陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

26 / 31
ドールハウス奇譚

 ふらわーに顔を出しに行った時、おばちゃんから変な話を聞いた。

 何でもここから少し離れた住宅街に見慣れないお屋敷が建っているのを見たんだって。それも特に工事が行われていた様子はなく、何も無い空き地だった場所に、2週間前に何の前触れもなく現れたらしい。

 おばちゃんの知り合いがその土地の持ち主で、屋敷の住人に抗議しにそこへ出向いたそうなんだけど、行ったきり帰ってこなかったんだ。心配したその人の息子さんが様子を見に行ったんだけど、その人達も行ったきり雀。

 その後、奥さんが警察に届け出をして、それを受けて2人の警官が屋敷に捜索に来たのだけど、この人達も案の定行方不明になったらしい。

「それでね、あそこにはこの辺りの人間は近寄らないようにしているのだけど、面白半分で肝試しに入る子供が何人もいてね……。私が止めても聞かなかった子達はそのまま入り込んでしまって……」

「そして結果は言わずもがなと……」

 おばちゃんは頷き、更に話を続けた。

「警察もどうやらお手上げらしくてさ……、どうしようもない状況なんだよ。それでひょっとしたらと思って、未来ちゃんにこの話をしたんだけど……、何とかならないかね?」

「うーん……」

 そう言われても、こっちは改造人間作りを叩き潰すか、リスク管理のなってない科学者や錬金術師の火遊びを止めるのが専門だからなぁ……。でもその屋敷をそのままにしておくのは、かなり危ないのは目に見えているから、切り捨ててしまうのはやめた方がいいだろう。

「とにかくそのお屋敷というのを見に行ってみるよ……。一旦見てからでないと……、ウチでもどうにかなる物かどうかの判断も尽きにくいから……」

「ありがとう。急にこんな事頼んで申し訳ないね」

「いいよ……。そんな不気味な物が近くにあるなんて……、おばちゃんだって不安だろうし……」

 

 

 

 

 帰りに件の屋敷に立ち寄って写真を撮り、司令室にいる弦十郎さんにそれを見せながら報告すると、まだS.O.N.G.にはこの一件に関する報告は来ていなかったらしく、詳しく話を聞かれた。こんな薄気味悪い話、裏側に何かありそうだものね。

「行方不明者が出始めたのは、その屋敷が出現した直後からかな?」

「そのようです。おばちゃんの話によると、土地の所有者がそこに乗り込んだのは、出来てから2日後のことと言っていました」

「そして彼の御子息が翌日様子を見に行き、そのまま行方知れずになり、捜索願を受けて見に行った警官2名も行方不明か……」

「おまけに無鉄砲な子供が、おばちゃんの知る限りでは8人ほど入り込んだきり、帰ってこなかったそうですよ」

「つまり少なく見積もっても12人は消えた訳だな。これは少し調べた方が良さそうだ」

「私みたく()()()に遭った可能性も無きにしも非ずですからね」

 途端に弦十郎さんの表情が曇った。それはそうだ。私のような目に遭って、生きて帰るのは相当キツい話だから。一応、首領が作った組織自体は壊れているから、奴が関わっている事はないと思うけど、ケースがケースだから手を出している可能性が無い訳でもない。

「神が関わっていない事を祈ろう」

「ええ」

 

 

 

 

 それからS.O.N.G.から調査団を送る事になったのだけど、問題が一つ起きた。アフリカのマリでアルカ・ノイズを使った襲撃事件が起きて、それの対応に響とクリスが出向く事になったんだ。

 その結果、戦力が2人減り、私と切歌ちゃんと調ちゃんの3人で屋敷に行く事になった。2人ともそこの事は知っていたらしく、話を聞いただけで合点がいったみたい。どうもリディアンでも噂話の種になっているんだって。屋敷に入り込むと人形が襲いかかってくるとかいう有りがちな話なんだけどね。

 ただそれを信じ切っている切歌ちゃんからすれば、かなり嫌みたい。「お化け屋敷に行くくらいなら、あっついアフリカの方がずっといいデス……」って気落ちした表情で言ってるくらいだもの。確かクリスと同じくらいの怖がりだったし、そりゃ嫌だよね。

 その反面、調ちゃんはそこまで怖くない様子。まぁ、この子はその手の話の耐性は強いから、それほど気になってないのかも知れない。とはいえ屋敷に夜中に乗り込むのは、全く気乗りしない様子だけど。

「昼に調査するのは無理だったんですか?」

「それがどうもね……。聞き込み調査で分かった事なんだけど……、ここ太陽が出ている間は入れないんだよ……。正門からも裏門からも鍵が掛かっていて入れない……。でも夜になると……」

「目の前で口を開けて待っている訳デスか……。ヤバイ臭いしかしないデスよ……」

 それに関しては、切歌ちゃんの言う通りだ。建物の出自なども併せて考えても、どう考えても碌でもない物が潜んでいそうだし。

「とにかく乗り込むだけ乗り込みましょうか……」

「そうですね」

「ハ、ハイデス……。あの未来さん、怖くないんデスか?」

「全然。そういうの気にしていたら生きていけないもの……」

 

 

 

 

 玄関では、都合の良い事に灯が付いていて、辺りの様子を見るのは思ったよりも簡単だった。だがそれは、見たくないものも見えやすくなることでもある。例えば……。

「何だこれ……。タス……ケ……」

 ケから引き摺られたのか、下に伸び切った文字が見つかった。口紅とかではなく、多分血文字。あちこちに血痕もあるからその可能性が高い。

「ここにもありますよ。コロ……って」

「本当だ……。あっ、ちゃんとコロサレルって書いてあるのもある……。書く暇があるなら外へ出たらいいのに……」

 ホラー映画でよくある展開のように、扉に鍵は掛かってないし、脱出する事自体は容易だ。しかし脱出した人間がいないということや血痕などから考えて、おそらく行方不明者はかなり痛めつけられてから、何処かに連れて行かれたと見ていいだろう。

「だ、大丈夫なんデスかね……? 消えた人達は……」

「さぁ……? でもこんな物があることからして……、生きてるかどうかは分からなくなったね……」

「大丈夫だといいのですが……」

 

 

 

 

 

 それから玄関を出て廊下に進んだ。明かりが無かったから、持参したリュックサックから取り出した懐中電灯で照らしつつ、3人で奥へと進んだ。ここの壁にはダイイングメッセージのようなものは無かったが、床に敷かれた絨毯には所々、重たい物を引き摺ったような跡が残っていた。おまけに血痕もある。

 それを辿って行くと、奥から3番目の部屋にその痕が続いていた。

「案外、あっさりと見つかりましたね」

「うん……」

 何だか拍子抜けしちゃう。

「それじゃあ……、少し退がってて」

 2人を一旦後ろに退がらせて、まずドアを3回ノックした。

 すると向こうから同じ回数のノックが返ってきた。これを聞いた切歌ちゃんは、もう顔を真っ青にして、調ちゃんに飛びついた。

「デェェス!」

「慌てなさんな……。まだ正体は掴めてないんだから……」

 でもまぁ、部屋に誰か居るのは分かった。ならドアを蹴破るのは、ちょっと危ないな。

 そこでドアノブに手を掛けて、ドアがどちらに開くのかを確かめた。そして内開きになっているのを確認して、一気にこちら側に引っ張って蝶番を壊し、床にドアを放り投げた。

「よーし、準備完了……。それじゃあ入ろうか……。どうしたの……?」

 2人とも何をやっているんだと困惑した様子で私を見ている。ドアをひっぺがしたのは不味かったかな? 

「いや……、かなり豪快に建物を壊していくなって……」

「出られなくなったら困るでしょ……」

「なるほど、それもそうデスね。扉を壊せばその可能性も無くなるデス」

「そういうこと……。じゃあ入ろうか……」

 

 

 

 

 

 部屋は大体10畳くらいの広さで、置いてある家具は椅子が4脚とテーブル1台、そして暖炉と人形が置かれた棚3台の全部で4種類。

「置いてある人形は……、ラガディ・アン人形が一つと残りは値打ちのありそうなビスクドールが5体か……」

 ラガディ・アンは、オクラホマにある滝さんの家にも置いてあった奴とほぼ同じ見た目で、特に気になるような事はない。問題は、ビスクドールの方だ。

「やけに大きな人形ですね。ビスクドールって、こんなに大きい物なんですか?」

「アタシ達くらいの大きさはあるデス」

 そう。2人の言うように、やけに大きいんだ。アンティークショップでビスクドールを見た事が数回あるのだけど、どんなに大きくても今見ている物の3分の1位の大きさ、つまり大体50センチくらいの大きさの物しか無かった。そこのご主人に聞いてみても、これ以上の大きさの物はまず出回ってないという話だから、私達位の大きさのあるビスクドールに、違和感を感じずにはいられなかった。

「どんなに大きくてもあれの3分の1くらいらしいよ……。おっと、それよりも行方不明者を探さないと……」

 見たところ人はいなかったから落とし物などがないか、一先ず探す事にした。ハンカチとか財布とか、何かしらの私物が落ちていてもおかしくはないから。

 しかし予想とは裏腹に、それらしき物は全然見つからなくて困り果てていると、横からスッと名刺入れが差し出された。

 それを受け取り、中を検めると失踪した警察官の運転免許証が出てきた。

「役に立ちそうな物をありがとう……、ん?」

 あれ、今のは一体誰が渡してくれたんだ? 

 気になって差し出された方を向くと、横に鉈を振り上げたビスクドールがいた。

「うわっ!」

 振り下ろされる前に、人形の足元に転がって体当たりをして、ひっくり返す。

 そして体勢を崩して床に倒れて割れた人形の頭と胴体を引っ掴んで、他の2人を襲おうとしていた二体の人形の右腕目掛けて投げつけて粉砕し、継戦能力を奪う。

「陶器だから割れやすいのか……」

 でもこれなら態々ギアを装着しなくても大丈夫そうだ。

「おっと、考えているそばから」

 どこから湧いてきたのか、4体の人形が一斉に鉈を振り上げて襲いかかってきた。

 一気に飛び上がって、目の前にいた人形の後頭部を蹴り付けて他の3体の餌食にさせる。そして半壊した人形の両脚を引っ掴んで得物にし、残った人形へと叩き付けた。

「ふぅ……、2人の方は……」

 振り返るとどちらもギアを装着して、人形相手に特に苦戦する事もなく戦っていた。援護の必要は無さそうだ。

「私は私の仕事を片付けますか……」

 そう呟きつつ、私はよそ見している隙に斬りつけようとした奴の顔に裏拳を喰らわせた。

 

 

 

 

「結局、誰もいなかったね……。無駄に体力使っただけ……」

「骨折りもうけのくたびれ損デース……」

「切ちゃん、それを言うなら骨折り損のくたびれもうけ……」

 結局、3人とも人形の相手をしてクタクタになっただけで、名刺入れ以外の手掛かりは何にも得られなかった。掛けた労力に対して成果はたったこれだけ……。何だかなぁ……。

 しかも隣の部屋はどうかと調べてみたら、今度は兵隊の格好をした男のビスクドールがパイクで襲いかかってくるものだから、さぁ大変。

 おまけにそいつらをやっつけたらやっつけたで、残りのドアから人形が出てくるからもう溜まったものではなかった。

「これじゃ、捜索どころじゃないですね……」

「うん。こんなに手数が多いんじゃ……、こっちも戦力を増やさないと……」

「となると、ここに来るのはもう少し後になりそうデスね……」

 仕方がないから一度本部に引き上げようと、玄関のドアノブを引いた。でも開かなかった。

 それならと押してみたけど、これまたピクリとも動かない。

 そこで鍵を外し忘れた事を思い出して回そうとするも、全然動かない。どうなってるの……? 

「未来さん?」

「どうしたデスか?」

 心配そうに覗き込む2人に、私は引きつった顔で答えた。

「開かない……」

「えっ?」

「ドアが開かない……!」

「な、なんデスとぉーッ!」

 

 

 

 

 

 あれから色々試したけど、ドアはびくともしなかった。おまけに外と連絡を取り合う事は不可能で、完全に外部と遮断されてしまっている。

 だからといってそれを嘆いても始まらないから、一先ず今後の対策を練る事にした。

「2人とも予備のLiNKERは……?」

「それぞれ1本ずつあります。でも連続投与だと、効果の持続時間が1時間だけに……」

「ってことは……」

 門の前で2人はLiNKERを打っていたから、あれから3時間ほど経っている。LiNKERの1発ごとの効き目は確か7時間くらいだから、この子達が戦えるのは、長く見積もって5時間か……。気休め程度に、2人とも護身用にピストルは持っているけど、そんな物はあまり当てにはできない。

「短期決戦を狙わないとタイムアップになるね……」

「デース」

 となると早いところ行方不明者の手掛かりを探らないと。しかし手掛かりになりそうな物はないに等しい。でもここに居ても干からびるだけだ。何か見つけないと……。

 立ち上がって辺りを見回した時だった。

 やけに古臭い格好をした年の頃10歳くらいの女の子が、廊下へと続くドアの向こうからこっちを見ているのが目に入った。特に何か言うわけでもなく、少し開いた隙間からずっとこちらを見ている。

 2人にそのことを伝えようとした瞬間、急にドアをパタンと閉じて、彼女は何処かに行ってしまった。

「今の音は何デスか?」

「そこから女の子がこっちを見てた……」

「えっ!」

 慌てて立ち上がり、3人で廊下へと駆け込んだが女の子は影も形も無かった。パタパタと走る音が遠くから聞こえたから、廊下を奥へ奥へと進んだのだけど、子供の足ならすぐに追いつける筈なのに、全然見つからない。

 しかもこの廊下、様子がおかしかった。さっき入った時は一本道で距離もそれほどなかったのに、前よりもずっと長くて、あちこちに角がある。おまけに個室に続くドアが1つも見当たらない。どうなってるんだ?! 

「もしかして屋敷の中が組み変わっているんじゃ」

「それじゃまるで出口のない迷路デース」

 本当に切歌ちゃんの喩えの通り、出口が無い迷路の中を駆け回っているだけになる。このまま動き回らせてこちらを消耗させる気か。敵さんは。

 

 

 

 

 

 廊下を突き進むこと、40分。終点に辿り着いたのだけど、そこは行き止まりだった。

 壁を叩いてみたのだけど、隠し扉のような物はないし、人が隠れられそうな物はなかった。その代わりに、最初に入った部屋の中にあったラガディ・アン人形が、台の上にちょこんと置いてあるだけだった。

「本当に女の子が覗いてたデスか?」

「うん……。生きてるか死んでるかまでは分からないけど……、確かに人間の女の子だった……」

「実際に走る音は聞こえましたからね。でもここに来るまで、ドアどころか窓一つ無かったですから、ここに行き着く筈なんですけど……」

 一体あの子はどこに消えたのか。頭を悩ませていると、廊下の向こうから足音がした。音の様子からして、大勢の人が近づいているようだ。

 もしかして行方不明者が私達に気づいたのではなどと、都合の良い事を考えたけど、そんなに世の中上手くいくはずがない。来たのは、人形の大群だった。

「これじゃ袋の鼠……」

「や、ヤバイデスよ!」

 2人がアームドギアを構えて迎え撃つ姿勢を整えたのに続き、私もアームドギアを構えた。その時だった。

 トントンと肩を叩かれたんだ。

 背後へ振り返ると、さっき私達を覗き見していた女の子がいた。

 こちらが何か言うより先に、その子は氷のように冷たい手で私の腕を掴んで、いつの間にか壁に出来ていた穴の中へと引っ張り込んだ。

「うわぁぁぁあ!」

 

 

 

 

 

「起きて……」

 体を揺さぶられて目を覚ますと、墨を塗ったような真っ暗な空間の中で、あの子が顔を覗き込んでいた。暗い廊下をさっきまで歩いていたからか、顔がはっきりと見えた。

「わっ!」

 思わず飛び退くが、それに動揺することもなく、女の子は真顔でこっちを見ている。

 行方不明者にこんな顔の人はいなかったし、服装もやけに古臭いから違うとは思うが、身元確認の為にあれこれ聞いてみることにした。

「き、君……、行方不明者?」

「違う」

「じゃあ、あの人形?」

「違う」

 フランス人形に化けられるサタンドールってのが、昔相手をした怪人の中にいたから試しに聞いてみたのだけど、これも違うらしい。あの人形くらいしか、あそこには物がなかったからひょっとしてと思ったのだけど、流石にないか。サタンドールは、宇宙人だったし。

 はてさてこの子は何者だろうか? 正体について頭を捻っていると、向こうから訥々と話し出した。

 何でもこの子、いやこの人はあのラガディ・アン人形の持ち主だったそうだ。ただそれはずっと昔々の話。それも100年近く前の大正時代の話らしい。

 一体なんでその時代の人が、私よりも幼い姿でいるのか? 答えは簡単。どの人にも例外なく訪れる事象により、それ以上、歳を取ることが出来なくなったからだ。まぁ、錬金術師でもない限り、不老なのはそのくらいしか説明の付けようがないから、正体に関しては納得ができた。

 ただ正体は分かっても、この人がなぜ今回の大騒ぎを起こしたか。その動機がいまいち思いつかない。この手の人達には、何かしらの目的がある物と相場は決まっているもの。

「一体、どうしてこんな事件を起こしたんですか? 差し支えなければ、教えていただきたい」

「見つけて欲しかった……。あと遊び相手が欲しかった……」

「見つけて欲しかったと、遊び相手が欲しかった……」

 後者は容姿から見てなんとなく分かるが、前者は一体……? 

「お父様もお母様も見つけてくれなかった……。私、地震の時からずっとここにひとりぼっち……」

「地震……?」

 大正時代で地震といえば……、そうか! この人はその時に……。

 大方、ご両親もその時に亡くなったのだろう。それでこの子も見つけられることなく、いつしか忘れ去られていったのか……。

「ずっと待ってたけど、誰も見つけてくれなかった……。それで寂しくて、お屋敷を出して……。でも……」

「引き込んだ人は、遊び相手になるどころか気絶されたと……」

 その子の背後に、気を失った人がいることからして続きは読めた。無理もない。こんな目に遭えば、普通はああなる。

 それはさておき……、とにかく動機は分かった。

「なら……、私は貴女の遊び相手になればいいのかな?」

「うん。気が済んだら、そこの人達と一緒に返してあげる」

「分かった」

 

 

 

 

 

 それからラガディ・アン人形も混ぜて、おままごとやお手玉、あやとりなどして遊んだ。久々の遊び相手を見つけたからか、女の子も楽しそうにしていた。

「それじゃあ、最後に……。鬼ごっこしたい……」

「鬼ごっこか……。足の速さには自信があるんだ」

 そうして私が鬼になって鬼ごっこをしたのだけど、女の子も負けず劣らず足が速かった。こっちが追いかけても、なかなか捕まらないほど。

 しかし暫くすると、急に足を止めてしまった。

「捕まえた。どうしたの?」

「ここ」

 女の子が足元を指差した。

「私が埋まってる場所。元に戻すときもここに飛ばすからしっかり覚えておいて」

 そういうことか。

「分かった。よく覚えておくから安心して。約束……」

 そういって小指を出して、彼女の小指にも絡み合わせる。

「指切り拳万」

「嘘付いたら針千本飲ます」

 すると、周りの風景が徐々に明るくなっていき、私の意識も遠のいていった。

 

 

 

 

 気がつくと屋敷は消え失せ、私達は空き地に放り出されていた。勿論、切歌ちゃんや調ちゃんも一緒だし、行方不明者の人達も気絶していたが無事だった。

 その後、すぐに私は土地の持ち主の方の許可を得て、今立っている場所を掘り返した。すると言葉の通り、あの子だと思われる仏様が出てきたから、急いで弦十郎さんに手配を頼み、供養してもらった。本部の方でもあの屋敷の正体がなんなのか探っていたらしく、その関係から直ぐに女の子の家の菩提寺を見つけることが出来たんだ。

 これであの子が、家族の元に無事に向かえたら良いのだけど……。

 

 

 

 

「詳しくは説明できないけど、もうあのお屋敷が出る事はないよ……」

「そりゃ良かった」

 ふらわーでお好み焼きをヘラで切り分けて、口に放り込む。

 人形屋敷騒動から1週間後、事件報告書に書いた通りの事は説明できないけど、一応のケリがついた事を報告しにふらわーまで来た。今回の事件は、おばちゃんの話が無かったら了知が遅れていただろうから、出来る限り知らせておこうということで。

「あのお屋敷が建ったままだと、お客さんが減るかもしれなかったから助かったよ」

「どうかな……。ここのお好み焼きの味を一度憶えたら、何があろうと来ると思うよ……」

「またまた。褒めても何も出ないよ」

「ハハハ……」

 

 

 

 

 

「えっと……、確かこのお寺だったな……」

 カラスを走らせて、あの子が眠る墓所へと出向いた。

 来る途中で買った花と供物を供えて、御線香を燻らせる。

「ご両親と仲良くね……」

 手を合わせてからゆっくりと立ち去ると、後ろから「ありがとう」とあの子の声と、それとはまた別の男の人と女の人の声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいに違いない。




如何でしたか。
原作の「嘆きのドールハウス」から大幅に改変し、似ても似つかぬお話になってしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。