SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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ガウマ隊合流までは比較的に原作なぞりで参ります。


予兆

「馬場君、行ったよーっ!」

 

「任せろっ!」

 

 最前のクラスメイトが上げたトスに合わせるように、いち、に、さん、ジャンプ!

 

 頭がネットの上をよぎるくらいまでの高さに跳躍すると、ちょうどいい位置にボールが来てくれた。なので、相手のポジショニングが甘いところめがけて腕を振るう。

 

 いつもなら足の甲とかサイドとかにかかるボールの質感が、今日は掌に。慣れない感覚で少し痛かったけれども、打たれたボールは狙い通りの場所に向かってくれた。

 

 審判がホイッスルを鳴らす。これでリードがもっと広がった。

 

 ふぅと息をつきながら肩を回すと、トスを上げてくれた同級生たちが『ナイッスー!』『ナイシュー』なんてバラバラな掛け声で手を掲げるので、俺も応じながらハイタッチ。その中には真っ赤な髪の響もいる。

 

 今日は球技大会当日。

 

 ちょうど今、俺たちのクラスが同学年の別チームとバレーボールで対戦しているところだが、この様子だと勝利は確実だろう。相手のチームの面々はあまりスポーツが得意じゃなさそうで、点差をだいぶつけることができている。

 

(俺もそんなにバレーは得意じゃないけど)

 

 だが日頃の運動で体の動かし方を理解しているので、そこそこうまく立ち回ることはできていた。

 

 本当は外でやってるサッカーに出るべきなのだろうけど、"本職"の生徒が出ると、せっかくのレクリエーションなのに差がつきすぎてしまうからと、それぞれの部活の競技には出ないという暗黙のルールがあるのだ。

 

 確かにうぬぼれではなく事実として、そんじょそこらの素人相手なら十点くらい取れちゃうだろう。そんな塩試合見ても外野は盛り下がるし、俺つえーなんて趣味じゃない。慣れない競技でもこうして友達とわいわい協力してやる方が面白いんだ。

 

 そしてその後もゲームは続き、無事に俺たちの勝利で終わったあとで……

 

「宝多さんに大学生の彼氏って……お兄さんのことじゃねえの?」

 

「やっぱり!? リュウタもそう思うよね!?」

 

「しーっ! ちょっと声デカいって! ……向こうの宝多さんに聞こえるぞ?」

 

「あっ! そ、そうだった……」

 

 響はそう言って、体育座りの姿勢のまま真っ赤になった顔を腕と膝の間に隠した。

 

 現在、俺たちのクラスは別の試合を見学中。だけど敵情視察とかそういう真面目なことをするわけもなく、仲がいい友達とだべっているのがほとんどだ。俺の場合その相手は響。

 

 なぜかその響が暗い様子なので事情を聴いてみると、なんか別のクラスの女子が『宝多さん彼氏いる』疑惑を話していたらしい。けどなぁ、

 

(ないわー。それが事実ならアカネさんがめっちゃ騒ぐからないわー)

 

 仲いい友達なら六花さん彼氏=響が濃厚だと考えるはずなので、その女子はあまり六花さんと深い関係ではない子だったのだろう。響も言ったように、宝多さんのお兄さんのアパートに行ったところを見られたってのが正解だと思う。

 

 宝多さんのお兄さんはちょっとアンニュイな雰囲気イケメンで、宝多さんと並んで当然に絵になる人だ。俺もアカネさんと一緒に『絢』にたまに遊びに行くが、その時に数回顔を合わせたことがある。

 

 確かに事情を知らない傍目からはスキャンダルっぽく見えるが、宝多さんは別に年上趣味ではないし。

 

 響も当然ながらそのことは知っているはずだが……

 

「はぁ……俺、なんか最近ダメだ……六花のことで頭が変になってる」

 

 真相の分かり切ったゴシップでやられるくらい、響もいっぱいいっぱいの様子。

 

 まあ、告白なんて人生でもかなりのビッグイベントだし気持ちは分かるけど、俺にできることはせめて響の愚痴を聞いてやるくらいが関の山。

 

 けれど、事情が分かっている相手に話せるだけでもありがたいと、響は弱気な声で続けてくれた。

 

「みんな応援してくれるけど、ほんとに文化祭の後でうまくいくかなぁ……。噂はお兄さんのことだと思うけど、六花は美人だし別の先輩とかに告白されたりとかありそうだし……」

 

「大丈夫だって、マジで自信持てよ。響だってグリッドマンやってたんだから」

 

「……一回だけだけど」

 

「その一回ができないやつがほとんどなんだから」

 

 しかも初回から最終決戦ってなんだよ、孤門かよ。

 

「でもぉ……」 

 

「うーん、待つのがそんなに辛いなら、いっそのこともう告白しちゃうとか? 善は急げって言葉もあるし、別に無理して文化祭の後にしなくてもいいじゃん。なんか演劇のチケットも買ったんだろ?」

 

「うん、うちの演劇部の」

 

「見せてみ見せてみ。それがいい感じの作品だったら帰りに告白とか……おぉう」

 

 響がポケットから取り出したチケットを見て、俺は頭を抱える。

 

 内容は車いすの少年をめぐるヒューマンドラマ。

 

 な、なぜここで恋愛ものとかロマンスにしない……。俺は宝多さんの趣味は詳しく知らないけど、好き嫌いがはっきり分かれそうなジャンルだからかなりの博打じゃん。アカネさんが言うには、宝多さんも意識高い系過ぎるのは嫌がるらしいし。

 

 なんとなくだけど、響が一番宝多さんを高嶺の花だと思ってるから、ちょっと実像と離れた内容を選んでしまったのだろう。

 

 そんな響になんてアドバイスしようと悩んでいると、ふと日付に目が行く。

 

「っていうか、宝多さんはこの日予定あるわ」

 

「え゛?」

 

「夕方から、アカネさんと二人で出かけてくるって」

 

「そ、そんなぁ……せっかく買ったのに……」

 

「ご愁傷様。二人分なら内海と行ってきたら?」

 

「リュウタは?」

 

「その日、部活の方の文化祭準備があって無理だわ。すまん」

 

「そっかぁ……。はぁ……なんか、やっぱり空回りしてる」 

 

 本人も自覚しているけれど、確かに響の調子は悪そうだ。でも、冷静になりすぎるのも恋愛とは違うと思うしなぁ。とにかく、

 

「まずはお前が落ち着け。そうだな……変にサプライズとか狙わないで、まずは日程合わせるところから提案したらどうだ? 響からの誘いだったら断らないだろ」

 

 それに女の子って意外とサプライズ嫌いだぞ? 俺も前にアカネさん相手にやらかしたこともある。なんかおしゃれなレストランを頑張って用意したら『ちゃんと言ってくれたら服とか準備してきたのに!』と言われてしまった。

 

 サプライズとかってロマンチックな印象あるけれど、相手の女の子にとっては男の理想の押し付けにしかならないと学んだ出来事だ。

 

「だよねぇ……」

 

 うなだれる響がポロリとチケットを床へと落とす。

 

 その姿はあまりにも悲壮感に満ちていた。

 

 俺としてもグリッドマン同盟とか普段とかも含めて、俺とアカネさんに良くしてくれている響と宝多さんには幸せになってほしい。

 

 だから俺はちょっと考えて、フォローの方法を提案してみる。

 

「一人で誘うのが難しいなら、俺も協力するから宝多さん誘って遊びに行こうぜ。アカネさんも呼んでダブルデートだ、ダブルデート。そこで二人っきりの時間とかうまく作ってみるよ」

 

「ほんとっ!?」

 

「男に二言はない! アカネさんもさっさと二人がくっつけばいいのにって言ってたし、事情を説明したら協力してくれると思う」

 

 ただその時に告白するのか、やっぱり文化祭の後で告白するのかは響次第だけど。

 

 すると響はめちゃくちゃ潤んだ目で、縋るように言うのだ。

 

「ほんっと、彼女いるリュウタがいて助かるよぉ……! もっとアドバイスちょうだいっ! 特に告白とか……! リュウタは告白、どうやって成功させたの!?」

 

「そんなの……」

 

 俺の時は……えっと、デートして、なんか不良が出てきて絡まれて、アカネさんをかばったら、流れでキスして……

 

「……べた過ぎない?」

 

「アカネさんの神様時代だからなぁ……」

 

 アカネさんの願望が混ざっていたとしても否定できない。……まあ、俺の場合はそういう感じだ。なのであまり参考にならないかもしれないけれど、

 

「相手がちゃんと好意を持ってくれていたら、あとは雰囲気で何とかなるんじゃないかな?」

 

 そしてその相手の好意という点では、ちゃんと響は準備できていると思う。あとは響にちゃんと自信がつけばいいはず。

 

「だからイメージしろ、響裕太……! 文化祭の後、二人っきりの校舎……!」

 

「ごくっ……六花と、二人っきり……」

 

「ああ、なんとなく周りが浮かれていて、お前たちもソワソワしてきて……」

 

「六花と二人で静かなところに行って……!」

 

「そうそう! ちょっと離れているのがもどかしくなって……!」

 

「それで、俺から六花に……あうっ!?」

 

「ひ、ひびきいいいいいいいい!?」

 

 妄想に思考を費やしていたからか、いきなり上から飛んできたボールが響の顔面を直撃し、響は鼻血を出して保健室へと行くことになってしまうのだった。

 

 いざ告白という妄想もといイメトレをしていたのに、こんな不幸が起きるとは……響の告白が無事に終わらないという暗喩のようで、ちょっと響の前途が不安になった。

 

 

 

 それからしばらくして、響と内海が演劇を見に行っている日のこと。

 

 宝多さんとの遊びから帰ってきたアカネさんを駅まで迎えに行って、その帰り道。俺はアカネさんにダブルデートの計画を話してみた。もっと早くても良かったけど、家だとアカネさんは怪獣のことを考えるのに大忙しで、話すタイミングを逃してしまっていたのだ。

 

 響に話した通りに提案すると、アカネさんは楽しそうに目を輝かせてくれる。

 

「えっ? ダブルデート? いいよいいよ♪ どこいく? シーとかランドは……ちょっと遠いよねー」

 

「だよねぇ。デート目的は響と宝多さんの仲を進展させることだし、いい感じにゆっくりできるところでもよさそうだけど」

 

「うーん……あっ! この前にできたあそことかどう? ほら、リュウタ君が連れて行ってくれたとこ!」

 

「ショッピングモールか……」

 

 アカネさんの言葉にひと月ほど前にできた、ちょっと離れたところの大型ショッピングモールを思い出す。若者をターゲットにしてる感じが出てるオシャレな場所。

 

 普段は俺もアカネさんも足が遠い場所だけど、ポップアップショップでデフォルメされたウルトラマンショップがやっていたから一緒に行ったのだ。一時期の慢性的赤字体質が改善された我らが円谷は、そういう売り方もうまくなってる。

 

 でも、確かに言われてみれば……

 

「あの時は中をじっくり見て回るとかなかったし、いいかもなぁ」

 

「それにレストラン街にチーズフォンデュのお店もあったし、夜はそっちで食べたら六花も喜ぶんじゃない? えーっと……うん♪ 値段もそんなに高くないし、六花も好きそう♪」

 

 アカネさんがスマホで調べた検索結果を見せてくれる。確かにそこにはほどほどの値段で、でもちょっと雰囲気がいいお店が乗っていた。

 

 やっぱりこういう時、宝多さんと仲がいいアカネさんが協力してくれるのは助かる。

 

 ただ……

 

「でもそっかぁ♪ 六花もとうとう告白されるんだぁ……! えへへへへ、いーっぱいアドバイスしてあげないとぉ……!」

 

 夜道を歩きながらたのしそーに顔をにんまりさせているアカネさんを見ると、ちょっとだけ不安も出てきたり。

 

 それはアドバイスじゃなくてマウントと呼ばれるものじゃないでしょうか?

 

「そんなことないよぉ! 私はリュウタ君と一緒でしあわせーなことを教えてあげるだけ! 響君と六花の幸せをちゃんと願ってます!」

 

「……まあ、そのしあわせーなことして、俺たちはバカップルとか呼ばれてるけどね」

 

 別に俺は誰に何を言われようと気にしないけど、そのまま響たちに置き換えるとキャラ崩壊もいいとこだと思う。特に宝多さんは。……いや、付き合い始めたら浮かれポンチになるっていう例も少なくないらしいから、そういうのもありなのか?

 

 けど宝多さんが響にデレデレで抱き着いたり、甘えたりする姿はあんまり想像できない気も……

 

「む……リュウタ君、六花でやらしいことかんがえてない?」

 

「えっ!? いやいや、ないないっ! 俺はアカネさん一筋だって!」

 

 言いながらつないだ手をぎゅっと握りしめる。

 

 けれどアカネさんはじとーっとした目を向けたまま。

 

「ほんとかなぁ? 六花、美人だし」

 

「完璧美少女がなに言ってんの」

 

 男の口からどっちが美人とか言うのは品がないし、どっちにも失礼だから言わないけどさ。

 

「……俺が好きなのはアカネさんだけだよ?」

 

 目移りするなんてありえないって。

 

 そう真剣に言うと、アカネさんは突然破顔して、

 

「……ぷっ! ふふふ、なにマジになってんすか♪ そんな顔で言われたら照れちゃうじゃん!」

 

 と笑いだしてしまった。

 

 案の定、いつも通りのからかいの一環だったらしい。

 

 けれど言葉ではっきり言われたのは嬉しかったようで、アカネさんは頬を染めながらぎゅっと腕に抱き着いてくる。

 

「ありがと♪ 私もリュウタ君のこと大好きだよ♪」

 

 なんて最高にかわいい笑顔で言われたら、こっちの方がまいってしまいそうだ。心に安定と余裕が生まれたからか、最近はこの小悪魔なところも絶好調のご様子。

 

 こういうところでは多分、俺は一生アカネさんに勝てないと思う。振り回されるのも楽しいから、勝てなくていいと思っているけど。

 

「でも……そっか、六花も彼氏できるんだねぇ」

 

「響がちゃんと告白成功したらだけど」

 

「そんなの成功するに決まってるよ。六花、めーっちゃ響君のこと好きだし」

 

「……え、マジ?」

 

「マジマジ♪ わかっちゃうもん、そういうの。あ、でも響君には内緒だよ? 女の子としては安パイ扱いされるの嫌だし」

 

 女の子の世界は見栄と察しとか聞いたことがあるようなないようなだけど、さすがは親友ってとこか。

 

「……うん、大好きな友達♪」

 

 アカネさんははにかむように笑う。

 

 一時期、宝多さんと離れていたという心の距離は、あの怪獣騒動で改善された。どうして宝多さんから離れていたのかは知らないけれど、アカネさんにもいろいろと考えることがあったのだろう。

 

 でも……

 

(よかった、アカネさんが楽しそうで。あとは俺も……)

 

 もうすぐ、とまではまだ気が早いけれど、あと半年もしたら三年生になる。そうしたら受験とか将来のことを考えないといけない時期。

 

 そして将来のこととなると、それは俺だけの問題じゃない。アカネさんと二人でどんな未来を創っていくのかを真剣に考えないと。

 

 そう思った時だった。

 

「あ、ちょっと待って……兄貴からメール来た」

 

「え? お兄さんから?」

 

「うん。ほら、アメリカだしアイツ。時差でこんな時間になるんだよ」

 

 アカネさんに断ってスマホを開く。

 

 長年不仲というか、没交渉だった俺と兄貴の関係もあの事件以来、そこそこ改善された。俺が死んでいるというとんでもないバッドエンドなシチュエーションだったけど、それでも兄貴には俺に歩み寄ってくれる、理解してくれようとする余地があったんだとわかって、思いきって連絡を取ってみたんだ。

 

 それで、ちょっといろいろあったけど、アイツも俺のことを理解してくれたと思う。アカネさんも俺のために頑張ってくれて、励ましてくれて、なんとか家族としてやっていけるようになった。

 

 そんな兄貴からちょこちょことメールが来るんだが……うん、最近の話題だとなぁ。

 

「……うーん」

 

 メールの文面を見た途端、心の奥でずーんと重いものが生まれる。

 

 いや、わかんだよ。向き合わないといけないのは。しかも俺から言い出したことだし。だけど、心の納得というか、マイナスエネルギーを生み出さないで向き合うってのも難しくて。

 

 俺の気持ちが顔に出ていたのだろう、アカネさんが不安そうにのぞき込んでくる。

 

「リュウタ君、大丈夫? なんかいやーな顔してるけど」

 

「ちょっと楽しくない内容だったからね……」

 

「えっ!? もしかして私とのことなにか言われた?」

 

「アカネさんのことは大丈夫だよ。むしろ兄貴はアカネさんのこと気に入ってるし」

 

 アカネさんが俺のために直談判してくれたおかげで、二人で一緒に暮らすことも『ちゃんと節度と責任を持つこと』という条件で兄貴は認めてくれた。その後こっそり『あんないい彼女、悲しませんじゃないぞ?』とかいうらしくないアドバイスまで。

 

 だから心配してくれるアカネさんと、この悩みは無関係で……

 

「ごめん、ちょっと整理つけるまで話せないや」

 

 申し訳ないけど、今日は無理。

 

 いつかは話さないといけないことだけど、こんな気持ちのままだと変に気遣わせてしまいそう。

 

 そういうとアカネさんはさらに追及する代わりに、足を止めて。

 

「えいっ!」

 

「うわっ!?」

 

 真正面から思い切り抱き着いてきた。

 

「ど、どうしたの?」

 

「えーっと……エネルギーあげてる」

 

「エネルギー?」

 

「うん、大好きエネルギー」

 

 言いながらアカネさんの手の力が強くなる。俺の背が高くなって、真正面から顔が向き合うことはなくなってしまったけど、彼女の息遣いは前よりももっと体全体で感じるようになった。

 

 アカネさんは言ってくれる。

 

「大丈夫だよ、私はちゃんとリュウタ君のこと大好きだから。……だから、元気になって?」

 

「……うん、ありがとう」

 

 確かに、これは効果抜群だ。

 

 アカネさんの温度と一緒に、気持ちがすーっと体に伝わってくる。誰かが好きでいてくれることがどれだけ心強いかを実感する。

 

 そうだな、もう俺は一人じゃないし……ちゃんと……

 

「……あれ?」

 

「え、リュウタ君どうしたの?」

 

「いや、目の前に」

 

 街灯に照らされた真正面。そこがなんだか歪んでいるようで、しかもそれが人型のように見えて……

 

 見間違えでは……ないな。

 

「アカネさん、後ろに下がって」

 

「う、うん……」

 

「おい、誰だ?」

 

 アカネさんを隠しながら前に向かって唸るように言う。

 

 すると……

 

「……きえ、た?」

 

 すぅと音もなく、その変な気配は消えていったのだ。

 

 あとには夏が近づいていることがわかる、ちょっと湿った空気が残るばかり。

 

「アカネさんは、今の見えた?」

 

「う、ううん? よく見えなかったけど……なんか変なのいたの?」

 

「……セブンによくいる、宇宙人の気配的なやつが」

 

 あのうにょうにょする、本物が出てくる前のオーラのような影。

 

 気のせいにしては雰囲気が本物っぽかった。あの時の怪獣っぽいというか、不思議現象の気配で……でも、今の俺には何の力もなくて。

 

「とりあえず、なんともなさそうだな。……ちょっと急いで帰ろっか」

 

「う、うん……!」

 

 アカネさんの手を引いて、一直線に家に帰る。

 

 まったく、けっこういい雰囲気だったのぶち壊しやがって。幽霊だか宇宙人だか、怪獣だか知らないけど、覚えてろよ。

 

 事情も知らない人がのぞき見したら、かなりやばいヤツ間違いなしなことを考えてしまう俺。だけど、きっとこれは勘違いでもなんでもない。

 

 だって次の日に……響も同じ幽霊を見たことが分かったから。




リュウタの悩みは拙作本編でも匂わせていたアレですね。



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