ラテンアメリカの小さな町の教会に、2人の女の子が住んでいた。
1人は鴉みたいな黒い髪と翠の目をした年長の子、もう1人は金髪碧眼を絵に描いたような小さな子。
この2人、元々ここに住んでいた人ではなく、どこか別のところから流れ着いた人らしい。海の向こうで何か悪い事して逃げてきたなんて噂もある。
でも町の人はそんなこと全く信じていなかったんだって。どう見てもそんな事できそうにないってことで。大きい子の方は、偶に町にノイズが出た時には、体を張って相手をしていたし、小さい子も町の人の手伝いをしていることがあったから。
ただ、この2人が海の向こうから逃げて来たのは、本当だった。
だって外国の兵隊が2人の住んでいる教会を襲っているのだから。
「うわっ。これは酷えや」
バルベルデからの帰りに、聖遺物を持った人間がアメリカ軍相手に大立ち回りしているという情報が入って、現場に駆けつけるとえらいことになっていた。教会らしき建物は燃えていて、戦車だのヘリコプターだのスクラップにされている。しかもあちこち肉だの臓器だの、散らばっている。思わず吐いちまった。
アタシに気づいて助けを求めて来た兵隊の胸から、腕が突き出された。
腕の持ち主はそいつの背中から腕を引き抜き、自体を蹴り飛ばした。その蹴り飛ばした奴を見て、ギョッとした。
「な、なんだお前!」
馬鹿でかい真っ黒な飛蝗が、そこ血だらけの両腕をだらりと下げて、こっちを見ていた。どうみても人間じゃない。完全聖遺物か何かか?
おっかないのを我慢して、怪物を観察しているとこっちには興味がないらしく、向こうを向いて、エンジンの掛かった装甲車に飛びかかろうとしていた。かなり素早く、しかも装甲車を持ち上げて、どこかへ投げ棄てようとしていた。
「おい、止せ!」
アームドギアのハンドガンを発射して、腕に命中させるが全く意に介した様子がない。それどころかこっちを振り返って、装甲車を投げつけて来た。邪魔をされたことを怒っているみたいだ。
「危ねぇ!」
飛び退いたところに怪物が飛び掛かり、ラリアットを叩き込んできた。
避けきれず地面に叩きつけられる。細腕だが、パワーはおっさん以上だ。アタシの上にのしかかってきたのを、体を回して放り出し、距離を取って機関砲とロケット弾を浴びせ掛ける。
飛蝗も真正面から突っ込むことはせず、空中に飛び上がった。それをみて此方もクロスボウから矢を発射して、飛蝗の周囲20メートルに矢の雨を降らせる。これは奴も避けられなかったらしく、身体中に矢が刺さっていた。
でも飛蝗は構わず、飛び蹴りをしてきた。ただアタシも今度は右に飛び退いて、これを避けた。
しかし飛蝗もただではやられず、着地した瞬間に地面を蹴とばし、私に体当たりしてきた。
ぶつかったところで、ハンドガンで頭を殴りつけるが効いている様子はない。飛蝗は私の腹に拳を突き入れてきた。
「ごふっ!」
流石に腹を殴られちゃたまらない。思わず変な声を出してしまった。
しかし蹲る間もなく、連続で拳を叩き込まれ、最後は膝蹴りで吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたところに、紫のラインが入った真っ黒なオートバイが止めてあった。先輩のと違って、かなり古臭い型のやつだ。このオートバイ……、確か……。
近くに、紫色のこれまた古臭い形のヘルメットが転がっていた。間違いない。あの子のバイクだ。ということは、まさか……。
「あいつが変化したのか……? あのバカみたいに……」
そういえば、何処と無く体の動かし方が似ている。あとあの飛蝗、よく見ると下に何か履いている。黒いライダースーツだけど、左足に紫色の流れ星のマークが描かれている。あれは、あの子が履いている奴と同じだ。小日向未来で間違いない。
ただ、それならそれで疑問ができる。何であの子は、怪物になっちまったかという事だ。理由が全くわからない。それをヒントに対処できるかもしれないのだけど……。
「E.Excuse me」
下手な英語が何処から聞こえてきた。妙に掠れている声だ。兵隊の声じゃない。子供の声だ。
「なんだ? どうした……」
見ると金髪碧眼のアタシより8つほど下の子が、這いながら近づいてきた。
「Hold back my mother.please. I’ll help you as far as I can if you need」
出来る限りのことをするから、お母さんを助けて欲しい……か。お母さん?
「Who’s your mom?」
「That grasshopper is」
何だって。いつの間に子供が出来てたんだ?! アタシが前会った時は、腹は普通だったはずだ。いきなり子持ちになるってのは……、あーわかった。養子のようなものか。それなら辻褄があう。それでもこの子はあいつをじつの母親同然に慕っているみたいだ。羨ましいもんだ。
「Okay. I’ll stop what she’s doing. So, I would like you to help me when I need 」
女の子が頷いたのをみて、アームドギアを構え直す。
まぁ、何とかやるだけやってみるか。
アームドギアをクロスボウに変形させて、あいつの周りに矢をばら撒く。再び此方に気づいたあの子が、アタシ目掛けて突進してくる。戦車が割れるくらいの咆哮あげて。
「そら、こっちだこっちだ!」
攻撃をしつつ、兎に角逃げ回る。真正面からぶつかったところで、勝ち目がない。だから上手く誘導して、罠まで運ばなくちゃいけない。
「ハンドガンかクロスボウだけって縛りだからな。思ったよりキツそうだ」
罠の要であるあの子に、流れ弾が当たらないようにしなくちゃならないとはいえ、なかなか難しい話だ。しかしこの他にいい方法はない。正直言って、アタシ一人でどうにかなる相手じゃないからな。イグナイトは使えないし。
途中、何度か捕まりそうになりながら、金髪の子が待っているところまで誘き寄せた。いよいよだ。
合図として頭上に一発発射する。それに気づいたあの子が飛び出してきた。
「ミク、止めて! 私は大丈夫だから!」
途端に未来の動きが止まった。あのバカのときもそうだったが、呼びかけは割とバカにできない効果がある。
「ジェ……ニャ……」
そのままへたり込んでしまった。少しずつ身体も人間っぽさが戻ってきている。
「おい、大丈夫か?」
「ク……リス……。何で……ここ……」
「あーもう、喋らなくていい。迎えのヘリが来ているから、続きはそっちでやろう」
どうやら相当疲れているようだから。
「ふーん。お前はあのジェーニャって子を連れて、一年近く逃げ回っていたのか。大したもんだ……」
あの後、ヘリコプターに保護した二人を乗せて話を聞いていた。何でも金髪の子ジェーニャをロシアの研究施設から連れ出して、一緒に一年近くあちこちを逃げ回っていたらしい。
「よく生活できたな。一人でも大変だろうに……」
「何とかなるもんだよ。何でも屋をやったり、用心棒やったり……ふふふ」
「おい……、その含み笑いはなんだ」
「世の中には、知らない方が良い事がいっぱいあるってことだよ」
装者を出し過ぎると収拾がつかないので、クリスに出てもらうことにしました。響以外で、真正面から未来と戦ったことがある唯一の人ですから。
逃亡中の資金をどうやって未来が稼いでいたのかは、私にも分かりません。噂によると、油田火災の対処のような危険な仕事をしていたらしいですが、真偽のほどは不明です。
あくまで推測ですが、身体をどうこうするようなことはしていないと思います。そんなことしたら、自分の秘密をわざわざ漏らすことに繋がりますから。
尤も実際のところどうだったのかは、未来に聞いてみないと分かりませんがね。