陽だまりシリーズ:小日向未来<外伝>   作:ヨザリイコイ

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一度こういうお話を書いてみたかったんです。


闇未来異聞録:取材

 僕の働く朝凪タイムズは、せいぜい地元のニュースを取り上げるのがやっとのしがない新聞社。そんな会社にある日、耳を疑うような知らせが入った。

「7人目のシンフォギア装者が、ダメ元で出した取材依頼を受けてくれた」

 最近になって、日本政府がシンフォギアという兵器とそれを扱う装者の存在を認め、マスコミが彼女らに取材をするようになった。しかし取材したのは大手の全国紙や雑誌、もしくは地方や県単位の大手の地方紙で、うちのような片田舎の地域紙が、そう簡単に手を出せるような状況ではなかった。おまけに全く姿を現さない7人目に至っては、これまでの取材依頼そのものを全部はねつけてきたのだから、尚のこと難しいと思われていた。

 だから彼女から承諾が来た事を知り、社内は一時騒然となった。それはそうだろう。全国紙ですらしていないインタビューをここがしようとしているのだから。

 しかも取材料もこちらの提示額の6割で良い、写真は撮っても構わないとの好条件も向こうから提示されたのだから嬉しい悲鳴が上がったよ。

 

 

 

 

 あれよあれよといううちに、取材当日となった。

 取材場所に指定された、この町唯一の喫茶店の奥のテーブル席でコーヒーを片手に待っていると、取材時間5分前になってオートバイの排気音が聴こえた。

 そして直ぐ後に、サングラスを掛け、銀色の長髪をたなびかせた女性が店内に入ってきた。

「朝凪タイムズの方をここでお待たせしている筈なのですが……」

 マスターから僕の待機している場所を聞いたその人はこちらに来て、僕の向かい側の席に腰を下ろした。

「朝凪タイムズの方ですか?」

「はい」

 僕が答えると、彼女はサングラスを外して軽くお辞儀をした。

「はじめまして。小日向未来です」

 そう言って顔を上げた未来さんの目を見て、思わずあっと声が出た。

 普通の人間ではあり得ない、墨を塗ったように黒々とした白目に緑の虹彩という変わった目をしていたものだから。

 

 

 

 

 

「やっぱり驚きますよね……。サングラスかけておきましょうか?」

「いえいえ。こちらこそ失礼な事をしてしまい、申し訳ありません」

 僕の反応を見た未来さんが、サングラスを掛けなおそうとするのを止めて、改めて取材の準備に移った。

「それでは、早速インタビューに移らせていただきたいと思います」

「どうぞ。何からお話しましょうか」

「そうですね……。ではまず、貴女が今の仕事を始めたきっかけを教えてください」

「きっかけですね。率直に言えば、親友を助けたかったからです」

「ご友人を? それはまたどうして……」

「過去のトラウマから来た病気にかかってましてね。それをどうにかする為に、ここではお教えできない場所まで行かなくてはならなくて、その為にこの仕事を始めたんです」

「その問題自体は解決できたのですか?」

「それはどうにか。ただそこから帰るのが、簡単では無かったんです」

「何故でしょう」

「人攫いに捕まって、もっと遠い場所に連れて行かれたんですよ。そしてその結果手に入れたのが……」

 そこまで言い終えて、未来さんは着ていたジャケットの袖をまくった。そこにあったのは、墨を塗りたくったように黒く、所々紫色の線が入った人間離れした腕だった。

「この怪物同然の身体です。連れて行かれた先で、体の中を弄くり回されてこうなりました。だから今まで姿を見せなかったんですよ。こんな姿、恥ずかしいだけですから。取材したいと言われてもね……」

「そうですか。では何故当社の取材を受けることに?」

 今の発言からして、ウチのような小規模な地域紙なら読む人間は知れているから、別に出ても問題無いと考えたように思える。しかしいくら町単位で発行されている新聞でもそれを集める人は何処にでもいるだろうし、インターネットに紙面を載せることもこの御時世だと、ウチも含めて大抵の新聞社でしている。規模の観点だけで了承したとは、考え難い。

「それは単にこの新聞を元々読んでたからですよ。潜水艦の中だと暇でしてね、娯楽施設自体はあるにはあるんですが、直ぐに飽きちゃうもので……。それである時、この近くの港に停泊していた時に、港の売店にあった御社の物を買って読んでみたら、コラムがなかなか面白かったものでして……。それ以来はネットからですけど、購読してるんですよ」

 ほらこの通りと差し出された端末を見ると、確かにウチのホームページにアカウントをつくっていた。

「これはどうもありがとうございます」

「いえいえ。あはははは……」

 

 

 

 

 

「次の質問に移らせていただきます。貴女は数年前、日本を飛び出して、世界各地を転々としていたとのことですが、先ずは旅の経緯に軽く説明してもらえないでしょうか」

 この人は他の装者と違って、突然日本から逃げ出したという経歴がある。政府機関による白色テロから逃れる為とは聞いていたが、詳しいところは未だに隠されている物だから聞いておきたかった。

「質問にお答えする前に、あらかじめ確認しておきますが、風鳴機関という機関はご存知ですか?」

「はい。戦前の陸軍省管轄の研究機関で、戦後一度解体されたと……」

「表向きそうなってますけどね、あの機関は私が日本から逃げ出した当時は、まだ存続していたんですよ。後継組織であるS.O.N.G.があるにも関わらず。そいつらが当時私が通っていた高校に、私を引っ捕らえる為に白色テロを仕掛けましてね。そこからどうにか逃れることには成功した訳ですが、一つ問題が起きたんです」

「問題と言いますと? 逃れる事に成功したのならS.O.N.G.に保護して貰えば良いのでは無いですか?」

「それなんです。当時、S.O.N.G.は海外への派遣任務を帯びて、日本にいなかったんですよ。しかも派遣先が南米ときたものですから、帰還がいつになるか分かったものでは無かったんです。国内に居たんじゃ、何をされるか分かったものではありませんから、銀行口座から引き出せるだけのお金を引き出して、日本を飛び出したんです」

「そうだったんですか。しかし17歳を迎えたばかりで海外に行くなんて、とても不安な事も多かったのでは無いですか?」

「そうですね。言語はさして困らなかったのですが、お金の心配は常につきまといましたよ。ですからあちこちでアルバイトして、何とか日銭を稼いでました。それに身の安全も無かったんです。日本だけじゃ無かったんですよ。この体を狙っていたのは。何度も捕まりかけましたし、ロシアでは一度研究所に連れて行かれたこともありました。そこの被験者にされていた女の子1人を連れて逃げ出したのですが、その子にはずっと苦労かけっぱなしでしてね……。碌な物食べさせてあげられないし、捕まりかけたら銃撃戦の真っ只中に否応なく引き込む事になるし、最期には私の力不足で死なせてしまって……」

 最後は嗚咽をあげて突っ伏してしまった。余程そのことを後悔しているらしい。

「すみません。辛いことを思い出させてしまって」

「ああ、いえ。こちらこそ取り乱してごめんなさい。その子が死んだ直後にS.O.N.G.が漸く私を発見してくれましてね。その後日本に帰ってから暫くは何も無かったのですが、ある時風鳴機関が私の妹の一人を拐って、あれこれ実験しましてね。もう見過ごせないと思って、他の妹と共に連中を粛清しました」

 穏やかでない言葉が出てきた。このご時世に粛清とは。

「それは独断で行ったのですか?」

「いいえ。元から似たような役割の機関があるのは、予算の都合上大いに問題がありますから、S.O.N.G.と風鳴機関のどちらかを排除するという話は、元からあったんです。それでどちらを消すかという話になり、テロや人体実験のような人道上問題のある行為をしていて、国民を犠牲にすることも目的の為なら止む無しという考えを持つリーダーがいる組織なんか不安材料にしかならないというように判断されていた訳で、あの組織の命運自体は尽きていたんですよ。そこに私が乗っかっただけの事です」

 まぁ、最低限のルールを守る事も知らない連中をそのまま残して置いたって、世の中のためにはならないでしょうから、と言って、未来さんはフフフっと笑い、運ばれてきたコーヒーを口にした。

「その結果として、私や私のような体を持った人達にとって、この国は少しは住みやすい場所にはなったんですよ。でも皆、普通の人間相手に怯えるようになりましてね。私の妹なんか皆、許可証貰って拳銃を護身用に持っている有様でして……」

「そ、そんなことが……」

 まさかこの国で拳銃を持ち歩かないと生きていけないなんて。しかし考えてみれば、幾ら治安が良いと持て囃されていても、それは人間にとって安全なだけであって、そこに紛れて住んでいる人にとっては、危なっかしい場所なのかも知れない。

 現に目の前にいるこの人は、テロに遭って方々を逃げ回る羽目になっていたんだ。それを見るなり聞くなりして、その上で丸腰で生活するなんてできるだろうか。無理に決まっている。少なくとも僕が彼女のような立場にいたら、そんなことはできない。

「かくいう私もね、いつも懐にワルサーP38を忍ばせているんですよ。おかしな話でしょう。この国だと、人間は別に武器なんか持ってなくても安全なのに、ヒトガタは武器を持ってないと危険極まりない場所なんですよ。何てったって、公の機関がお前らの安全は保障しないと行動で示した事が2度もあったのですから、信用なんてできませんもの。ならば海外に移住すれば良いとお考えかもしれませんが、海の外でも大差ないのは前述の通りですからね。とかくに人の世は住みにくいです。でも地球上に人でなしの国なんて勿論ないですから、結局のところここに住むしかないんです」

「その様子ですと、あなた方を護ってくれる人は居ないのですか?」

「そういう訳ではないのですが、絶対的な力を持っている人ではないですから、いざという時は自力でどうにかできるようにしないといけないんですよ。故にアメリカ人みたいに武器を持って、身を守らないといけないんです。妙な考えを持っている連中が、全くいなくなった訳ではありませんから……」

 

 

 

 

「最後に貴女の今のお仕事について、お聞きしてもよろしいでしょうか」

「主要な部分はお伝え出来ませんが、私のような身体の人の支援をしているということだけ申し上げておきます」

 やはりこの話題に関しては、あまり聞き出すことはできないようだ。しかし今、未来さんが仰ったことから引き出せる情報はある。

「支援というのは、具体的にはどのようなものなのでしょうか? 差し支えのない範囲でお教えください」

「そうですね……。これは今までにあった例ですが、私のような体を持った人の中には、非合法な組織でモルモットとして扱われていた人がいます。その人達の第二の人生を築く為の支援をするのは勿論ですが、何かあった場合のホットラインも構築しています」

「ホットラインというのは?」

「現地の治安機関が当てにならない時に、連絡一本で助けに行けるようにしているんです。ただどの移住先でも大抵真面に機能していますから、使われることは早々無いですね」

「なるほど。では合法的な組織で同じような扱いを受けていた人には、どうしていますか?」

「それも同じような感じですね。ただ、手配する移住先は、私達が駆けつけやすい場所にしている事が多いです。公的機関を当てにし辛い人達ですからね」

「公の機関を当てにし難い……。やはり人によっては、そういう事もあるのですね」

「はい。ですから私や私の妹達が、可能な限り助けに行けるようにしているんです」

 

 

 

 

「本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」

「こちらこそ大した事をお伝え出来なかったと思いますが、満足していただけたとしたら幸いです」

 取材も終わり、帰途につく未来さんを店先で見送る最中だった。

 ノイズの出現を知らせる警報が鳴り、未来さんの顔色が変わった。

「この近くのシェルターは?」

「すぐそこの体育館にあります」

「マスターさんとそこに隠れていてください。すぐに片付けてきますから」

 シンフォギアを装着して飛び去る彼女を見送り、僕たちは言われた通りに避難した。

 

 

 

 

「さてと……、どういう風にまとめたものかな……」

 取材中に取ったメモと録音テープ、そして未来さんの写真と睨めっこして、記事の構想を練る。

「訳ありの人を助けているとのことだけど、あの人自身もかなりの訳ありのようだから、そこの所は気をつけないと……」

 無責任な事を書いて、あの人の顔に泥を塗りたくるようなことは避けないといけない。特殊な内容だから中々に難しい。

「業務内容そのものは、別にカットしても良いだろう。寧ろあの人達が今置かれている環境を伝えた方がずっと良い」

 断片的にしか聞いていない仕事の内容を聞いたところで、何の参考にもなりはしない。そもそもああした事は、なるべく秘密にした方が、未来さんもやり易いだろうから、載せない方が良い。

 それよりもあの人のように訳ありの体の人が置かれている状況を知れば、誰かがそれを何とかしようとするかも知れない。無論保証はないが、少なくともこのような事が起きているという情報を広める事くらいはできる。

「社会環境を主軸に据えるか。よし……」

 早速、原稿の下書きを始める。出来る限り分かりやすく、あの人達のことが伝わるように心がけて。

 




如何でしたか。
シンフォギアの性質からしてまずあり得ない話ですが、未来がマスコミからの取材を受けるというお話があったら、それはそれで面白いと、思い書いてみました。
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