京太郎と咲が付き合っていたらの話   作:みみなぐさ

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【 4 】

「今頃、風呂とか入ってんのかなぁ……」

 

ぼんやりと、妄想が口から漏れる。

その内容のアホさ加減に我ながら呆れるが、それも致し方ない事だろう。

なにせ、今この時、女子部員たちは学校の合宿所にお泊りしているのだ。

それを考慮すれば、オレの発言も仕方ないことだと、少なくとも同年代の男共は同意してくれることだろう。

女5人に男1人の部活、合宿、学校にお泊り……とくれば、イヤラシイ妄想の1つや2つ、男子高校生におまかせあれ!と言ったもの、ではあるが。

流石に、そこまでする気は起きない。

余計虚しくなるだけだ。

せいぜい、こうして部屋の窓から近所の夜景を眺め、仲間の入る風呂の情景へと思いを馳せる。

それが、オレにはお似合いだろう。

そうやって、ふっとニヒルに笑ったつもりだったが、窓に映ったのはただのにやにや笑いだった。

 

そう、ここはオレの部屋。

麻雀部は合宿中であるにも関わらず、住み慣れた我が家で湯けむりの先に思いを馳せる、須賀京太郎はそんな存在なのである。

いや、まあ、納得はしているのだけど。

単純に、部屋が別とはいえ男女隣室の宿泊は学校の許可が下りなかったのだ。

朝に、宿泊施設で合流する予定となっている。

 

ああ、今頃は湯上がりの火照った体を、夜空に冷ましている頃だろうか。

浮かぶのはもちろん、最愛の彼女……ではなく、和と部長。

いや、だって和は言うまでもなく、部長はなんかよく分かんないけどエロいんだもん、あの人。

そんな二人の後に、むくれ顔の咲が思い浮かぶ。

大丈夫、安心しろ咲。

オレが一番愛しているのは、咲に間違いないのだから。

でもほら、あるだろう?

美味しいご飯を食べながら、グルメ番組を見る感じ。

 

 

内なる咲へと自分自身でもよく意味がわからない言い訳をしながら、思考は咲のことへと移行する。

実際の所、咲はだいぶ心配性だと思う。

『京ちゃん、浮気とかしてないよね?』

と、聞く目は笑っておらず。

『おいおい、過去現在未来に渡って咲しか見えてない男にずいぶんだな? いつでもオレは、ねこまっしぐらならぬ咲まっしぐらさ』

と全てを抱擁するような優しい笑みで答えてやれば、

『でも今、あの胸の大きな人を目で追ってたよね』

という言葉とともに情熱的だと解釈出来なくもない視線でじっと見つめられる。

もちろん、そんな時にはこう返すのさ。

 

『ぐう』

 

いつだってどこだって、ぐうの音くらいは出せる。

オレは、そんな男でありたい。

 

 

 

……真面目に行こうか。

 

考えるに、咲は結構な勘違いをしている。

和への感情を、恋愛の類だと考えている所なんかが特に。

憧れと言えば憧れに違いはないのだが、それは付き合いたいとかそういった感情ではなく。

和はなんというか、アイドルみたいな感じなのだ。

遠くで眺めて、可愛いなーとかエロいなーとか思う感じ。

分類的には、同性に対してカッコいいなーと憧れるのに似ていると思う。

だから、万が一いや千が一、和がオレに告白してこようと、オレは咲を選ぶだろう。

そう確信している。

ただ、こういうことを咲に言うと、どうも自意識過剰野郎のような気がして、説明できずにいた。

 

 

それに、咲は自信が無さすぎる。

咲自身に、ではなく、オレが本当に咲を好きなのか、という自信。

その自信がないから、咲はオレに浮気を疑ったりするのだ。

 

咲は、自覚が無さすぎる。

オレがどれだけ咲の事が好きなのか、理解していない。

前だって、なんで麻雀部なの、とか聞かれたけど──

 

──お前のために決まってんだろ!

 

と。

言いたいけど、言わない。

態度や振る舞いで気づいてくれないかなぁと常々思う。

格好つけたいお年頃。

 

 

咲は、部活に入るつもりはないと言っていたけど、せっかくの青春だ。

楽しみのきっかけを増やすためにも、部活には入っていた方がいい。

それで、咲と一緒に入れるような、咲でも出来る部活を探していた。

運動部はまず除外。

男女別が基本だし、そもそも咲に向いてない。

大人数なのも除外。

咲はそういう環境を比較的好まないし、オレも少人数の方が咲と一緒に居られる機会が多く好ましい。

そんな感じで具合の良い部活を探していて、巡りあったのが麻雀部というわけだ。

部長に勧誘された時には、胡散臭いなと思ったものだが、実際に部室を見ればなるほど、確かに居心地が良い。

現状の部員構成も最上級生1人、上級生1人、同級生2人と丁度良い。

全員が女の子であることも。

それは、ハーレム云々ということではなくて──ゼロかと聞くのは酷である──オレにとって都合が良く、咲にとっても馴染みやすい環境ということだ。

オレにとって都合が良いというのは、まあ、結論を言ってしまえば咲が浮気する可能性の排除だ。

咲がオレに対して心配するように、オレだってそういうことは考えたりする。

独占欲の強い方だとは思わないが、やはり可能性は無い方がいい。

咲がそういう事をするとは思わないけど、咲は可愛いから、周りが放っとくとも思えないのだ。

だから、色々な意味で、麻雀部は適格だった。

 

 

咲が麻雀強いのは誤算だったけど。

 

 

結構メジャーな競技にも関わらず、中学時代から話題にすらしたことがなかったから、全く出来ないものだと思っていたのに。

おかげで、少し出来るようになってから引き入れて、京ちゃんかっこいい!と言われる計画が……。

まあ、咲が楽しそうだから良いのだけど。

 

そこで、思わずため息が出た。

思い返すと、麻雀部に入ってから良い所を見せられて無い気がする。

 

負けて、パシって、負けて、負けて、負けて、からかわれて、負けて……

 

そうした、一つ一つの出来事は、自分でもそう気にならない。

しかし、それらがこうも積み重なると、なんというか。

なんとなく、彼氏としての自分が揺らぐ。

 

オレ自身は、咲の事が間違いなく好きだし、咲を彼女として尊く思っている。

でも、彼氏としての自分はどうだろう。

咲の事をどれだけ知っているかと問われれば、長い付き合いでそれなりに、とは言えるものの、それだけだ。

深い部分を知っているとは、とてもじゃないが言えない。

パーソナルスペースにいる咲の事を、オレはどれだけ知ってるだろう。

考えてみれば、咲の部屋とか入ったこと無いしなぁ。

友達として過ごしていた頃は、咲に部屋には絶対に入れないと言われてたし、女の子の部屋に入ることへの抵抗もあって気にしたことは無かった。

恋人となってからも、そうした期間が長かったためか、特に気にしたことはなかった。

連絡も、直接会いに行くか、咲から電話してくるか、咲の家に電話することが当たり前だったから、何の問題もなかった。

でも、だからといって。

彼女がPCを持ってないことを、部活で知って驚く彼氏というのもなんというか、なんというか……

 

 

……ていうか、彼氏って何だろうな。

 

 

現状、ちょっと仲良くなった友人程度にしか思えない。

それが、なんとなく不安になって、ちょっと恥ずかしいくらいのスキンシップを要求したりするものの。

そのときばかり恥ずかしいだけで、結局いつもの感じと変わり無い。

……やっぱり、キスとかしないと変わらないものなんだろうか。

でも、キスっていつ頃からするのが普通なんだ?

がっついていると思われるのも嫌だしなぁ。

てか、咲がそういうことを嫌いだったらどうすんだ。

 

今は付き合って3カ月目。

これが早いのか遅いのか分からない。

某参考資料だと、出会って4秒で──いや、これは別物だった。

ともかく──

 

──いや、ともかくじゃないわ。

ぶっちゃけ、ぶっちゃけると──そういうことをしたいのだ。

でも、キスもまだの身の上で、そんなことを望むのは──いやしかし。

望んで、行動せねば、永久に辿り着けぬ道なれば──

 

 

 

……でも、嫌われたくないしなぁ

 

 

 

 

──以下、延々と、少年の青臭い妄想が続く。

 

 

                                           (1巻おまけマンガ辺り)

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