この日が来ることを待ち望んでもいたし、永遠に来て欲しくないとも思っていた。
同じことを思っていた第一世代のVault居住者はどれほどいるだろうか?
1:過ぎ去りし月日。
俺のひい爺さん、生きていれば恐らく110歳を超えていただろう帰化日本人がこの地、アパラチアに流れてきたのは俺の爺さんが学生の頃だ。
ひい爺さんは不思議と勘や運の良い人でひい爺さんはそれまでの仕事を全て投げ捨てて米国のアパラチアに移住した。
ひい爺さんの不安は俺が生まれる少し前頃に遂に目を出した。
簡単に言えば地球全体での資源不足、特に原油の不足が騒がれ始めたのだ。
その結果が2052年の中東欧州間戦争であり、これに端を発して終戦後には欧州連邦は崩壊しその後、数少ない原油生産国のアメリカのアラスカに中国が攻め込むという事態につながっていった。
俺は日系と中華系の区別もつかない奴らに嵌められて高校中退で軍に入隊。
教官である軍曹に呪詛を吐きながら訓練に明け暮れ、正式な軍役は4年。
より正確には3年間を前線の車両やパワーアーマー、その他武装の整備員として戦場に張り付けられた。
アンカレッジ解放戦にも裏方の整備員として参加したが、実に酷い戦いだった。
ネイトという兵士は味方を率いて大活躍をしていたが、こちらにも大量に敵が押し寄せて整備員まで完全武装で態々ステルスを仕掛けて浸透してきた中国兵と戦う嵌めになったあの時は本当に生きた心地がしなかった。
無事にアパラチアの実家に帰ってこれた時は思わず泣けた。
帰宅後は色々と騒がしい所もあったが、Vault-Tech社員が胡散臭い態度でVault76への入居申請の紙を持ってきたのもその時期だ。
しかし、平穏は長く続かない。
核爆弾が落ちてきた、このアパラチアに。
俺は偶然にもVault76で施設整備の研修を受けていたから無事だったが、家族はどうなっただろうか?
想像も容易い結末だが案じずにはいられなかった。
25年。
Vault76がシェルターの役目を終え再びアパラチアを、アメリカを世界の再生を開始するまでの待機時間だ。
荷物は学生時代になんとなく買ったギターと譜面、爺さんから貰った古いが面白い日本のマンガ本、婆さんと母さんに持たされた植物の種と醤油と味噌とレシピエント本。
親父からは銀の懐中時計だ。
これらは25年のVault暮らしで人々とのコミュニケーションに実に役立った。
Vaultは安全で快適だがあくまでも避難施設。
娯楽の面では限界がある。
だからこそ、食事やマンガ、運動、音楽といった娯楽は重要だった。
この地下で何人かが病気で死に、この生活に耐えきれず或いは未来に絶望して死んだ。
逆にポジティブな人間や目的意識のある人間は生き続けた。
25年の間に当然、新しい……Vault生まれの世代も多く現れた。
俺は彼らに多少の知恵と技術を教えた。
幸いにも子供の世話は嫌いではなかった。
まぁ自分が独身で子供も居なかったというのが大きいだろう。
そして再生の日が来た。
「人は過ちを繰り返す。俺達Vault76の人間もまた、過ちを繰り返すのかもしれないな」
Vaultの堅固な扉が開き外の眩しい光が目を灼く。
再生の日、目覚めの時だ。
「整備員のおっちゃん、懐かしの外はどうだ?」
「外に出れて嬉しい、懐かしい光景が嬉しい。だが、随分と荒れ果ててしまった。わかっていたことだが悲しいものだ」
ガタイの良い正義感が強く頭はちょっと残念だが腕自慢の青年に話しかけられそう返す。
展望台から見える町並みは懐かしい面影を随分残しているが、反面よく見れば建築物はボロボロで木々も生え放題。
いっそ荒野にでも変わっていれば諦めもつくが、この状態では懐かしい顔がどこかにと期待を持たされてしまう残酷なものだ。
「監督官の率いるAlphaチームは先行して各地の調査に出ているんだったっけ」
「そうだな。我々Betaチームは彼らの後追いをしつつアパラチアの安定と各地に居住地を作りやがてはアメリカを再生するのが使命だ。先ずは麓の町を探索して監督官の足跡を探すのも良いだろうな」
青年はふぅむと頷き考える。
「おっちゃんはどうするんだ?」
「寄り道をしながら向かうとするさ」
木材には困らないが掃除は大変そうだなとも思う。
折角C.A.M.Pがあるのだし早速使ってみたい気もする。
そんな俺の思考を見て取ったのか青年は肩をすくめて別れを告げる。
「そうか、じゃあまたな」
「あぁ、また会おう」
青年と別れ展望台近辺で資源に成りそうな物を拾い集めていると小型ロボットの群れに襲撃された。
うす緑で赤い星、英語でも日本語でもない言葉……畜生、中国製のゴミか!
奴等は5体程で赤いレーザーを放ってくるが威力は見た目程ではなくちょっとしたスタンガン程度だ。
とは言え楽観は出来ない。
足をたたんで頭部に刃を無数に生やして回転させて飛んで来る体当たりがで来たはずだ。
それが一番攻撃力がある…のだが中国製の迷惑なゴミは執拗にレーザーを撃つだけだった。
途中、痛みを堪えて殴り掛かればあっさり壊れた。
他の個体も同様に殴れば壊れた。
成る程、25年の月日で少なくともここにいるゴミは本当にスクラップ寸前だったのか。
落ち着いて見れば錆びだらけで凹凸も多い、寧ろなんでレーザー発射機構や歩行機能が生きていたって話だ。
その後も周囲を探すと手斧やマチェットを見つけた。
「戦闘前に見つけれればよかったんだがなぁ」
ボロボロとは言え鉄製のジャンクを殴る蹴るしたわけで手も足も痛い。
……そろそろ町に降りよう。
いい加減、目を逸らしていてもしょうがない。
懐かしい故郷の荒れ果てた光景は老いて涙腺が緩くなったジジイには辛いものだった。
我が家は多少マシとは言え壁に大穴、見知らぬ他人の死体?石化した何かが転がっていた。
庭に木を十字に組んだ簡素な墓が家族の分だけあった。
家に転がっていた石化した死体が生前に家族を弔ってくれたのだろうか?
とはいえ、俺の部屋が完全に他人の物になっていたし、家の中も面影が多少あるだけでほぼ内装は違う。
引っ越し後、別の住人が入った賃貸ってこんな気分なのだろうか、という感想を抱きつつ外に出る。
人が石化するとは妙な話だ……。
その後、野犬に警戒しながら辺りを探索すると今度は人の姿を見つけた。
ただし、意味のわからん戯言ばかり口にする、突起の生えた異形。
奴等は当然のごとく襲い掛かってきた。
「ぐっ、この!?」
斧で奴等を殴りつければ、予想外に呆気なく死んでしまう。
「だが、銃を持って奴もいたな…幸い、撃ちはするが腕は悪いようで助かったが…」
パイプや廃材で作った簡素な銃だ、恐らく普通の銃よりも遥かに速くダメになってしまうだろう。
ただ、それとは別にちょっとした改造品もあった。
銃身部分を切り詰めた狩猟銃だ。
取り回しは楽になるが、その反面で安定性や飛距離が落ちる。
威力は高いのだけど元の特性が死んでいるのでこれはどうなんだろうな、本当に。
単純に威力が高いのが欲しいのなら44口径弾を扱える銃を使えばいい。
元がその用途だから無理なく使えるだろう。
逆に距離を置いて狙撃をするためのライフルを切り詰めて射程距離を殺すとか、本気でダメじゃないだろうか?
その後も暫く探索をしつつ同時に監督官の足跡を探す為に移動を続けると、誰かが展開したCAMPを展開して文字通りのキャンプを張った跡が見える。
「これは……監督官のホロテープか」
テープの内容を聞いてみると、CAMPの使用方法や防具作成の推奨だった。
作り方は設計図のファイルを再生の日が来る何日も前に監督官と一緒に準備したな、という苦労の記憶の方があるぐらいだ。
ここに来るまでで双頭の鹿や狼、モグラみたいな鼠と色々倒したおかげで皮は確保してあるのでそこは問題なかった。
「部屋のインテリア用に、後は防寒着用に使おうと思っていたがここで使う事になるか。
まぁ、革で防具を作れば多少はマシか」
本音を言えば鉄製が一番だが、重い上に作るのも大変そうだ。
等分は革製を改良していくことになるが、改造すればその分重量は増すので結局は筋力や体力をつけて扱えるようにならなければいけない。
今から体を鍛えなおしかと思うとげんなりするが、死ぬ気もないのならやるしかない。
「さて……この後はどうしたものかな?」
監督官の足跡を更に追うもよし、途中で見つけたレスポンダーなる自警組織の痕跡をたどるのも良いだろう。
彼らは生存者の訓練等もやっていたようだからもしかすると良いトレーニングになるかもしれないな。
……その訓練に参加して簡単なお湯の沸かし方、というか火の付け方を覚えた。
結構簡単に作れる道具で楽に火を付けれるんだな。
煮沸した水?
いや、放射能云々以前に普通生水は飲まないだろう……赤痢とか寄生虫とか何入ってるかわからないし。
余裕があるなら蒸留水を作りたい所だが、そこまですると時間も燃料も余計にかさむからそこまで手を付けられない。
それに準備も面倒くさい。
しかし、双頭の鹿の次は双頭の牛か……これ、単純に放射能のせいとは言い切れない状態じゃないか?
絶対何か変なウィルスとか流出しただろ。
そうじゃ無けりゃ鹿や牛があの姿が当然とばかりの生態系作れないし。
馬鹿みたいにデカいハエもありえんしゴキブリもな、本当に誰だよ下手人っっ!
「ふぅ……茶でも飲んで落ち着くか」
お茶と呼ぶのもおこがましい、干した草花をお湯で戻して風味を載せただけのものだ。
意外とすっきりするので重宝しそうだ。
「とりあえず、今後の事は監督官の足跡を追うのが最大目標だな。後はメモでも残しておくか。
最終的にはサバイバルガイド的な形にしたいが、今は日記のように書くでも問題ないだろう。
紙は……チラシの裏で良いか」
裏が白のチラシは割と多いし。
Wastelanders編の要望確認です。
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それより将軍(ry
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お前のフォトニック(ry
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人は過ちを繰り返す(将軍並感