「しっかしまぁ、なるようになるもんだな」
ソファーに寝っ転がりながら生意気なことをつぶやく昼下がり。至福の時。
少し前までは蒸し暑かった風も乾燥した秋風に変わり、カエルもすっかり大人しくなった今日この頃。俺の気分はかなり緩みきっていた。
俺たちのパーティはクレアという新メンバーを加え、前衛2人と後衛2人のスタンダードな構成に落ち着いた。前衛はクレアだけで事足りるので俺は索敵と後衛に隠密をかける役目をしている。
が、正直この街のレベルだとそこまで神経質になるような依頼も、クレアが討ち漏らす事もない。ぶっちゃけほぼヒモだ。ダストからも笑われたし。
生活はカツカツだがある程度安定した稼ぎが約束されているも同然で、しかも俺は働く必要がないと来た。
ついでに、そろそろ冬が来るということでクレアが小さな借家を借り、今はそこに住んでいる。
自由に使えるお金は無いが、衣食住には困らない。
そりゃ俺じゃなくても緩むってもんだろう。
「さて、ちょっとギルドに顔出すかぁ……」
暇になったらギルドに行って依頼を冷やかしに行く。もしかしたら盗賊職がいないパーティから声がかかるかもしれない。
そして俺は顔でも洗おうと洗面所に赴き……
「……ハァ……ハァ……」
……なんか変な声を聞いた。
変な汗が流れる。何だ?空き巣か下着ドロでも入ったか?
ちょっとビビりながらも短剣を手にし、【
そして洗面所を覗きにいくと……
「うへへ……クリス様のおぱんつ……すーはーすーはー……尊い香り、たまらんな本当……」
……クレアが、洗濯物を顔に押し付けて転げ回っていた。
「こんな素晴らしい香りを洗剤で上書きしてもいいものだろうか、いやいけない。そんなことをしたらエリス様の名の下に天罰が下るだろう……しょうがないから私が厳重に保管しておこう。おっとこれはゆんゆんの……ふふ、ここが天国か。これも頂いて……偶然にも手に入れた全く同じ製品の新しいぱんつに交換しておこう。ふひひ……ああ素晴らしきかな我が人生。それにしてもクリス様はどうしてあんなにも美しいのだろうか……あの柔らかな微笑み、クリクリとしたおめめ、すらりと伸びた白魚のような腕、可愛らしいおてて……おっと鼻から忠誠心が……ゆんゆんも可愛いよなぁ、15にも届いていない年若い乙女だというのにあのプロポーション……そして童顔と守ってあげたくなる小動物のような性格……はぁ、どうしてうら若き少女というのはこんなにも私の心を淫靡に揺らすのだ?それにひきかえお父様が用意する婚姻相手の何と醜悪なことか。一生彼女たちの側で暮らしたいものだ……!?これはクリス様のブラ!?おっほ、控えめなお胸を守っているスポーツタイプのブラ!ぐ、だが同じものは今私の手にはないから忸怩たる思いでそのまま洗っておこう……だが形は覚えた、おそらく大通りのあの店で買ったものだな……ふひ、同じものを入手しておこう……ああっ、しかしこの匂いを堪能しないで何が人類か!クンクンすーはーすーはーもぐもぐ……誰だ!?」
クレアが何かの気配を感じて振り返ると……
「……何だ、ヤモリか。全くこの神聖な場所にトカゲ畜生が入り込むなど……全く。さて、続きを楽しむとしようか……!うへへ……」
「……見なかったことにしよう」
……俺たちは相当頭のおかしい奴を仲間にしてしまったかもしれない……
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それから数日が経ったある日。突如として街の鐘の音と共に聞き慣れた受付嬢の声が町中に鳴り響いた。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
緊急クエスト。
その名に違わず随分急だが、つまりはアレか。この街に危険が迫っているから俺たちでなんとかしろ、と。そういう事なのか。
某ハンティングゲームのオンラインをやり込んでいた俺からしたら燃えるイベントではあるが、マジでラオ○ャンロンとかシェンガ○レンとかレベルのモンスターが街に攻めてきたりしたらさっさと逃げないと死ぬので内心焦りまくっている。
あいつらって、何であんな小さい剣でペチペチやられただけで死ぬんだろうね。撃○槍喰らっても即死しないくせに。
しかしちょっとワクワクもした。これまでの冒険者稼業は生活のためという面が大きく、子供の頃に夢見た冒険というものを体験するチャンスである。
急いで身支度をしてギルドへ向かうと、既にパーティのメンバーはギルドに集合していた。
「カズマさん!こっちこっち!」
手を振るゆんゆんの元に向かう。
「なあゆんゆん、緊急クエストってなんだ?モンスターの群れでも攻めて来たのか?それとも戦略級の大型モンスターが……」
「あ、そういう類のクエストではなく、多分季節的にキャベツの収穫だと思いますよ」
「……は?」
キャベツ?キャベツって言うと……キャベツか。
「なぁ、キャベツって言うと、あの緑色でシャキシャキした千切りとかにするアレか?」
「アレですけど、それがどうしたんですか?」
ゆんゆんは『何言ってんだこいつ?』って感じの目でこちらを見ている。クレアも同様だ。
「何だ、サトウカズマは知らんのか?こんなに稼ぎのいい仕事はないぞ。
……これで大量のキャベツを収穫すればクリスさんに褒めてもらえるかも……ふふふ……」
「いやキャベツ如きでそんな……つーかいくら稼ぎが良いからってキャベツの収穫なんざ冒険者の仕事じゃ……」
「カズマさん、カズマさん」
するとクリスが俺に耳打ちをする。
「あー……カズマさんは知らないのでしょうが、この世界のキャベツはですね……
いえ、実際に見てもらった方が早いですね、そろそろ説明が始まると思います」
?それはどういう……という疑問を遮るように、受付嬢が登場した瞬間、ギルド内の熱気が一気に上昇した。
「皆さん、突然のお呼び出しすいません!もうすでに気付いている方もいるとは思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやってまいりました!」
受付嬢が声を張る。その声は明るく、嬉しそうにしているのが良く分かる。周りを見ると、集まってきた冒険者たちもかなりテンションが上がっているようだ。
「キャベツ一玉の収穫につき1万エリスです!すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、できるだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに収めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしない様お願い致します!」
……キャベツに、逆襲される、だと?
「な、何じゃあこりゃああああああ!?」
街の正門を出た俺たちの前には、もはや緑の壁としか言いようがないほどの大量の空飛ぶキャベツの群れが迫って来ていた。よく見るとそのキャベツには羽が生えており、更には目まで付いている。
「この世界のキャベツは空を飛ぶんです。その羽で世界を渡り、大量の経験値をその身に蓄え味が濃縮したキャベツはどこかの秘境で息を引き取ると言われていますが、偶然にも食べ頃になるとこの街を通るんですよ。経験値が詰まっている食べ物は高価ですから、あんなにいっぱいいるキャベツでも一玉1万エリス以上で取引されるんです」
「んなアホな……」
「おい、来たぞ!」
大量のキャベツが街に襲来する。アホみたいな光景だが、一玉1万エリスと言うのは破格の値段だ。確かに、キャベツの収穫で大金が手に入るのならこんなに楽な仕事は……
「ぐはぁ!」
「ダ、ダストー⁉︎」
「姿勢を低くしろ!キャベツが顔に当たって即死しても知らんぞ!」
全然楽じゃなかった。
「確かに、あのスピードで2、3キロはある大玉のキャベツが突進してきたら、打ち所によっては死ぬよな……」
「【
「よっしゃあ!クリス様が居れば怪我なんて怖くないぜ!」
腹にキャベツが激突し、肋骨が折れたともんどり打っていたダストが一瞬で回復し、前線へ飛んでいく。
クリスは既に後方支援を決め込んでいるようだ。街のプリーストと共にキャベツ狩りに行く冒険者に俊敏と耐久を上げる支援魔法をかけたり、傷ついた冒険者に回復魔法をかけたりしている。
「クリス様!支援魔法が追いつきません!ど、どうすれば……」
「慌てないで!順番に対処して、あまりに遅れるようだったら私の方に回して!」
「は、はい!」
「【
「クリス様!負傷者が……」
「軽い傷の人はお任せします!骨折以上の人はこちらへ集まってください!【
……クリスが冒険者登録したのはつい最近だってことは街のみんな知ってるはずなんだが、完全にプリーストたちのリーダーをやっている。これも女神のなせる技か……
「あの、カズマさん。私たちも行きましょう!早くしないとキャベツ無くなっちゃいますよ!」
「いや、でもなぁ……」
「もうクレアさんは前線に出ているんですよ!私たちも早く行かないと!」
ゆんゆんが指差す先には、クレアが丘の上に立っていた。その姿は威風堂々と、まさに人民を守る騎士と言った風貌だ。実際は欲望丸出しでキャベツを収穫しているだけだが。
「【デコイ】」
デコイ。囮という意味を持つこのスキルは、ゲームでいうところのヘイトを集めるスキルだ。発動した途端、大量のキャベツがクレアに向かって突撃していく。
そこからは芸術的だった。
突撃を避けて、羽の部分だけを斬る。たったそれだけの動作がまるで流麗な舞いのような美しさを感じさせた。
「おお……!一瞬で何十体も……」
「よし!拾いに行くぞ!」
他の冒険者たちも俄に騒ぎ立ち、クレアが狩ったキャベツを回収しに向かう。それを確認してから、また新しい獲物を探しに行くクレア。まだまだ稼ぐ気満々のようだ。
「すっげぇな……あれ一回で何十万稼いだんだ……?」
「同じ上級職といえども、流石にレベルの差を感じますね。あの剣だって相当の筋力要求値があるでしょうに、あんなに軽々と……」
キャベツ相手とはいえ、これが高レベル上級職の本気か。相応に高いステータスと、強力なスキル。それを上手く使いこなして敵を殲滅する様はまるで英雄譚の主人公のように輝いて見える。
……もし、あいつが恨みを晴らさんと俺に襲いかかってきたら……
「……大丈夫ですか?カズマさん、びっくりするほど顔色悪いですけど」
「い、いや?ビビってねーし。あんな白スーツちっとも怖くねーし……怖くねーし……」
「……」
ゆんゆんの失望の目線が痛い。でもしょうがないじゃん……
「ほら、私たちも収穫に向かいましょう。私の魔法で倒そうとすると傷がついてしまうので、上手く拘束しますからその隙に羽を切り落としてください」
「お、おう。任せろ」
「あ!今のすごくパーティっぽくなかったですか!ちゃんと役割分担して、背中を任せ合うみたいな!」
「いやパーティっぽかったというかそのものなんだが……」
そもそもキャベツの収穫でそんな背中を任せ合うような大立ち回りはしたくない。
さて、クリスに支援魔法かけてもらいに行かないとな……
その後、大量にキャベツを回収したカズマたちは大金を手にした(雑なダイジェスト)