SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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前回の死亡フラグ
・外に出ないと怪獣に潰されていた
・逃げ出したら死んでいた


蒼・電

 内海将にとって、目の前の光景は夢の実現だった。

 

 内海は特撮オタクだ。ヒーローが好きで、大好きで、周りから少し白い目で見られながらも、オタクを続けてきた。本人は趣味を隠しているつもりでも、オタク特有の没頭と大声で実はバレバレ。でも現実は物語みたいにうまくはいかない。趣味の仲間もいない。日々は退屈で、趣味を誰とも共有できない物足りなさを抱いていた。

 

 そんな彼の日常が崩壊したのが、つい昨日。

 

 数少ない友人である響裕太が記憶喪失なんて、べたな物語のような奇妙な目に会って以来、内海の日常は目まぐるしく変化する。

 

 自分の住んでいる平凡な街に怪獣が現れた。もっといえば、彼が好きなウルトラシリーズで見たような怪獣が暴れ出した。

 

 そこに怪獣を倒すヒーローまで現れたのだから、彼の興奮は推して知るべしだろう。子供のころからあこがれてきた空想が現実になって、しかも、光り輝く巨人『グリッドマン』に変身したのは友人である裕太。

 

 内海は内心で、

 

『これ、俺のポジション、けっこう重要じゃね!?』

 

 なんて、何度もガッツポーズをしてしまう。

 

 ヒーローにはなれなくても、友人ポジションで。どこかの物語のレギュラーになった気分のまま、内海は自前の防衛チームを組んでしまうほどに非日常を楽しんでいた。

 

 裕太と、たまたま自宅であるジャンクショップのパソコンにグリッドマンが宿ってしまった宝多六花。

 

 三人の同級生によるグリッドマン同盟を。

 

 知り合い程度のクラスメイトが怪獣に殺され、彼女たちの存在そのものが忘れさられていたり、謎の男サムライ・キャリバーが現れたり。色々とシリアス要因もあるけれど、内海の気分を決定的に落ち込ませはしない。

 

 まだ実感なく、夢に夢見る普通の男子高校生である彼。一度あることは、二度ある。また怪獣が現れてくれると、口には出せない期待の通り、暴虐の限りを続ける怪獣とグリッドマンの戦いが再び始まった。

 

 理屈は分からずパワーアップしたグリッドマン。その軽快な動きは坂本アクションみたいにスタイリッシュでカッコいい。だが、敵もさるもの。メカ怪獣はグリッドマンの必殺技を跳ね返し、大いに彼を苦しめる。

 

 手に汗握る攻防。興奮を隠そうともせずに応援する内海の前に、新たな喜びがやってきた。

 

「……っ!? すっげえ、もう一人のグリッドマンだ!!」

 

 内海は古びたパソコン、グリッドマンが宿る『ジャンク』の画面へと叫ぶ。

 

 

 

 彼の視界には二人の巨人がいた。

 

 

 

 一人はグリッドマン。赤をメインに蒼を随所に配色した、ウルトラマンのような巨人。彼の友人が変身したヒーロー。

 

 そして、今、もう一人。

 

 グリッドマンと機械の様な怪獣の戦いのさなか。光線に襲われ、地面に倒れたグリッドマンをかばうように、青い巨人が出現したのだ。

 

 見た目はグリッドマンとよく似ている。遠目では違いが分からないくらいにそっくり。ウルトラマンと帰ってきたウルトラマンくらい。だが、仮称グリッドマン二号の耳当ての様なパーツは大きく、体は全身が青に染まっている。

 

(これ、あれだろ!? グリッドマンの相棒とか、そういうポジションだろ!!?)

 

 六花がいなければ、跳んで喜んでいたに違いない。

 

 内海の脳裏には、かのウルトラマンガイアとアグルのコンビ。あるいはメビウスとヒカリコンビが浮かんでいた。最新ではルーブの兄弟ウルトラマンも赤と青のコンビ。

 

 そう、赤と青はウルトラシリーズ好きには特別な色。大抵、青いウルトラマンはクールでカッコよく、主役と争うことがあっても最後には抜群のコンビネーションで敵を倒すポジションなのだから。

 

 劇場版や最終回を除けば、二人のウルトラマンが揃って、敵に敗れることなんてほとんどない。

 

 だから、内海は……。

 

「よわっ!!?」

 

 あえなく期待を裏切られ、目をむきジャンクを揺さぶる羽目になった。

 

 

 

 どこかの誰かが勝手なことを言っている気がする。テレビの前に、視聴者か何かがいるような。透き通るほどの夏空を見上げながら、俺は無責任な罵声を受けたように錯覚した。

 

 辺りのビルをなぎ倒した大の字の恰好のまま。

 

 けれども、そのままではいられないから、がしゃがしゃと瓦礫をかき分けるようにして立ち上がって、

 

「体が重い……!」

 

 重い息を吐きながら呟いた。

 

 状況を説明するなら、巨人になった俺は怪獣にボールのように転がされている。ぽんぽんと簡単に弾むゴムボールのように。子供に遊ばれるソフビのように。見た目はヒーローみたいなのに、倒すべき怪獣によって地べたへと這いずり回されている。

 

(……でも、仕方ないだろ!?)

 

 アクセスフラッシュが何の呪文なのかも分からず、けれど、死にたくなくて衝動的に。体に取りついた謎の存在『シグマ』に言われるまま叫んだ途端、俺の身体はウルトラシリーズよろしく巨人へと変身してしまった。

 

 ガチガチガチ。

 

 なんて、体中のギアが組み変わったような気色の悪い感覚。気が付けば視界が妙に開け、目の前に怪獣が現れていた。いや、実際には俺が戦場へと移動してしまっていた。後ろを見ると、遠くに見えていた赤い巨人が倒れているので、ちょうど彼を庇う様に。

 

 訳が分からない

 

 きっと、傍から見れば、助っ人にやってきた謎のヒーローに見えるだろうが、俺はそんなつもりはなかった。幸か不幸か、変身した見た目はウルトラマンのようにヒロイックな姿。怪獣じゃなかったのは一安心。味方怪獣はほぼ確実にやられるポジションだから。

 

 ただ、こういう時に期待されるのは、ウルトラマンのように格好よく戦うことだとはわかっている。俺だって、そうできればよかったのに。あいにくと、身体を支配しているのは俺の意識。都合よく体が動いてもくれなかった。

 

 それならば、何が起こるかは想像できるだろう。サッカーのテクニックくらいが知識にあるだけの記憶喪失の学生。防衛隊の隊員でもなければ、戦闘訓練を積んだエージェントでもない。戦いの知識が頭に浮かぶこともない。

 

 結果として、

 

「ちょっと待てって……!!?」

 

 再びの怪獣による横ステップ体当たり。

 

 よろよろと立ち上がっていた俺は、対応することができなかった。足元の放置車を蹴り飛ばしながらの勢いよく飛び込んできた怪獣。踏ん張ることも出来ず、ビルを飛び越えて転がされる青い体の巨人である、俺。

 

 結果は青天に逆戻り。

 

 体が変化したからか、道路にヒビを入れて、ビルをなぎ倒しても体に痛みを感じることはない。ただ、体当たりの衝撃がじんじんと頭の奥をしびれさせて。そうして呻いていると、体の中からあの声が聞こえてきた。

 

『リュウタ、大丈夫か!?』

 

 シグマと名乗った謎の声。

 

 きっと青い巨人、その人なのだろう。俺を心配してくれている優しい声色。それにも増して説明責任を放棄して戦いの場所へと放り込んだ、うさん臭い存在。

 

(……あのまま死にたくなんて、なかった。だから、それだけは感謝するけど)

 

 あの女の子とまた出会うために、俺が何者かを知るために。俺は生きるのを諦めたくはなかった。だから、あの場所から逃げられたのはいい。

 

(でも、戦いたかったわけじゃない……!)

 

 覚悟だとか、そういう話ではなく、戦うつもりもなかったのに。そんな何も定まっていない人間が、ウルトラマンの力を手に入れたらどうなるか。弱弱しく戦いの中で翻弄されて、あえなく敗退するのだ。それがウルトラオタクなら誰だって知っている常識。

 

 そんな心のとおりに、身体はやけに重たかった。

 

 いや、心の問題だけでなく、本当に体と意識が噛み合っていない。糸を使ってぎこちなく操る人形のような。目の前の怪獣だって、決して機敏な動きをしている訳じゃない。それなのに、着ぐるみのような怪獣の方が生物らしい動きをしている。

 

 今は、タックルによって怪獣との距離は離され、敵の視線も赤い巨人に向いているから、その隙に。

 

「おい、どうなってんだよ!!?」

 

 俺はシグマに叫ぶ。すると彼は、ついさっきまでのbot状態と打って変わって、饒舌に会話を成立させてくれた。

 

『……突然、戦いに巻き込んでしまい、すまなかった。私はハイパーエージェント、シグマ。この世界を守るためにやってきた』

 

「今さら自己紹介って……。ハイパーエージェントって、ウルトラマンみたいなやつ?」

 

『ウルトラマン……。なるほど、君の好きな番組のヒーローか。確かに、私と彼らの役割は似通っているだろう』

 

 って、おい。もしかしてコイツ、勝手に俺の心の中読んでいないか? なんて、とんでもない疑問が頭をよぎるが、今は文句を言う暇もない。まず、確認したいことは。

 

「……俺は、元に戻れないのか?」

 

『いや、その体は君の管理下にある。もちろん、自分の意思で戦いを放棄することも可能だ。だが……』

 

 シグマに促され、再び怪獣を見る。怪獣は赤い巨人へ向けて光線を放ち、街を両断していた。

 

 その射線には、俺がさっきまで立っていた歩道橋がすっぽりと。光線によってドロドロに焼け溶けて橋からマグマに変わってしまっている。あのままなら瓦礫に潰されなくてもどうなったか。

 

 地獄みたいな街を見て、今すぐに戻りたいと思えるほどお気楽にはなれなかった。

 

『残念だが、怪獣を倒さない限り、この街に平穏な場所はない。……君にも分かっているはずだ。今、惨劇を止められるのは、彼と私たちだけだと』

 

「……ほんと、勝手な言い草」

 

 だけれど、その道理は俺にも分かってしまう。怪獣を倒さなければ、助からない。そして、味方をするなら、怪獣よりは巨人の方。少なくともあの赤い巨人は、怪獣の破壊を止めるために動いているように見えた。今も光線をあえて避けず、身体に当てて被害を減らしている。

 

 同じことは、俺にはできないけれど、怪獣は背中を向けているから、

 

(せめて、あの怪獣を不意打ちするくらいは……)

 

 ヒーローの見た目にあるまじき事でも、思いつくのはそれくらい。

 

 けれど、それを実行しようとした時だった。きっと、不届きなことを考えたから、神様が怒ったに違いない。

 

『リュウタ!!』

 

「……え?」

 

 シグマの叫びに驚き、後ろを振り向く。

 

 

 

 そこに怪獣がいた。

 

 

 

 もう一体。

 

 

 

(そりゃ、メカ怪獣は量産されるもんだよな……)

 

 インペライザーみたいに。でも、ワープとかエフェクト無しに出てくるとか、ひどいな。なんて、馬鹿な考えが頭をよぎった途端に、目の前が発光した。

 

「ぐっ、あああ!?」

 

 放たれた怪獣の光線。何が起こっているのか分からないまま体を焼かれて、俺は地面をのたうち回る。

 

『二対一とか。そんなのズルいじゃん!!』

 

 なんて、この世界の筋書きを決める神様が怒り狂っているような、憎しみすら感じる渾身の一撃。怪獣の虚ろな目にも感情が乗っているように思えるほど。

 

 あまりにも熱くて、痛くて、苦しくて。俺は吐きそうになりながら胸を上下させる。

 

 けれど、怪獣は容赦なんてしてくれない。

 

 二発、三発。途切れたら、もう一発。

 

 頭に、足に、胴体に。

 

 何度も何度も光線が撃ち込まれて。

 

「ハァ……っ。ハァ……っ」

 

 息も絶え絶え。このまま楽になりたいほどの苦痛。

 

(けれど、どうして……)

 

 その痛みには、覚えがあった。

 

 

 

 カチリ

 

 

 

 また一つ、頭の中で音が響く。瓦礫を見上げた時と同じ。自分の中で何かがはまって、形作られていくような不思議な感覚を得て……。

 

 

 

 あの子の顔が思い浮かぶ。

 

 

 

 もう二度と、なんて。覚えてもいないのに感じる悔しさはどこから来るのだろうか。

 

「……ほんと。勘弁してくれよ、神様」

 

 無様に体を転がして、怪獣から離れて、目の前をチカチカさせながら、俺は立ち上がる。

 

 心の中は変わらない。

 

 今も戦う理由は分からないし、そんなことを大真面目に考えるような上等な人間だとは思えない。それでも、会いたい人がいる。

 

 だから、今は。今だけでも。

 

 俺は心の中で、シグマへと語り掛ける。

 

「詳しい話は、後で聞く……。だから、戦い方を教えてくれ」

 

『わかった。だが、今の君では、私の全てを引き出すことはできない。君との同調が上手くいっていないからだろう。力や光線は、あの怪獣の足元にも及ばない』

 

「じゃあ、勝ち目はない?」

 

『いや』

 

 シグマは俺の弱気を否定する。

 

『リュウタ。今、この身体は君の物だ。そうなったのは、君が生きたいと、叶えたいと強く願ったから。そして、その心こそが、私たちの力となる』

 

 つまりは気合と根性。

 

 まったく、ヒーローものにありがちな精神論だけど。

 

「……やってみるしかないってか」

 

 怪獣と俺たちの間に開きがある。しかも、あの怪獣は光線技を跳ね返すし、ビームも撃ってくる。友情とか絆のパワーで逆転をできるほどシグマを信用出来ているわけでもない。

 

 力は足りない。

 

 気合も足りない。

 

 信頼も足りない。

 

 なら何もないのかと言えば、そんなことはない。

 

 こんな時に思いつくなんて、ほんとに呆れたオタク野郎だ。頭をよぎる、憧れていたんだろうヒーローの姿。記憶はないけれど、だからこそ、鮮烈に彼らの活躍を反芻しながら。

 

「ウルトラマンなら、こういう時……」

 

 俺は怪獣と向き合い、腰を低くする。ちょうどそれは、何処かで見たヒーローの構えだった。

 

 さっきの『カチリ』の影響か、少しだけ体は軽くなっている。一方、少し離れた場所では、赤い巨人がなぜか大剣を手にしていて、向こうも戦いは大詰めのよう。ちょっと、それ、俺にもないのかな。

 

『残念だが、ない』

 

「……。それじゃあ、」

 

 相手が怪獣一体なら、どうにかしてやるしかない。余計なことを考えず、右足へと意識を集中させた。シグマに感覚を教えてもらいながら、力をじっくりと籠めていく。

 

 迸る蒼白い稲光。それが足を包み込んで、自分も焼けるほどに熱く、強く。

 

「……っ!」

 

 対する怪獣も腹部へと光を集めていた。今までで最大の一撃が来ると、しびれる肌が感じ取る。

 

 お互いに準備は整って、あとは決着を待つだけ。

 

(ウルトラシリーズなら……!!)

 

 勝つのは、先に、大きく踏み出した方。

 

 一歩、二歩。巨人の足で怪獣との距離を縮めていく。土ぼこりを上げながら、逞しく強いウルトラマンのように。

 

 不思議だけれど、走りながら、懐かしさを感じた。

 

 きっと、こういう風に一心不乱に走ったことがあったんだ。好きだったサッカーをしていたときだろうか。それとも、あの子との待ち合わせに胸を弾ませていたときだろうか。

 

 まだ何も分からない、壊れたおもちゃのままの自分。

 

 それをいつか埋めて、彼女と会うために。

 

「……っ!」

 

 息を貯め込んでの、最後の踏み込み。必殺に選んだのは、どこか馴染んだキックだった。下からえぐるように怪獣の腹へと突き刺さる、稲光を纏った渾身の一撃。

 

 力が足りないなら、一点集中と相場は決まっている。

 

 ああ、ここで決めれば最高にかっこいい場面だよな。

 

「おらぁ!!!」

 

 だから最後に、雄叫びをあげて、振り抜いて。

 

 そして。

 

 怪獣のぬいぐるみのような体が大きくたわみ、ひしゃげ。最後にはゴウッという空気の爆発と共に、機械の怪獣は空の彼方へと飛んでいった。

 

 パーツを撒き散らし、断面から電線のような紐を覗かせながら、高く高く。

 

『Cyraaaaaaaa!?』

 

 最後に怪獣は、一声を遺しながら青空の彼方で爆発した。部品も何も降ってくることはなく。怪獣は夢のように消え去ってしまった。

 

『……よくやったな、リュウタ』

 

 数秒たち、労うようなシグマの声。それに、答えることはできない。

 

「はっ……、はっ……」

 

 そんな余裕はなかった。息を零しながら、身体の震えを押さえるように。巨人の姿のまま、俺は膝をつく。興奮が冷めた体は痛んで、軋んでいる。

 

(それに、あの声……) 

 

 敵を倒したのに、街を救ったのに、ヒーローの真似だけでもできたのに。爽快感は感じられない。むしろ、どこまでも虚しくて。取り返しのつかないことをしたように罪悪感ばかりが頭をよぎる。

 

 きっと、原因はあの声だ。機械みたいな怪獣なのに、なんで。悲しいような、苦しいような断末魔。それがもたらす不思議な感傷に、俺は拳を握りながら耐えるしかなかった。

 

 そうしていると、目の前で重苦しい足音を聞く。

 

 まさか、また怪獣が現れたのではないか。びくりと、背筋を震わせながら顔を上げた俺の前に、あの赤い巨人がいた。震えて、膝をついている情けない俺と違って、一枚の絵にでもなりそうな立派なヒーローの姿。

 

 彼が、ゆっくりと手を伸ばす。

 

『私はハイパーエージェント、グリッドマン。ありがとう、君の助けに感謝する。……だが、一つだけ聞かせてくれ。君はいったい何者なんだ?』

 

 そうか、グリッドマンっていうのか。ほんと、ウルトラマンによく似てる。

 

 声はやっぱりカッコよくて、いかにもなヒーロー。ウルトラマンのように、一本のテレビシリーズにしても通用しそうな。子供から大人まで、ロマンをかき立てられるような正統派の英雄像。

 

 けれど、俺は彼を前にしても……。

 

「……俺にも、分からないんだ」

 

 質問にも答えられず、手を取ることも出来ない。ただ、今は、すぐにでもこの場から消え去りたくて。少しでも考える時間が欲しくて。

 

 それだけを告げながら、俺は力を抜いた。

 

 

 

 瞼を開けた時、目の前には焼け野原が広がっていた。

 

 黒焦げになった木造の家に、蕩けたチーズみたいなマンション。道路はぐずぐずに焦げたバーベキューのように、でこぼこになって煙を吹いている。

 

 戦場跡に一人、ポツリと立ちすくんだのも一瞬だけ。すぐに力が出せなくなって、ぺたりと尻餅をついてしまう。息をぜえぜえと絞り、温度とは無関係に嫌な汗が噴き出して。

 

 うつむいていた俺に、影が覆いかぶさったのはその時だった。

 

「おい、もう一度聞くぞ。オマエ、いったいナニモンだ?」

 

 クソ生意気そうな、やたらと上から目線の声。いつの間に現れたのかもわからないまま、あの謎の子供、ボラーが目の前に立っていた。しかも、彼だけではない。

 

「……あんたらこそ、いったい誰だよ」

 

 プロレスラーのような巨漢にゴツイ金属マスクのコスプレおっさん。ホストみたいに甘い顔立ちなのに、能面みたいに愛想を振り向かない優男。そして、ツインテスーツのチビガキのボラ―。

 

 もしも一般人なら、どう考えても変人としか思えない。そんな三人が俺に警戒の目を向けている。けれど、俺が感じるのは変態に対する危機感ではなくて。

 

(……人間じゃ、ない?)

 

 シグマに変身したからだろうか。あの怪獣のように、宇宙人か何かのような違和感を彼等に感じた。

 

 戸惑いつつ、彼らを見上げる俺に、巨漢の男が一歩足を進めて語り掛ける。

 

「我らは『新世紀中学生』。リュウタ、君には聞きたいことがある」

 

 一言の中に突っ込みどころ満載なセリフに、俺は疲れ果ててため息を吐くしかなかった。

 

 それは俺のセリフだ。




>Next 「宿・敵」



初めての戦闘シーン、どうでしたか?
今後も色々な書き方に挑戦したいと考えています。あと、感想返しが遅れていますが、皆さんの感想、すごく嬉しいです。
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