陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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久々に出る闇未来さんのお仕事風景のお話です。


ミノタウロス

「R-01 出撃準備完了。目標、中華民国澎湖島……」

 いつでも飛び出せるように、潜水艦のSLBM発射口を改装したカタパルトに身体を委ねる。横になっている人間を水浸しにする不出来な揺り籠だけど、これから寝るわけではないから特に問題はない。

「それでは行ってきます……」

「気をつけてな。何か用意しておいて欲しいものはあるか?」

「唐突ですね……。それならスコッチ・ウィスキーのモルトで……、美味しいやつを一杯用意しておいてください……。血の匂いが落ちる感じがするので……」

「分かった……」

 弾道飛行用のブースターに火が入り、身体が揺さぶられるのを感じながら、水面へと飛び出す。

 後はもう一直線にいつ見ても飽きない星の海を目指した。

 

 

 

 

 

 本日の獲物は、パヴァリア光明結社の残党。

 伝説上の怪物を再現しようなんて阿呆としか言いようの無い目的で、改造人間を作っている錬金術師が居るんだよ。本当に怪物ができた時のデメリットなんて考えたことないんだろうね。子孫でも倒すの苦労したのに、オリジナルなんて作られた日には、それこそお手上げさ。

 幸いな事に、奴さん達の製造技術は、ショッカー系の組織ほど発達していないんだ。目的がまるで違う組織を単純に比べるのは良い事とは言えないが、あの手の組織では、私の記憶にある限りだと、血液交換が必要な改造人間なんか1つの組織につき1人いるかいないかだったし、動植物の能力はしっかりと再現されていた。何より怪人クラスの奴は、人間態で日常生活を送ることに支障を来すことはなかった。

 それがパヴァリアじゃ、一々血液交換が必要で、尚且つ怪物の力をまともに再現できていない。ゲルショッカーの戦闘員じゃないんだから。日常生活を送るのもままならん奴を作ったんじゃ話にならないよ。

 取引やお仕事で、その改造人間のうちの何人かは会ってるんだけど、まぁ人間の世界に溶け込んでいる私達よりも生活環境は劣悪だった。パヴァリアの残党はあちこちで名目つけて摘発されているし、おまけに色んなところにスポンサーがいる私達と違い、あの人達にはそんなの無かったのよ。パヴァリア光明結社は、何とショッカーみたいに地道にどこかの国の政府との間でパイプを作っておくようなことをしていなかったらしい。精々、シノギのための企業を作っていたくらい。だから屋台骨がへし折られた時に、庇ってくれそうな人は誰も居なかったんだ。

 翼さんのお爺さんがパトロンになろうとしたらしいんだけど、同じ時期にななみに手を出したことを私とミライに察知されて、結果としてあの人はミライに殺され、風鳴機関も私達姉妹と弦十郎さん達で壊滅させられたから、その話はおじゃんになったそうな。

 そんなものだからあの人達の生活は、逃げ回っていた頃の私と同じくらいか、あるいはそれより下という酷いものになっていた。血液培養器のある今は、少しはマシかもしれないけど。ただあの身体は、どうみても潰しが効かないんだよね……。

 

 

 

 

 

 おっと、本題から逸れてしまった。

 今回のパヴァリア残党は、どうも香港支部にいた人らしい。大方、最近のゴタゴタで不安定な香港を引き払って、台湾に逃げ込もうとでも考えたんでしょう。そん時に足を洗えば良かったのに。少なくとも私に関わる可能性は、大幅に下がったと思うよ。

「まぁ、死んでも治らないんでしょう。そして仏の邪魔になる……」

 永遠の命とかいうのを手に入れようとして、人様の体を化物にしてるんだから救いようがない。まぁ、正気には戻りますまい。そんな物手に入れられるなんて考えた時点で狂ってる、狂ってる。それらしき体のサンジェルマンさんだって最後は死んだでしょうに。

「まぁ、そんな下らないことの論議はしませんけど……ね!」

 奴さん達が篭っている旧日本軍の要塞が見えてきた。

 ブースターを切り離し、置いてあるヘリコプターにぶつけてこれを吹き飛ばす。ドアのチャイムなんかどうせないだろうからその代わり。

 玄関口から飛び出してきた一人に、飛んできた勢いのまま体当たりして弾き飛ばした。無論、そのままでは終わらせない。

 倒れた所を左腕でしっかり抱えて、首を締めあげた。

「早速で悪いけど、身包み脱いで置いてきな」

 

 

 

 

 

 

 

 錬金術師から奪った服を着て、中に入り込む。勿論、本物はアダムとかいう奴がいる所に送ってあげた。

「お茶くらい出して欲しいな……」

 すると湯呑茶碗のお化けみたいなアルカ・ノイズが5体も出てきた。チャポチャポと中に液体が入っているような音を立てて、こっちに近づいてくる。良い香りもするし、湯気が立っているから、もしかすると本当にお茶が入っているのかもしれない。

「一杯だけでいいよ……」

 アームドギアを投擲して、真ん中にいた奴の口の中に放り込む。すると液体で跡形も無く溶かされてしまった。

「あらま」

 近づくと危ない。ここは飛び道具を使ったほうが良さげだ。だがアームドギアだと、威力がありすぎる。だから……。

「マスターキーちゃん、出番だよ」

 腰に下げていたレミントンM870を引き抜き、散弾をお茶碗に盛ってあげた。

 

 

 

 

 

「あーあー、床が抜けちゃった」

 アルカ・ノイズの溶液で開いた穴を飛び越えて、奥へと進む。

 地下室へと続く階段があったが、照明の裸電球は切れかかっていて、手摺りも所々で壊れていた。

「こんな老朽化した建物をそのまま使っている時点で、パヴァリアの生き残りの懐事情がわかるよ。素寒貧なのに大暴れしたF.I.S.と違って、地下に潜んでいるのは賢いけどね」

 それに崩落の危険があるから、アームドギアを意図的に使わせないようにもできる。少しは頭を使っているわけだ。

「お陰でヴァルター爺さんに頑張ってもらわないといけなくなるし……、年寄りは労るものだって教わらなかったのかな……」

 80年もののワルサーP38を片手に、これまた愛用のオイルライターで先を照らしながら階段を下りた。

 

 

 

 

 

 階段の踊り場に着くと、思わず足を止めた。

 下の方から変な臭いがしたんだ。物が腐った臭い。もう嗅ぎ慣れた嫌な臭い。それがプーンと下の方から漂ってきたんだ。

「たわわに実ってるねぇ……、奇妙な果実がこんなところでも……」

 でも奇妙な果実や鮪はあちこちで見慣れたから、一々足を止めたりはしない。

 足を止めたのは、変な声が聞こえてきたからなんだ。人間の唸り声っぽいんだけど、どうも違う感じ。どことなく動物の唸り声にも似ている。

 お化けや幽霊の類なら、神獣鏡でどうにでも料理できるけど、9割がたそうじゃない事ばかりだから簡単にはいかない。

 そんな事を考えながら階段を降りると一本道の通路があり、奥にドアがあった。この奥に変な物があるのは間違いない。

「さてさて、鬼が出るか仏が出るか……。どちらも出てきそうだけど……」

 仏の方は臭いからして確実に1人はいる。鬼はわからないけど。

 ドアノブに手を掛け、意を決して一気に引っ張る。

 するとそこには…………、ポツンと井戸が一つあるだけだった。他には何も無い。ただ井戸があるだけ。

「井戸……? お菊さんでも出てくるわけじゃあるまいし……」

 第一、さっきの声は男の声だ。

「井戸の中が、どこかに繋がっているのか……。くさいネタを使うね、錬金術師も……」

 

 

 

 

 

 そのままでは入れそうにないから、ギアを解除して井戸の中に入る。当然のことながら水は枯れていて、底の方に僅かにチョロチョロと出ているだけ。

 そして底には、人1人が立って通れる高さの道が出来ていた。そして腐臭と声に加えて、何かをくちゃくちゃと噛む音が聞こえる。

「ここで何を飼ってるんだ?」

 ライターで照らしながら、通路を進む。すると途中でカランと何かを蹴った音がした。見てみると誰かの頭蓋骨。

「ご、ごめんなさい!」

 道を照らしてみると、仏さんが何人か転がっている。焼いたわけでは無さそうだ。さっきの骨は違うけど、所々魚のアラみたいに肉がくっ付いている。

 少し落ち着く為に口にペルメルを咥えて点火する。

「向こうにいるのは肉食獣か……。ニコチンで動物避けはできるかな……?」

 

 

 

 

 

 

 仏さんを避けながら、先に進むと天井が高い所に出た。しかし壁は高く出来ておらず、仕切りのように建てられていた。

 ギアを再度装着して宙に浮いて、この場所がどうなっているのか確かめて見た。すると大きな迷路になっていた。

 恐らく改造人間がいるのはここだ。

「迷路といえば……、なあるほど。あいつだな……」

 神話の怪物で迷路といえば、あれしかいない。同じコンセプトの奴を一度倒したことはあるが、パヴァリア版のはどうかな? 

 

 

 

 

 

 一々、迷路を辿るのは面倒だから、空から探した。

 するとまぁ、居たよ。牛男ことミノタウロスが。こんな物再現するなんてどうかしてるよ、カルトって奴らは。

 地上に降り立つと、その音でこちらに気づいたミノタウロスは突進してきた。

 前足を振り上げ、こちらを踏み潰そうとしたのを両手で食い止める。そのまま力比べになり、お互いに足を踏ん張って押し合った。

「そこそこパワーはあるね……、でも」

 後ろへ体を倒しながら、ミノタウロスを引っ張って、胴体目掛けて両足でけりを叩き込んだ。

 牛男はそのまま体を投げ出され、背中から地面に叩きつけられて、そのまのびてしまった。

「骨がないね。ヴァネッサやエルザの方がまだ強かった」

 さあて、こいつどうしたものか。見た目は牛っぽいけど、まさかすき焼きやステーキの材料には出来ないし……。そもそも私、人喰いは逃げ回っていた時みたいに、食べ物がない時にしかしたことがない。不味いから。響は5度ほど食べたくなったことがあるけど……。

 

 

 

 

 

 仕方がないから、取り敢えず叩き起こした。ひっくり返ったままだとどうにもならないだろうし。事情聴取もしないといけないから。

 "Who are you? "

 あら、ギリシア語じゃなくて英語を話すんだ。これは助かった。

 "Well, me name are of little importance. If anything, I are the same kind of you."

 本当に名乗るほどの名前でもないしね。ただミノタウロスの反応は、明らかにこちらを信用していそうにはなかった。

 "The same kind? It's hard to trust that."

 "Exactly. If I were you, I might say what you said. Needless to say, it ain't easy to Adam and Eve a stranger."

 "You're right. "

 

 

 

 

 このミノタウロス、正体はフィラデルフィア在住のアメリカ人で、クリストファー・スタンリーという銀行員だった。

 この人自身は別に錬金術と関わりはなかったのだが、奥さんがパヴァリアの錬金術師だったらしく、その人相当に「永遠の命」にこだわっていたんだって。怪物を再現する研究にも積極的に加わっていたそうだ。

 パヴァリアが壊滅する少し前に、奥さんが妙な事をしていることを知ったこの人は、何とかそれをやめさせようと支部に乗り込んだらしい。それで捕まって、奥さんにこんなにされた挙句、あちこちの支部をたらい回しにされて、現在に至るのだとか。 

 酷い話だね。狂った奥さんに体をめちゃくちゃにされて、扱いに困ってこんな所に押し込まれるんだもの。私よりも悲惨だよ。

 しかしまぁ、旦那さんを研究体に使おうとするなんて。人様に迷惑かけるくらいなら、大人しく金の錬成でもしてりゃいいんだよ。

 "So, Mr. Stanley . What are you going to do next? "

 "I'm not sure. But obviously, I will never get back my homeland. "

 確かに2度とフィラデルフィアには戻れないよね。その身体じゃ。元に戻す方法もないことだし。

 "Anyway, please come with me. S.O.N.G. or the Japanese organization comes to rescue you from Illuminaten. "

 "Well, you're the member of that team? "

 "Yes, sir "

 胸のポケットに入れてある身分証明書を目の前に突き出す。

 "I'm glad to hear that . But why didn't you tell me that earlier? "

 "Sorry "

 確かに早く教えりゃ良かった。一々、取っ組み合いしなくても済んだし。

 

 

 

 

 地下にあった書類を回収して、ミノタウロスを連れ帰り、任務は終了した。

 報告書を書き終えて、シャワーを浴びてから、用意してもらったウィスキーを飲みに艦内のバーへ行った。

「あの人、どうなりそうです……?」

「当分は、日本で匿うことになりそうだが、それから先はまだ決まってない。彼は、帰国してアラスカにでも移住しようと考えているようだが……」

「人殆どいませんからねぇ……。しかし人間のフリができない身体じゃ、そこまで行くのが大変そうだ……」

「俺もそれを誤魔化す手段が無いか、八紘兄貴と相談している。だがこんな事は未だかつて無かったからな。どうなるか分からない」

「やっぱり難しいでしょうね……。私が最初に会ったエルザのような子なら誤魔化しようはいくらでもあるんですけど、頭がまんま牛では……」

「ああ、はっきり言って整形手術や特殊メイクでどうにかなるレベルじゃない」

「頭が痛くなりますね……、まだ半分しか飲んでないのに……」

 折角のウィスキーが、ただの麦茶みたいに感じるよ。隣で飲んでいる弦十郎さんからしても、酒が不味くなる話みたいだ。

「問題の解決は、ずっと先になりそうですね……。それにしても……」

「どうした?」

「いえね、パヴァリアの残党を見て考えたんですけど、私を改造したショッカーの方が、ある意味では人道的に見えてくるんですよ。不思議なことにね……」

「ほう……、何故そういう風に見えるんだ?」

「まだ人型に戻れるようにはしているんですよ。基本的にテロを仕掛けるのが仕事だからってのもあるのでしょうけど。正気にさえ戻れば、人間のフリは辛うじてできますから。こんな事さえしなければ……ね!」

 ふらっと席を立って、近くにあった手洗い場の蛇口を捻って壊した。

「なるほど。確かに君の場合は、力加減さえすれば済む話だ」

「そういうことですよ……。見た目さえ気にしなければ、それで済むんです……。ところがパヴァリアにはそれがないから、社会復帰は困難……」

「恐らく脱走の防止も狙っていたのだろう。定期的に輸血しなくてはいけない改造人間も居たくらいだ。その線は、十分あり得る」

「非効率なことが好きですねぇ……」

 ゲルダムショッカーの時に、一時期そういうタイプの改造人間が製造されていたけど、維持費が嵩んですぐに取りやめになっていた。壊れやすくするわけだから当たり前だ。

 奴らが3週間で気付いた欠点を錬金術師は気づいていないらしい。金など錬金術で作れるとでも思ったのかな。

「非効率なだけならまだいいですけど……、人間のフリができないのは致命的ですよ……。そんなの作ってまでして死にたくなかったんですかね……。嫌な物ですねぇ。関係ない人の人生を取り返しのつかない形で狂わせてまで、自分達は生き延びようとしている。あー、醜い醜い」

「全くだ」

 ウィスキーを飲み干し、空になったグラスを置き、席を立った。

「今夜はご馳走様でした……。ちょっとメルボルンのヴァネッサに電話してきます……」

「そうか、あまり長くならないようにな」




如何でしたか。
パヴァリア光明結社では、サイボーグの製造に関しては、技術的にはそこまで発達しているようには思えないんです。組織の目的と合致しているわけではないようですし、エルザもミラアルクも完成度からいえば決して高くはないそうですから。
それにしてもショッカーとパヴァリア光明結社とでは、どちらがマシなんでしょうね。未来はああ言ってますけど、所詮はどっちも独りよがりな目的で暴れていただけのテロ組織ですからね。
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