それを見て、娯楽用の放送もあったんじゃないかと思ったんです。軍隊がラジオ局を持っていることは、珍しいことじゃないですからね。今は知りませんが、第二次世界大戦の頃はドイツ軍も持っていましたし。
時計が午後8時を指したのを見計らい、インターバル・シグナルのさざ波の音を止めて、ワーグナーのワルキューレの騎行を流し、アナウンスを入れる。
「Guten Abend. リスナーの皆さん、いかがお過ごしでしょうか。こちらは、Welle von Adler です。南米ボリビアよりお送りします。これより2時間、しばらくの間お付き合いください」
ラジオ放送「Welle von Adler 」は、今日もつつがなく始まった。ナチ・ハンターに踏み込まれることも、仮面ライダーに襲撃されることもなく。
「本日のニュースです。ベネズエラ湾にて我が軍8番目の石油採掘工場が完成しました。これによりアラブ圏のみでなく、南米からも安定して石油が供給されることが、見込まれます。工場は、ベネズエラ資本との合弁事業となっており……」
各地の支部から届いたニュース原稿を読み上げる。久し振りに我々にとって喜ばしいニュースが届いた。無味乾燥なプロパガンダではない。その為かは分からないが、心なしか声が明るくなっているのが分かる。
日本でこそ失敗が多いが、中近東やラテンアメリカではショッカーは着々と勢力を広げている。何も力づくで征服しているわけではない。中近東では対イスラエル、ラテンアメリカでは産業開発の援助というカードを用いて、合法的に諸国政府と手を結んでいるのだ。だから我々も当該地域では、余程のことがない限り、手荒な真似はしない。
反対に仮面ライダーがのさばる日本だと、この手のカードがない。だからテロに頼らざるを得なくなる。尤もあまり有効とは言えないが。
「では、ここでご家族からのお便りを紹介したいと思います。まずは、東京支部所属のフランツ・フェルディナンド少佐へ……」
便箋に書かれた手紙を読み上げる。まだ拙い子供の字だ。
この放送の人気コーナーであるお便り紹介。これは遠く離れた日本やユーラシア、アフリカ、北米、オーストラリアなどで活動する構成員に向けた家族からの手紙を電波に乗せて、伝えるコーナーだ。
普通の人間ならば手紙を送ればいいが、我々にはそんなことはできない。何せ、戦犯として追われている身なのだから。それに基地がバレてしまう恐れもある。故にこうして電波に乗せて送るしかないのだ。これだって危険だが、リスナーの居場所まで突き止められる心配はまだ少ない。
「今年のクリスマスは、家族水入らずで過ごしましょうね……」
激戦区の日本に配置された全ての隊員が、今年のクリスマスを家族と共に迎えられると良いのだが…………。そしてここで手紙を読み上げられなかった我々の仲間も……。
お便り紹介が終わり、ラジオ小説の朗読とリクエストされた音楽を流しているうちに、午後10時が近づいてきた。間も無くエンディングだ。
「本日の放送は、これにて終了です。Auf Wiedersehen 」
9時57分になったのを確認して、ララ・アンデルセンの「リリー・マルレーン」のレコードをかける。もう30年も前の曲なのに、ショッカーのメンバーは皆、この歌を好んでいた。前に仮面ライダーに倒された大佐もそうだった。かく言う僕もこの曲を愛している。
「マリアは元気かな……」
ケルンで、働き者の技師の夫と幸せな家庭を築いている一人娘のことを思い出し、情けない事に目頭が熱くなってしまった。来週にでも、もし命があれば、手紙を書く事にしようと思う。
放送を終えて機械の点検を終えた時だった。天井のスピーカーからサイレンの音が鳴り響いた。敵襲だ。
内線で仮面ライダーの侵入が確認されたことが伝えられた。ここには、怪人は配備されていない。これではリリー・マルレーンを明日聴くことは、無理だと思うより他ない。
しかし絶望している暇などない。急いで放送機器を立ち上げ、近隣支部に救援を要請する。
「こちらサンタクルス支部。当支部にて、仮面ライダーの侵入を確認した。我が支部の戦力では、撃破は困難。今すぐに近隣支部は援軍を差し向けてくれ。繰り返す。こちら……」
スタジオの近くで爆発音がした。方向からして弾薬庫に引火したらしい。この支部の陥落は、どうやら避けられないと見た方が良い。
そう考えていると館内放送で支部の放棄及び撤退命令が下った。
「こちらサンタクルス支部。支部の放棄が決定。残存兵力の回収を求む。繰り返す、残存兵力の回収を求む。以上」
時間がないので、肝心な部分のみを繰り返して、機器のスイッチを落とす。
壁にかけていたStG44を背負い、オイルライターで原稿を焼き捨て、非常時用のハンマーを放送機器に数回叩きつける。
「急がないと……」
機器の後始末を終えた僕は、スタジオを飛び出した。
このキャスターさんが助かったかどうかは、皆様のご想像にお任せします。生き残ってケルンにいる娘夫婦の元に手紙を出せたのかもしれませんし、仮面ライダーに撃破されたのかもしれません。
このお話に最後まで出てこなかった麻由、つまり未来ですが、このラジオのリスナーだったそうです。またダブルライダーやライダーを味方する人達もドイツ語が分かる人は、みんな聴いていました。「リリー・マルレーン」を目当てに。