陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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改造人間を作れないなら、今いる奴を潰してゼロにしてしまった方がいい。
そんな発想に行き着くのもありえる話です。


闇未来異聞録:改造人間の最期

「8から15のプラネテューヌへの移送を確認! 非戦闘員の脱出は完了しました!」

「残りの未来は、私達戦闘組だけね?」

「はい!」

 オイゲーニエからの報告を受けて、一息ついた。実戦経験のない非戦闘員の妹達だけは、多国籍軍の攻撃前にせめて退避させておきたかったから。

「残りは、私、ななみ、ミライ、ローゼンシュトック、ローゼンクノスペ、モアナ、オイゲーニエの7人か……」

 たった7人で5千もの兵隊と戦うのか。そしてその中には、装者も入っている。私達はもうおしまいだ。

 

 

 

 

 

 なんでこんな事になったのか。答えは簡単だよ。私のせいだ。

 改造人間作りを潰していたら、向こうさんが製造を諦めて、私達を叩き潰そうとしてきたんだ。言ってしまえば、攻守逆転。

 元々、多少派手とはいえ、裏でコソコソやっていた私達と力のある国とではできることが違う。対テロ紛争ということで、小日向未来達を絶滅させにかかった。

 その結果、私達は人間たちの多国籍軍に追い詰められて、今や小さな要塞に立て籠もるばかりになっていた。

 

 

 

 

 

 総攻撃が明日に迫った夜、私は残ってくれた6人と話をする事にした。最後くらい、ゆっくりとまではいかなくとも、話をしておきたかったから。

「コーヒーメーカーは、うちで雇っていた子の中で一番腕の良い子に譲りましたよ。そういう人に使ってもらえたら、きっとあの子も喜びますから」

「親父さんと同じこと言うね……。それじゃあ、トランペットは?」

「あれも吹奏楽をしている子にあげました。ここで壊れるよりマシです」

 最初に呼んだのは、一番付き合いの長いななみ。戦い嫌いで、元の私に一番性格の近い子。そんな性格にもかかわらず、喫茶店を放り出していの一番に助けに来てくれた。

「みらい堂を潰してごめんなさい。貴女のコーヒーを楽しみにしていた人も居たのに……」

「気にしないでください。コーヒーの淹れ方は、あの子達に叩き込みましたから、私のものと同じのは何処かで飲めるでしょうし。それに…………」

「それに?」

「7年も平和に生きられたからもう十分です。本当ならば居てはいけない人間には、勿体ないほどの時間をね……」

「本当に十分?」

「本当は……、もうこの話は止しましょう」

 やっぱり十分な訳ないよね。

「ごめんなさい。それと最後まで残ってくれてありがとう」

「どういたしまして。これでお別れですね」

「うん。本当に今までありがとう」

 固く握手してから、ななみは部屋を出て行った。

 

 

 

 

「今更後悔なんてしてないよ」

「でも貴女には家族がいるでしょう。今からでも遅くないから……」

「くどいよ。大おねーやん」

 次に呼び寄せたのは、唯一「家族」がいるミライ。だから最初はプラネテューヌへ逃がそうとしたけど、頑として首を縦に振らなかったんだ。

 最後のお別れは済ませてきたって言って。

「ラジオとか文房具とか扇子とか機関銃入りのアコースティックギターとか、使えそうな物はみんな、家族や簪ちゃんや友奈ちゃんに譲った。貯めたお金もイストワールとクーリェの2人に行くように、書きつけを残しておいた。後はもう消えるだけだよ」

「消えるだけって……」

「改造人間なんだから、どうあがいても最後は消えなくちゃいけないのは当たり前でしょ。やりたい事はやり尽くしたからもう十分」

「よくそこまで割り切れるね」

「なるべく後悔しないような生き方をしてきたから。といっても大きいのが、一つだけあるのだけど。大おねーやんはどう?」

「後悔なら一つだけしてるよ。ミライほど、規模は大きくないけど」

「内容が笑い事じゃないのは、同じことさ」

 2人して苦笑した。

「ここでなら神獣鏡を使ったとしても、讃州市での厄祓いのときのように、世界滅亡の危機を引き起こすこともない。装者として大暴れしたって問題無いからねぇ。死に場所にはちょうど良いよ」

 そう言いながらミライは、近くに置いてあったウィスキーの瓶を1本掴んで席を立った。

「素面じゃ死にたかないから、1本貰ってくよ。それじゃ、運が良ければ地獄の一丁目で会おうよ。さようなら、大おねーやん」

「どうせならもう1本持っていきなよ。それとミライ」

「何?」

「今までありがとう」

「どういたましてー」

 

 

 

 

 

 

 3番目に呼んだのが、シュトックとクノスペ。歌手のシュトックとマネージャーのクノスペという翼さんと緒川さんのような関係の二人組。尤もクノスペは、緒川さんほどの戦闘技術があるわけではないけど。

「そろそろ潮時のようね」

「御察しの通りだよ」

 私達の会話を聞いて、クノスペがスケッチブックに文字を書きつけて見せてきた。

「とうとう私達も最期かぁー。短い人生だったなぁ」

「薔薇よりも長生きできたのだからいいじゃない」

 この子達を見つけたのが5年半くらい前の事だから、確かに薔薇よりかは長生きしている。

「Roseliaから貰ったチケット、どうしようかしら」

「Roseliaって……、ああ。この間、2人が並行世界に行った先に居たバンドね。シュトックの歌の向こうの歌い手さん」

 この子、自分で作詞作曲しているのだけど、いつも自分の歌じゃないって言っていたのよ。でもこの世界には、この子と同じ歌を歌っている人は居なかったんだ。この間、私の代理で響達にくっついて行った並行世界にいたRoseliaというバンドが、同じ歌を歌っていたらしい。

 その子達と知り合いになり、チケットを貰ったのだけど、そのライブの開催日は明後日なんだ。当然、見に行けるはずがない。

「ポケットに入れておいたら? 御守りがわりになるかも」

「弾除けにしたくはないのだけど、それしかないわね」

 クノスペの言葉に、シュトックも小さく笑った。

「そうだ、未来。CDプレイヤーあるかしら」

「あるけど、どうしたの?」

「最後にもう一度聴いておきたい曲があるから貸してもらえないかしら」

「いいよ。クノスペと2人で使ってね。それと短い間だったけど、2人とも今までありがとう」

 2人と握手をして、CDプレイヤーを手渡した。シュトックがクノスペとともに部屋を出ていくのを、私は見送った。

 

 

 

 

 

「ミク、サカナ、ヤケタ」

 アマゾンみたいな片言の日本語を話して、塩焼きの魚を持ってきてくれたのは、タヒチに居た水陸両用型のモアナ。現地で知り合った漁師のマヌアと結婚して、彼との間にできた娘ミティと3人で幸せな生活をしていた子。

 でも正体がバレて、それも全部台無しになり、私の所まで来たんだ。見えない両目から涙を流しながら。

「ありがとう」

 お皿を置いてフラフラと立ち上がったモアナが、机の脚に躓き転びそうになったのを慌てて支える。

「大丈夫?」

「ダイジョブ。マヌア、ミティ、モット、イタカッタ」

「そうだね……」

 暗い顔つきになったモアナをそっと抱きしめる。

「ミク?」

「ごめんなさい。本来なら巻き込まなくていい貴女を巻き込んで」

「イイ。マヌアトミティ二アエルカラ」

「本当にそれでいいの?」

「イイ。モアナ、ヒトリ、イヤ」

 タヒチに帰っても独りぼっちか……。それは辛いよね。

「ココ、ミンナトイッショ。モアナ、ココ、イイ」

「そう……、ありがとう」

 

 

 

 

 

 モアナを部屋に送り届けてから、通信室でプルルートとの最後の通信を終えたオイゲーニエを迎えに来た。

「オイゲーニエ。おいで」

「うん、ママ」

 元は部品取りとして扱われていた子を、足りない部品を色んな子のものから補って、私が組み直した小日向未来、オイゲーニエ。だからこの子にとって、私はある意味親のようなものなんだ。変な話だけど。

 最初はママと呼ばれるのに抵抗があったけど、すぐに無くなった。雰囲気があの子に、ジェーニャに似ているから。自分の事をあたしと呼んでいたし、話し方も似ていた。前々から思っていたけど、もしかしたら生まれ変わりなのかもしれない。だとしたら悲惨な話だけど。

「遅くまでご苦労様。そろそろ休みましょう」

「うん」

 私と同じくらいの大きさだけど、気にせず負ぶって部屋へと向かう。

「ママ……、あたしたち……もうおしまい?」

 背中からとても答えにくい質問が来た。

「うん……。オイゲーニエ、今からでもまだ間に合うから、貴女もプルルートの所にいきなさい。犬死する事はないから」

「嫌」

「何で」

「ママいないじゃん」

「それはそうだけど」

「居ないならあたし生きてたくない。ママとずっと一緒がいい」

「そんな事言わないで。世の中には、まだまだオイゲーニエが見たことがないものがいっぱいあるんだから」

「そんな物、ママよりも大切にはならないよ。ママが響を大切に思うのと同じ。あたしもママ以外に大事なものなんかないもん」

 そう言われるのは心外だ。他に大事なものがないほどではないよ。どこで育て方を間違えたのか、この子は私への依存が度を越している。周りの人は、私そっくりと言っていたけど、ここまで酷くはない。

「あたしはずーっと一緒にいたいの。ずーっと、ずーっと、ずーっと。絶対に離れたくないの。前は半年と3ヶ月しか一緒にいられなかったから」

 前……、確かジェーニャと会って別れたのも丁度そのくらいだった。ここまで詳しいなら、この子が元はなんだったのか、考えるまでもない。

「何となく似てると思ってたけど、やっぱりジェーニャだったんだ」

「そうだよ。折角ミクがママになってくれたのに、お別れなんてしたくない。この身体なら一緒に戦える。倒される時も一緒。2度と離れ離れは嫌」

「オイゲーニエ、いやジェーニャ。分かったよ……。そこまで言うならもう止めない。貴女の好きにしていい。でも、生き延びられそうならなるべく生き延びて。お願い」

「分かった。でもそんな可能性なんかないよ……。どうせあの教会みたいなことになる。あたし、ママの知り合い以外の人間には、さして期待してないから」

 

 

 

 

 

 

 朝日が昇るのを確認して、要塞の外に皆で出た。いよいよだ。

「皆、今までありがとう……。もし生き残れたら、その時はまたよろしくね」

 皆と改めて固く握手をしてから、兵隊の群れの方に向き直る。

「準備はいいね?」

 返事の代わりに、拳銃が7発鳴らされた。問題ないという合図だ。

 それを聞き、すーっと息を吸って、普段出さないような大声で叫んだ。

「突っ込めぇえええ!」




この後、未来達がどうなったのかは、皆様のご想像にお任せします。
生き延びて何処かで隠遁生活を送っているかもしれませんし、あるいは倒されたのかもしれません。
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