京太郎と咲が付き合っていたらの話   作:みみなぐさ

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【 1 】

いつからだろうか、小さな友人を、友人と思えなくなっていたのは。

 

それに気づいた頃は、何度となく疑ってみたりもした。

何かの気の迷い、一時的な錯乱、吊り橋効果、発情期的な何かetc...

でもやはり、何度疑っても、自分でも信じられなくても、それはどうやらそういうものらしかった。

友人の距離というものを遠く感じ、今まで何度も触れたことのある指先に緊張し、親しく交わす言葉の一つ一つに心臓が跳ねる。

 

 

それは所謂、巷で噂の、恋だとか愛だとかいうものらしかった。

 

 

 

 

 

いつからだろうか、将来という曖昧な先の想像の中で、常にその人が傍にいるようになったのは。

 

それが恋愛と言われるものであるかどうか、判断がつかない。

恋愛というものを、自覚したことがないから。

初恋すら、怪しいものだ。

だから、とにかく、それがそうしたものかどうかは分からない。

ただ、傍にいることが当たり前であるように思えていた。

 

だから、驚いた。

 

彼のその言葉に。

 

 

そして──私の言葉に。

 

 

 

 

 

【 1 】

 

 

「はい」

量は控えめであるものの、食堂のメニューにしては豪勢な料理の載ったトレーが、テーブルに置かれる。

「レディースランチ」

「おおう」

少女が置いた料理を見て、その横にいた少年が歓声を上げる。

「サンキュー咲、恩に着る!」

「もー、調子いいんだから」

少女はそんな少年に、じとーっとした視線を送る。

 

そんな二人に、通りがかりのクラスメイトが少年の肩に手を回す。

「なに、またやってんの?」

「おお、誠も飯か?」

「まーな。オレにはランチを頼んできてくれる可愛い奥さんなんていねーけど」

誠と呼ばれたクラスメイトは、からかうようにニヤニヤと咲を見る。

「咲ちゃんはイイ嫁さんだなァ」

「おー、そうだろ」

軽口に次ぐ軽口。

そんな中、少女はびしりと言葉を制すように手を上げる。。

「中学で同じクラスなだけですから!嫁さん違います!」

「まっこう否定ですか」

少年は酷いことを言う奴だ、とばかりに少女を見る。

「クックックッ」

クラスメイトは反応に満足したのか、低く笑いながら食べ物を求める生徒の列へと向かった。

 

「まったくもう……」

僅かに頬を膨らませながら、少女は本を手にとって椅子に座る。

その横に、少年も腰掛ける……が、その様子はどこか暗い。

黙ったままで、テーブルに肘をつく。

「……レディースランチ、食べないの?」

折角頼んできてあげたのに、というニュアンスが垣間見える、そんな言い方。

しかし少女の怪訝そうな言葉にも反応せず、少年は悩ましげな表情でふう、とため息をつく。

そしてつぶやく。

「まっこう否定ですかぁ……」

その言葉は、無駄に情感たっぷりであったが、そのことに気づいているのかいないのか、少女の耳がさっと真っ赤になる。

しかし、

 

「咲はオレの嫁になってくれるつもりだと思ってたんだがなー」

 

という、つぶやきと言うには大きな独白に、耳の赤さは目立たなくなる。

「ちょっと、京ちゃん!」

「むご」

慌てた少女に口を抑えられ、ついでに引き寄せられて二人が小さな塊になる。

「っもう、何言ってるの!」

少女が囁く様に怒鳴る。

「わはは、いてていてごめんごめん」

「分かってるの!?」

悪びれなく笑う少年に、少女が怒る。

「内緒にしてって言ったじゃん、私達が──」

 

 

 

「──付き合ってる、ってこと」

 

 

 

そう言って、少女──宮永咲は少しばかり照れたように俯き、

 

「悪かったって」

 

少年──須賀京太郎は、宥めるようにまた笑う。

 

 

 

「もー……気をつけてよね」

咲が体を起こして、京太郎が解放される。

「大丈夫だって、オレらのこと気にしてるヤツなんていねーだろ」

「そう言って、誰かに聞かれてたらどーするの。京ちゃんだって黙ってくれるって言ったじゃん」

「まあ、咲の性格考えるとな」

「うん……ならさ、もうちょっと」

「でも、傷ついたのは本当だぞ?」

咲が言葉を止め、京太郎を見る。

京太郎が、柔らかい表情ながらも真摯な視線で傍らの少女を見る。

「黙ってるって言っても、ああも否定されるとさ。ちょっと自信なくなるじゃん?」

「……ご、ごめん」

確かに、疑われることを恐れて、強く言い過ぎたとは自分でも思う。

 

「ちょっとは、悪いと思ってくれてる?」

「……結構」

そんな咲の言葉を聞いて、京太郎が頷く。

そして、

「……?」

左手を、テーブルの上に置く。

ちょうど、咲と京太郎の間。

「貰いたいなーって」

「?」

京太郎がにっと笑う。

「自信をさ」

そう言って、ぴこぴこと指先を揺らす。

その言葉の意味を、理解する。

咲の顔が赤くなる。

「こ、こんなところで?」

「こんなところだから、自信もらえるんだよ」

「で、でも……」

「大丈夫だって。誰も見てないし、テーブルの上って案外目に入らんから」

「うー」

軽く唸りながら、咲はおずおずと右手を、

 

 

京太郎の左手に重ねる。

 

 

どくどくと、鼓動を大きく感じながら、咲が京太郎を見る。

「もうちょい」

京太郎は涼しい顔で言う。

咲は、

 

「~~~」

 

俯きながらも、ゆっくりと、手を重ねたままで、

 

京太郎の指を、自らの指先でなぞる。

 

柔らかいタッチで、京太郎の指の隙間へとゆっくりゆっくり自らの指を潜り込ませていく。

指先から第二関節辺りを往復するたびに、咲の指はゆるゆると隙間に沈んでいく。

「っん」

ぴくり、と咲が肩を揺らす。

ゆったりとなぞっていた咲の指先を、京太郎が指先で握りしめた為だ

京太郎の指に挟まれて、咲の指は動けない。

咲の手のひらに抑えられて、京太郎の手が動く気配もない。

そのまま数秒、手のひらと手の甲、指先で体温を交わす。

 

 

「……」

「……」

 

 

僅かに、喧騒が遠ざかったような感覚。

それもつかの間。

「──っお、終わり!おしまい!」

ばっと、咲が耐えられず指を離す。

「もう、良いでしょ!?」

そう言って、持ってきた本を開いて、顔を隠すように埋める。

「ああ、十分十分」

京太郎は満足したように、箸を手に取り、ようやく当初の目的であるレディースランチを食べ始める。

そんな京太郎を横目で見て、そのさらっとした扱いに、もしかして自分はからかわれたのではないか、と思い至る。

ああもう、と小さく呟いて、先程の行いを思い出してまた顔を本に埋める。

咲は、うーとしばらく唸った後、落ち着いたのか京太郎を恨みがましく横目で見る。

 

 

 

「……京ちゃんから告白したくせに、なんで私がこんなに恥ずかしい思いしてるの……」

 

 

 

ぼそっと、聞こえるように呟いた声にも、京太郎は気にした様子もなくレディースランチを堪能している。

料理を堪能しつつ、

 

「でも、オレ振られたし」

 

と一言。

 

「ふ、振ってないってば! 振ってたら、か、彼女になってないし……」

 

咲の言葉の後半は、小さすぎて言葉になっていなかった。

やはり聞こえなかったのか、京太郎は再度レディースランチへと取り掛かる。

ああもう、ともう一度咲が呟く。

そして、京太郎がご飯に集中していることを確認し、自らも本へと視線を戻す。

しかし、次のページがめくられるまでは、結構な時間がかかった。

 

 

 

咲は気づかなかった。

咲の手のひらが重なった時からずっと、京太郎の耳は真っ赤であったことに。

 

 

 

 

 

少年一人と少女一人。

その時間は、少年が行儀悪く携帯端末を取り出すまで、静かに続く。

 

「あ、行儀悪いよ」

「んー」

「……メール?」

「ん」

 

「いや」

京太郎が端末を傾けて、画面を見せてくる。

咲はこれが、

 

 

「──麻雀?」

 

 

大きな分岐点であることを知らないが──

 

 

──正直、二人の仲に関係は無いので、割愛する。

 

 

                                           (第一話より)

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