男たちの麻雀   作:みみなぐさ

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2話

「へ? 麻雀部員って」

「須賀くんと俺と原村」

「そうだったんすか!?」

 

 

咲から聞いたこと無いぞ、と京太郎は驚くが、考えてみれば高校に入るまで麻雀のマの字すら話題にしたことがなかったな、と思い直す。

そんな男子高校生の驚愕と納得を他所に、恵は界を見据える。

 

「宮永」

 

静かに呼ぶ声には、咎めるような諫めるような音が含まれていた。

「いいじゃねーか、ちょっとした気晴らしだ」

「俺かなり弱いっすよ? 三麻もやったことないですし」

「俺らもブランクあるからちょうどいいさ。ルールは基本ニ~八萬と北家抜き、チーが出来ねーってだけ覚えときゃいい」

ガタガタと椅子を引っ張ってくる。

恵は諦めたように嘆息する。

「……計算と抜きドラは?」

「面倒くせーしツモ損ガリ抜きでいいだろ。あ、ツモ損ってのはツモ時に北家分の獲得点が貰えないってことな」

「抜きドラって何すか?」

「北や一九萬を手牌から抜いてドラ扱いにするってルール。抜いた分は嶺上から補充する」

(……咲がそのルールでやると凄いことになりそうだ)

 

 

 

~~~~~~

 

対局中

 

~~~~~~

 

 

 

(つ……)

 

(つええ……)

 

数度空になった点箱が再び軽くなっていくのを呆然と眺めながら、京太郎は思う。

三麻は回転が早く、経験不足が如実に出るというのもある。

しかし、役が出来やすく回転が早いということは運の巡りも普通の麻雀より激しいということでもあるはずだ。

 

にも関わらず。

 

 

「須賀くん、このままじゃまたヤキトリだぞー」

 

 

一度も上がれないのはどういうことなのか。

 

 

界は時折不可解な打ち回しをする打撃系。

恵はデジタルではあるが時々それから外れた、結果を見るとまるで『界の不可解な打ち筋を考慮したようなデジタルの打牌』をする。

 

  ※確率論的・統計学的な戦略を重視=デジタル

   ツキ・勘・流れを重視=アナログ(オカルト打ち)

   打点・相手に与えるダメージ・心理的な押し引きを重視=打撃系

 

 

(強い、部長や和よりも強いだろこれ……!?)

普段から打っていてよく知る、自分よりもよほど上級な打ち手と比較しながら、初心者である京太郎がそう思えるほどの強さがこの二人にはあった。

 

(でも、なんだろう。部長たちと打つよりも、よほど勝てそうに思える感じだ)

(なんというか、そう──)

 

(──怖くない。不思議なほど、強者のプレッシャーみたいなものが無いんだ)

 

 

 

「おい原村、お前の……あ」

「どうしたんで……あ」

気づけば、恵は腕を組みながら寝息を立てていた。

 

「相変わらず酒に弱いんだな。こうなったらしばらく起きねーわ」

「全然酔ってるようには見えなかったですけど」

「以前からそーなんだよ、顔にも出ないし量も飲む割にすぐ寝る。酒入ってる間は普段よりよほど穏やかだしな」

と笑う界に、あれで穏やかだったのかと変なところで衝撃を受けつつも謎の感心をする京太郎。

京太郎は時計を見る。あれだけ打ったのにまだ1時間も経っていなかった。

 

点棒をまとめるのを手伝いながら、京太郎は界に言う。

「でも、知らなかったですよ。咲の親父さんがこんなに強かったなんて」

「須賀くんが初心者だからそう感じるだけじゃないか?」

「いやいや、これ多分俺が初心者とか関係ないすよ。下手すると咲よりも強いんじゃ……」

「どうだろうな。うちは結局誰も咲の±0をまともには崩せなかったし」

咲は負けないというだけで良いなら今のトッププロにも通じるんじゃないか、と界は笑う。

まるで宮永家は並みのプロよりはよほど強いみたいな言い方だ、と京太郎は思うが、今の実力を見る限りその通りの様な気がした。

そんな京太郎の内心を知っているわけでもないだろうが、

 

「……まあ、今でも最近の男子プロよりは強いかもな」

 

ぽつりと、界が漏らす。

発言の内容と裏腹の、あまりにもしんみりとしたつぶやきが何かを感じ取らせる。

無言で続きを促すような京太郎の視線に気づき、界は苦笑しつつ席を立ち、冷蔵庫からビールと残りのジュース(500ml 3240円)を取り出す。

「あまり、面白い話でもないけどな」

長くなるかもしれないがいいのか、と界が聞いて、面白そうなので、と京太郎は頷く。

 

 

「南浦プロって知ってる?」

「名前くらいですけど」

 

 

「俺と原村は、元々その南蒲プロのやってた麻雀教室の生徒だった」

 

 

「先生は──南浦プロのことを俺らはそう呼んでたんだが──元々長野の人でな。

 男子麻雀も今思えば全盛期に近くて、憧れてる奴は多かった。

 俺らもその内の一人だ」

「幼なじみだったんですか?」

「幼なじみ……とは言わないんじゃねーか。

 原村と俺は小学校から同じだったが、当時は殆ど話したこともないようなもんだったしな。

 あいつは昔からあんな感じだったし、俺は昔からこんなんだったから、まあ順当だろ。

 だが、小5の時だったか。南浦先生の麻雀教室に同時期に通い始めてな。

 生徒は多かったが、俺達はその中でも上達が早かった。中学に進む頃には同年代だと互い以外にはほとんど敵なし状態だ。

 自然、対局することが増えてきて、その度に意見がぶつかってな。

 いつの間にかそうした話を学校でもするようになってて、気がつけば一番話す相手になってた」

 

「麻雀教室かぁ……麻雀部には入ってなかったんですか?」

「麻雀部に入ったのは高校に入ってからだな。

 そもそも麻雀にそれほど入れ込んじゃいなかったからな、中学くらいの時は。

 当時はプロに憧れはあったもののなろうとは考えてなかったし、教室で打ってれば十分だった。

 だがまあ、中学の終わり頃に色々あって本気でプロを目指し始めた。

 麻雀教室は中学生までだったし、それ以降は高校の部活だな」

 

あそこの高校だ、と界が名前を挙げたのは清澄とは違う地元の公立だった。

ついでに原村はあの高校、と続けたのは進学校としても麻雀校としても有名な名前。

 

「二人共頭良かったんスね」

 恵はもとより、界の母校というのも進学校として名前の通った学校だった。

「あいつの場合はもっと上の学校にも行けたんだがな。麻雀が強いってんでその高校を選んだんだよ」

「え、そうなんですか!? もしかして、和の親父さんも」

「ああ、プロを目指してた。しかも俺よりずっと前、教室に入った当初からな」

「なんというか、イメージできないっすね。むしろそういうのを嫌いそうというか」

「実際、今では嫌ってるからなー」

「……何かあったんですか?」

「ああ、それがまあ、この話の本筋でもある。俺にしても、あいつにしても──」

 

「──高校1年の、夏が全てだった──……」

 

 

 

 

「……と、ドラマなんかではここで回想が入る良い引きだが、生憎この後も俺の語りが続く」

「酔ってますね」

「少しな」

 

 

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