「モウ、ワタシイラナイ……。モウ、イラナイ……」
ショッカーで新型兵器のテストを担当していたら、いきなりお前はもう用済みだと言われた。新型の怪人ができたから、お前みたいな試作品はいらないって。
「命ヲ取ラレナカッタダケ、マシ……? デモ、コレカラドウシタラ……」
廃ビルの上で、途方に暮れる。何処だかわからない場所に放り出されて、これからの身の振り方を考えようにも、考えがまとまらない。何とか組織に復帰したいけど、首領のことだからタダでは戻してくれない筈。それに……。
「ガボッ……」
口の中で鉄の味がする。新兵器のテストのせいで、最近吐血が酷かった。それで捨てられたのかもしれない。体内の部品を交換すれば何とかなりそうだが、ショッカーでないと互換性のあるパーツは手に入らない。だから戻らないといけない。
「ナニカ目ボシイモノハ……」
手土産になるものがないか、物乞いのようにあちこちを見やると、バイザーが反応を示した。詳細はわからないが、戦闘のようだ。もしかしたら良い物が見つかるかもしれない。
「イッテミルカ」
足のスラスターを吹かせて、鉄火場へと向かった。
行ってみるとオレンジ色の私が着ているものに似たものを着た奴が、何だかぐにゃぐにゃした薄気味悪いものと戦っていた。
暫く様子を見ていると、やがてオレンジ色が怪物を倒した……。それを見ていて、すぐにこんな考えが浮かんだ。そうだ。あいつを捕まえたら……。
すぐに腹を決めて、オレンジ色目掛けて光線を発射する。
オレンジ色はそれに反応して、身体を揺らして避けた。そう簡単に当たってはくれないみたいだ。
光線を発射して反作用で加速をつけて左に回り込み、扇を横殴りに叩きつけようとしたが、左腕で防がれた。すかさず右足で回し蹴りを叩き込み、背中を蹴り飛ばして吹き飛ばす。
倒れたところにのしかかり、取り押さえようとした。でもまた口の中に血の塊が込み上げてきた。
「ウグッ?! ガボァ……」
咽せてまた血を吐く。こんな様子だから力が入らない。跳ね起きたオレンジ色に取り押さえられてしまった。
「だ、大丈夫……?! え、未来?」
オレンジ色の表情が変わった。知り合いでも見つけたような顔だ。
「今までどこ行ってたの! 皆、心配してたんだよ! こんなに傷だらけになって……。おまけに血まで吐いて……」
いきなり何か捲し立ててきた。なんだこいつ。それに未来って誰だ。私の名前は……、不味い。思い出せない。
「チョットマテ。ワタシハオマエノコトナンテシラナイ。ダレノコトヲイッテイル」
「何言ってるの、未来。そんな下手な芝居して」
「シバイジャナイ」
「いいから来て!」
「オ、オイ!」
いきなり担ぎ上げられ、何処かへ連れていかれた。まさか医者の所にでも……?
連れていかれた先は、潜水艦だった。
そこの医務室に運ばれて、レントゲンを撮られた。
抵抗しようにももう体が動かず、されるがままだった。これじゃ、もう戻れない。機密をばらしたことになる。
何とか体の自爆装置を作動させようとしたけど、作動しなかった。というよりもできなかった。起動装置が撤去されていたから。
理由は、自分の体を見ればわかった。最早、壊れかけのガラクタでしかないから、放っておいたところで問題ないと思われていたのだろう。
「ミハナサレタカ……」
途端に肩から力が抜けた。何だか、色んなことがどうでも良くなった。
これからどうなるのか。解体されるのか? それでもいい。もう先が見えたから。
ドアの向こうから何人か外科医が入って来た。どうやら年貢の納め時みたいだ。観念して、目を瞑る。
つくづく運のない人生だった気がする。
「ここは……?」
目が覚めたとき、また例の医務室のベットにいた。どうやら首の皮一枚で繋がったみたい。で、どういうわけか、オレンジ色が私の足元に倒れ伏していた。
「痛っ……」
起きようとすると身体中が痛む。手術されたのか、あちこちズキズキする。
「あー、まだ動いちゃ駄目だよ!」
「へっ?」
私が体を動かしたことに気づいて、起き上がったオレンジ色が、安静にするよう止めてきた。
「ちょっと待ってて。飲み物持ってくる」
「え、あ、うん」
こっちが何か言う前に、外に駆け出していった。勢いのある子だ。
「はい、お水持ってきた」
「ありがとう……」
飲んでいるとじーっとオレンジ色がこっちを見ている。喉でも乾いたのかな。
「何?」
「いや、やっと未来が帰ってきてくれたんだなーって思って」
「あの、未来って私のこと?」
「覚えてないの」
「覚えてない」
「何にも?」
「碌でもない連中に実験材料にされてたことくらいしか覚えてない」
「エルフナインちゃんの言ってたことは、本当だったんだ……」
がっくしと肩を落としているオレンジ色。見ていて何だか申し訳なくなってきた。この前、獲物にしようとしたのもあるし、頭を下げて謝った。
「あの……、この前のことも含めてごめんなさい」
「い、いや。気にしなくていいから! まぁ、これから思い出せるかもしれないし、そうでなくても私達はずっと親友だから!」
覚えてないけど、私はオレンジ色と親友だったらしい。だとしたら、私はとんでもないことしようとしていたみたいだ。親友を碌でもない連中に引き渡そうとしたなんて……。
「わ、私、貴女と親友だったの? ご、ごめんなさい。そんな人を手土産にしようとしていたなんて……」
「もういいから! そのことは気にしてないから! それよりも早く元気になって体を治そう? ね?」
罪悪感で泣き崩れた私を、親友は励ましてくれた。
「未来、今日はあの丘に行こうよ」
「星が降る丘ね。いいよ」
車椅子を響に押してもらって、道を行く。
体に相当な負荷をかけられていたらしく、足が動かなくなってしまったけど、響がいるから大丈夫。
あれから私は身体と一般常識に関する記憶がそこそこ快復したのち、リディアン女学院の学生寮に移って、響と生活している。
響は響で、シンフォギアを装着してあちこちに人助けに行っている。でも私に良くしてくれるクリスという子が言うには、前より頻度は少ないらしい。
一方で私は、不自由な体ながらS.O.N.G.の人達の手伝い、といっても料理の差し入れくらいなものだけど、それをしたり、リハビリに励んだりしている。
「いつもありがとう。響」
「なんてことないよ。それよりも今日は流星群が見られるみたいだよ」
「曇ってなくて良かった」
曇天じゃお星様は見られない。
星の下でお弁当を広げて、ゆっくりと月見ならぬ星見をする。
「流れ星に何か願い事する?」
「そうだねぇ……、内緒」
「そりゃそうか。私も」
お弁当をつつきながら待っていると、予定より少し遅れて流星群が来た。
「あ、来た来た……」
「早く願い事願い事……」
暫く二人とも押し黙った。流れ星が見えなくなってから、私から口を開いた。
「どう? 願い事は言えた?」
「言えたよ。未来の体が良くなりますようにって……」
本当に私の事を大事にしてくれている。嬉しいな。
「ところで未来は?」
「勿論、言えたよ」
「どんなの?」
響の問いに一拍おいて答えた。
「響と永遠に一緒になれますようにって……」
もうそれしか私の願いはない。
ある意味、元通りです。記憶が戻ったか否かは、分かりませんがね。
ちなみにこの未来さん、料理と射撃が得意らしいです。香川県出身で彼女と同じくらい愛が重い美人さんみたいに。