SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】 作:カサノリ
悔いの残らないように、やりたいこと詰め込みまくっています!
どこかで夢見ていたシチュエーションがある。
ほら、ウルトラマンでよくある、ヒロインのピンチに颯爽と駆け付けた主人公が掌の上にヒロインを乗せるやつ。ウルトラマンの顔や造形は変わらないのに、その時の表情はどこか優しさに満ちていて、ああいう風に誰かを守ってみたいなんて幼心に思っていた。
心の底から好きな人ができた後なんて、特にそう。あそこで死ぬ前まで、『夢見すぎだ』なんて自分でもあきれるくらいに夢見て、シグマと出会った後は『いつかは』という目標に代わって……。
そして今、巨人となった俺の掌に大切な女の子がいる。いや、それだけじゃない。響と内海と宝多さん。俺にとって大切な仲間となってくれた人達も。
そんな彼らを傷つけないように、俺は彼らをゆっくりと『絢』の近くに降ろした。
ここからは別行動。
アカネさんと内海はグリッドマンを開放すべくアカネさんの家へと向かい、響と宝多さんは絢へと。
そして俺の仕事は、遠くでうごめきだしている黒い仮面がこちらへ向かわないように足止めをすることだ。
アカネさんを傍で守ることはできないが、今はわがままを言っている場合じゃない。なので、せめてもと内海へと。
「内海、アカネさんのことを頼んだぞ」
「おう! 任せとけ!」
なんてガッツポーズとともにカッコつけて飛び降りる内海。
だが、高いところからジャンプする経験もなかったのだろう。よろけてすっこける。慣れないことをするからだと、不安が先立つが……まあ、こいつはこいつでいざって時には何とかしてくれるだろう。自分の立てた作戦なんだからやる気十分だろうし。
その一方で響と宝多さんは内海と違って難なくと……いや、なんかさりげなく響の奴が手を貸してたりするんだが……。お前ら、この半月の間になんかあったか?
この土壇場になって気になることが増えたけれど、それを聞くことができないまま、手を振り家へと駆けていく二人を見送る。
そして最後に……。
「……リュウタ君」
巨人の掌から俺を見上げる、アカネさん。
その顔には明らかな不安の色が浮かんでいて、声もか細く、擦れていた。
気持ちがわかるとは、言えない。けど、まだ迷いが晴れていないのだろうとは察しがついた。
ようやく俺達と話ができたというのに、空気を読まない悪魔のせいで大ピンチ。多少は場慣れしている俺はともかく、アカネさんの内心は落ち着くどころではないはずだろう。
俺だって本当は……。
(……もう決めただろ?)
心のどっかでもたげた情けない弱気をねじ伏せて、せめてかっこいいヒーローらしく、アカネさんに言う。
「……大丈夫、絶対にうまくいくから」
ヒーローはこんな時、不安を見せたりしない。その心こそが希望の象徴。
今、この時くらいは、大切な人にそう見てほしくて。
「……っ」
アカネさんがどう思ってくれたかはわからない。けれど、アカネさんは少し無理をしながらでも笑顔を見せてくれた。
「……うん。リュウタ君、がんばって」
「っ、ああ……!」
そう言ってくれたら、きっと大丈夫だよ。
アカネさんはきっと気づいていない。
あのサッカーの試合みたいに、君が応援してくれるだけで、俺は不安もなにもなくなるって。きっと勝てるという勇気が湧いてくることを。
だから、立ち上がった力は前にも増して力がこもっていた。今なら負ける気がしないほどに。
そして……
『新条アカネは行ったか……』
「ああ、アカネさんが頑張っている間に、俺たちであいつを止める……!」
離れた場所で待っていたグリッドナイトと並びながら、気持ちの悪い動きをし始めた黒い塊をにらみつける。
『ンンンンっ……!』
塊があくびのようなふざけた声を上げると、周囲を覆っていた光の輪が、ガラス細工のように砕け散り、巨大なアレクシスの姿があらわになる。
思っていたよりも早い。
それだけ、あいつの力が強いのだろう。アレクシスの存在もより確かになっているのがシグマの眼を通して感じられた。
俺は息を大きく吸って、ずっと共に戦ってくれたシグマに語り掛ける。
(最後の戦い、かな……?)
『ああ、そうなるだろう。だが、もう何も心配することはない。君には信じられる仲間がいる。誰かを犠牲にすることでしか己を満たせないアレクシス・ケリヴに、君が負けることはない』
(……今のうちに言っておくけどさ、シグマと出会えて本当に良かったよ)
『それは私が言うべき言葉だ。共に戦ってくれてありがとう、リュウタ』
お互いにお礼を言い終わると同時に、アレクシスの体が変化しはじめる。
さっきまでの醜いブクブクに太った巨体ではなく、俺達と同じくらいの大きさに圧縮された闇の巨人の姿へと。
(ったく、なんなんだよ、その気取ったマント)
見るからにラスボスといった風情になったアレクシスは、見た目とは違う呑気な調子で語り始める。
『いやいや、さっきは焦りすぎたねぇ。とても美味しい情動だったから、どうしても次が欲しくなってしまって。やはり食後には一休憩が必要だったようだ』
無駄にイケボじゃなかったら、どっかの居酒屋で飲んだくれている親父のようだが、俺としては笑えるはずもない。
カミサマを吸収しきったということは、文字通りこの世界の神に等しい力を手に入れたということ。アカネさんの時は手加減してくれていたが、さっきのように、こいつは全力で攻撃してくるに決まっている。
そのための策は考えたとはいえ、うまくいくかどうかは未知数。本音を言えば、こいつをぶっ飛ばしたいっていう強い敵意がなければ、戦いたくない気持ちも強い。
「……満足したなら、さっさと出てけよ。お前に出してやる感情なんて、俺達の世界にはもう一つもないからさ」
『店仕舞い、というには日が高くないかい? そんな無体なことは言わないでほしいね』
「迷惑な客はお断りなんだよ」
アレクシスの余裕の態度は、まるで俺達が眼中にないようだ。
『つれないことを言わないでくれたまえよ。同じ少女に惚れ込んだ者同士じゃないか!』
こい、つ……。
俺への挑発だろう。そんなことを嗤いながら言ったアレクシスは、しかし、その後で自分が言った言葉に疑問を覚えたようで、
『ふむ、なるほど……?』
と首を傾げた。
アレクシスは何かを初めて理解した子供のように、続ける。
『ああ、そういうことだったんだねぇ……』
「なにがだよ……」
『いや、ね……私自身でも疑問だったんだよ。世界には人間なんていくらでもいる。それこそ、アカネ君に負けないほどの情動を隠した子だっているだろうさ。
なのに、私はどうして新条アカネ君にここまで固執したのだろうか、と……』
悠久の時を生きたアレクシスは文字通り、多くの人々を食い物にしたのだろう。アカネさんだって、その一人に違いないのに、グリッドマンという邪魔者が来て、アカネさんが言うことを聞かなくなっても、悪魔はアカネさんのそばから離れようとはしなかった。
その理由は……。
『つまりね、私はアカネ君に惚れ込んでいたんだ』
アレクシスはくつくつと気持ちの悪い声をあげる。
『彼女の鬱屈した精神に、抑えきれない衝動に、どうしようもなく脆い感性に、私は魅力を感じていた』
それは魔人でさえ予想外だと言わんばかりに。
『アカネ君の情動を取り込んだ影響か……今の私には感情が少しだけ理解できるようだ……! これは、オモシロいねぇ……♪』
「ふざけんなよ……」
口から、怒りがこぼれる。
なにが、好きだ。なにが、惚れているだ。
それでこいつは何をした?
寄りそうでもなく、励ますのでもなく、支えるのでもなく、こいつはアカネさんを閉じ込めた。殺意を育てた。地獄へと誘った。
そうして、アカネさんの苦しみさえもエサにしていただけだろうが、この寄生虫は。
きっと根本的なところでこの生物と俺達の心はかみ合ったりしないのだろう。アレクシスはその憤りをたやすく無視しながら演説するように続ける。
『いいじゃないか……! 人間、苦しいのは嫌だろう? 痛いのは嫌だろう? 悲しいのは嫌だろう? 私はアカネ君にそんなものは与えない……!
むしろ君のほうこそ、彼女の気持ちを波立たせ、不要な不安と痛みを与えた。彼女の自由を奪って、君という個人に縛り付けた』
だがそんなアレクシスの言葉に……次第に敵意が混ざっていく。
『……なのに、どうしてアカネ君は君を選んだのだろうねぇ?』
自由を捨てて、神であることさえ捨てて、ただの人間らしく人と過ごすことを選んだ。願っていたものは、力はすべて与えたというのに。アカネさんはアレクシスを拒絶した。
『決まっているだろう、アレクシス・ケリヴ』
答えを告げるのは俺の隣に立った、アカネさんが生み出したヒーロー。
『新条アカネは貴様よりも、こいつのことが好きだというだけだ』
俺にもどこが良いのかは、わからないがな。と余計な事まで添えて。
でも、ありがとうな。
「そういうわけだから……いい加減、諦めろ。しつこいやつは嫌われるぞ、元カレ」
『ふふふふ……! ハハハハハ!!!!!』
アレクシスは笑い出す。
『まったく、レプリコンポイド風情にそこまで言われるとは……! けれど、ありがとうリュウタ君……! キミのオカゲで、また一つ、新しい感情を知れたよ』
『キミは……どうしようもなく不快だ』
言い終えるとともに、アレクシスの足元に漆黒の闇が広がる。それは底なし沼のようにビルを飲み込んでいき……
『だからこそ、キミにはこういう最期を与えよう』
闇から現れるのは……
『大好きなアカネ君に殺されるがいい。もう一度、ね』
「うぉおおお!? これ、あれだろ!? ブルマァクのササヒラー!!」
「内海君!? いまそんな場合じゃないでしょ!?」
「あっ! そ、そうだった……!」
なんていいながら、内海君はショーケースから目を離して、私の近くに来る。
しかも微妙な距離を保ちながら。近すぎず、遠すぎず。
リュウタ君と六花以外が近くに来るのは嫌なのは事実だから、口には出さないけど、それはそれとしてなんか私を意識しているのがバレバレな距離感が嫌だった。
けど、そんなことを言えるような状況でもなくて、私はパソコンに向き直る。
(今のアレクシスの強さを、私は誰よりも知っている……)
だって、あいつに力を与えた怪獣は、私が無敵にした怪獣だから。リュウタ君は足止めすると言ってくれたけれど、それが本当に可能なのかどうか……。
(だから少しでも早く、グリッドマンを復活させないと……!)
焦りながら、この半月の間に雑多に積み重なったアイコンの隅の隅に追いやられていた『グリッドマン解凍』をクリックする。
「……パソコンで管理していたのかよ」
「元々はアレクシスが全部やってくれてたけど、カミサマ出してからは私がやるしかなくて。いろいろできるイメージがあるパソコンとタブレットにまとめていたの」
数秒たつと、あの見慣れた解凍表示が出てくる。
(よかった……! まだ機能してくれてる……!)
残っていたカミサマの力で、なんとかグリッドマンを……。
けれど、その一秒後に私の全身の血が凍り付いた。
「うそ……」
声がかすれる。
確かにあの時の私は、グリッドマンを解き放とうなんて考えてはいなかった。
グリッドマンが万が一にでもカミサマを打ち破れば、そこでリュウタ君の役割も終わってしまう。この世界にリュウタ君をとどめるためには、グリッドマンは不要な存在だったから。
だからといってなんで私は……こういう間違いばかりをするんだろう。
「し、新条? グリッドマンの復活には、どれくらい……っ!?」
画面をのぞき込む内海君も顔を引きつらせる。だって、そこに書かれていたのは……
「いち、じかん……?」
三分間なんてものじゃない。
グリッドマンが復活するまで一時間。
あまりにも長い、一時間。その間を、リュウタ君はアンチと二人だけでアレクシスと戦わなければいけない。
けれど、私にとっての絶望は、それだけで終わらなかった。
ドンっ、といくつかのソフビが倒れるほどの揺れが部屋に伝わる。
「今度は何だよ!?」
内海君が外を見ようと、慌てて窓のカーテンを開ける。目に入るのは、グリッドマンシグマとアンチがアレクシスと戦っている景色。
「あ、あれは……」
内海君が絶句する。
二人の巨人の前には、いくつもの影が立ちふさがっていた。
真っ黒に塗られているのは、ウルトラマンの影絵にでも似せたのだろうか。でも、そんなのっぺりとした姿でも、それらが何であるかなんて、私にはすぐにわかってしまった。
グールギラス
デバダダン
ゴングリーにゴーヤベック
ほかにも、グリッドマンがやってくる前に作っては暴れさせていた怪獣たち。
しかもアレクシスはコピー怪獣だからいいだろうと言いたげに、同じ怪獣を何体も出現させて、その数は私たちのいる場所からは数えきれないほど。ううん、きっとアレクシスの足元から無限湧きしてる。
そんな私の作った怪獣が、私の大好きな人を殺そうとして……
「うっ、ぐぅ……ごほっ、ごほっ……!?」
「し、新条!? 大丈夫か!?」
何も食べていなくてよかった。おなかの奥から酸っぱいものが逆流して、引きつったように私の体は自由を失って床へとへたり込む。
(これが、私への罰なの……?)
自分のしたことを棚に上げて、どこかの神様に文句を言う。
一時間。私はその長い時間、大切な人が自分の怪獣に痛めつけられる光景を見るしかない。何もできないまま、遅々として進まない解凍時間が早く終わるように祈りながら。
それが、アレクシスの選んだ私へのお仕置き。
『アカネ君、見ているかい?』
アレクシスの楽しそうな声が響く。
『ほら、見てみたまえよ! 君の怪獣がこんなにたくさんいるんだよ? 君の作った芸術品が! 凶暴な怪獣たちがこんなに集まっているんだよ?』
『喜んでいるかい? 楽しんでいるかい? 君の望んだとおりに、怪獣がヒーローを殺すんだよ♪』
昔、ネットで見たウルトラリンチなんて言葉に腹が立ったことがある。ヒーローなんて元から理不尽で、たった三分間でかっこいい怪獣たちを殺していくのに、そんなヒーローが何人も集まって、怪獣に何もさせずにいたぶっていく。
私が監督だったらこんな脚本にはしないのに、なんて。その日は怪獣が逆にヒーローを倒す妄想をしていた。
目の前にあるのは、その景色だ。
アレクシスが指さすと同時に、黒い怪獣たちが波のようにリュウタ君たちへと押し寄せる。
リュウタ君もアンチも、逃げたりはしない。怪獣たちの進行方向には、私の家があるから。ビームを放ったり、剣で切り裂いたりしながら、必死に怪獣たちを食い止めようとする。
でも、やっぱり数の暴力っていうのはある。
背中から襲ってくる怪獣に気を取られたら、今度は腕を食いつかれる。近くの敵を切り伏せても、離れた場所からビームが飛んできて、他の怪獣ごとヒーローを焼こうとする。
二人はそれでも頑張って、三分、五分と時間を稼いでくれるけれど、次第に体は傷だらけになっていく。ヒーローが私の怪獣にやられて……
『おやぁ? アカネ君、喜んだね?』
「っ……!」
わた、し……? いま、なにを……?
アレクシスが上機嫌に嗤い声をあげる。
『やっぱりねぇ! 君は怪獣が大好きだもんねぇ♪ どれだけ恋人が好きといっても、怪獣のほうが大好きなんだよ!
新条アカネが、この景色を見て、喜ばないはずがない……!』
「ち、ちがう……! わたし、そんなこと……!」
『ごまかすことはないさ! 私は君の心を感じている! 君の偽りのない本心を感じている……! デバダダンのビームが、リュウタ君の胸を貫いたときだよ! 君は確かに思っただろ?』
『私の怪獣はかっこいいなぁ、とね!』
心臓が握りしめられたように苦しくなって、私は口を押える。
「ふぅ……ふぅ……う、ぐ……!」
息をするのさえも嫌になる。
なんで私はこんなやつなんだろうと、思ってしまう。
だって、アレクシスの言う通り。私はあの一瞬で思ってしまった。いつかグリッドマン達にやられたデバダダン。あの時、こういう風に勝ってくれていたら、なんて。
そこにあったのは、間違いなく怪獣が好きな私の本心。
私は、大切な人が私のために怪獣と戦ってくれているのに……!
「ちがう……! ちがう、ちがう、ちがう……!」
『何が違うというのだね! 君は怪獣がどうしようもなく好きな、怪獣が何よりも大切な人間じゃないか……! 今の君こそ、本当の君だよ! ほら、もっと見てごらん!』
アレクシスが人形遣いのように怪獣を指揮する。
怪獣が殺到するリュウタ君は、きっと私への言葉に怒ってくれている。息も絶え絶えで声を発する隙もくれないけれど、その一つ一つの動きに、アレクシスへの怒りが込められていることが私にもわかる。
でも、そこまでしてくれているのに、怪獣がリュウタ君に攻撃をあてるたびに、アンチの鎧を傷つけるたびに、
『やめて……!』
と血を流す私と、
『やった……!』
と怪獣を好きな私が同時に叫ぶ。
『認めたまえ、新条アカネ君。
やはり君には無理なんだ。元の世界に帰る? 仲間と幸せに暮らす? そんな夢のような生活があると思っているのかい? 君自身がそんな退屈は嫌いだというのに……!』
アレクシスの声は私をバカにするように、けれども弱い私を誘惑するように。
『戻っておいで、アカネ君♪
また大好きな怪獣を創ろうじゃないか♪ 私が君を……』
『退屈から救ってあげるよ』
「わたし……」
本当にそうかもしれない。
けっきょく、私は私だから。怪獣が好きで、人との距離が分からなくて、自分ばかりを優先しちゃう勝手な人間。
たとえ、ヒーローが私のことを好きだと言ってくれても……
『怪獣が大好きな君が、ヒーローになれるわけないじゃないか!』
「それは……ちがう……!」
声は、黒い影の間から聞こえた。
私がその言葉に目を開いた瞬間、青い閃光が煌めいて、怪獣たちを吹き飛ばす。その景色は私にとってどうしようもなく嫌で、胸が苦しくなるものだったはずなのに。
私は、ボロボロになったヒーローから、目を離せないでいた。
『なにが違うというのかな?』
アレクシスの静かな問いに、リュウタ君は肩で息をしながら、答える。
「だから……なれるって言ったんだよ! アカネさんも!」
『ヒーローよりも、怪獣が好きだというのに?』
「ああ、怪獣が好きでも! ヒーローにはなれるんだよ……!」
だって、
「俺みたいな奴だってシグマになれたんだ! 俺みたいな怪獣が好きで、でも誰にも言えなかった奴でも! 間違いだって何度もしても……! みんなが、アカネさんがヒーローだって言ってくれたから!」
『それは傲慢というものだねぇ』
けれど、そんな言葉を遮るように、アレクシスは傷ついた巨人たちを嗤った。
『そもそも君がヒーローになれたとでも? フフフ! 怪獣相手に傷つき、シグマの体に取り憑かなければ生きていけない君がヒーロー? 笑わせるねぇ。
友達が、アカネ君がヒーローだと言ってくれたからなんだというのだね。君の相棒は怪獣のヒーローもどき! 君も中途半端な偽物じゃないか……!』
『そんな君たちがヒーローなんて……!』
「ハっ……!」
殺到する怪獣。
鎧の輝きも失った、二人の巨人。
でも、グリッドマンシグマは笑っていた。
「なるに決まってんだろ……!」
ボロボロなのに、痛いはずなのに、私のせいでこんな絶望の状況が生まれているのに。リュウタ君は笑って、こんなこと、なんてことないと示すように戦っている。
「お前、知識が古いんだよ……! 昭和どころか、ウルトラマン以前の常識しか知らないのか? アカネさんと一緒にいたなら、少しはウルトラマンを見ておけば良かったのに……!」
リュウタ君は負けていない。
だって、リュウタ君の中のヒーローは、こんな状況でもあきらめないから。
彼の中のヒーローは、作りものでも希望を与えたウルトラマンは、こんな絶望なんていくらでも乗り越えてきたから。どんな人でもヒーローになれると証明したから。
「世界を知らない子供でも、ヒーローになれたんだ!」
「人とは違う存在でも、ヒーローになれたんだ!」
「怪獣との共存を望んでも、ヒーローになれたんだ!」
「償えない過ちを犯しても、ヒーローに戻れたんだ!」
「たとえ悪から生まれたとしても、ヒーローになれたんだ!」
「家族を守る、それだけでもヒーローになれたんだ!」
新しい世代が生まれるたびに、ヒーローの常識も変わっていく。
戦う理由もそれぞれで、誰が資格を与えてくれるわけでもないのに、力に悩み、悲しみ、傷つきながらもヒーローとして成長する。それがウルトラマンの物語。
「そしてきっと、これからも……新しいヒーローが生まれるんだよ! 俺たちが想像つかない新しいウルトラマンが、みんなの希望になるんだよ……!
だからお前の古い常識で、俺たちを、アカネさんの生き方を決めるな……!」
りゅうた、君……
(私でも、本当になれるのかな?)
小さいころ、私はあの光の中に入れなかった。入りたいと思えなかった。画面の向こうの子供みたいにヒーローを応援しないで、怪獣ばかりを応援していた。
そんな私が……
『なれる』
紫の巨人が強く言いながら、私を見た。
『なぜなら、俺は新条アカネの心から生まれたからだ』
アンチ……
『新条アカネ。
お前に誰かの証明が必要だというなら、俺を見ろ。俺はヒーローとなり、いつかグリッドマンさえ超えてみせる……!』
アンチは、ううん、グリッドナイトはグリッドマンシグマと並びながら、アレクシスをまっすぐ見る。
最初は怪獣だったのに、グリッドマンを倒す怪獣として作ったのに、憎しみだけしか与えなかったのに。そんなアンチが、怪獣からヒーローになれるなら。
私でも……!
『いくぞ、グリッドマンシグマ』
「ああ……! 中途半端でも、怪獣でも……!」
ヒーローになれる。
二人の巨人から青と紫、二つの光があふれる。
それは重なり、混ざり合い……
「シグマが……変わる?」
『一つ、考えがある』
シグマはあの屋上で俺たちに告げた。
確証があるわけでもなく、失敗するかもしれない。何より、俺とグリッドナイトの心が合わさらなければ達成できないと。
それはシグマの枷を外す方法。
グリッドマンがいない以上、フィクサービームで俺の体を戻し、シグマの真の力を開放するという方法はとれない。
だが、本来の力に近づけるかもしれないというのがシグマの提案だった。
問題はその方法が、
「まさか、お前と合体とか……!」
戦場の真ん中で、グリッドナイトと拳を突き合わせる。
シグマが最大に近い出力を出しても、俺という存在を焼き尽くさない方法。それは別の力を取り入れて、俺の体の保護しつつ、パワーアップするというかなり強引な方法。
しかもグリッドナイトと合体するというのだから、驚かされた。
『グリッドマンも、自らの力を新世紀中学生として独立させることができる。私たちは、そういう存在なんだ。だから、たとえ元が怪獣であっても、心を合わせれば……!』
そして、心なんてとっくに合わさっている。
俺たちは二人とも、中途半端で。ヒーローに憧れて、ヒーローになりたくて。なにより目の前のアレクシスを倒したい。
今この瞬間だけでも、俺達の気持ちは同じ。
だから、二人で叫ぶ。
「『アクセス、フラッシュ……!』」
心と体を合わせる変身の言葉。
そういえば、と。最初の変身の時はヒーローごっこみたいで恥ずかしいなんて思ったことを思い出した。ウルトラマンが好きだったくせに、そんな恥ずかしさに囚われていた時が俺にもあった。なのに今はもう、この言葉がないと気合が入らない。
みんな同じなんだ。人は変わっていける。元がどれだけ中途半端でも、間違いを犯しても、なにかきっかけがあって、一歩を踏み出せれば。
だから、俺も……あの子も、ヒーローになれる。
その願いを込めて、
「グリッドマンシグマ、ナイトアクセス……!」
重なりあった俺たちの姿は、元と大きく変わることはなかった。
いうなれば、ガイアV2とスプリームヴァージョンとの変化ぐらい。元々が青いシグマだから、そこに紫の差し色が入っても目立たないし、鎧も所々が鋭利になる程度の変化。
でも、
『合体かね? ふーむ、そこまで変わったように……』
「『オラぁ……!』」
『……ぐっ!?』
悪魔の言葉が言いきらないうちに拳を振りぬく。
拳にあたる、固い鎧の感触と、それがかすかにひび割れた音。当然、それをした俺とグリッドナイトの気持ちはといえば
「『ざまあみろ……!』」
の一言だった。
地面に転がるアレクシスを守るように怪獣たちが湧いて出るが、今の状態なら苦じゃない。
結局、数の暴力も攻撃が当たらないと意味がないんだ。
その点で、いまのナイトアクセス……俺が考えた名称だが、この形態はスピード特化型。グリッドナイトは元々、素早い攻撃や斬撃が得意という点でシグマと同じだったから、素直にその長所が引き上げられたのだろう。
雄叫びを上げる怪獣の群れの中、足取りは軽く、踊るように戦える。
上、下、右、左、ってもう全方位から攻撃の手が向かってくるが、三人が合わさった体なら死角はほぼなく、一刀ごとに切り伏せ、蹴り飛ばし、怪獣を倒していく。
『だが、これではキリがないぞ……! あれをやれ、グリッドマンシグマ……!』
「あれって……ああ、あれか!」
『「シグマナイト、スラッシュ……!」』
グリッドナイトと言葉を合わせるとともに、両手から紫と青の刃が放たれる。けれど、それはいつものように刀として使われず、腕から離れると燕のように宙を舞い、怪獣を切り裂きながらアレクシスへと向かって……
『ぐぉおおお!?』
あのむかつく仮面にぶち当たり、派手に爆散した。
絶対にこの戦いで、あの仮面をめちゃくちゃに壊してやる。
『同意見だ……』
「あの中の予想、しておくか? 俺はエイリアン顔に賭ける」
『ならば俺は……機械仕掛けだ』
とはいえ、そう簡単にうまくいくはずもなく、
『随分と余裕じゃないか……!』
アレクシスは立ち上がると、ヒビの入った仮面に手を当て、それを一瞬できれいに直す。もしかしなくても、俺達のやり取りが地味に効いているのか?
『半端者同士が合体したところで……などというのは敗北フラグというものだというから、言わないでおこう。だが、その姿でも本来のグリッドマンシグマの力には届かない』
アレクシスはさらに怪獣を生み出しながらも、余裕を崩そうとはしなかった。
あいつにもきっと意地があるのだろう。今のあいつはどれだけアカネさんの心を揺さぶれるかだけを考えているから、自分で戦えば余裕だろうにわざと怪獣で俺達を始末しようとしてくる。
そこはつけ入る隙だが、アレクシスの言う通り、この姿は急造の応急処置みたいなもの。さっきまでの状況を振り出しに戻すくらいがやっとだろう。けど……
『合体ウルトラマンは勝利の合図……!』
「なんか、ここまで染まると思ってなかったよ……」
すぐ隣でグリッドナイトが気合を入れているのを見ると、何とかなる気がするから面白い。
一方でアレクシスもバカじゃなく、さっきまでの影絵怪獣だと足止めにもならないことは分かっているのだろう。
『あぁ……アカネ君の情動の高まり、転換を感じる……! このショーが終わったとき、どれほどの情動を味わえるのか……!』
気持ち悪い言葉が発せられるとともに、怪獣たちがぴたりと足を止め、次の瞬間に風船に空気を入れ込んだように、膨れ、破裂した。中から出てくるのは、奇妙な形をした一つ目の化け物。なんだかレギュラン星人に似ているが……
『さあ、次は中の人の出番だ……! アカネ君のむき出しの敵意と殺意……楽しんでくれたまえ』
「グリッドマンが戻ってくるまで……!」
『ああ! 食い止めるぞ、リュウタ!』
「おい新条! なんか手はないのか……!?」
「な、なにか……?」
「なんでもいいんだよ! リュウタ達、助ける方法はねえのか!?」
窓の外を見ていた内海君がいきなり振り向くと、私の肩をつかんで揺さぶってきた。
なんというか、ちょっと怖いくらいに気合が入っていて、目がらんらんと輝いているのがやばい。少し前の私なら、きっと逃げ出していたと思う。
けれど、内海君は私に言う。
「あいつがあそこで戦ってて、あんなこと言ってやがんだ……! 俺達だって、待ってるだけじゃダメだ! 俺だって、ずっとヒーローチームやってきたんだ! 最後くらい……!」
お前も、そうじゃないのか?
と、熱血ウルトラマンオタクが目で尋ねてくる。
それは私の苦手な人の熱量。けど、
「あいつは、新条を信じているんだから……! お前が応えてやらないで、どうするんだよ!?」
「っ……!」
そうだ。リュウタ君は戦っている。私を守るために、私なんかを信じて、肯定してくれている。この状況のすべては、私が原因だというのに。
だったら、私も見ているだけでいいはずがない。
あの人を好きだというのなら、私も……。
「私にしかできないこと……。私の、やるべきこと……!」
「お、おい!? 新条!?」
どさくさに紛れて距離を詰めてきていた内海君を軽く突き飛ばして、部屋の奥、怪獣ソフビが並んだその向こうに置いてあった小さな箱を抱えて戻ってくる。
それは……
「これ、怪獣か……?」
「うん。……キンググールギラスの前に、作っていたメカ怪獣」
リュウタ君が私の正体を知ったと、アレクシスに知らされる前に気まぐれで作った機械仕掛けの恐竜。
「グリッドマンがロボットみたいになってたから、私もあれくらいできるって、自慢したくて……」
最後は合体怪獣の魅力に負けて、日の目を見なかった没案。どこかで見た気がするかっこいい竜。
(正直言うと、ヒーローっぽくしすぎて苦手だったんだよね……)
だから仕舞い込んでいたけれど、今なら……!
「カミサマはアレクシスの力を再現できるようにしていたから、同じように怪獣を巨大化させて、二人を助けられるかも……!」
「……っ!?」
驚いた表情を浮かべる内海君を放置し、怪獣の人形を机に置いて、パソコンを操る。
こちらはグリッドマンと違って変なロックとかをかけていないから、すぐに巨大化させられるはず……!
「あった……!」
確か、巨大にするコードは……
(インスタンス……っ)
でも、その瞬間にある景色がフラッシュバックして、指が止まった。
これまで私の作った怪獣が行ってきた破壊。私の怪獣が殺してきた人々。そして、あの夜にバカな私が呼び出して、リュウタ君を殺してしまったこと。
そんな私が生み出した怪獣が、本当に二人を助けてくれるのか……。
(もしかしたら、また……、今度は……)
その迷いと恐怖を、
「おい! こいつ、名前は!?」
ウルトラオタクの声が、かき消す。
「えっ、な、名前!? いま、そんなこと言うの!?」
「言うに決まってんだろ!? 名前はめっちゃ大事じゃねえか! シグマとグリッドナイトを救って、アレクシスをぶったおす! その切り札になるんだろ!?」
内海君は、怪獣をキラキラした目で見ながら叫ぶ。
「だったら、最高にかっこいい名前をつけないとダメだろ!!」
本当に、この人は状況を理解できているんだろうか、って思った。
外ではリュウタ君たちが怪獣のナカノヒトと戦っている。まだ互角くらいだけどいつ均衡が崩れるかわからない。
私はともかく、アレクシスが戦いに勝ったら、みんなは殺されちゃうのに、それでも新しい怪獣に希望を持っている。
こんなバカな人を見ていたら、と思ってしまった。
(私が、誰より、なにより、怪獣が好きなのに……!)
私が、自分の生み出した怪獣を信じないでどうするんだって。
やっぱり私は負けず嫌いでメンドクサイ。
今この時に、内海君を見て思うのが、感謝とかじゃなくて、私のほうがすごいなんて対抗心なんて。
だから、
「っ……!」
首にかけていた、赤い石の入ったネックレス。リュウタ君がくれた、大切な贈り物。
その石を、怪獣のお腹に無理矢理埋め込む。粘土がすこしいびつになるけれど、かまうことはない。きっと、私の気持ちが、この怪獣に力を与えてくれるから。
「決めた……!」
「名前か!?」
「うん……!」
その名は、
「ダイナ……!」
私が初めてつける、ヒーロー怪獣の名前。
私とリュウタ君を結び付けてくれた、あのウルトラマンの名前。
「ダイナミックのダイナ、ダイナマイトのダイナ……!」
強くてかっこいい、私たちの怪獣。
そして、怪獣が、あの人が、
「大好きの、ダイナ……!」
内海君は、その言葉を聞くと。勝手にキーボードを叩いて、画面に文字を打ち込む。
してやったりな笑顔で。
「インスタンスなんちゃらより、味方怪獣の出撃なら……!」
『Access Code :___________』
ほんと、ちょっとおせっかいな人だと思うけど、この文字は確かにかっこよかった。そこへ私が文字を打ち込んで、怪獣に命が吹き込まれる。
「お願い、リュウタ君を助けて……! ダイナドラゴン!!」
『Access Code :Dyna Dragon』
√=平方根、不完全
Σ=総和
√Σ:不完全なものの集まり
ラストのダイナドラゴン出撃は最初から考えていたので、書けてよかったです。