京太郎と咲が付き合っていたらの話   作:みみなぐさ

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【 2 】

雀卓の上に置かれた雑誌を手に取って、言われたページを開いた先に踊る文字。

 

全国高等学校大会覇者

 

しかし、目に入ったのはそこに映る、自分よりも少しばかり年上である一人の少女。

 

「お姉ちゃん──」

 

その写真の、自然でありながらも違和感を覚える笑顔に、胸が少し痛む。

お父さんがなんでこんなものを、と思ったが、お姉ちゃんが写っているからだろう。

前にも、こうしておもむろにお姉ちゃんの載った雑誌を見せられたことがあった。

 

しかし、あの時とは違う。

今、私は再び麻雀に触れている。

雑誌の先の、お姉ちゃんと同じように。

 

 

このタイミングは偶然だろうか。

もし、これが少し前であったら。

もしくは、もっと後だったら──

 

 

 麻雀でなら、麻雀を通じてなら、お姉ちゃんと話せるかもしれない。

 

 

──このような感覚は、無かっただろう。

 

 

ぐっと、雑誌を握る。

あった迷いは、すっと通った意志が断ち切った。

再び。

今度こそ、会うだけじゃなくて、話をするんだ。

そう、決意を固めてたところに、

 

ぴんぽーん

 

家のチャイムが鳴る。

宅配便だろうか、とお父さんの向かう足音を聞く。

 

「おーい、須賀くん来たぞー」

 

予想外の来客。

慌てて玄関に向かう。

 

 

 

 

 

「おっす」

「きょ、京ちゃん。どうしたの?」

「いや、ちょっと顔見に来た」

「見に来た、って」

京ちゃんの意図を掴めない私は困惑する。

「とりあえず、上がってもらえって。玄関じゃ話もなんだろ」

お父さんが言う。

「あ、オレ出かけてたほうが良いか? 2時間くらい」

「ああいや、すぐ帰るんで」

応答する京ちゃんの苦笑に、一拍おいてお父さんの言った意味を理解する。

 

「なっ……!」

 

「お、金魚のマネか?」

お父さんが面白そうに、口をパクパクして言葉を探す私を見て言う。

「っ! 京ちゃん!」

もう、言葉もないとはこのことだ。

サンダルを足に引っ掛けて、通りがかりに京ちゃんの袖を引っ張って外に連れ出す。

「お、おい? あ、お邪魔しました」

「おー。咲、あんま遅くなるなよー」

悪びれもせず私を心配するような言葉をかけてくる所が、むかつきを増幅させる。

そんな相手へ律儀に挨拶などした京ちゃんに、八つ当たりであるが腹を立てる。

足音荒く、ぺたぺたと玄関の外へ。

 

 

「で、どうしたの?」

外に出て、十分玄関から離れて京ちゃんを見上げる。

「いや、麻雀部どーすんのかなって」

「どーすんのって?」

「入部するのかってこと」

京ちゃんは頭の後ろを掻く。

「いや、和を追いかけた後、元気なかっただろ? ちょっと気になってさ」

そして、心配を滲ませた笑顔で私を見る。

「誘っておいてなんだけど、無理に入らなくて良いからな?」

 

 

「嫌だったら、部長にオレから言うし。人数合わせなら、当てはあるから」

「だから、咲には好きなようにして欲しい」

 

 

そんな、京ちゃんの言葉に。

 

「そんなことで来たの?」

 

押さえようの無い笑みが湧く。

 

 

「そんなことって」

「ううん、そうじゃなくて……ふふ。なんだか、彼氏みたいだなって」

「いや、これでも彼氏ですよ?」

「うん、そうだね。ありがとう」

 

「でも、大丈夫。決めたから」

「ん、そっか。……いらん気を回したな」

「んーん。そんなことないよ、嬉しい」

愛されているのだと、実感する。

それが、嬉しくてくすぐったくて、温かい。

恥ずかしいから、言葉にはしないけど。

「……まあ、京ちゃんと一緒にも居られるしね」

「……おう……」

言ってから、だんだんと恥ずかしくなる。

 

「それに、京ちゃんが浮気しないか見張らなきゃだし!」

恥ずかしさをごまかすために、冗談めかした言葉が口をつく。

「浮気て……」

「だって麻雀部って女の子ばっかりだし、可愛い人ばっかだし」

言いながら、麻雀部のメンバーを思い出して、

「……可愛い子ばっかだし」

京ちゃんの部屋で見たイヤラシイDVDパッケージを思い出して、

「……京ちゃん」

原村さんの、

「──浮気じゃ、」

胸を思い出した。

 

 

「ないよね?」

 

 

「な、なんでだよ。そんなわけ」

「なんで、麻雀部なの?」

 

「ハンドボールはもうやらないって事は聞いてたけど、他の運動部でもなく。

なんで、やったことの無い麻雀部に入ろうって思ったの?」

 

京ちゃんの部屋にあった、

 

「いや、その、部長に誘われて、やってみたら楽しくて」

「部長に誘惑されて、女の子達に囲まれるのが楽しくて?」

「そんなこと言ってないだろ!?」

 

沢山のDVDの、おっぱいの大きい女の人たちに、

 

「でも、原村さんって京ちゃんが大好きなタイプだよね?」

「いや、そんなことねーって! え、いや、っていうかなんでわかんの??」

「へー?」

「い、一番は、咲だから!一番は、咲だからっ!!」

「ふーん?」

 

沸き上がった、京ちゃんへの熱い思いを、

 

「……さ、咲さん、なんでそんな怒ってんの?」

「怒ってないよ?」

 

 

「──怒って、ないよ?」

 

 

京ちゃんは、知らない。

 

 

 

 

その後、咲は京太郎と結構な時間、喧嘩とは名ばかりのいちゃこらを繰り広げ。

待っていた父の、ちょっと真剣な表情から繰り出された、

「避妊だけはしっかりとな」

という言葉に、再度激怒することとなるが──

 

 

「さ、咲ってば」

「……」ツーン

 

 

──それはまた、別の話。

 

 

                                           (第三話より)

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