陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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クローン未来のうち、定期的な血液交換が必要な子がいるということは、前のお話でも触れた通り。今回はその子と吸血鬼擬きのお話です。


暁のサハラ

「どうしたものかしら。合流場所が分からない」

 深夜のサハラの何処かで、私は今、1人途方にくれている。

 星が空からこの辺りを照らしてくれているけど、砂だらけ。周りに人家は無さげ。当然だけど、町もオアシスも見当たらない。

 持っているものといえば、水の入った小型のジェリカン2個と私のタイムリミットも表示している腕時計、輸血出来なかった場合に1時間それを遅らせられる緊急用の遅延剤1個、のど飴、それとギター。

「残り時間は……、3時間3分。S.O.N.G.の助けがこなかったら、夜明けとともに私はお終い」

 まるで朝日を浴びることが出来ない吸血鬼のように。

 

 

 

 

 

 

 下手に動いて体力を消費するよりも、ジェリカンを枕にゆっくりと寝て待つことにした。果報は寝て待てというし。

「CDプレーヤー持ってくるべきだったかしら。若しくは猫の写真」

「いや、コンパスを持ってくるべきだったと思うぜ」

 頭の近くで声がしたからそちらに目を向けると、私がついさっき戦った吸血鬼擬き、ミラアルクが居た。随分と消耗しているようだった。どうやら砂漠にはあまり慣れてないようだ。私のように砂漠向けの体ではないようだし。おまけに私にクリストをかけられた時に薔薇の棘であちこち刺されたからか、足取りも覚束ない様子。

「あら、千鳥足じゃない」

「誰のせいだと思ってるんだ……」

「もう一ラウンドやる?」

「遠慮しておくぜ。観客もレフェリーもいねーし」

 ふらふらと前のめりになって倒れてしまった。

「駄目だ……、もう動けねぇ……」

「水でも如何?」

「要らねえ。棘みたいに毒入りかもしれねぇから」

「あぁ、そう」

 でも脱水症状で死なれても困る。そこで無理矢理首根っこを掴んで頭を引き起こし、水を口に流し込んだ。

「何すんだ……!」

「飲んでおきなさいよ。毒薔薇だって、吸い上げる水は普通の水なのよ」

 

 

 

 

 

「死ぬかと思ったぜ……」

「あそこで飲まなきゃ、どのみち死んでるわよ。サハラにろくに水も持たずに飛び込めば……」

 暴れるミラアルクを押さえつけて水を飲ませて、こっちも水を口に入れた。流石に喉が渇いたから。

「さてと……、やる事はやったから私は寝る事にするわ」

「不用心な奴だな、お前。敵であるウチの目の前でよく寝られるぜ」

「貴女、もう碌に動けないでしょう」

「お前の寝首くらいならどうにか搔けるぜ」

「そう……、まぁどっちにしろ、夜明けまでにここが見つからなきゃ私も終わりよ。搔くのならそれまでにしておくことね。さて……、故郷のシュタイアーマルクの夢でも見て休む事にしましょう。お休みなさい……」

 殆ど故郷の記憶なんてない私に、そこの夢が見られるのかはわからない。未来のように悪夢ばかり見るわけじゃないから、まだ見られるかもしれないけど。

 

 

 

 

 

「おい」

 目を瞑って5分もしないうちにゆり起こされた。

「何のよう?」

「お前、日本人じゃないのか」

「見た目はそうだけど、あの国の土を踏んだ事なんて一度もないわ」

「あのヤニ臭い奴は、日本人だと聞いているぜ。彼奴の家族も、一度たりともシュタイアーマルクに住んでいた事はないらしいじゃないか。そんなお前がなんでシュタイアーマルクを故郷と言えるんだ。こんなにおかしな話はないぜ」

「私を製造した工場が、シュタイアーマルクにあったってだけのことよ」

「彼処に人間を作る工場があったなんて話、聞いた事ないぜ!」

「70年代のことよ。とっくの昔に潰されているわ」

「お前、一体幾つなんだ? ウチのじーちゃんばーちゃんと同年代ってことになるんだが……」

「さあ……? 改造人間に年齢なんか関係ある?」

「改造人間?」

「貴女みたいなものなのよ、私も未来も。錬金術師よりもずっとタチの悪いNSDAPの残党が、隠れて私達みたいなのを作っていた。70年代にね」

「さっきから聞いていて気になったんだが、あのヤニ臭い奴は本当は何歳なんだ。記録通りの18じゃ辻褄が合わないぜ」

「さあ……。それ以上は踏み込まないほうがいいわよ。誰だって家族のことは大事でしょう?」

 

 

 

 

 

 

 地平線の彼方が白み出した。夜明けが来たようだ。

「時間も……そろそろおしまいか……」

 タイムアップまで20分を切った。どうしたものか。

「ギターでも弾いていようかしら」

 昨日は疲れていたからその気力もなかったけど、今なら少しは弾けそうだ。

 遅延剤を齧り、ギターを爪弾く。

「おい、朝っぱらから何やってんだ」

「ギター弾いているのよ」

「呑気な奴だぜ……。遭難しているってのに……」

「移動する力もないし、何もしないで過ごすよりはマシでしょう。この分だと、体も持たないから」

 

 

 

 

 

 

 空から何かが尾を引いて飛んでくるのが見えた。人型だから、おそらく味方ではない。火を噴いて飛んでくる人は、知り合いにはいないから。

「隠れておいたほうが良さそうね」

 ミラアルクが人型の方を向いている隙に、死角になりそうな位置に移動して砂の中に潜り込み、息をひそめる。今戦っても勝ち目がないから。

「流石に消耗しているミラアルクを見れば、すぐに帰る事にするはずだけど」

 どうなるかはわからない。それに身体に少しずつ痺れが出てきた。タイムアップから20分過ぎている。

「残り40分」

 ここなら死んだところで、別に困らない。砂の下だから。少なくともパヴァリアの捕虜になるよりは、マシだと思う。何をされるか分かったものじゃないし。ダマスカスの研究所みたいな目に遭うのだけは嫌だ。

 

 

 

 

 

 

 暫くしてミラアルクは、仲間とともに北の空へ消えた。

 20分ほどして、南西から私を探しに未来がやってきたから顔を出した。

「遅いわよ。タイムリミット過ぎてるじゃない」

「ごめんなさい。思ったよりも南にいたようだから手間取ってしまって」

「思ったより? エジプトからは出ていないはずだけど」

「ここ、ニジェールだよ。しかももうあと何キロか行けばナイジェリア……」

 知らないうちに不法入国していたらしい。呆れた様子の未来の視線が痛かった。

「まぁ、いいや。肩に乗って。ナイジェリアの港まで飛んでいくから。その身体じゃ、満足に移動できないでしょう」

「ありがとう」

 

 

 

 

 

 潜水艦でシャワーを借りて砂を洗い流し、血液交換と報告を済ませてから、食堂でコーヒーを飲んでいた。砂糖を5個くらい入れて。

「砂糖なしで飲めないのね」

「ブラックコーヒーが苦手なのよ」

「そうだったね……」

 目の前でコーヒーを飲んでいる未来。何で砂糖なしでああやって飲めるのか、よくわからない。

「そういえば、パヴァリアの残党があなたの事、ヤニ臭いって言ってたわよ」

「キナ臭いよりはマシだよ」

「煙草やめたら?」

「無理無理。禁煙には何度も失敗してるから」

「あなた……、喉は大事にしなさいよ」

「そうだね……、でもスピーカーなんて大事にする気にもならないよ。本当の自分の声じゃないから。あなたが羨ましいよ。大事にしようと思えるのだから」

「これしか私の依る物がないだけよ」

「なるほどね……」

 今の私には、音楽以外にアイデンティティといえるものがないから、喉は大事にしなくてはならない。

「プロ顔負けの喉の持ち主は、言うことが違うよ……。砂漠から出てきたら、幾らでも人を惹きつけられるのに……」

「住みやすいから当分出るつもりはないわ。人もあまり来ないし」

「変わってるね。あなたも……」

「未来ほどではないわ」

 




如何でしたか。
今回出てきたのは、アレクサンドリア在住の砂漠戦仕様のクローン未来です。名前はローゼンシュトックと言います。
武装が極端に少なかったショッカー怪人バラランガの後継機としても開発された為、薔薇の改造人間でもあります。次世代型の核融合炉が搭載されていて、純粋な力比べなら弦十郎さんをあっさり打ち負かせるほどの膂力を持っています。近距離なら鞭やプロレス技主体の格闘戦、遠距離なら棘とビームの弾幕と戦闘能力もかなり高めです。
その反面、動力源の核融合炉とのマッチングが良くなかったらしく、血液循環に問題を抱えており、6時間毎の血液交換が必要になっています。
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