おっさんの飲み場に侵入者一人。
「咲の親父さん、お久しぶりです」
「おう、久しぶり……あれ、俺よりでかくなってねーか?」
「ここ一年で10ちょい伸びたので」
「最後に会ったのが修学旅行の頃だったから、その間ほぼ丸々会ってないのか。元々低くはなかったけど伸びたなあ」
「いや、というより俺、現状がよく分かってないんすけど。ええと、そちらの方は」
「須賀くんの部活の仲間に、原村って苗字の女の子いない?」
「居ますけど」
「その親父」
「……は?」
「この子は須賀くん、同じ清澄高校の麻雀部で、うちの娘が中学から世話になってる」
「うちの娘が世話になっている」
あっさりとした様子の界から対照的に厳かに会釈する恵へと視線を移し、清澄高校麻雀部唯一の男子部員──須賀京太郎は口を問いかけた状態のまま半開きにして固まった。
界が冗談で勧めた酒を恵が真面目に取り合って遮り、結局は咲とっておきの少々値の張るフルーツ飲料(720ml 2808円)が京太郎の手に渡る。
後日これが原因で娘の怒りを買うのだが当の父親は知る由もない。
「置いてかれたんだって?」
ビール缶を持ち上げながら界が聞く。
「俺は朝に合流ですよ」
「あれ、泊りでって聞いてたけど」
「流石に男も一緒に泊まるのはまずいでしょう。学校の敷地内なんでそんな遠くないんですよ」
「へー、咲からは須賀くんは一緒じゃないってのしか聞いてなかったから」
ビールを飲む界に合わせて、京太郎もジュースを一口。
その濃さに驚き、ゆっくりと飲み下す。美味いですねという京太郎の言葉に、界はそれは良かったと笑う。
恵が新しいビールの缶のプルタブを起こす。
「というかええと、どう言った要件で……」
「娘たちの学校での様子を聞かせてもらおうかと思って。恵も聞きたいってよ」
「私は止めただろう」
恵は静かに、しかし半ば諦めたような様子で応答する。
このやりとりだけでも二人の関係性が見えるようで、京太郎は苦笑する。
部外者を呼ぶこと自体に特に反応を示していないところを見ると、昔からこのようなことがよくあったのだろう。
「咲はともかくのど……か、さんのことは会って二月も経ってないんで、俺もそれほど話せませんよ?」
呼び捨てからさん付けに変えたのは父親の厳格そうな雰囲気を見てのことだろうか。
当の父親は無言で缶を煽っている。
「いいからいいから」
界に促され、京太郎は咲の入学時の様子から時系列に沿って話し始める。
咲が入学式の日もクラスに行くまでで迷っていたこと、その後も移動教室があるたびに迷っていたこと。
クラスにまで聞こえていた美人の同級生の噂、部活勧誘の時期にひょんなことから見に行くことになった麻雀部にその噂の当人がいたこと。
「奥さん美人だったしな……ちなみに胸は」
「か……」
なり、と反射的に言いかけて踏みとどまるが、それで十分伝わったらしい。
「やっぱ遺伝か。咲たちには申し訳ねーが望みはないな」
「あはは……」
「須賀くんが麻雀部入ったのは、和ちゃん?目当てか?」
「ええっ、いやその」
「そうなのか?」
恵は静かに京太郎を見ていた。
ビールを空けることに専念しているようであったが、話はずっと聞いていたらしい。
「いえ、その……そうした気持ちもゼロじゃなかったですけど、きっかけは普通に麻雀部への好奇心ですよ」
「なんだ、つまらないな」
「そうか」
つまらないと言いつつ面白がっているのを隠しもしない界と、内面の見えない顔で再び缶の中身を減らす作業に戻った恵。
京太郎は誤魔化すように、ぐいとフルーツ飲料を飲み干して続きを語る。
麻雀はよく分からなかったが面白そうだと思い入部したこと、和と仲の良い女友達の存在。
先輩たちどころか、和にもその女友達にも勝てなかったこと。咲を誘って、±0、和の苛立ち、咲の入部──
「……」
「そんな睨むなって」
±0のくだり、家族麻雀云々のところから恵が咎めるような目を界に向けていた。
「でも、結構酷くないっスか? 子供のお年玉巻き上げるって。しかも上がったら怒られたとか」
「アレは俺がふざけて提案したら照──咲の姉が乗ってきたのがきっかけだ。娘たちからの分は母親が管理してる」
「上がったら怒ったっていうのは」
「あいつが初めて上がった時、反応が面白くてふざけてからかってたら本気にしてな」
±0を身につけたのには驚いたが、と懐かしげに笑う界に京太郎は呆れたような表情、恵はもう知らん顔で缶を煽っている。
丁度あの雀卓で打ってて、と界が目でカバーのかかっている雀卓を示したところで、思いついたように言う。
「ちょっと打ってみるか。せっかく麻雀部員が集まってるんだ」
「へ? 麻雀部員って」
界はこともなげに言う。
「須賀くんと俺と原村」