陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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この闇未来さんには、救いがあったようです。


闇未来異聞録
闇未来異聞録:救済


「情報によると、この辺りだな……」

 違法研究所がある地域までやって来た。成る程、鬱蒼とした森の中にコンクリートでできた薄気味悪い建物が見える。一見するとただの廃墟だけど……、地下に多数の生命反応がある。子供のものが多数と不気味なやつが少々。

「あの建物は、多分ダミーだ。あそこを探っても、何も見つかりはしないだろう」

 私が、世界各地でこういう事してる連中を襲っているから、最近はスズメバチみたいに、地下に巣を作ってる奴らが多い。まぁ、そんな事したって無駄だ。私から逃げられるものか。

「先ずは出入り口を探してと……、おっ」

 辺りを見回すと、森の中に人影が見えた。木こりにしちゃ、チェーンソーも斧も持ってない。猟師だとしても、銃を持ってない。然も時間は深夜の1時を回ったところだ。あいつ、こんな夜遅くに何をやってるんだ。

 降下して後をつける。5分程すると、不意に立ち止まった。そして草の上で片膝をつき、地面を弄りだした。ははぁ、ビンゴだ。ハッチか何かがあるんだ。

「おい、そこで何してる?」

 ハッチを開けたところで、声を掛けた。ハッチを開けた男は、ギョッとして振り返った。その隙に奴の後ろに回り、抱え上げてハッチから離れる。閉められては面倒だからだ。

「よお、その様子じゃ、私が何者かは知ってるようだね……。声を立てるな。立てるのならば、ここで死んでもらう」

 アームドギアを突きつけて、いつでも撃てるようにエネルギーを溜めておく。

 それを見て震え上がった男は、黙って両手を挙げた。

「後ろを向け」

 男が後ろに向いたのを確認して、手を当てる。

「成る程、中の構造はこうなっているのか……」

 研究所の中の構造を知るには、こういう関係者の記憶を読み取るのが一番良い方法だったりする。それにもう一つわかったことがある。

「へえ、あんた脅されていたのか……」

 どうやらこの人、子供を人質に取られて、こういうことに協力していたらしい。これは見過ごせない。

「事情は分かった。貴方には何もしないから、何処か目のつきにくい所に隠れてなさい。いい?」

 その人が頷いて、隠れたのを確認すると、私は彼に擬態して施設に潜り込んだ。

 

 

 

 

 

 ギアを使って、研究所の中を荒らし回った。防衛戦力もあったが、私の前では赤子同然だ。3分も持たずに、壊滅した。

「ひ、ひぃ。た、助けてくれ……」

 壁際に追い詰められた初老の科学者が、必死になって命乞いしている。

「そんなことお前に言ってた被検者は……、一体何人いたんだろうねぇ……」

 こいつの記憶を探ると、ざっと50人いた。ショッカーに比べりゃかわいいものだが、見過ごせる人数ではない。それにこいつ、以前ジェーニャの身体をいじっていた科学者の1人だしね。確か主任だったかな。

「地獄で後悔してろ。尤も被験者がそこにいる確率は、ほぼゼロだがね……」

 サブアームの尻尾を展開し、その先についている大顎を奴の土手っ腹に食らいつかせる。

「お前は、アームドギアで溶かす訳にはいかないんでね」

 絶命したのを見計らい、奴の着ていた白衣を探ると、お目当てのカードキーが出てきた。良し良しこれこれ。ギアを使ってドアを開けても良いのだけど、そんなことしたら閉じ込められている人間に被害が出る。それじゃ、私の目的が水の泡になってしまう。だからこういう手段を使わざるを得ない。

 キーをスリットに通して、ドアを開ける。中では入院着のようなものを着た子供たちが、沢山いた。あの人の子供も中に居た。良かった。

 怖がらせちゃいけないから、ギアを地面に突き刺し、尻尾を収納する。返り血はどうにもならないけど、害を与えるつもりはないという意思を見せるには、武器をしまうくらいしておかないといけない。

 笑いかけながら、両手を差し出す。

「安心して……。私は……味方だから……」

 自分で言っておいて何だが、外見が外見だけに説得力がない。紫のメッシュを入れた素麺みたいに真っ白な長髪に、黒と翠の目玉。おまけに身体中に変な傷痕。そして手には、金棒みたいなアームドギア。これを見て怖がらないわけがない。

 子供に怯えられて、どうしたものかと考えていると頭に何か当たった。感触からして、拳銃の弾だ。鏡を見ると、成る程、負傷しているが、拳銃を持った奴がいる。

「子供がいるんだぞ……!」

 鏡を射出して、そいつに光線を打ち込み、跡形も無く消し飛ばす。他に武器を持っていては、危ないからだ。

「ごめんなさい、怖いもの見せちゃって……。怪我はない……?」

 振り返ると子供たちがわらわらと集まってきた。中には安心して泣いてる子までいた。

「もう大丈夫だよ。お姉さんの仲間が、迎えにきてくれるからね」

 

 

 

 

 

 

 5分後に、私が呼び寄せたS.O.N.G.の輸送機が駆け付けてきた。それを見て、あの男の人も来てくれたらしい。子供たちを連れて施設を出た時に、近くまで来ていた。子供と合流したとき、私に向かって、頭を地につかんばかりに下げていたよ。直ぐに止めたけどね……。そこまでの事したわけじゃないから。

「それじゃ、この子たちとその人のことを宜しくお願いします……」

 ヘリにみんなが乗り込んだのを確認する。さてともう一仕事しに行くか……。

「私は施設に生き残りか、取りこぼした子がいないか見てきますよ……」

「それは私がするから、貴方は休んでなさい」

 近くでテレビのロケに出ていたのに、わざわざ中断して来てくれたマリアさんが、有難いことを提案してくれた。でもねぇ……。

「大丈夫ですよ……。これくらいなら何とかなりますから。それよりも、マリアさんはお仕事に戻った方が……」

「いいから! 貴方、少しは休みなさい! こういうことばかりしていたら、身も心も持たなくなるわよ! 幾ら貴方が頑丈でも、限度ってものがあるのよ! 自分の顔を鏡で見てみなさい!」

 手渡された手鏡を見てみると……、あらまあ酷い。目の下にクマができてるよ。顔も手術跡が浮かんだまま。目つきは……、いつかのように暗くなっている。成る程、まぁ3ヶ月もこんな事してたら、体がこうなるか。

「ハハハハハ……、こりゃ酷い。でもジェーニャのような目に遭う子を増やさない為なら、別にいいですよ……。私も早く壊れたいし……」

 壊れりゃ、可愛いジェーニャの所に行けるから。向こうじゃサイボーグはいないだろうし。寂しい思いさせちゃってるだろうから。

「馬鹿なこと言ってないで、今日はもう帰りなさい!」

 強引にヘリに押し込まれてしまった。まぁ、人の厚意を無碍にすることもないか……。

 

 

 

 

 

 

 

 日本で一応、家にしているアパートに帰り着き、ベッドに倒れこむ。

 起き上がり、冷蔵庫を漁る。水しかない。無理もない。水だけで生活できるから、置いてあるのは水だけだ。

「仕方ない」

 コートを羽織って、マフラーを首に巻き、近くの24時間営業のスーパーまで買い出しに行く。

「寒いもんだね」

 そういや冬だったっけ。ちょっと前まで暖かい所にいたから、忘れてた。

 

 

 

 

 

 

 

 トウモロコシと牛乳を使って作ったカーシャ。久々に作った人間らしい料理。

「いただきます」

 バターを落としてから、口に運ぶ。美味しい。涙が出ちゃうくらい、美味しい。前作ったやつよりも上手にできている。ジェーニャに食べさせてあげたかった。あの子の好物だもの……。

「ジェーニャがこれ食べたら……、ママのと同じだ……って、言ってくれるかな……」

 あの子、クリスと同じで小さい頃に親と死に別れたらしいから、お母さんとの思い出がこれしか残ってなかったんだよ。だからそれをなんとか再現したくて、作ったんだ……。失敗したけどさ……。

 それでもっと上手に作れるように、明日は頑張ろうって……。明日をも知れぬ生活をしていたのに、そんな呑気なこと考えてさ。そういえば、明日やろうは馬鹿野郎なんて、小学生の頃に誰かが上手いこと言ってたな。本当にその通り。

「確かに馬鹿だった……。あの時は、次の日が命日なんて普通にあり得たのに……。S.O.N.G.の助けが来るなんて、分からなかったのに……」

 辛くなって、買ってきたスピリタスを呷る。このくらいきつい酒じゃないと酔えない。ひっくり返ることもできやしない。

「やっとクラクラしてきた……」

 そのまま机に突っ伏して寝た。瓶が空になってて良かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、起きなさい」

 誰かに揺り起こされて、目が覚めた。顔を上げると、マリアさんが居た。いつ帰って来たんだろう。お仕事はいいのかな……。

「あ、マリアさん……、おはようございます……」

「おはよう。昨日のことで、貴方のことが気になって見にきたのだけれど……、取り敢えずシャワー浴びてきなさい。頭が回らないでしょう。こんなきついもの飲み干したんじゃ……」

 確かにそうだ。何にも考えられない。目もぼやけるし。ありゃ、マリアさんが饅頭に見えてきた……。

「大きな肉まん二つと桃饅頭二つが宙に浮いているように見えます……」

「本当なら頬っぺたを引っ叩きたいところだけど、酔っ払いの戯言だと思ってあげるから、早く行きなさい」

「ふぁい」

 よろよろとお風呂場に行った。

 

 

 

 

 

 

 

 身体を拭い、人間だった頃に近い服装に着替える。

「あら、懐かしいもの着てきたじゃない」

「偶にはいいかと……。お客さんが来た時くらいは、人間のフリしてみようかと……」

「……まぁ、理由がなんであれ、違う格好をしてみるのもいいことよ。気分転換にはなるから。贅沢言えば、その目つきが何とかなれば、もっといいのだけれど」

 みんなから言われるんだけど、目つきはどうも元に戻らないんだよね。帰ってからずっとこんな目つきなんだ。初めて神獣鏡使ったときとおんなじ目つき。

「ほら、コーヒー。台所使わせてもらったわよ」

「ありがとうございます。お母さんみたいな人だ……、本当に」

「何か言ったかしら」

「良いお母さんになれること間違い無しだと言っただけですよ。お姉さんというよりは、お母さんといった方がマリアさんの場合、しっくりきます」

「独身で子供がいないから複雑な気分だけど、ありがとう」

「私みたいにならなきゃ、良い人と巡り合えますから……」

「……これは想像以上ね」

 想像以上? 何が? 

「なんか予想を上回るものでも……?」

「ええ、貴方が帰って来てから、ずっと暗いままだってみんな心配してるのよ。そして何かに取り憑かれたように、世界を飛び回っては、改造人間を製造しようとする研究所を人員もろとも壊滅させていることは聞いていたけど……、何故こんなになるまで戦ってたの?」

 こんなになるまで……ねぇ。

「改造人間は、私一人だけで十分だからですよ。私は仲間を増やしたくない。どんな事をしてもね……」

「血を流してでも?」

 コックリと頷く。どんなに手が汚れようと、改造人間が作られることを阻止する為ならば、構いはしない。実際、もう真っ赤だ。

「でも……、貴方の心がもたないわよ。それに……、幾ら何でもやり過ぎよ。もしかすれば、更生できる人もいたかも知れないじゃない……」

 更生か。確かにいたかもしれない。しかし……人間の心って、そう簡単に出来ているものか? 

「私の心は、どうってことないです。あんなのより酷い光景、ずっと見て来ましたから……。それにね、マリアさん」

 何かいいかけたマリアさんを手で制する。これだけは、絶対に言っておきたいから。

「そもそもね、人を改造しようなんて私利私欲の極みのような考えに至る奴に、更生の切っ掛けになるほどの良心なんて、微塵も残ってるわけないでしょう。そりゃね、強制されたとかやむを得ない事情があってとかならばね、私も何も言いませんよ。そういうケースは割と見て来ましたし、知り合った人にもそういう人が居ましたから。実際、そういう人には私は何もしてません。私が手をかけた奴らは……、私利私欲の塊みたいな奴らですよ。名前は忘れたけど、私を利用したあの銀髪メガネなんか良い例ですね。彼奴みたいなのが、果たして更生できると思いますか?」

「それは……無理ね。ドクターみたいなのは……」

「でしょう。下手に情けをかけて生き延びられて、また同じ事を何処かでされちゃ、私だって堪らないんですよ! そんな事したら、またジェーニャみたいな……、ジェーニャみたいな……子が……、あぁぁぁあッ!」

 ジェーニャみたいな子が増えたんじゃ、あの子に申し訳ない。ここまで言えなかった。辛くなるんだよ、嫌な光景を想像したものだから。こういう時に、想像力というものがある事が怨めしく思える。

 マリアさんが背中をさすってくれた。優しいなぁ。こういう事、慣れてるんだろうなぁ。妹というか、大きな娘二人抱えてるようなものだから。

「よしよし、成る程ね。貴方はあの子のような目に遭う子を出したくないのね……」

「そぉですよぉ……」

 それ以外に理由なんか、あるもんか。私は、響と同じくらい、いやもしかしたらそれ以上に、あの子のことを愛していたんだ。

「それならば尚更、自分を大事にしなさい。ジェーニャという子も貴方が壊れることは、望んでないはずよ。それに。貴女のやり方自体は賛同できない部分も多いけれど、そういう目的ならば私も協力するから。但しできる範囲でだけどね……」

「ふぇ……、本当ですか……」

「司令もその事については、頭を悩ませていたしね。何とか人員を割きたいけど、翼はイギリスにいて、私は世界中を飛び回っているし、他の子達は学生というのもあって、それができるのような状況じゃなかったしね。最近だと、パヴァリアの残党も片付きつつあるから、私も手が開きそうなのよ。だからその時は、私が手を貸すわ。貴方はあまり一人で抱え込みすぎないで」

「ありがとう……ございます……。助かります……」

 有り難さに嬉し泣きする。一人でやり続けるのにも、限界を感じてたのかなぁ。人手が増えたことで、少しは楽になるかもしれない。

 尤もマリアさんのことだから、捨て置くことができない連中が命拾いする確率が増えるのも確かだが、後で怪しい真似をした時に料理すれば済む話だ。

 今はこの申し出をありがたく受けよう。

 それにしても、自分のしなくちゃいけない事に対して泣き言言うようになるなんて、我ながら弱くなったものだ。

 

 

 




如何でしたか。
一度消去しましたが、書き直した上で再度載せることにしました。
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