がん宣告をされた。
末期の胃ガンだそうだ。
あと半年持てばいいそうだ。
隣にいる"彼女"の息を飲む音が聞こえた。
しかしながら、私自身驚きはしなかった。ただ、左手の薬指にはめた指輪に触れ『そうか、あと半年か』としか思えなかった。
唐突だが戦争が終わった。鉄血ともELID共の戦いが終わった。
そんでもって、戦術人形の返却を命じられた。なんでも民間団体の奴らがうるさいらしい。そんなもん無視しろと言われそうだが、政治的な事柄が関わっているらしい。それと、個人が持つ兵力を抑える名目だそうだ。そりゃあ、指揮官が集まれば、被害が出るだろうが国を一つは取れるのだから。
返却した人形達からコアを抜いて民生用人形にして、こちらに帰ってくるかといえば、そうは問屋がおろさない。
例えコアを抜いたとしても、1度戦場に立ち、銃を握り、数多の敵を撃ち抜いた彼女達が脅威になる可能性だとかで、これも政治的な事柄が関わっているらしい。
そう、完全な返却。いわば、彼女達の存在を消すことだ。その記憶、身体そして記録もな。
だが、一部の人形達は、16Labに送られた。
戦術人形の情報収集と保護が目的だそうだ
妥当だわな。
これには、指揮官達からの反発が大きかった。そりゃそうだ、共に戦場に立ち、勝利を喜び、敗走の苦しみを知り、出会いと別れを繰り返しての平和だ。人形達と過ごせると思ってた連中もいた。
そういう連中は、人形との関係が良好であった。そうではなかった連中?……ああ、いなくなったよ。正確には、激戦に着いてこれなくて潰れたと言っていいかな。
閑話休題
そんな声が大きかったのか、"1人"だけコアを抜いた状態で我々の元に戻ってくることになった。そう"1人"だけだ。なぜ、"1人"だけかって?
そりゃ、5人いれば1部隊、4人は小隊……ってな感じで1人になった訳だ。
そうなれば、数多くいる部下の"彼女"達から"1人"を選ばなくてはならない。どうすればいいか悩んだものだ。大規模作戦並みに悩んだものだ。他の多くの指揮官は、誓約をした人形を選んだみたいだ。
そんなことを思いながら誓約を交わした"副官の彼女"を見れば、微笑むばかりだった。
流石に頭を抱えたものだ。そんな私に"彼女"は アイデアをくれた。
『人形達、1人1人と話をする』といったものだ。
幸いにも時間だけは、あった。以前のように襲撃もなく。形だけの哨戒任務だけであったものだから。
しかしながら、1人1人と話をするというのは大変なものであった。しかし、これは最後の機会でもあった。彼女達と過ごし言葉を交わすという。それからの日々は穏やかなものだった。
1日に1人と話をする。いや、話だけではなく外に行ったり、買い物、食事、睡眠、遊んだりもした。自分の夢を語ってくれたりもした。そのときの彼女達は綺麗であった。自分のことを語っているその姿に私は、心というものを感じた。
話していくうちに誰も自分が消えるということに悲壮感を持っていなかった。
そこで、 私は
『怖くないのか?』と聞いた?
皆、一様に私の言葉を拒否したのだ。
彼女達の言葉にまた頭を抱えた。
そんなに拒否しなくてもいいじゃないか。結構、心が傷付いたぞ。
いや、彼女達は自分の立ち位置というものを把握しているのだろう。だからこそのあの"言葉"なのだろう。
さて、ここからが、本題だ。
返却の話があってから自室から出てこない子がいた。"彼女"と"話"をするときがきたのだ。
私が他の人形と"話"をしている間、"彼女"の面倒は"副官の彼女"がみてくれた。いやはや、頭が下がる思いである。
"彼女"と"話"をしよう。
『
コアを抜いた"彼女"が戻ってきた。武装を解除した彼女は只の少女…いや民生用人形に戻ったが正しいか。
"彼女"が民生用人形に戻った日、それは皆との別れを意味していた。
返却される彼女達がいる。16Labに行く者もいるようだ。彼女達は別れ際に思い思いに言葉を交わしてきた、
やれ、元気にいろ、"彼女"を泣かすなだとか余計なお世話だ。そんな、彼女達は笑顔で去っていった。
"副官の彼女"は、指輪を渡し言葉を交わした。
その場には、泣き崩れる私と"彼女"しかいなくなった。
"彼女"との生活は、平和そのものだ。
元の職場の退職金を元手に小さな雑貨屋を開いたのだ。雑貨屋といっても置いてあるものは家具や本、飲み物、食料……なんでもあるな、この店……。そのなもんだから、客足は大繁盛とは言えないがあると言えよう。
"彼女"は看板娘として私と一緒に切り盛りしている。"彼女"目当ての客もいるようだが、私の目が黒いうちは渡さないからな。
平和な生活というものにも終わりは来るようで。
店の準備中に倒れたようで、目が覚めたら病院でありました。
余命宣告をされました。
がんになる心当たりがありすぎて、驚くことなく平然とうけとめてしまった。
"彼女"を泣かせてしまった。
いや、私が悪いのだが。余命宣告された後の行動が不味かった。淡々と店の引き継ぎや、"彼女"の持ち主の手続きをしてしまったのだ。もう少し"彼女"の言葉に耳をかすべきだった。
こんなんじゃ、"彼女達"に怒られてしまう。
どうしたものか、悩んでいると。"彼女"と"話"をすることになった。
これじゃ、あの時の反対だな。
"彼女"と出掛けるのが随分と久しぶりと感じてしまった。"彼女"をチラリと見るといつも通りのようだがどこか…どこか…
街の一角にある、カフェで休むことになった。ここのカフェは1人と1体の人形でやっているみたいだ。
揃いの指輪をつけた両人が仲睦まじく切り盛りしているのを横目に見ていると"彼女"から言葉を掛けられた。
『怖くないの?』と
ああ、そろそろ終わりのようだな。瞼がおもくなってきたよ。感覚も無くなってきた。唯一あるのは"彼女"に手を握られた感触だけ。
そんな顔をするな。引き継ぎも終わったし、16Labの奴らも店の管理ぐらいは出来るだろう。
えっ?そんなことはどうでもいいって?いや、どうでもよくはないだろう。 わかった、わかった。
"彼女"が怒る姿が霞んで見える。
私がいなくても、生きることは出来るだろう。だから、生きてみせろ。危なくなったらまた、銃を手に取ればいい。コアが無くとも撃つことは出来る、そうだろう。
だからだ、これは、私の最後の命令だ。生きろ。そして、満足がいくものを見つけろ。それまでには何をしてもいい。わかったか?
"彼女"は頷いた。その目には確固とした意志が宿っていた。これなら、大丈夫だろう。
ありがとうな、こんな私に着いてきてくれて。
目を閉じる瞬間、涙を流す"彼女"と彼女の胸元で光る2つの指輪が見えた。
『怖くないと言えば嘘になるが、けど、私はやるべきことをやって満足してしまったんだ。それがこの平和だよ。この平和なときを見てやるべきことはなくなったんだと感じたんだ。だから、受け入れた。だけど、生きることから逃げた訳じゃない、最期までちゃんと生きるさ、だからもう少し付き合ってくれ。人形がいないと何一つできない指揮官に。』
悲しいこともあるかもしれない、立ち止まってしまうかもしれない、前に進めとは言わない。頑張れとも言わない。自分が歩みたい方に行けばいい。前でも後ろでもかまわない。それが生きることだ。