陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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闇未来さん誕生のきっかけです。
なおこの未来さん、日常会話くらいならロシア語を話せます。仮面ノ世界で、一文字さんや滝さんに教えてもらったからです。


愛しのジェーニャ

「これで最後か……」

 雨の中、ライフルを持った兵隊に拳をぶつけて気絶させる。もうこんなことは、一年近く繰り返している。S.O.N.G.と連絡を取ろうにも、端末を壊されて失敗し、カラスの無線機も壊れてしまったため、私を狙う連中と孤立無援で戦いながら逃げるしかなかった。

 口から泡を吹いたのを見て、ライフルを奪いその場を立ち去る。

「人の事をネズミみたいに扱おうとして…」

 身体目当てのストーカーの犬との戦い。昨日は日本、今日はロシア…。その度に磨り減る心。まぁ、今は何とか支えになる人が居るけど…。

「人間もショッカーと変わんないね…」

 欲の皮が張ってしまえば、おんなじか。下らない。

 こんなラテンアメリカの片田舎にまで来たことは、褒めてやるが…。

「おっと、いけない。こんな連中と遊んでる場合じゃなかった」

 急いで帰ってあげないと。あの子がお腹空かせて待っているんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「今、帰ったよー」

「ミク、おかえり!」

 打ち捨てられた教会の裏口を開けると、金髪の女の子ージェーニャが飛びついてきた。ロシアで一度捕まった時に連れていかれた先で、出会った子。私のような体にされかけてたから、連れ出したんだ。

「遅くなってごめんね。1人で寂しくなかった?」

「大丈夫!それよりも早くご飯、ご飯!」

 すっかり懐かれちゃったな。まぁ、長いこと一緒に旅してきたもの。そうなるか。

 私にとっても愛しい子。この子だけは、何としても守る。

「はいはい、今日はね…」

 

 

 

 

 

 

「どうかな…、ジェーニャのお母さんほど美味しく出来てないかもしれないけど…」

 お粥の作り方は知っていても、カーシャの作り方は知らないからね。しかもトウモロコシで作ったものともなると、尚更だ。当然のことながら私のレパートリーにはない。そもそも料理のレパートリー自体、乏しいんだけどね。悲しいくらい。おにぎりの具にチョコレート入れようとして、台所から追い出されて以来、まともに料理したことないからそんなに良いもの作れないんだよ。翼さんよりかはマシだけど。

 ジェーニャが覚えていた作り方を教えてもらって、何とかそれっぽい物を仕上げてみた。この子の好物らしいから。

「美味しい」

「良かった」

 ロウソクの灯りの中、ふっと微笑む。

「死んだママのとはちょっと違うけど、これはこれで美味しい。料理上手になったね」

「ありがとう」

 何にもないけど、人間らしい生活って人間でなくてもおくれるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「近所の子たちとサッカーしてくる」

「気をつけてね」

 近くに住む子たちと仲良くなったらしい。良い事だ、友達ができることは。私は苦手な方だから。

「キャアアア!の、ノイズ!」.

 見送って、教会に入ろうとするとジェーニャの悲鳴が聞こえた。

 聖詠をして急いでかけつけると、アルカ・ノイズがジェーニャにジリジリと迫ってきていた。数はそこそこいる。

「ジェーニャ、こっち!」

 ジェーニャを背負って、空へ逃れる。

「しっかり掴まってるんだよ、いいね」

 脚から鏡を10枚ほど取り出し、ノイズ目掛けて攻撃する。幸い空を飛んでくるタイプはいない。

 しかしながら数が多い。ジェーニャを背負ったままだと、これ以上、来られたらたまんない。

「ミク、後ろ!」

 ジェーニャの声に振り返ると、後ろからコウモリみたいなのが迫ってきていた。

 慌てて蹴り飛ばして後ろから迫ってきていたもう一体目にぶつける。

「これじゃ、キリがない」

 無い物ねだりしても仕方がないが、装者がもう1人くらい欲しい。

 しかし何処から湧いてきたんだ。かなりの数いるけど…。

「こりゃ根っこを叩かないとダメそう」

 

 

 

 

 

 ノイズを倒しながら出所をバイザーで辿ると……、いたいた。密林の中でやけに目立つローブを着た怪しい連中が。とうとう錬金術師にまで目をつけられたか。大人しく金でも作る研究でもしてりゃいいものを。しかし…、何故に軍服着た連中と一緒にいるのよ。軍服には、U.S.ARMYって書いてある。出たな、アメリカ。翼さんのお祖父さんの部下並みに、しつこい連中のお出ましとは…。ラテンアメリカまで来たのに姿を見せなかったのは、なるほど錬金術師を雇うのに時間がかかったからか…。まぁ、いい。早く吹き飛ばしておかないと。

 アームドギアを射出して念力で浮かせ、大出力の光線を叩き込んだ。何人か消し飛んだようだ。蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。

「さぁて、何人生き残った…。6人か、そこそこの数だ」

 錬金術師は、今ので全滅したようだ。何とたわいもない。生き残りは、兵隊だけ。

「どう来る?」

 睨んでいると、ロケット弾が飛んできた。

 ひょいと避けて、林に光線を打ち込み火の海にする。こうすれば大丈夫だろう。

「生命反応消失…、あとはキャロルちゃんの遺産だけだ….」

 追撃してきたアルカ・ノイズを焼き払う。そこそこ数は多いが、さっき程じゃない。

 1分で全滅させ、教会に帰った。

「ミク、怖かったよ…」

「よしよし、もう大丈夫だからね」

 その日一日中、ジェーニャは私にくっついたままだった。怖い思いしたものね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジェーニャ、朝だよ。起きて」

「ママ…、おはよ…」

 ねぼすけさん。私のことをお母さんと思っているみたい。まぁ、悪い気はしない。

 ぎゅっと胸を引っ張るので、そっと抱きしめて頭を撫でる。

「仕方ないな…、もう少しおやすみ…」

 私ももう一眠りしようとしたときだった。

 窓ガラスを突き破って、手投げ弾が投げ込まれてきた。

「危ない!」

 急いでジェーニャを毛布に包み、部屋の隅に伏せる。手投げ弾の破片が飛んでくるが、当たるのは私だけだから問題ない。

「大丈夫?怪我はない?」

「ミク、何かあったの?」

「爆弾を投げつけられた。ここは危ないからはやく逃げよう」

 ジェーニャに私のコートを着せて、部屋を出ようとした。すると天井を突き破ってミサイルが飛んできた。

「うわぁあああ!」

 ミサイルがドアを突き破って爆発し、私達は爆風で吹き飛ばされた。私は壁に頭を打ち、気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いたたた…。大丈夫だった、ジェーニャ」

 暫くして気が付いたときは、辺りは一面、火の海になっていた。

 ジェーニャは……いた。近くでうつ伏せになって倒れている。でも反応がない。気を失っているのかな。

 仰向けにして確認すると、呼吸は微かにある。良かった。まだ大丈夫みたいだ。

「待っててね。今、お医者さんの所に連れてってあげるから……、うわぁ!」

 ミサイルが突き破ってきたところから、機関銃の弾が飛んできた。咄嗟に覆い被さろうとするも間に合わず………、何発かジェーニャの身体に当たってしまった。

「じ、ジェーニャ!」

 ジェーニャから夥しい量の血が出る。ダクダクダクダクと。

 ジェーニャはもう息をしていなかった。

「い、いや。ジェーニャ、目を開けて!お願い、ジェーニャ、ジェーニャあ!」

 

 

 

 

 

 

 コートを縄がわりに使い、背中にしっかりとジェーニャを括り付ける。

「ジェーニャ、行こうか。なぁに、もう大丈夫。怖いものは、私が追い払うから…」

 ジェーニャの血を顔に塗り、敵を睨み付ける。気づけば、色は黒いけどエクスドライブモードにもなっていた。

 天井を突き破り、用意したアームドギアを投げつける。

「お前には、取って置きをくれてやる」

 アームドギアは、そのまま丸鋸のようにヘリに喰らい付き、ローターを切断した。

 逃げ出そうとしたところを鏡を取り出し、狙い撃ちにする。

「逃がすわけないだろ!」

 ヘリのクルーを血祭りに上げると、地面からパラパラと鉛玉が飛んできた。

「そうか。手投げ弾を投げたのは、お前達か」

 アームドギアを2つ作り出して、空高く放り投げる。

「さあ、燃えろ!」

 合図をして、天光を発射する。

 1秒もたたないうちに、教会諸共半径100メートル以内の土地が消し飛んだ。

 それを待ち構えていたかのように、ヘリがどんどん飛んできた。陸には戦車と歩兵まで…。

「虫ケラが、死ににきたか…」

 そんなもので、今の私をどうにか出来るものか!

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、ジェーニャ…。やったよ……。怖い人達を追い払ったよ………。もう大丈夫」

 ヘリも潰し、戦車も爆発させ、歩兵は消しとばした。こっちの勝ちだ。

 涙が出る。おかしいな。ジェーニャが怖い思いしなくていいのに、どうして…。そうか。肝心のジェーニャが居ないからだ。虚しいなぁ。人間の力への欲の対象にされたあの子を助けて、逃げ回りながらではあったけど、それなりに2人で幸せな生活を送ってたのに。人間ではなくても、人様に迷惑掛けずに、細々と暮らしていこうと思ったのに。

 それがどうだ。欲の皮が張った屑共が、どこまで行こうと私達を追いかけ回して、最期はこの始末…。ジェーニャは死んだ……!私の愛しいジェーニャは死んだんだ。死んだんだぞ……!これからだというときに…!

「ジェーニャを返せぇぇぇえ!」

 泣き叫んだって意味ないのはわかっている。しかし…、言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またか…」

 ヘリの音がするので、撃ち墜とそうと思い、振り返った。でも今度のヘリは違った。S.O.N.G.のヘリだ……。やっと来てくれた。ただ……、

「遅すぎるよぉぉお!なんでもっと…、もっと早く…」

 わざわざ迎えに来てくれた皆に、こんなこと言ってはいけないのは百も承知だ。でも、でもね。もっと早く来てくれたなら、ジェーニャは、ジェーニャは死なないで済んだかもしれなかったのに…。そう言わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

「んぐっ…、久しぶりに嫌なことを夢に見てしまった…」

 ジェーニャが死んでから、人間を白けた目で見るようになったんだっけ。欲だけで、誰かの一生をぶち壊すことだってやりかねない奴らだって。まぁ、S.O.N.G.とか昔からの友達にはそんな目を向けないがね。

「チェックアウト、お願いします」

 ビジネスホテルを出て、カラスのハンドルを握り、宗谷岬を目指す。

 宗谷岬に着くと観光スポットには目もくれずに、小さな道を行く。そしてその道の終点には…、

「ジェーニャ、久しぶり。海の向こうのパパとママには会えた?」

 エヴゲーニヤ・スミルノフと書かれた立派なお墓、私が有り金全部使って建てたジェーニャのお墓がある。

「ここだとロシアが良く見えるから、ひょっとするとパパやママにも会えるんじゃないかと思ったんだけど、上手くいったかな」

 ジェーニャが好きだったヒマワリをお墓に置く。

「私は大丈夫。悪い人からは襲われてないよ。安心して…。少し時間がかかるかもしれないけど、また会いに来るから」

 長居すると涙が出てしまいそうになる。ジェーニャの所に行きたくなってしまいたくなる。でも。そうする訳にもいかない。だからここで…

「ダスヴィダーニヤ。またね」

 

 




響の他にも大切な人が出来ることは、十分にあり得ます。
そんな人に何かあれば、未来とてああなるのではないでしょうか。
ジェーニャには、響と同じくらい愛情を注いでいましたから。尤も掛けている愛情の種類は違いますがね。
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