SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】 作:カサノリ
あくまで個人的な意見だけれど、特撮好きに言ってはいけない言葉のNo.1はこれだと思う。
『中に人がいるんだろ?』
まあ、言いたいことだけはわかる。特撮は作り物で、ヒーローや怪獣は着ぐるみ。特撮に興味のない奴はしょせん偽物だろと馬鹿にすることが多い。
だが、わかってない。
みんな、そんなことは理解しているんだ。わかっていて、なお愛している。わかっているけれど、わかっていないふりをしている。
偽物を本物に変えることがどれだけ偉大なことかわかっているからだ。長年受け継がれた特撮技術とアクターさんの演技。それが現実に存在しないロマンを、現実にする。
その空想科学を、特撮オタクたちは愛しているのだ。
なので、中に人がいることは欠点でもなんでもなく、俺にとってはそれもまた特撮の良いところ。それを馬鹿にするような言い方されると、
「あー!! お前、マジでむかつく!!」
特撮の特撮たる何たるかをわからず『中の人』とやらを差し向けてきた黒マスクへ、無数のギロチン光線を発射する。
グリッドナイトと融合したおかげで、高速戦闘だけでなく切断攻撃はさらに得意になった。それらはアレクシスの馬鹿野郎の顔面に向かって、何度はじかれてもブーメランのように向かうはずだった。
だが、それらが当たる前に、
「キャキャキャキャキャ!」
不気味な笑い声を出しながら、アレクシスのいう”中の人”が叩き落してしまう。
どこかグリーザみたいな底知れなさを感じさせる、いびつな姿。しかも、一体だけなら対処のしようもあるのに、
「ちぃっ……!」
『リュウタ、まだ来るぞ!!』
「あー、もうっ! 数が、多いんだよ……!!」
『グダグダ言う前に、落とせ!』
「わかってるっての!!」
叫ぶ間にも一匹いれば十匹だっけか。家の中に出てくる黒いアイツみたいに、わらわらとビルの合間から一つ目の餃子頭が生えてきた。
「キャキャ♪」
そいつらは上空に飛び上がると、ぐねぐねぐねぐねと体をよじらせながらこちらへ殺到し、鋭く伸ばした爪先を突き付けてくる。バックステップでよけると、地面に大きな陥没が生じてしまうほどの威力だ。雑魚戦闘員くらいの量がいるのに、そこらの怪獣よりも力は強い。
とはいえ、こちらも強化形態になった以上、無様な戦いはできない。グリッドナイトの叱咤を受けながら、右手で光の剣をふるっていく。いくら虫並みに素早いといっても、速度じゃ負けない。
だが、
「キャキャっ?」
「キャ!」
「キャキャキャキャ♪」
切る感触はバターのようで手ごたえがない。
まさか本体はアレクシスの足元に発生している影なのだろうか。不気味な怪人たちは、切り裂かれたことにも気づいていない様子で爆発していく。
暖簾に腕押し、柳になんちゃら。
「一体一体はそれほどじゃないのに、とにかくキモイし、キリがない……!」
『奴はこちらを消耗させるつもりだ。ムキになりすぎるのは禁物だぞ、リュウタ』
「それもわかってるんだけど……」
正直に言えば、さっきまでのほうが気持ちは楽だった。アカネさんの「私が考えた最強怪獣大行進♪」状態だったし。この怪獣ですらない怪人たちとの戦いは、体力に加えて精神的な負担も多い。
「にしても、中の人……ね」
『知っているのか、リュウタ?』
「知っているというか、なんというか……」
”中の人”。その名の通り、怪獣というガワを破って出てきた不気味な怪人たち。
つまりは今までの怪獣を着ぐるみと見立てて、その中に入っているむき出しのエネルギーとでも言いたいのだろう。怪獣に備えられていた各種ギミックがなくなった代わりに、動かせるエネルギーは大きい。
『なるほど、確かに枷が外れたような動きだな』
『だが、美学が足りない……!』
わかってんじゃないか、グリッドナイト。
重力やビルという障害物もなんのそのと動き回る。『スーツアクターは重い着ぐるみを着たまま、あんなにすごい動きができるのだから、生身ならとんでもない身体能力に違いない』。
そんなメタな発想で生まれたような怪人たち。
だがな、アレクシス。お前、そろそろ覚悟しておいたほうがいいと思う。
「ぜったい、ぜーったい、アカネさんはキレてるぞ!!」
おい、わかってんのかアレクシス。アカネさんがこれを見てんだぞ!
怪獣大決戦ならまだしも、言うに事欠いて”中の人”だぞ!? アカネさんが寝る間も惜しんで、デザインから能力まで考えまくっただろう怪獣達を着ぐるみ扱いしているんだ!!
ほら、耳を澄ましたらブチギレモードのアカネさんの声が……
『わかってない! わかってないよ、アレクシス!!!!』
「って、あれ?」
『……む?』
『…………』
……なんで、本当に聞こえるんだ?
突如として聞こえてきた、想像通りのアカネさんの怒声。その発生源は遥か上空。そして、俺もシグマもグリッドナイトも、そしてアレクシスさえも茫然と上を見上げた瞬間だった。
ゴウっ!!!!
空気の震えと共に目の前が真っ赤に染まった。
それが巨大すぎる火炎放射によるものだと認識する間に、殺到してきていた中の人軍団は灰になっていく。自分たちに向いていないとわかっていても、鳥肌が立つほどの怒りの炎。
「な、ななななな……!?」
俺が慌てる間に、さらなる怒りの攻撃が続く。今度も上空からバラバラバラバラと無数の銃弾が怪人に向かって叩き込まれ、哀れな中の人はギャグマンガのように吹っ飛んでいった。
そして、その攻撃を行った正体はといえば……
『……鳥か?』
『いや、戦闘機だろう……。ガッツウィングのような』
「ちがう……。あ、あれは!!」
見た瞬間、俺の血が湧きたった。
確かにそれは鳥のようでもあり、防衛隊が乗りこなす戦闘機のようにかっこいい飛行機でもあり。だが、なによりそれは、
『中の人とか、ほんとにふざけてるの!?』
地面に降り立つ巨体。
『いい!? 怪獣はかっこよくて、強くて、怖くて……!』
怒りの叫びとともに振るわれる巨大な爪。
『私の怪獣に、中の人なんていないんだから!!!!』
そうして見事な変形を果たして俺達の真横に降り立った姿は、
「かっけーっ!!!!!!!」
まごうことなき”怪獣”だった。
赤と金に彩られたメタリックボディ。頭部はギャラクトロンのように、鋭くヒロイックなデザイン。男の子のロマンがすべて詰まったような、最高にかっこいいロボット怪獣。そこからアカネさんと、
『見たか! 合体超竜ダイナドラゴンの実力を!!』
なぜか内海の声まで聞こえてきた。
『アレクシス! てめえの怪人軍団なんか、ダイナドラゴンの前だと屁でもないんだよっ!!』
自慢の作品を見せびらかすような内海。だが、どう考えてもこの怪獣はアカネさん製だ。当然、そんな調子で話はじめるとアカネさんが黙っているわけがない。
『はぁ!? 私の怪獣なんだけど! わ・た・し・の! 内海君のじゃないんですけど……!』
『ちょ、ちょっとくらい、いいじゃねえかよ!? 俺にも言わせてくれよ!!』
『よくない! そういうセリフ、私が言いたかったのに!!』
すると、ダイナドラゴンはくるっと俺のほうへと向いて、
『リュウタ君、お待たせ! 助けに来たよ!!』
という。それはさっき別れた時の後悔や不安いっぱいのアカネさんとは違って、どこまでも楽しそうで、自信満々な、俺の大好きな彼女の姿だった。
「ハハハ……」
『ねえ、どうかなダイナドラゴン? ちょっとヒーローっぽくしすぎたけど、せっかくのメカ怪獣だし、シグマと並んでもかっこよくなるようにデザインしたんだけど』
「アハハ……!!」
そんなの、
「もちろん、めっちゃくちゃかっこいい! やっぱ天才だよ、アカネさんは!」
俺はここが戦場だということも忘れていた。
だって、こんなの興奮しないわけがない。最終決戦に予想外の援軍が現れて、それが大切な彼女の作った怪獣だなんて。ウルトラマンメビウスの最終決戦みたいで、いや、それよりももっと熱く燃え上がる展開だった。
『……えへへ♪』
『そうだろそうだろ! 新条の作った、とっておきのロボ怪獣だ! 全長85m、総重量24万トン!! 飛行形態はなんとマッハ43! 口から火を噴き、空からミサイルの雨雪崩! これこそ超ド級の切り札だぜ!!』
『………………』
「おい、内海……」
『ん? どうしたんだよ……って、うお!? 新条! それで殴ったらシャレにならないって!?』
『うるさいっ! もう内海君は黙ってて!!』
声しか聞こえないが、ダイナドラゴンの向こう側で何が起きているかは想像つく。いや、その場にいたら俺もスペックを叫びたくなるだろうが、アカネさんは怒るって。
戦っている最中なのに、無性に向こうにいる内海に手を合わせたくなった。
でも、
「ああ、アカネさんらしい……」
自分の好きなものに素直で、ちょっとやそっとじゃ譲らなくて。そういえば、最初に出会ったときは怪獣の好みだけでずっと話を続けたっけ。
なんだか、このダイナドラゴンといい、音だけで聞こえてくるにぎやかさといい、本当にアカネさんとの時間が返ってきた気がしていた。
すると、
『……そうか、ダイナドラゴンか』
「シグマ……?」
『いや、なんでもない。こういうこともあるのだな、と思っただけだ』
どこか懐かしんでいるような、不思議な感情に彩られた声だった。
もしかして、シグマもこの怪獣について知っていることがあるのだろうか。時間があるなら、シグマとダイナドラゴンの物語も聞いてみたかったが、
『ハハハハ! まったく、ここにきて新しい怪獣とは! それも愛しいリュウタ君のためのとっておきかい!? まったく、妬けちゃうねえ!』
今はその時間はないようだった。
愉快そうに、余裕そうに笑うアレクシスへ、こっちも余裕のポーズを見せながら言う。
「うらやましいだろ?」
『だが、所詮は娯楽だね! 君たちが少しの希望を得たからなんだというのだね。私はまだほんの少しも力を見せていないのだよ?』
アレクシスが手を振るうと、足元の陰から続々と中の人が生成されていく。ダイナドラゴンが焼き払った数を優に超えて、100体はいようかという規模だった。たった数人のこちらからすれば、確かに過剰な数の暴力。
(けど、関係ないさ)
俺は口角を上げてアカネさんに尋ねた。
「アカネさん、いけるよね?」
『もちろん! 任せて!』
そう来なくっちゃ。せっかくの共同作業なんだから。
「それじゃあ……行くぞ!」
ああ、今ほどテレビの向こうに居たいと思った瞬間はない。
ミニチュアの街の中を青い巨人と真っ赤なドラゴンが怪人軍団へ向けて突っ込むなんて、そんなの、そんなの。
(最高に、決まってるだろ……!!)
「っ!! シグマナイトショット!!!!」
速度に勝るこちらが先行して、敵陣の前方に光弾をばらまく。すると、怪人たちは四方八方へと散らばって回避しようとするが、そこに後方から
『いくよ! ドラゴンロアー!!』
広範囲を焼き尽くすダイナドラゴンの炎が殺到し、密度の薄いところから灰に変えていく。
それでも数は大きく減らない。なにより愛さえ知らない怪人たちは、仲間の犠牲に何も感じていないだろう。
だが、これで敵の層は薄れて、それぞれが一塊になった。そこを狙って、今度は高威力の攻撃を打ち込めばいい。
『くらえ! シグマナイトジャベリン!!』
グリッドナイトの掛け声とともに、掲げた右腕に雷光が塊となった槍が出現。それを振りかぶって投げると、槍は俺たちが思い描いた通りの軌道を描く。針で縫い合わせるイメージだ。怪人たちの塊を貫通しながらジグザグに移動する槍は、次々に爆発を巻き起こして敵を減らしていく。
近くの敵は消え去った。だが、これは第一波に過ぎない。
「アカネさん、上からくるよ!」
爆発の影に隠れていたのだろう、ムササビみたいに腕を広げて大ジャンプをしている怪人たち。滞空しながら、その餃子みたいな部分に光が収束していく。遠距離からビームを撃つ心づもりなのだろう。けど、こちらの空中戦力も負けていない。
『任せて!』
『チェンジ! ドラゴンフォートレス!!』
『だからそれ、私のセリフ!!』
内海の心底楽しそうな声とともに、ダイナドラゴンが光に包まれ、次の瞬間にはソニックブームを巻き起こしつつ巨大な戦闘機が上空へと駆け上がる。
フォートレス、か。確かに要塞のようなごつくて、それでいてかっこいいフォルムだ。
ダイナドラゴンの飛行形態『ドラゴンフォートレス』は一気に怪人たちを抜き去り、高高度に達する。すると、下部ハッチが開き、無数のミサイルが顔を出して、
『フォートレス、ミサイル!!』
空に花火が舞い踊る。その中心が怪人たちとは思えないほどの美しさの中、ドラゴンフォートレスは旋回しながら花火の彩を深くしていった。
「ギャギャギャ!!」
とはいえ、敵もただのやられ役ではない。
『リュウタ! やつらが巨大化するぞ!』
残った連中が気持ち悪いおしくらまんじゅうを始めたと思いきや、ズモモモという醜い音を立てつつ、巨大な餃子頭が生えてきた。
「って、でかいな!?」
『ああ、Uキラーザウルスくらいあるぞ』
「最大火力のグリッドビームなら……!」
『いや、アレクシスが控えている以上、まだ使えないぞ!』
頭の中でグリッドナイト、シグマと話を進めるが、その間に合体を終えた中の人は、こちらへの攻撃態勢を整える。次の瞬間には巨大な塊が突進してこようかという状況。だが、
『させるかぁ!!』
「ぎゃぎゃぎゃっ!?」
怪人の横面を殴るように高速の飛来物が突撃していた。それはダイナドラゴンの頭部が独立して飛行機になったような、少し面白みのある造形の飛行機。
『見たか! ダイナファイターの威力を! しかもこいつはただの飛行機じゃないぜ!!』
内海のオタクボイスが聞こえる中、その分離した飛行機、ダイナファイターが形を変形させる。翼を折りたたみ、持ち手とトリガーのような部位が現れ、俺達のところへとやってくる。
「これって……!」
もしかしなくても、もしかするやつだよな!?
『ああ、ぶちかましてやれ! ドラゴニックキャノンを!!』
ドラゴンの口が開き高エネルギーがたまっていく。極限まで光を放つそれは、今か今かと発射の時を待ちわびていて、俺はそれを担ぎ、
「いけ!」
『ドラゴンファイアー!!』
……………………
……………………あれ?
『トリガー、トリガー押すの……!』
耳元でアカネさんがこっそり教えてくれた。
「ドラゴン、ファイアー!!!!」
改めて発射された白熱する火炎放射は、巨大な中の人を容易に貫き、
『ぐぉおおおお!?』
アレクシスまで殺到した。
「はぁ、これで……」
『片付いたな』
中の人という、無粋な存在はもういない。アレクシスならまだ作れるだろうが、ここまで戦力差を見せたのだから、無駄な労力だとわかっただろう。いよいよ残るは本丸のアレクシス。
「さあ、監督気取りもそろそろ終わりだな……!」
再び合体したダイナドラゴンと並び、構えをとる。
しかし、用意した再生怪獣達を蹴散らされたというのに、アレクシスはクスクスと笑うのだ。
『まったく、君たちもとんだエンターテイナーだ。よく楽しませてくれる。……そう、楽しませてくれるねぇ』
「…………」
『私は感じている。こうしている間にも、すさまじい情動がこの身を駆け巡っているのを……! それこそ私の力、私の源……! 君たちはいまだにそれがわかっていない!!』
「……そういう段階的に強くなるやつって、ぜったい最後に負けるんだぞ?」
『ならば、倒してみるといい! できるものならねぇ!!』
『……そう、アカネ君。君にそれができるのなら、ねぇ?』
マントを翻して、悪魔が動き出そうとしていた。
(もう、そろそろだ……)
響裕太は、手のひらににじむ汗を感じながら、心臓を落ち着けようとしていた。もう間もなく、約束の時間を迎えようとしている。それはグリッドマンが解放されるまでの時間であり、仲間たちに約束した反撃までの時間だった。
無茶だと思われた一時間という耐久時間は、仲間たちが少しずつバトンをつなぎ、ようやく満たされようとしている。
仲間たちが待っていてくれる。
もう一人のヒーローが必ず戻ってくると信じて。
(だから、俺は行かないと)
目を閉じて息を整えると、裕太は元の色を取り戻したアクセプターを手に取った。
あとはジャンクに光が灯れば、準備は完了。グリッドマンの封印は解かれ、戦いに戻ることができる。
だが、
「これをつければ……」
(これを……)
けれど、アクセプターを手首にはめられようとする直前で、手が震えてしまうのだ。
覚悟はとうに決めたはずだった。リュウタたちにも待っていてくれと伝えた。なのに、最後の一線で、
(でも……俺なんかにできるのか?)
と思ってしまった。
それから何度も息を落ち着けようとしたが、心臓はうるさいほどに高鳴ったまま。それは今さらになって噴き出した恐怖以外の何物でもなかった。
だが、それも仕方のないことだろう。
裕太自身にグリッドマンとして戦った記憶はないのだから。
(みんなが俺を、グリッドマンを信じてくれている。絶対に負けられない戦いなのに……)
これがいくつもの戦いを経ての最終決戦なら、争いを好まない裕太でも順応することができていた。だが自信につながる経験が裕太には存在しない。あるのは自分だけど自分じゃない、そんなヒーローが戦っていた奇妙な記憶だけ。
それでも、
「これは俺にしかできないこと……」
つぶやきながら、裕太は腕に力をこめる。もはやそれは勇気でもなく、強い使命感と義務感に駆り立てられてのもの。
「俺が、やらないと……!」
だが、そんな裕太を、
「待って……!」
止めたのは六花だった。
「り、っか……?」
裕太は思わぬ六花の行動に絶句する。『絢』に来てから、六花はいつにもまして口数が少なかった。何かを悩むそぶりを見せていたが、ここまで一つの口も挟まなかった。
そんな彼女は今、迷いながらも必死の表情をしている。『どうしたの』と裕太が尋ねる前に、六花は手に力を込めながらつぶやいた。
「違う。こんなのだめ……」
それは自分に言い聞かせるように、あるいは裕太に言い聞かせるように。小さいけれど、震えながらだけれど、確かな声で。
六花がゆっくりと顔を上げ、裕太と目を合わせた。
「これは、響君だけができることじゃない……。響君だけが背負うことじゃない……」
「でも、もう戦いは……!」
「わかってる! そんなのわかってる……。でも響君、怖がってるじゃん……」
「それ、は……」
六花は目に泣きそうな光をたたえながら、首を振った。
「あたりまえだよ、そんなの。怖いに決まってる。いきなり怪獣と戦えって言われて、勝たないと世界の終わりって……。今の響君はグリッドマンじゃないのに、平気で戦えるわけないじゃん」
だから、
「こんな、響君にだけ押し付ける形で、戦いに行ってほしくない……! ただ『行って来い』なんて、送り出したくない!」
「六花……」
六花自身もわかっていた。これはただのわがままで、こんな場面で言いだすなんて、場違いにもほどがあると。だけれど、だからこそ、六花は自分の気持ちを止められなかった。
それはずっと胸の奥にくすぶっていたものだから。
「最初からずっとそうだった。響君しかいないからって、私はただ甘えてただけ……。私がしてほしいことを、ただ押し付けてただけ。なのに響君は戦ってくれて、守ってくれて。それが普通だって、いつの間にか思ってた」
でも、今はもうそんなことを六花は言えない。
「だって、アカネは私の大切な友達で、響君も内海君も、馬場君だって大切な友達で……だから、この中で誰かが戦いに行かなくちゃいけないなら」
戦う理由があるのは、
「私だから」
「…………」
「私が行く。今なら私でも行けるはずでしょ? アカネやみんなのためなら、私でも戦えるから……!」
アカネを救うというのがこの戦いの大きな目的なら、それを背負うべきは宝多六花だと。だから、アクセプターを奪おうとして、
「それは俺が嫌だよ」
「……っ」
それは裕太には珍しい、男の子の意地に染まったような強い言葉だった。それだけは譲れないと、震えの一切ない断言だった。
六花の見開いた瞳には、いつのまにか”戦う人”に変わった響裕太の顔が映っている。
六花はそれに見覚えがあった。なぜなら、グリッドマンとして戦っていた時と同じ顔だったから。まったく記憶はないはずだというのに、あの時の裕太と今の裕太が重なって見えた。
そして裕太も、
「俺が行く」
今度こそ、迷いがない声だった。何かを納得したような、あっさりした声だった。
「なんで……!? 響君に戦う理由なんてないでしょ? アカネを助けたいのは私で、馬場君で、もしかしたら内海君もかもしれないけど。響君が危ない目に遭う理由なんてどこにもないでしょ?」
六花は言い募る。
言いながら、しかし、もう裕太の戦う理由がわかりきっていた。その理由を聞きたくないとも、でも聞いてみたいとも思ってしまっていた。そして、裕太は笑いながら言うのだ。
「ううん。それは違うよ。確かにあれはグリッドマンだったけど。それでも、今ようやくわかったんだ。……あれは、俺の意志でもあったって」
考えてみれば昔も今も、知らない誰かのために戦いに行くなんて勇敢な人間じゃない。それが響裕太が知る自分自身。だけれど、そんな”響裕太”が戦いを選んだとしたら……きっと理由はただ一つ。
(結局、俺もリュウタと同じなんだろうな)
「……俺がしたいこと、俺だけがやりたいこと」
これは義務なんかじゃない。やらなければいけないことじゃない。
裕太を駆り立てる理由は結局のところシンプルだった。”彼女”が友達と笑っているときや、ふとした会話、夕日の差す教室で見つめた横顔から自然と生まれただけのもの。
でもその感情は、青い巨人として戦っている仲間と同じくらいに強い。
裕太は六花をまっすぐに見つめながら言った。
「六花を守りたいって気持ちは。六花が好きなのは、俺だけの気持ちだから」
それが俺のやりたいことだから。
新条アカネを助けるためだけじゃない。宝多六花の幸せを守るためなら、響裕太は戦える。
「……響くん」
六花は、ただ目を丸くして固まっていた。だんだんと、その白い肌に紅が差して、耳までみたことないほど真っ赤な色になっていく。裕太はそこに至って、自分が何を言ってしまったのかを理解した。
「あ、こ、これは、その……! っていうか、あの時の続き、できてなかったし……!」
「い、今、そのこと言う……!?」
「ご、ごめん! でも、今くらいしか……」
「…………たしかに、そうだけど」
はぁ、と少し悲しそうに、けれど諦めたように六花は大きく息を吐いた。
「ああ、だめだ」という確信があった。もうこうなったら響裕太は譲ってくれない。だって、彼女自身が見てきた裕太という少年は、そうだったから。六花は赤くなった顔のまま、裕太に一歩近づいた。
「……響君。私、こういう時にごまかすとか好きじゃないから。ちゃんと、受け止めたいから」
「…………六花」
「響くんが本当にそうなら……」
どく、どく、と気が付いたら裕太の心臓は大きな音を鳴らしていた。
それは六花の胸の奥も同じで、ただ一人で立っているにはその音は大きすぎた。無意識のうちに支えを欲するように二人の距離が近づいていき……
「りっか……」
「ひびき、くん……」
「おーい、なにやってんだ。行くなら、さっさと行くぞ」
「「!?!?」」
久しぶりに聞いた女なのか男なのかわからない幼い声に、二人は飛び跳ねた。
「ぼ、ぼ、ボラーさん!?」
「な、なんで……!?」
「なんでって、そりゃ。ようやく封印が解除されたからに決まってんだろ。俺だけじゃねえぞ?」
机の上に行儀悪く座っていたボラーが指をくいと向けると、その先にはどこか所在なさげに立っている新世紀中学生の面々までいる。
「ねえ、ボラー。さすがに今のはタイミング悪すぎないかな?」
ヴィットは面白いものを見損ねたという表情で、
「ああ。せっかくの青春の一ページが、だな」
マックスは邪魔してしまったことを申し訳なく思っているという顔で、
「最悪だった、な……」
そして、キャリバーは相変わらず感情がよくわからない様子で。
「あ゛ぁ!? じゃあ、いつなら話しかければいいってんだよ!? そのままだとおっぱじめる空気だったじゃねえか!?」
「「なにも始めませんって!?」」
「「「「わかった、わかった」」」」
「絶対にわかってないですよね!?」
裕太が真っ赤になって否定するが、残念ながら四人ともまともに取り合ってくれる様子はなかった。だけれど、その時、裕太には不思議な感覚があった。
(あれ、っていうか……)
「俺、普通にしゃべってる……?」
裕太にとっては新世紀中学生の面々とは正真正銘、初対面のはずなのに、もう何日も過ごしたような気安さ。それはだんだんと体になじんでいき、
『それは、君の体が覚えているからだろう。私たちのことを』
知らないはずなのに、知っている声。それだけでわかった。
(ああ、やっぱり俺は、一緒に戦っていたんだ)
意識がはっきりしなくても、記憶がなくても、自分が自分ですらなくても。このヒーローと一緒に戦った事実は裕太の中に確かに存在していた、と。
だから、
「……おかえり、グリッドマン」
『ああ、裕太。……待たせてすまない』
くすりと、裕太は笑った。それだけで十分だった。お互いへの謝罪も必要ない。裕太はそのことに安心したように、六花へと言う。
「うん。大丈夫だよ、六花」
「響君?」
「グリッドマンとなら。ヒーローと一緒になら、戦える」
どんなに辛く怖い戦場でも、ヒーローと一緒なら。
裕太は今度こそ、決意を固めてアクセプターを押しあてた。
それは青く優しい光を放ち、元通りに裕太の手首に収まる。その瞬間に裕太はグリッドマンと自分が、一体になったのを感じた。いや、グリッドマンだけじゃない。新世紀中学生の面々や、六花、そして外で戦っている仲間たちとも。
絆を紡ぐ力、絆を束ねる力。
それが自分は一人じゃないと、強く感じさせた。
『状況は把握している。よく頑張ったな、みんな』
「ブロンズの中からでも、皆の奮闘は見えていたぞ」
「よく、あきらめずに頑張ったね」
「ま、ちょっとは褒めてやってもいいぜ♪」
「今度は、俺たちが、お前たちを助ける番だ」
裕太はうなずきながら、ジャンクに向かって左手を掲げる。そして口を開こうとして、でも、その前に六花へと。
「あのさ、六花……」
「……なに?」
「よければ、だけど。応援してほしいんだ。そうしたら、もっと俺は頑張れるから」
「……うん」
今度こそ響裕太は前を向き、口を開く。
叫ぶ合言葉はもちろん。
「アクセス、フラッシュ!!」
あふれる光の中、裕太の体がジャンクに吸い込まれる。裕太だけじゃない。新世紀中学生の面々も、六花に各々の調子であいさつをしながら、光となってジャンクに向かう。
そして、
『六花、戦闘コードを打ち込んでくれ!』
『アクセスコードは……!』
「GRIDMAN」
「……いってらっしゃい、響君。頑張って」
ここに、夢のヒーローが復活した。
あと二話で、本編完結予定でございます。
ここまで、本当に長らくお待たせして申し訳ございませんでした。
個人的にスランプに陥ったりしたこともありましたが、すべて言い訳でしかありません。
お待ちいただいた皆様には、ちゃんと完結させることで恩返しをしたいと思っております。
よろしければ最後までお付き合いください。