京太郎と咲が付き合っていたらの話   作:みみなぐさ

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【 5 】

「おめでとう」

「ありがとう」

ジュースの缶を渡しながらの祝辞と、缶を受け取りながらの返礼。

その無駄な形式張ったやり取りと口調に、思わず笑う。

咲はと思えば、同じように、嬉しそうに笑っている。

咲の隣に腰掛ける。

 

「でも、本当に良かったよ。全国に行けて」

「まだ、個人戦あるけどな」

 

プルタブを引きながら、のんびりとした会話。

今日は、麻雀インターハイ団体戦長野県予選、その結果が出る日。

我が清澄高校麻雀部は、見事その激戦を制し、全国大会への切符を手に入れた。

 

 

当然──というのはなんとなく情けないが──女子麻雀の方である。

 

 

「そーだ、京ちゃんの晴れ舞台だね。 応援するからね」

「いや、オレのことはいいよ。咲は咲の事に集中しとけって」

正直な所、良い所を見せられる気がしない。

今日の激戦を見たせいか、勝てるイメージが全く無かった。

男子麻雀は女子麻雀より数段落ちるらしいけれど、それでも初心者が楽に勝てるものでもないだろう。

負けるところは無数に見られているとは言え、いつもの面子以外に負けるところを見られるのは少しだけ抵抗があった。

 

「うーん」

 

咲は、ちょっと煮え切らない様子だ。

「まあ、頑張る」

団体で全国に行けることが決まって、当初の目的を達成してしまったからだろうか。

昨日までの熱が、どこかに行ってしまっていた。

これは、言及すべきだろうか。

……いや、これは競技者としての咲の問題だろう。

少し迷うが、話題を変える。

 

「でも、今日は凄かったな。大将戦なんて、もはやオレには何がなんだか」

「うん、本当に。衣ちゃん……はもちろんだけど鶴賀の人や、風越の人も凄かった」

「そうなのか? オレにはなんだか龍門渕が凄いイメージ強すぎてよく分かんなかったけど」

「鶴賀の人は、『打ち手』が見えてた人だと思う。人の1手と自分の1手に意味を持たせるっていうのかな」

「咲も何度かやられてたしな」

槍槓、というのだったか。

咲の槓は止められるのだ、ということに、咲には悪いが少し感動してしまった。

「う……か、風越の人は、強い手の人だった。手の入り方もだけど、それ以上に、牌を持つ手が強い感じ」

「気持ちが強い、みたいな?」

「うーん、近い気もするし、全く違う気もする。なんだろ、諦めないって事がそれに近い気もするけど」

「そういえば、0点まで落ちても、その後に持ち直してたもんな」

小さな体で吠えていた姿を思い出す。

吠えたというか、鳴き声っぽかったけど。

「あの0点は、そうした『牌を持つ手の強さ』がそうさせたんだと思う。あの時の衣ちゃんには、なんだか……思い通りにならない焦りの様なものを感じたから」

「えぇ……あれだけ思い通りに、好き放題してたみたいな状況で?」

「卓の上、というより卓の外への感じだったかな。衣ちゃんが意図していたか分からないけど、こうあるはずだと自分の思い描いていた景色と違う、という感覚……」

咲は、少し悩んだ顔をする。

 

「……卓を囲んだ相手だからなのかね。そうやって、相手のことがよく分かるのは」

「んー、たまに、かな。でも、たまに、こうした感覚があるんだよね。相手の牌を通じて、その内側を感じるというか」

オレの視線に気づき少し照れたように頬を掻く。

「まあ、私はそんな感じがするってだけだから、本当はどうなのか分からないけど」

「ふーん……でも本当に、今日は凄かったんだな。そんな人達を相手にしながらも、全国に行けるなんて」

「うん。皆、本当に」

 

咲は楽しそうに、今日のことを振り返りながら、麻雀部の皆のことを話す。

オレは、その横で相槌を打つ。

 

 

 

オレは当然、出場メンバーではない。

しかし、当事者ではない、という疎外感はあまりない。

部長や染谷先輩が、オレも団体戦メンバーの一人であると扱ってくれていたから。

でもやはり、選手ではないというのは一歩引いて見てしまうのだ。

そして、気づいてしまう。

麻雀を通した、5人の絆というものに。

 

いや、5人だけではない。

決勝での、卓を囲んだあの面子にも、確かにそれは見てとれた。

同じ空間で、同じように牌を打ったからこそ芽生えるもの。

 

 

 

オレには無い、咲との絆。

 

 

 

「染谷先輩は──」

「そうだな」

「部長は──」

「まあな」

「衣ちゃんたちも、本当に凄くて──」

「ああ」

 

不意に、咲の声が止む。

 

どうした、と咲の方を見ようとして、

「……京ちゃん、もしかして」

咲が、顔を覗き込んでくる。

 

その顔の近さに、ドキリとして、

 

 

 

「嫉妬してる?」

 

 

 

その言葉に、ドキリとした。

 

 

 

「ななな、何を嫉妬って証拠だよ?」

「へぇー」

あまり見たことのない、悪戯っぽい表情。

 

あーくそ、可愛いな。

 

「京ちゃん、嫉妬したんだ?」

「してねーって」

ジュースの果実の匂いと混ざった、甘いような心地のいい咲の匂い。

それを振り払うように、ぐいっと缶を煽る。

 

まさか、咲に見抜かれるとは。

一生の不覚だ。

幸い、今は夕方。

この顔の朱は、夕日に紛れて分からないだろう。

それにしても、なんでバレたんだ。

不覚。

恥ずかしさと悔しさで、同じ様な思考がぐるぐると回る。

どこまでバレているのだろう。

ああ、くそ。

 

 

咲の全てが、オレのものであれば良いのにだとか。

咲の得る全てが、オレからのものであれば良いのにだとか。

 

誰かの事を嬉しそうに喋る姿を見て。

誰かから得た感情を嬉しそうに話す声を聞いて。

 

そんなことを、少し。

本当に少し、思ってしまったのだ。

 

 

不覚。

不覚だ。

独占欲が強いほうだとは思わないが。

でも、麻雀に咲を取られるような気分になって。

 

……仕方ないだろ!

 

ああもう、誰に言い訳しているのかも分からない。

顔の熱さももう分からない。

熱いのか?!今のオレは熱いのか!?

 

 

──それとも、冷たいのか!?

 

 

 

「大丈夫だよ、京ちゃん」

「あ?」

思わず、ぶっきらぼうな声が出る。

まるでヤンキーのようだ、と他人事のような感想を抱いていると、咲は言う。

 

 

 

 

「京ちゃんが、私の一番だから」

 

 

 

そんな言葉を、真剣に、優しい表情で言う。

 

 

 

 

 

女は怖いな。

こんな言葉を、こんな顔で言ってくるのだから。

 

 

                                           (第55局の後)

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