SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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とうとうここまで来ました!

第二部決めた時から、これだけはやりたかった!(そういうのばっかり!)



救・済

 苦しい時、悲しい時、辛い時、そして悔しい時、人はじっと下を見る。もうこれ以上の苦しみがないと、確かめるみたいに。

 

 そして嬉しい時、楽しい時、希望を確かに感じた時、人は上を見上げる。有名な歌詞にあるように、上を見ることそのものに、人を元気にする何かがあるのかもしれない。

 

 だからなのかな、俺たちのヒーローがいつも空の上からやってくるのは。

 

「……まったく、遅いんだよ」

 

 俺は上を見上げて、思わず苦笑いをしてしまう。

 

 一時間そこらも戦ってきたっていうのに、疲れや痛みもきれいに消えていった。だって、それに負けないくらい、いやそれ以上に『もう大丈夫』って心強さが生まれたのだから。

 

 何度も何度も目に焼き付けた光景。

 

 ピンチのピンチの、ピンチの連続、そんなときに空から光が降りてくる。

 

 そんな俺たちが信じてきたヒーローと、ウルトラマンと同じ輝きが目の前にあるのだから。

 

 空に開いたゲートから飛び出す流星。それはアレクシスの影を消し去るほどに輝きながら、俺たちの元へとやってくる。

 

 これが特撮番組なら、きっと今頃、盛大にオープニングテーマが流れているだろう。

 

 ぎゅんぎゅんと光が奥へ奥へと進み、ゲートの先の街の景色がぶわっと広がる。そこにゆっくりと番組のロゴなんかが現れれば完璧だ。

 

(タイトル……)

 

 何がいいかな。どんな言葉なら、このヒーローを表現できるだろう。オタク脳がフル回転して、そんなことを考える。

 

 光の巨人、超人、いやそれだけじゃ味気ない。……そうだ、きっとパソコンを使ったりデータっぽいところもこのヒーローの特徴になる。そんな彼らにふさわしい称号は……そう、

 

 

 

『電光超人、グリッドマン……!』

 

 

 

 そして、光の中から夢のヒーローが現れた。

 

 何度も見た、赤と青の装甲をまとったグリッドマンの姿。だが、それが変わる。俺はその光景を見ながら、ウルトラマンシリーズでも異色作だったセブンXを思い出した。鋭利でとげとげにアレンジされた、一見するとかっこいいセブンの姿。それが実は弱体化した姿だったという話。

 

 グリッドマンも同じだった。

 

 体を覆っていた装甲。その一つ一つがロックを外していくように変形し、その奥からさらなる光があふれだす。それは、ウルトラマンにそっくりな赤い巨人の姿。

 

「あれが、本当のグリッドマン……!」

 

『ああ、もう。……ずるいなぁ』

 

 感激しながら声がかすれる俺。そして、隣のダイナドラゴンからは、なんだかちょっと嫉妬していそうな、眩しそうな、噛みしめるようなアカネさんの声。

 

 でも気持ちは俺もわかる。きっと、これから何十年生きたとして、こんなにかっこよくて、一目見るだけで「勝ったな」なんて思える景色は見ることはないから。

 

 そして俺達とアレクシスの間に立ったグリッドマンは、顔だけで振り返りながら、あのかっこいい声で言うのだ。

 

 

 

『待たせたな、みんな。もう大丈夫だ』

 

 

 

「……お帰り、グリッドマン。それから響も」

 

『うん、遅くなってごめん』

 

 一人に見えるグリッドマン。だけれど、今は二人。この間までとは違って、響裕太とグリッドマン二人の意志が光の中に見えた。……あれ? でも二人だけじゃない気も?

 

『グリッドマンと裕太だけじゃねえぞ!』

 

「って、ボラー?! お前まで中にいんの!?」

 

『ああ、我々も元はグリッドマンの力だからな』

 

『完全体になったら、こっちに入っちゃうんだよね』

 

『ルームシェア、という、やつだな……』

 

 いや、それはさすがに情報過多じゃないの。それにかっこいいグリッドマンの顔から、カッコいいのか可愛いのかわからないボラーの言葉が聞こえると脳がバグる。

 

『はぁーっ!? ほんっと、可愛くねーな!! さっきまでベソかいてたくせによー』

 

「あぁん!? かいてないですーっ! っていうか、待たせすぎなんだよ! 何日ブロンズだったんだ!?」

 

『リュウタ、それを言われると我々もだが……』

 

「…………ボラー以外はおっけー」

 

『おいっ!?』

 

「……ははっ」

 

 いや、ほんと、こんなことしてる場合じゃない気もするけどさ。

 

(やっぱり、みんな揃ってるのいいな)

 

 なんて笑ってしまう。

 

 てんでばらばらだし、変な奴ばっかりだし、元怪獣もいたりするけど。これこそグリッドマン同盟って感じがするんだ。

 

「みんな、また会えてうれしいよ」

 

『お前も褒めてやるよ。ちょっと見ない間に、ずいぶん立派になったじゃねえか』

 

 ボラーは相変わらず小さいくせに教師っぽいんだか、先輩っぽいんだか。何もなければそのまま何時間でも話していそうだったけれど、そんな感傷に浸っている暇はない。

 

 俺達にはまず倒さなければいけない相手がいる。

 

『ちょっとみんな! 前、前!!』

 

 ジャンクを通して聞こえる、宝多さんの慌てた声。

 

 そして前方を見ると、

 

「私も混ぜてくれないかねぇ……!」

 

 動き出した黒マスクが迫っていた。

 

 しかもアレクシスの速度は俺が想像した以上。ちゃんと警戒はしていたのに反応が遅れてしまった。そのままアレクシスは刃物のように変化させた両手を俺へと振り下ろそうとするが、

 

 ドンっと、空気が震える音がした。

 

『私は言ったぞ、アレクシス・ケリヴ……! 彼らに『もう大丈夫だ』と! これ以上、誰も傷つけさせはしない!!』

 

『みんなが繋いでくれたんだ! 今度は俺たちが……!』

 

 グリッドマンが、響が、その拳でアレクシスの刃を抑え込んでいた。

 

『はぁっ!!』

 

『っ……!?』

 

 そのままグリッドマンはアレクシスの両手をはじくように退けると、後ろ蹴りを黒マントのど真ん中に打ち込み、その巨体を弾き飛ばす。一撃一撃で世界全体が震えあがるほどの攻撃にこっちまで鳥肌が立つが、俺だってただ見ているわけにはいかない。

 

(そうだ、作戦はここから……!)

 

 俺が思うのと同時に、グリッドマンがダイナドラゴンへと声を飛ばす、

 

『……アカネ!』

 

『…………っ!』

 

『まずはリュウタの体を回復させる。十秒、やつを食い止めてくれ! 頼む!!』

 

『…………うん、わかった!! リュウタ君をお願い、グリッドマン!』

 

 アカネさんの声に応えるように、ダイナドラゴンが吠える。

 

 そしてブースターを吹かせ、アレクシスが吹き飛んだほうへと突撃すると、各部からミサイルを撃ちまくった。少しでもやつの反撃を防ぐためだろう。その間にグリッドマンはこちらへと向き直り、

 

『準備はいいかシグマ、そしてリュウタ! 二人もフルパワーを出す時だ!!』

 

『ああ、兄さん!』

 

「任せとけ……!」

 

 俺たちの応答にうなずき、グリッドマンが胸の前に両こぶしを並べる。

 

 そこに集まっていくのは攻撃とは違う癒しの力。街や人さえ修復できる奇跡の技。前に作戦会議で決めていた。グリッドマンの本気が解放されたなら、ボロボロになってシグマに支えられた俺の体を修復すると。そうすればシグマは本気を出せるのだから。

 

 そして、

 

『フィクサー、ビーム……!!』

 

 あふれんばかりの光の渦に俺たちは包まれた。その瞬間に俺の体……そう体だ。今まではあやふやだったそれが確かになっていく。ほんのひとかけらくらいしか残っていなかったところに、両手足ができて、血と魂が通っていく感覚。

 

(これ……!)

 

 しかもそれに伴って、シグマの力をどんどんと感じていくのだ。今まで俺を守るためにハンデを強いられてきたもう一人のグリッドマン。本気のグリッドマンがあの姿なら、もちろんシグマだって同じくらいに強くてカッコいいはず。

 

 そう思ったとき、隣にふと気配を感じた。

 

 今までは全く同一の体であったのが、ここで初めて個々に分かれたからだろう。グリッドマンともやっぱり兄弟だとわかるほど似た、けれども青い巨人の姿。

 

『リュウタ、待たせてしまったな』

 

「こっちこそ、今まで窮屈させてごめん。……それと、何度も言うよ。ありがとう」

 

『私もだ。最後まで共に戦おう』

 

 ほんと夢みたいだ。

 

「……ああ! 一緒に行こう、シグマ!!」

 

 そして光に包まれたまま、俺は、俺たちは一歩を踏み出す。

 

 最初の変身の時はあんなに立つのもおぼつかなくて、重くてどうしようもなかった躰。それが今は、文字通り一心同体になって、どんな敵にも負けないほどに力強く感じる。

 

 目標はもちろんダイナドラゴンの攻撃をさばき切って、今まさに壊しにかかっているにっくきあの野郎へと。そのアカネさん最高傑作を、壊させるわけにはいかない。

 

『アレクシス……!』

 

「ケリヴ……!!」

 

『ぐっ……!?』

 

 外から見たら、きっと雷光のように見えたに違いない。フルパワーの解放。その勢いに任せた飛び蹴り。それは今までのどんな攻撃よりも力強く相手に突き刺さるが、すんでのところでアレクシスは食い止めてみせた。

 

『君もフルパワーか……! だが! それだけで勝てるとでも!? その姿でも敗北したのを、忘れたのかい!?』

 

 シグマもグリッドマン同様、最初の侵入時にアレクシスに敗北している。

 

『だとしても、今は違う! 私は一人ではない!!』

 

『そう、私が、私たちが共にいる!!』

 

 もう一つの衝撃。赤く染まった雷光は、同じように飛び蹴りを行ったグリッドマン。

 

 それもアレクシスのバリアに防がれてしまうが、ダブルヒーローの同時攻撃を、その程度で防げると思うな。

 

「いくぞ響……!」

 

『もっとパワーを!!』

 

 俺と響の叫びが重なる。

 

 それぞれ蹴り足にエネルギーを限界まで充填し、その光はどこまでも力強く輝いていく。それはグリッドマンとシグマの体を金色に染め上げるほどの威力となり、

 

『超電撃……!』

 

『キィーック!!!!』

 

 兄弟二人の息のあった掛け声とともにバリアが割れ、アレクシスに突き刺さった二つの雷光は、やつを白く発光させたまま彼方へと吹き飛ばした。

 

 ソニックブームってこういうのだったろうか、吹っ飛んだ軌跡にいくつもの空気の輪っかができる。だが、それだけで終わると思うほど、アレクシスを舐めてはいない。

 

 煙の向こうに黒い影。まだやつは戦える。

 

 グリッドマンと俺たちは飛ぶようにそこへ飛び掛かると、アレクシスとの肉弾戦に突入した。

 

 敵は両手を変化させた刃物に加えて、地面すら変化させて黒い槍や剣を向かわせてくる。いつどこから飛んでくるかわからない攻撃。

 

 だけれど覚醒した俺たちの知覚は、それすら読み切る。もはや人間離れしすぎて、自分一人じゃ制御できなかっただろう動き。これが本当のハイパーエージェントの力かと、ほれぼれするほど。

 

(いや、ほんとどんだけハンデかけてたんだよ……)

 

『そ、そんなことないぞ……! リュウタは立派に戦っていた!!』

 

 シグマがフォローしてくれるけど、正直、この状態を考えるとめっちゃくちゃ弱体してたのは実感してしまった。

 

(でも……!)

 

 今ならなんでもできそうだ。

 

 アレクシスが振り下ろす剣を左手で押さえ、俺はそのままくるりと一回転。すると左手に引っ張られてアレクシスの体が前傾状態に。一瞬だが腹を無防備にさらした形だ。

 

『そこへ、回し蹴り……!』

 

 回転の勢いを乗せて、真上へ蹴り上げる動き。普段だったらどうあがいてもできないことも、今ならできる。確かな蹴りの手ごたえと共に中空へ浮き上がるアレクシス。

 

 そこへグリッドマンが

 

『グリッドぉ……、ビームっ!!!!!!』

 

 前からすごかったのにさらに威力を増したグリッドビームを撃ちこんだ。

 

 だというのに、アレクシスは

 

『ふふふふふ……♪』

 

 黒いオーラをまとったまま、まだ不気味な笑いを続けている。ラスボスって大体初期必殺技効かないけど、こんな場面でもフラグを成立させないでほしい。

 

 だけどそんなときのために俺たちがいる。

 

 上空へと飛び上がり、腕にエネルギーをため、

 

『ダブルグリッド、ビーム……!!!!!!』

 

 内海命名の必殺技を、律儀に言う。きっとあいつのことだから、モニターの向こうで大興奮しているだろう。二つの攻撃に挟まれ、さすがのアレクシスも笑みをひそめ防御に専念。あとはここでもう一撃ぶち込めれば……!

 

 そう考えた時、紫の影が躍った。

 

『俺を、忘れるな……!!』

 

 そっか、シグマが元に戻ったってことは、グリッドナイトは融合しなくてもよいわけで。完全版シグマに興奮しすぎて、気づかなかった。

 

『ナイトソード、サーキュラー!!!!』

 

 グリッドナイトが右手で大きく円を描く。するとそこに無数の黒い刃が生まれ、何十、いや何百ものそれらがアレクシスへと突撃、今度こそやつの体が爆炎に包まれ、地面へと堕ちていった。

 

 こちらも地面へ降り立ち、グリッドナイトと並ぶと、一人だけ元どおりのフォルムなグリッドナイトは何やら不満のようで、

 

『フルパワー……。貴様らばかり、ずるいぞ……!』

 

 いや、俺そういうのも好きだぞ? なんか呉越同舟とか、劇場版ウルトラマンみたいで。

 

『……確かに』

 

『そういうものなのだろうか? ……理解が及ばず、すまない』

 

『グリッドマンは悪くないから……!』

 

 ま、とにかくこれで。

 

(三人の巨人が並んだ……!)

 

 グリッドマン。

 

 グリッドマンシグマ。

 

 そしてグリッドナイト。

 

 ……その中の一人が俺と融合していることが誇らしくてたまらない。特撮オタクとしてなんて贅沢! いや、中からだけじゃだめだ。外からも見て、写真とビデオで記録を残したい。内海の奴、ちゃんと録画とかしているだろうか。

 

『うぉおおおおおお!! 俺は、俺はこれが見たかったんだっ!』

 

『ほんとにうっさい、内海君!!!!

 りっかぁ……! このオタク、めんどくさすぎるよぉ……!!』

 

『……アカネ、よかったらこっち来る?』

 

『お前らぁ! 移動している暇なんかねぇぞ!! 今から大決戦が始まるんだからな!!』

 

(問題ないみたいだな)

 

 どうせこの様子じゃ写真撮りまくってるだろう。あとで焼き増ししてもらおう。

 

 だけどうるさいウルトラオタクの言うことは悪い方向にもあたる。

 

 ガラガラとがれきを押しのけて、黒い怪人が立ち上がったのだ。あれだけの攻撃はさすがに効いたようで仮面や体はボロボロになっているが、こちらの眼を通して見たエネルギーはまだまだ健在。

 

『ふふふふ……!』

 

 さっきと同じだ。不気味な笑いと共に、それらが瞬く間に修復されていく。

 

 そして、

 

『言ったはずだよ?』

 

「がぁっ……!?」

 

 俺の体が宙に放り投げられ、

 

『これは遊びに過ぎないと……!』

 

「ぐぅっ……!?」

 

 グリッドナイトが回し蹴りで吹き飛ばされ、

 

『君たちに、勝利はない……!!』

 

『くっ……!!』

 

 グリッドマンも、その拳の一撃でビルに激突させられる。

 

 立っているのは、すっかり元通りになったアレクシスだけ。

 

(まだ、こんなに……!)

 

 一応ちゃんとトリプル必殺技を打ち込んだんだけどな……!!

 

 まったくもって理不尽な真っ黒野郎は、手を広げて演説するように言い始める。

 

『私のエネルギーはアカネ君の作ったカミサマ。つまりはこの世界の創造主、その現身だよ。そして君たちがいくら頑張ろうとも、いや、頑張れば頑張るほどに、その力は増していく』

 

 なぜだかわかるかい?

 

 と、アレクシスはにやけた仮面で俺達を見下ろした。

 

『アカネ君! 君は今、とーっても楽しいだろう?』

 

「…………」

 

『絶望でも喜びでも、すべて変わりなく君の情動……! 絶望が最も甘美なのは変わらないが、それでも君が楽しめば楽しむほど、この世界への執着が生まれる。それが私の力になる……!』

 

『こんな風にね』

 

 アレクシスが笑いながら力を放出する。

 

 それは俺がカミサマにさんざんやられた純粋なエネルギー波。さすがに一撃で変身解除されるほどではないが、それでも全身がしびれて動き一つも苦しくなる。

 

「…………っ!」

 

『だからこの戦いを娯楽と呼んだんだよ。

 私にとっては食事の時に見る、テレビ番組と変わらない。惰性で見ている内はくだらない内容も許容するが、それが苦痛になれば……電源を切るだけさ』

 

 アカネさんが存在する限り、やつの力は無限。しかも、その命自体が不死の怪物。それがアレクシスの余裕の原因。そしてやつには一つも不安や恐怖がない。なぜなら、

 

『アカネ君がこの世界を捨てられるわけがないだろう……!!』

 

 そう確信していたから。悪の親玉らしく余裕の笑いを上げ続けるアレクシスは変わらず、アカネさんの心が囚われたままだと宣言する。

 

 そして、アカネさんは、

 

 

 

『あっそ……』

 

 

 

 なんて、すっかり興味を無くしたような言葉で応えた。

 

『…………な、に?』

 

 アレクシスが笑いを止めてダイナドラゴンを、いや、その先のアカネさんを凝視する。

 

 それも当然だろう、ついさっきまでアレクシスの挑発に心を乱されていたアカネさん。なのに、今の言葉は、もはやアレクシスに興味がないと宣言するかのようだったから。

 

 それがやつには理解できない。

 

「ばーか……」

 

 チャンスとばかりに、俺も黒仮面を一笑にふしてやる。っていうか、さっきからアカネさんのことを舐めすぎなんだよ。

 

 確かにアレクシスと一緒にいた時のアカネさんは、なんでもアレクシスと怪獣に頼って、すぐに人を除いてしまうような状態だった。そういう風にアレクシスが仕向けたから。人の欲望をあおって、都合よくコントロールしようとするのは、感情を食うだけあって得意なのだろう。

 

 だけれど、やつは理解できない。不死で不変で、しかも人に寄生することでしか感情も得られない化け物にはわからない。

 

 人は変われるってことを。アカネさんだって変わっていくことを。

 

 アカネさんはもう頭にきたとばかりに、いらだった声でアレクシスに言う。

 

『アレクシスさぁ、さっきから私のこと馬鹿にしてるでしょ?』

 

 なんどもなんども、アレクシスは言ってきた。

 

『アカネ君は何もできない』

 

『アカネ君は何も決められない』

 

『アカネ君は何者にもなれない』

 

 アカネさんは声を潜めながら、その事実を肯定する。

 

『前はそうだった……私はどうしようもなくて、間違いばかりで、今もほんとは自信なんてないし、ちょっとだけ調子に乗ってるだけかもしれない』

 

 私はそういう子だから、と。

 

 けど、それでも。

 

『でも……! いま、私は変わっていってる! ダイナドラゴンも動かせた! リュウタ君のこと助けられた! グリッドマンに名前で呼んでもらって、頼むって言ってもらえた!!』

 

 アカネさんはもう自分で動き出している。

 

『リュウタ君は、私の好きな人は、私がもう大丈夫って言ってくれる! そんな私を好きって言ってくれる、支えてくれる……!! なのに、アレクシスが私のことなんにもできないって馬鹿にするなら……!!』

 

 

 

『そんなアレクシス、大っ嫌い!!!!』

 

 

 

『ぐぅっ……!!!!』

 

 その瞬間、アレクシスの体の中で何かが動きだした。

 

『っていうか、あれだけ一緒にいて、あれだけ一緒に怪獣を作って! 私のこと、なんにもわかってないよね!!」

 

 それはアレクシスの体を突き破ろうと暴れまわり、

 

『私はめんどくさくて! すぐに怒って! 八つ当たりして! でも怖がりで、弱虫だよ……! それが私なの!』

 

『な、なにを……!?』

 

 アレクシスは初めて苦悶の声を上げながら体を震わせる。

 

 傍から見たら自業自得だ。っていうか、弱気になっていたとはいえ、あんだけ悪口を言われて、否定されてキレない人間がいるはずがない。

 

『だから……!!』

 

 かつては嫌な思いをさせてきた誰かに言ったセリフをアレクシスへと。

 

『酷いこと言うアレクシスなんて、もういらない!! 私の……私のヒーローは、アレクシスにも負けないんだから!!』

 

『ぐぉおおおおお!?』

 

 途端にアレクシスの体から、エネルギーが放出され始めた。

 

 悶え、胸をかきむしるようにしながら、アレクシスはその力を失わせていく。

 

『当然だろう。やつの力の源はあのカミサマという怪獣。そしてそれは少女の心そのものだ。それがアレクシスを拒絶しているのだから』

 

 だったら今こそチャンスだ。この世界もアカネさんも、箱庭のおもちゃだと侮っていたツケを払うときが来た。

 

 そしてアカネさんにも、もっと見せてあげたい。もっともっと、君は素敵な人だと、アレクシスみたいな怪人の誘惑も自分で断ち切れるのだと。そのためにも、みんなの力を合わせて勝つ!!

 

「シグマ、もちろんあれできるよな?」

 

『あれとは、まさか』

 

「もちろん……合体だよ!」

 

 そりゃもう、こういう時に合体しないでどうするっていうんだ。

 

 俺の仲間にはアカネさんが作ったロボット怪獣がいて、しかもそれはグリッドマンのアシストウェポンを参考にして作ったという。だったら、アカネさんのことだ。合体できないわけないだろう。

 

 シグマは俺の言葉に「ふっ」と安心させるような笑みで応えた。

 

『ああ、任せろ!!』

 

「そう来なくちゃ! アカネさん、ダイナドラゴンをこっちに!!」

 

『うんっ!!』

 

 ドラゴンフォートレスになって一直線にこちらに飛んでくるダイナドラゴン。

 

 その各部のパーツが分裂し、俺とシグマの両手足に鎧として装着される。そして最後には飛行機部分が頭から覆いかぶさるように胸から背中をかけてを覆う。最後はロボットのようなマスクがシグマの顔を保護すれば、変形合体完了!

 

 ああ……! ほんとにかっこいいな!!

 

 

 

「合体竜帝……!」

 

『キンググリッドマンシグマ……!!』

 

 

 

 番組の最終決戦を彩るにふさわしい、赤と青の混ざった巨人が誕生する。

 

 でも、それだけじゃ終わらない。

 

『おい、あいつらが楽しそうなことやってるぞ!』

 

『ちょっと疲れるけど、こっちもやってみる?』

 

『ああ……! 我ら新世紀中学生、かつての姿で再び行くぞ!!』

 

 グリッドマンの中から聞こえる三人の声。

 

『えっ、えっ……!? なに、なんなの!?』

 

 響の戸惑う声が聞こえる中、グリッドマンの体が光り輝き、三つのマシンがその中から飛び出した。

 

 それはいつも通りのアシストウェポンかと思いきや、微妙に形状や大きさが変わっている。

 

『私の友人が、かつての仲間が与えてくれた希望。それは私の中で、今も確かに残っている! その力を今、使うとき……!』

 

『『『おうっ!!!』』』

 

 三人のアシストウェポンと一人の赤い巨人。それらが合体して、大きな鎧の巨人へと変形していく。タンクは足の装甲に、ドリルは両腕の装甲に、そして飛行機は胸の装甲に。

 

 一度だけ見たフルパワーグリッドマンと似ているけど違う。いや、あれは確かに、あの時出せる最高出力のグリッドマンだったのだろうけど、それ以上だ。

 

 四人と一人が合わさって生まれた形態。それは、

 

 

 

『合体超神……!!!』

 

『サンダーグリッドマン!!』

 

 

 

『グリッドマンも、シグマも変わった……!』

 

『うぉおおおお!! おれ、生きててよかった!!』

 

『ほんとはもうちょっと、ロボット部分減らしたかったんだけどね……』

 

 でも、そんなこと言うアカネさんも、なんだか満足そうな感じ。

 

 シグマもグリッドマンも合体して、グリッドナイトのほうにも。

 

『……ふん、俺はこのほうが動きやすい』

 

『ツンデレ、というやつか……?』

 

 これまた巨大な剣となったキャリバーが装備される。

 

 さて、これで準備は万端。どちらのグリッドマンも最強形態になって、敵は自分の傲慢さから弱体化を始めた悪の怪人。

 

 負けるはずが、ない。

 

 俺たちは決着をつけるべく、アレクシスへと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

(まったく、どういうことだろうねぇ……)

 

 対峙する三人の『ヒーロー』を見ながら、黒い怪人はマスクの奥でらしくなくため息のようなものを吐いた。

 

 怪人は旅人だった。世界を渡る流浪人。だが、それは決して楽しみを生むものではなく、永劫の苦しみを伴うものだった。

 

 怪人に死はなく、その長い旅の中であらゆるものが欠落していく。表情、彩り、そして感情。もしかしたら感情を失ったのも、長すぎる旅の苦しみに耐えきれなかったのかもしれない。

 

 だがそれでも、感情が、情動がなければ生きていないのも同じ。

 

 怪人はいつしか情動をもつ生物に寄生するようになった。彼らの望みをかなえ、感情の変動を吸収することで、自分も満たされた気になっていた。

 

(生物など、皆同じだった。どの子も欲望には素直だ。とりわけ鬱屈して、欲しがりで、苦しんでいる子を『救済』するほどに私は甘美な情動を得ることができた)

 

 この世界を作ったのも、新条アカネを『助けた』のも同じ。

 

 アレクシス・ケリヴにとっては、一日の食事と何ら変わらない。調理された食材一つに情をもつ生き物などいないように、アカネに対しても感情はなかった。

 

 搾り取るだけ感情を搾り取れば、あとは壊れた彼女を放り棄てれば済んだ話。

 

(だというのに、どうして私はこんなことをしているのだろう)

 

 サンダーグリッドマンとキンググリッドマンシグマ、そしてグリッドナイト。三人の巨人と戦いながら、アレクシスは考え続ける。

 

 アカネの心変わり、いや、決心によってアレクシスの優位性は崩れていた。それでも不死身の体は攻撃の傷をすぐに元通りにさせ、力だって三人を同時に相手取りながらも互角には渡り合っている。

 

 そう、互角。

 

 つまり倒されるリスクが存在するということ。そんな危険を冒してまで残る必要はないのだ。残っているカミサマの力を使って、再び別の世界に渡ればいい。ヒーローたちも、追跡するにはそれなりの時間がかかるだろうし、アカネと同じように悩みを抱えている青少年などいくらでもいる。

 

 今度はどこかで鬱屈した、友達のいないパソコンオタクの青年にでも寄生すれば済む話。

 

(なのに、なぜ……?)

 

 アレクシスはここを離れることができなかった。

 

(なぜ、君の感情は……)

 

 アカネの感情が、その味が、

 

(こんなに、彩られているんだい……?)

 

 それは長き旅、そして数多の犠牲者を積み上げても、終ぞ味わうことのできなかったほどに、豊かな情動だったから。アレクシスは今にも自身を抜け出そうとするアカネの感情の中から、それを感じ取っていた。

 

 アレクシスは世界を離れられない。

 

 他者を犠牲にしてまで得てきたもの、その最上のものが目の前にあるのだから。

 

 だがアレクシスにはわからない。惚れ込んだなどと嘯いても、アカネは食材に過ぎなかった。何度も何度も自分勝手で単純な欲望に身を任せ、そして単純な情動を提供してきた単なる人間だというのに。

 

(…………なぜ)

 

 今、アカネの感情は花開いたようにきれいだ。

 

 鬱屈した自分からの脱却。自己否定から肯定への反転。恋から愛への昇華に、自立への目覚め。なんとでも陳腐な言葉にすれば説明できるが、それではできないほどの彩り。

 

 アレクシスがどれだけ一緒にいても、そんな感情を生み出すことはできなかった。

 

(もったいない……)

 

 そうして怪人は初めて自嘲した。これほど極上の食材があったというのに、自分は何をしていたのだろうと。調理法を間違えて、焦がしてしまった料理人はこんな気分なのだろうと思ってしまった。

 

 グリッドマンたちによる攻撃は続く。

 

 アレクシスが何を考えているかは、笑顔の仮面によって彼らには伝わらない。

 

 アレクシスには理解できないが『ウルトラマン』やら『ヒーロー』やらっぽい戦いをしているせいで、もはや最終決戦だという気負いすらなさそう。まさしくヒーローごっこで、アカネもその中の一員になっている。

 

(あぁ、そうか……)

 

 さっきアカネに言われたことを思い出しながら、アレクシスはなぜか納得した。

 

 アレクシスはアカネを何度も褒めたつもりだった。アカネの怪獣やそのデザインセンスを褒めて、彼女の欲望を煽り立てた。でも、

 

(アカネ君の周りのことは、なんにも知らなかったねぇ……)

 

 もしアカネの友人を、その仲を、あるいは癪だがあのリュウタという少年のことを心の底から肯定し、アカネを手伝っていれば。それを選ばなかったのだから、確かめようもないが、社会性動物である人間の個を褒めたところで、そこで得られる情動は限られたものであるというのも納得だ。

 

 それは感情のない生物が何気なく思い浮かべた、張りぼての理論。きっと、怪人は何度繰り返しても、その真実にたどり着くことはない。

 

 そしてもう、この情動を味わえるのも終わりだ。

 

 グリッドマンとシグマが並び、その両手が光を放つ。

 

 もはや光の柱と見まごうそれは、天に立ち上り、次の攻撃こそが最後だと、見ただけで感じさせる。

 

 アレクシスは疑問と後悔とも似た感情を抱きながら、その最後の時を黙って迎えた。次の機会があったとき、今度こそは失敗しないようにと。

 

 キンググリッドマンシグマが肩にマウントされたドラゴニックキャノンを放つと同時に右腕を前方へと突き出す。

 

 サンダーグリッドマンもまた両肩のドリルからのビームと共に左腕を。

 

『キングシグマ……!!』

 

『サンダーグリッド……!!!!』

 

『『ビームっ……!!!!!!』』

 

 放たれる青と赤の極大の光線。万全ならばともかく、もはやアレクシスに防ぐ手立てはない。あとは光線を少しでも防ごうとあがくか、今は敗北を受け入れるか。

 

 そんなとき、アレクシスに小さな小さな声が届いた。自分に頼り、自分を裏切り、そしてここに縛り付けるほどに甘美な情動を与えた少女の、

 

『アレクシス、最後にこれだけは言わせて……』

 

 

 

『……ありがとう。最初に、私を助けてくれて』

 

 

 

『…………ふふっ』

 

 怪人は迫りくる光線を前に、無防備な小さな笑みをこぼした。

 

(まったく、最後まで君は自分勝手でわがままだねぇ。そんな言葉を伝えながら、その相手を倒そうだなんて)

 

 怪人は、だがどこか妙な納得と達成感を感じた。

 

(それも恋人と二人でなんて、見せつけてくれるよ)

 

 きっとこれで、この甘美な感情を味わうのは最後。あとに残されるのは、感情を再び失った黒い影だけ。

 

 アレクシスは残ったかすかな甘さを味わいきると、誰に言うでもなくつぶやいた。

 

 こんな時に言うセリフは、やはり一つしか思いつかなかった。

 

『……ごちそうさま、アカネ君』




次回、最終話「空夢」

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