぎになるんだな!)
そうして俺は期待を持って登録用の機器に触れた。すると機器に淡い光が灯り、冒険者カードに文字が記入される。
「はい、結構です。サトウ カズマさん……ですね。えっと……潜在能力値は知力が高いくらいで他は普通ですね……おや?幸運がとても高いですね。まあ幸運は冒険者稼業にはあまり関係がない数値なんですがね」
「あっ……そうですか……」
「……差し出がましいかとかもしれませんが、本当に冒険者になられるんですか?これだと基本職である冒険者にしかなることが出来ませんよ?一応レベルアップして能力値が上昇すればクラスチェンジも出来なくはないですけど……
これだけの幸運をお持ちでしたら、正直冒険者になるより商売人とかの方が向いていると思うのですが……」
「……」
やめろぉ!そんな引きつった笑みで俺の冒険者カードを見ないでくれ!
「え、えっと……大丈夫ですよカズマさん!その、冒険者は一応全てのクラスのスキルを習得できますし……それに、幸運が高いって言われたじゃないですか!」
「職業補正も無いから本職の方のスキルには遠く及ばない威力しか出ず、さらに習得コストも割高ですけどね……さっきも言った様に幸運は冒険者稼業では殆ど使いませんし……
スキルの成功判定にボーナスが付きますが、失敗することが多いようなスキルを多用する冒険者さんはあんまり信用されない傾向にありますので、幸運値はないものと考えて行動することをお勧めしますよ」
「うぅ……幸運に関する現地人の反応が冷たい……!」
クリスがなんとか慰めようとしてくれたのに受付嬢が容赦なく否定してくる。こいつ本当に受付嬢なのか?冒険者の心のケアとかしてくれないのかよ!
受付嬢を睨むが笑顔で受け流され……仕方なく渡された冒険者カードを見る。
どうやら、俺は最弱職になったらしい。
転職を勧められるほどの能力値でお先真っ暗とはいえ、これまで何度も俺が妄想し夢見た冒険者になったわけだ。ちょっと感慨深い。
……そう言えば、スキルの習得ってどうすればいいのだろうか。さっきの受付嬢はなんとなく抵抗があるから他の窓口で「えええええっ!?な、なんですかこれ!」
クリスの冒険者カードを見た受付嬢の叫びで周りの冒険者たちも騒めき出す。
「どうなってるんですかこの能力値!攻撃力、耐久力、知力も魔力も体力値も全ステータスがぶっ飛んでますよ!唯一幸運が人並みなくらいで、特に魔力と対魔力が尋常じゃないです!貴女いったい何者なんですか!?」
「え、えっと……どうもありがとうございます。
え?幸運は人並みなんですか?」
「はい、幸運は人並みです。でも幸運なんてぶっちゃけ盗賊以外では死にステータスなんで気にしなくても結構ですよ!」
「うぐっ……あの……あんまり幸運の事を軽く見られるとちょっと私的にはダメージが大きいかな〜、なんて……」
「?よくわかりませんが、このステータスならクルセイダーにルーンナイト、アークプリーストにエレメンタルマスター。あとはアークウィザードという手も……数多の冒険者たちの憧れである上級職にすぐになれますよ!!それで、クラスは何になされますか!?」
「うーん……それでしたら、アークプリーストでお願いできますか?」
「アークプリーストですね!回復魔法はおろか蘇生魔法まで扱え、前衛に出ても問題ない強さを誇る万能職です!
冒険者ギルドへようこそクリス様!今後の活躍を期待していますっ!」
さすがは女神と言ったところか、とんでも無い能力値を叩き出したらしいクリス。だがその笑みは引きつっている。
「……私、幸福を司る女神のはずなのに……いや確かに運が良いって感じた事はあんまり無いけど……人並み……え?本当に人並み?」
「……?どうされました?」
「え、な、なんでもありません……ありがとうございます……」
「すげーじゃねぇかシスターの嬢ちゃん!いきなりアークプリーストなんてよ!」
「貴女凄いわね!こんなに可愛いのに能力も高いなんて……嫉妬しちゃうわ!まさにエリス様は二物を与えられたのね!」
「案外、あんたみたいなのが魔王を倒しちまうのかもな!」
いつの間にか窓口の周りに集まってきた冒険者たちから熱烈な歓迎を受けるクリス。さっきまで幸運がどうとかで微妙だったその表情も、今は少し恥ずかしそうに笑っている。
「……皆様、盛大な歓迎ありがどうございます!まだ駆け出して未熟なものでして、迷惑を掛ける事もあると思いますが、これから同じ冒険者としてよろしくお願いしますっ!」
「「「うおおおおー‼︎‼︎」」」
男性冒険者の雄叫びと、それを冷ややかな目で見る女性冒険者。何はともあれクリスの冒険者デビューはとても順調なものになったらしい。
「あれ、俺の冒険者デビューイベントは……?」
《一ヶ月後》
「どぅああああっ!助けてくれ!お願いします助けてくださいエリスさまああああ!」
「かっ、カズマさーん!」
一ヶ月前に冒険者デビューを果たした俺らは、まず最初の壁にぶち当たった。そう、他の転生者ならチートアイテムやチート能力を元から持っているので全く必要のないであろう最低限の装備を買う金がないのだ。
あの後武器屋に行って駆け出し冒険者用の基本的な装備を探したが、とてもじゃないが俺とクリスが元から持っていた二万エリスでは、一人分の武器さえ買う事ができなかった。
それを稼ぐ為に、俺たちは働いた。幸い魔王軍と戦っているこのご時世、城壁の補強を目的とした工事の日雇いバイトは尽きる事がないので、この一ヶ月間はずっとその工事のバイトをやって金を集めた。
もちろんそんなバイトで貯金を増やすのは厳しいのだが、ギルドに申請すれば無料で貸し出してくれる馬小屋に泊まり、同じように馬小屋で泊まる他の冒険者たちに飯や酒をおごってもらったりしながらコツコツ貯金し、漸く2人分の装備をそろえる事ができたのだ。
俺はショートソードとダガーを、クリスはメイスを購入した。自分で働いた金で物を買うということがこんなに嬉しいことだと知ったのは今は昔……やっと冒険者らしくクエストを受けることができるので俺はウキウキしていたんだが……
チュートリアルでありがちなゴブリンやコボルドなんかの弱いモンスターは、とっくの昔に駆除されて街の近くには住んでいないらしい。
当たり前といえば当たり前なんだが、こんな現実的な生態系は知りたくなかった……
「大丈夫ですよカズマさん!今のカズマさんは支援魔法で攻撃力も耐久力も俊敏性も上がっていますし、どうにかなりますって!」
「無理無理無理無理無理!死ぬ!異世界で土木工事だけやってカエルに食われて死ぬ!」
ジャイアントトード5匹の討伐。コレが俺たちが受けた初クエストだ。
ただのでかいカエルと言えば弱そうに聞こえるが、5メートルはあろうかという巨大なカエルが飛び跳ねながら向かってくるのはトラウマレベルの脅威だ。繁殖期になると人里まで下りてきて、家畜や農家の人々を襲うらしい。
この街のベテラン冒険者たちはこぞってこのカエルを狩るというが……
「【
「力が湧いてくるけど、怖いものは怖いんだよ!……ええい、喰らえクソガエうぐばっ!」
「ああっ、カズマさーん⁉︎」
カエルの懐に潜り込んでショートソードで攻撃するも、カエルの手で雑に弾き飛ばされてしまう。クリスが掛けてくれた支援魔法のおかげでなんとか無事だが、こんな奴駆け出しの俺に倒せる気がしない。
「カズマさーん⁉︎ちょ、カエルがこっちに向かってきてるんですが⁉︎た、助けて!私美味しくない!」
「ウ゛ォラこのクソガエルがああああ!クリスに手ェ出してんじゃねぇええええ!」
前言撤回、刺し違えてでもこいつを殺す!
「「た、倒した……」」
俺たちの横に転がる頭蓋を割られて死んだジャイアントトード。クリスに狙いを定めている所を狙って少しずつダメージを与えていき、1時間ほどかけてやっと一体討伐したのだ。
「やりましたねカズマさん!どうにかこうにか討伐できましたよ!」
「ああ、やっとだな……クリスのメイスがノーダメで弾かれた時はどうなる事かと……」
「うっ……ごめんなさい……神聖属性の攻撃魔法って打撃系ばかりな上に通常の生物に効果が薄くて……カズマさんばっかり危険な目に合わせてしまいましたね……」
「何言ってんだ?今回のMVPはどう考えてもクリスだろ。支援魔法掛けてくれ無かったら絶対俺死んでたからな?」
「ふふっ、その通りですね」
「こ、こいつ……!」
ともあれ、俺たちはジャイアントトードの討伐に成功した。苦戦はしたが、俺たちでもどうにかなる相手だと思うと気が楽になってきた。
「よし、あと4匹、このままやってやろうぜ!俺たちなら行けるさ!」
「ええ、頑張りましょうカズマさん!」
そう言って俺ら2人がすがすがしい顔で振り返ると、遠くの方で三体のジャイアントトードがこっちを見つめていた。さっきの俺たちのセリフがバッチリ聞こえていたようである。
「「………………」」
三体が一斉にぴょこぴょこ跳ねながらこちらに向かってくる。
「「た、退避ー‼︎」」
さっき倒したカエルをクリスが引きずりながら、俺たちは走り出した。
本日の成果。
ジャイアントトード一頭の討伐。
買い取り金額五千エリス。
……ちなみに日雇いバイトの日給は1人一万エリス。日雇い時代と比較すると、合計一万五千エリスのマイナスである。
カズマがアクアを転生特典に指名した結果、神を下界に降ろすことは出来ず、替わりにアクアが天から冒険の指示を出してくれるようになるサングラスと、指示を出すのがアクアということを不憫に思った神々がオマケにくれた『ドラ◯エシステム』というユニークスキルを貰って旅をするっていうヨシヒコとこのすばのクロスssを考えてました。(誰も聞いてない)