中には、どうやったのかはわかりませんが、組織から逃げ出して、真っ当に生活している人もいます。
「アメリカン一つに、バタートースト一つですね。少々、お待ち下さい」
喫茶みらい堂は今日も大忙しです。開店から一年で、まさかお客さんがたくさん押しかけてくるようになるとは……。開店の借金を短期間で全額返済できるとは、思ってもみませんでした。
「まさか親父さんのコーヒーの淹れ方まで、コピーされているとは……。あの人の考えは、本当に良くわかりません。そもそも本気で世界征服するつもりがあるのか、怪しいところがありますし。暇潰しにショッカーなどの組織を暗躍させてた、なんて噂も聞いたことありましたから。
尤もとうの昔に組織から抜け出して、別の世界で堅気の暮らしを送っている私には、何の関係もないことです。
ああ、そうだ。自己紹介がまだでしたね。私は小日向ナナミ。皆さんがよく知っている小日向未来の73人目のクローンです。
「ありがとうございました」
最後のお客さんが帰るのを見送り、店仕舞いを始めます。
「貴女達ももう帰って大丈夫ですよ。電車空いてるといいですね」
バイトの子も帰してから、道具やカップ、それにお皿を洗って、帳簿を付けてから、二階の自室に戻ります。
自室の窓から京都の街を眺めつつ、しばし思案に耽りました。
「ここに来て、もうどのくらいになるのやら……」
戦うのが嫌で、当時新たに試作されていた次世代型の妹一人と一緒に組織を逃げ出して、散り散りになってからもう3年。あの子の事は、探してみたものの、結局この世界には来ていないらしいことが分かっただけ。
別次元に行くのなんて、私の力じゃ無理な話です。次世代型の子は、自力で移動できるみたいだけど、量産型の私にそんな力はない。だからこうしてここで喫茶店をやりつつ、いつか妹が気づいて通りかかってくれたらと呑気な事を考えているんです。
「そんな甘い話があるわけないですよね……」
私のオリジナルの人に会えたら、何かしら知恵を貸してもらえるかもしれません。でも、先行量産型がオリジナルに酷い事を言っているのを記録映像で見て、それはよそうと思いました。もしかしたらクローンってことで、また偽物呼ばわりされると思ってしまうかもしれないから。
「はぁ……」
溜め息をついて、両手を額に当てていた時でした。
何処かから無粋なサイレンが鳴り響きました。アルカ・ノイズが出たようです。落ち込んでいる場合じゃありません。急いで強化服を装着して、外へ飛び出します。
「こんな所に見境もなく……!」
ステルス能力を使って見られないようにしつつ、私は空へと飛び立ちました。
バイザーの反応する先へ向かうと、そこは私鉄と地下鉄の駅がある所でした。
「あんな所でばら撒かれたら、大惨事です!」
駅の中に入ると赤黒い砂があちこちに散らばっています。数はそこそこいるみたいです。
「ここじゃ、大きな扇が使えない……」
やむなく小型の扇を取り出して、あちこちを探ります。すると出会い頭に髷を結った奴と鉢合わせして、向こうが気付く前に扇を突き入れました。
「まずは一体……」
ただこれが不味かったのか。他のアルカ・ノイズがこちらに向かってきました。扇を拳銃のように使いつつ、アルカ・ノイズを蜂の巣にしていきます。これくらいなら、何とかなりそう……。
向かってきたアルカ・ノイズを片付け終えた時でした。
「だ、誰か……」
下から声が聞こえました。地下鉄駅の構内あたりでしょうか。
急いで見に行くと、何とバイトの子たちが大型アルカ・ノイズに囲まれているではありませんか。
直ぐさま光線を発射しましたが、小型だと威力が弱いのか、はたまたアルカ・ノイズが堅いのか、そこまでダメージが入ってないようです。弱りました。大型の扇を使おうものなら、建物を崩落させてしまう。ならば至近距離から格闘攻撃を仕掛けようにも、私はそういうのは不得手です。
「万事休すです……」
頭を抱えていた時でした。
何処からともなく現れたボロボロのフード付きのコートを着た人が、いきなりアルカ・ノイズを蹴り付けました。
勢いが強かったと見えて、アルカ・ノイズは倒れてしまいました。
「あとは私に任せといてよ」
コートの人もどうやらバイトの子たちからは、見えていないみたいです。もしかしたら私と同じ……。
「それについては後で教えよう」
そこからはもう一方的でした。
コートの人は、私のと少し違う形の大きな扇を取り出して、それをアルカ・ノイズに数回叩きつけて、最後は両断してしまいました。
事が済んだ後、コートの人をみらい堂に連れて帰りました。
そしてフードを取ってもらうと……、案の定、私に似た顔がありました。私と同じ出自のようです。
「貴女は……、私の何人目の妹?」
「さあね。何人目かはわからない。でも、貴女と一緒に組織を逃げ出したのは、確かだ。お久しぶり。次世代型の小日向ミライだよ。尤も、今は別の名前を付けてもらっているけど」
「次世代型の子……。良かった、無事だったのね。それとごめんなさい。今まで探しに行けなくて」
「気にしないでいいよ。良い人に拾われて、真っ当な生活は送れたから。今は少し落ちぶれてしまったけど」
ボロボロのコートを見せて、自嘲しているミライ。
「あの、もし行くところがないなら、一緒に暮らさない? 部屋もまだあるし」
「折角だけど、今のところは大丈夫。あちこちの世界を旅してるから。でも、他にいいところが無さそうなときは、ここに戻ってきますよ」
「じゃあ、そのときはいつでもおいでよ」
「うん」
ミライは席を立って、外へ出て行きました。
逃げ出した当時はまだ幼かったあの子でしたが、無事だったようなので何よりです。今はどうかわかりませんが、本人はそれほど不足はないようですし。
「また来てくれると嬉しいのですがね……」
来てくれたときは、いつでも迎え入れます。
こんな感じで普通の生活をしているクローン未来もいます。数はそんなに多くないらしいですけどね。
もしかしたらあなたの近くにいたりして……、なんてね。