怪人
未来が並行世界で行方不明になって、もう1年になる。
あちこちの並行世界を探し回ったけど、未来がそこに現れたという情報もない。向こうの二課や私も血相変えて探し回ってくれたけど、結局見つからなかった。
このまま7年見つからなければ、未来は死んだことになってしまうらしい。それまでに見つけないといけない。
それで休みの日には、未来を探し回っている。でもなしのつぶてで、なんの情報も入ってこなかった。
ある日のこと、とある国の聖遺物研究機関が攻撃されるという事件があった。生き延びた人は数人で、その人達も大怪我をしていたらしい。
それでその人達が言うには、光線を発射する紫色の物を着た人に襲われたらしい。それも10人くらいで、みんな同じ顔をしていたって。
それを聞いて、ゾッとした。まさか、未来が犯人なんじゃないか。信じたくはないけど、紫色に光線なんて、未来くらいしか思いつかない。
ただ、それにしてはおかしな話もある。同じ顔の人が10人いたって話だ。10ツ子なんてそうそう居ないだろうに。何で、同じ顔の人が?
考えてみたけど分からなかった。
その3日後、事の真相が分かった。
同じような事件が起きて、丁度待機していた私とクリスちゃんが出動した。すると瓦礫の上に見覚えのある紫色のシンフォギアが見えたんだ。未来の神獣鏡だった。悪い予感が的中してしまったみたいだ。
「未来!」
急いで未来のところに行ったけど、それがいけなかった。向こうから紫色の光線が飛んできたんだ。
光線自体は、体を逸らして躱したから何てことなかった。それよりも撃った相手に、私は目を丸くした。そこにも
「えっ、未来が2人?!」
「おいおい、どうなってるんだ?!彼奴、双子だったのか?!」
これには、クリスちゃんもびっくりして2人の未来を見比べている。確か、未来は一人っ子のはずだから、双子の姉妹は居なかったと思う。あれは誰?
「来たね……」
「早く姉さんに知らせないと……」
2人の未来は、回れ右して何処かへ行こうとしていた。慌てて2人でそれを追いかける。このまま放っておいたら、未来の手がかりがなくなるかもしれないから。
追いかけて辿り着いた所は、何処かの山の洞窟だった。
「まさかこんな所に住んでたのか?」
「取り敢えず入ってみようよ」
恐る恐る中に入ってみた。
洞窟の中の道は広いわけじゃないけど、ある程度整地されていた。人1人通れる程の広さはある。
「こりゃ、人が作ったとしか思えねーな。一体この先に何があるんだ……?」
「知りたい?」
背後から急に声を掛けられた。寒気がする程、低い声で。
ゆっくりと振り向くと……、そこには目を閉じているけど、にこやかな表情を浮かべている未来がいた。でも様子がおかしい。白と紫のクリスちゃんが見たというエクスドライブモードのギアを装着しているんだけど、腰からよだれを垂らした大きな口のついた尻尾を生やしている。
おまけに体のあちこちに、手術をした後みたいな傷痕が浮かんでいる。
「み、未来?!」
「お前、どうしたんだ!? その身体?!」
「まあまあ、積もる話は中でしようよ」
口角泡を吹く私達を手で制した未来に、奥へと連れて行かれた。
奥には、ナチ・ドイツの鷲のマークに似た紋章のレリーフが壁に掛けられている部屋があった。
「趣味の悪い部屋だな」
部屋を見回したクリスちゃんの感想は、未来には悪いけど的を射ていたと思う。壁紙の色もおどろおどろしい色で、置いてあるソファーも気持ちの悪い色合いのものだったから。
「ご感想ありがとう。まぁ、座ってよ」
未来に促されてソファーに座る。
「あ、あのさ、未来」
「なあに」
「聖遺物の研究機関を襲っているのって、未来?」
「そうだよ」
あっけらかんと未来は答えた。
「何でそんなことしてるの?」
「仕事だから」
「仕事?」
「私を改造して使いたいって人がいてね。その人の命令で襲ったの」
全く悪びれる様子もなく、事もなげに言い放つ未来。その様子に寒気がした。そもそも
「正解。もしかしたんだよ、響」
「おい、まさかとは思うが、頭の中を弄られたのか」
「クリス、惜しい。全身弄られたんだ。だからこんな刺青みたいなものがあるの」
にこやかに答える未来。対する私達の表情は、きっと蒼くなっていたと思う。未来が一体何をされたのかは見当もつかないけど、こんなえげつない事をあっさりと何でもないかのように話しているってことからして、相当辛い目に遭ったのは察しがつくからだ。
「ごめん、未来。私のせいで……」
「あたしも悪かった。目を離している隙にそんなことになってたなんて……」
「大丈夫だよ。気にしないで。私は気にしてないから。だって……」
急に未来の目がくわっと見開いた。白目が真っ黒に変色していた。
「わざわざ私に捕まりにきてくれたんだもの」
「ま、待って! 未来。話を」
「それそれ、踊れ、踊れー」
その後は、13人の未来を相手に必死の思いで戦った。
みんな未来のクローンらしく、動きを簡単に合わせられるらしい。だから私達以上に、連携が取れている。
「クリスちゃんは、すぐに取り押さえられちゃったし……」
クリスちゃんは未来を取り押さえようとしたけど、あっという間に殴り倒されて返り討ちにあってしまった。それで今、見物している本物の未来の横で縛り上げられている。
兎に角、全員倒さないと始まらない。でも皆、未来だから私の考えることが手に取るようにわかるのか、攻撃しても躱されてしまうことが多いし、当てても師匠みたいに涼しい顔をしている。それに1人を倒しても、他の12人が攻撃の手を緩めないからきりがない。
3時間以上、戦ったけどこっちが疲れて動きが鈍くなったところで、取り押さえられてしまった。
「響、よく頑張ったね」
縛り上げられた私に、にっこり笑いかける未来。でも全然嬉しくないし、安心もできない。
「未来、私達をどうするの……?」
「怖がらなくていいよ。私とお揃いにするだけだから」
つまり、私達をサイボーグにしようってこと?
「そういうこと。慣れれば、案外悪くないよ」
「い、嫌だよ……」
「私もそう言ったなぁー」
いつのまにか白衣に着替えていた未来が、ポケットから注射器を取り出した。
「安心して。私が自分で改造してあげるから」
必死に逃げようとしたけど、未来の力が強過ぎて抜け出せない。
「それじゃあ、おやすみなさい」
注射器の針が首に刺さった。
この後どうなったかは、皆さんのご想像にお任せします。