SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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交流

「おはよーございまーす。蓬君と夢芽さん、いる? 昨日頼まれたやつ持ってきたけど……」

 

 次の日の朝、俺はちょっとした大きめの紙バッグを持って『絢』に戻ってきた。

 

 昨日の夜に蓬君から滞在に必要なものを聞いていたので、夜のうちに買い出しに行っていた。中身は歯磨きとかシャンプーとかそういうやつ。あまりブランドとかにこだわりはないみたいだったので(あったとしても遠慮してくれたのだろう)、遅くまでやってるホームセンターで揃えておいたのだ。

 

 あとはアカネさんがどうやら夢芽さんと仲良くなれたみたいで、アカネさんが用意した、女性陣リクエストの必要なものが入ってるらしい。

 

 店内から居住スペースに向かって声をかけて反応を待ってると、

 

「あ、リュウタさん……ですよね?」

 

 ひょっこりと夢芽さんが顔を出す。

 

 朝には強いのか、彼女はもう身支度が整っているようだった。

 

「夢芽さん、おはよう。これ、アカネさんに頼まれたやつなんだけど今渡しても大丈夫かな? いろいろ必要なものが入ってるみたいだから、よかったら」

 

「あー、そっか、昨日の……。ありがとうございます、助かります」

 

 夢芽さんはこちらに来て紙袋を受け取ると、微笑んでぺこりとお辞儀。それは昨日よりもずっと自然な仕草だった。

 

 焼肉パーティーの時にはどこか壁を感じてもいた、というか蓬君の側から梃子でも離れない勢いだったんだけど、今はアカネさんと話したのが原因だろうか、こちらに対して口調や視線も柔らかくなってる気がする。

 

 そんな夢芽さんは紙袋の中を確認すると、必要だったものが揃っていたと伝えてくれて、

 

「アカネ先輩にもお礼、あとで言っておきます」

 

 へえ、アカネ先輩かぁ。

 

「お礼を言うならこちらこそ、ありがと。アカネさん、夢芽さんと仲良くなれて嬉しかったみたいだから」

 

 先輩呼びって、今のアカネさんからは珍しいだろうし、そういう関係性ができるのも久しぶりだと思う。だからだろう、朝に家に帰ってきたときのアカネさんが上機嫌で、怪獣騒動やらスランプのいい気晴らしができたみたいだったのは。

 

 ちなみにアカネさんは今頃、登校の準備をしているので俺が代わりに荷物を持ってきた次第だ。

 

 それを伝えると夢芽さんは『あー、なるほど』と言って話を続ける。

 

「そっか、お二人ともこれから学校ですもんね。六花さんたちも同じところでしたっけ?」

 

「うん、ツツジ台高校。ここからバスに乗って行ったとこだよ。そっちの世界にもあったりするのかな?」

 

「ツツジ台……うーん、私たちの世界にはないかも? ちなみに私と蓬はフジヨキ台高校なんですけど、そっちはあります?」

 

「フジヨキ台は……ごめん、俺も聞いたことないな。高校に進学する時いろいろ調べたけど、見た記憶もないから、こっちの世界にはないかもしれない。面白いところで違いがあるもんだね」

 

 京王線とか、中央線とか、新宿に渋谷とかそういう主要な東京の部分はまるっきり同じなのにちょっとした街とか高校単位では違っているなんて。

 

 異世界って言うと中世ファンタジーとかそういうのを想像しちゃうけど、同じ世界からちょっとだけ分岐しているくらいの違いなのかもしれない。

 

 でも蓬君達にはそれでよかったんだろうな。

 

「そうですね、これでこっちの世界だと怪獣が普通とかそういう世界だったら大変だったと思いますし」

 

「確かに」

 

 夢芽さんの言葉に苦笑いしてしまう。レックスさんが言うには5000年前には怪獣ももっと当たり前にいる世界が広がっていたらしいから、それと比べると平和万歳だ。

 

 ……と、話し込んでしまったけど、あんまり長居してもいられないな。こっちももうすぐ登校時間だし。

 

「蓬君から頼まれたのも入ってるから、あとで確認してもらっていいかな? 足りなかったらまた用意を手伝うから」

 

「あ、はい。……ごめんなさい、蓬、朝が弱くて。暦さんとかちせちゃんはもう向こうで準備してるんですけど」

 

「まあ、いろいろあったからね。そういえば、みんなは今日は何するの?」

 

「特に用はないですけど……っていうか、ぶっちゃけ暇ですね」

 

「だよなー……」

 

 異世界から着の身着のままで来てしまったわけだし。

 

 でも、この他人の家で店長のテンションにさらされながら毎日過ごすってのも……記憶喪失になってた初期のやるせなさとか窮屈さを考えると、俺も嫌気がさしてしまう。

 

 休日だったらみんなを街に案内とかできたかもしれないけど……いや、待てよ?

 

「よかったらだけど、あとでうちの学校に遊びに来る? 今、文化祭の準備してるから割とオープンだし」

 

「え、いいんですか?」

 

「暦さんは……校門で止められるかもしれないけど。蓬君と夢芽さん、ちせちゃんなら素通りだろうね。うちは制服もほぼ自由だから、わかんないって」

 

 レックスさ……いや、夢芽さんたちにはガウマさんなのかな?

 

「ガウマさんもさっそく侵入してたから。ちょっとした暇つぶしにはなると思うよ」

 

「ガウマさん、また学校に行ったんだ……。あ、でも、誘ってくれてありがとうございます。ちょっと蓬とも相談してみますね。……ちなみになんですけど、聞いていいですか?」

 

「ん、なんでもいいよ?」

 

 学校のことで質問とかかな?

 

「リュウタさんって、アカネ先輩と付き合ってるんですよね?」

 

 おおっと、いきなりぶっこんで来た。脈絡ねえなぁ……!

 

 夢芽さんの口調や表情があんまり変わらないので普通の質問に見えるけど、わりとすごい質問だよね、それ。

 

 ただ夢芽さんはじーっと興味深そうに俺を見つめてくるし、咎めるとかそういう感情じゃなくて、純粋に好奇心が先立っているような感じだし。

 

 質問という形だけど、ほぼ確認みたいな感じだな。……こりゃ、アカネさんがとっくにばらしてる。なら、別に俺も隠すことじゃない。

 

 だから、

 

「付き合ってるし、向こうの家で一緒に住んでるよ」

 

 堂々と、かつ平然とそう答えると夢芽さんはちょっと驚いたみたいに目を見開いた。

 

「……リュウタさん、照れたりしないんですね」

 

「照れるとかは……そうだね、もう二人でいるのが自然だし、周りにもオープンだし気にしないかな。アカネさんのこと好きだし」

 

「それ、わかります。リュウタさんってめっっっちゃアカネ先輩のこと好きですよね。目を見てたらわかるっていうか、すごいアツいの出てるんで」

 

「んん……?」

 

 あれ、おもったよりノリ気というか、夢芽さんはぐいぐい来るな。しかも小声で『蓬もこれくらい……でも、あの感じもいいし……。ううん、もっとステップが……』とか自分の世界に入ってるっぽいし。

 

 少しの間、俯きながら考え事をしていた夢芽さんは顔を上げると、あまり感情の読めない表情で言うのだ。

 

「ありがとうございます、参考になりました」

 

「そ、それならよかったけど……参考?」

 

「はい、せっかくなのでがんばります」

 

 いや、なにをがんばるの???

 

 『やるぞ』とばかりに手を握って気合を入れている夢芽さんを前に、なんとなくだけど蓬君が苦労しそうだなぁと思ったりした。

 

 

 

 そんな朝の一幕から、特にドラマも語ることもなく午前の授業が終わって……

 

「グリッドマンのデザインって、こうだよね?」

 

「いや、こっちの方が近いんじゃね?」

 

 とか響と内海が小さなメモ用紙を見ながら唸ってる。

 

 今は自習という名の文化祭準備時間。テスト期間なので午前授業になっていたところを使って、作業できるところを進めているのだ。

 

 うちのクラスもそろそろ謎解き内容がまとまるようだし、サッカー部の方も衣装合わせとかいろいろ進めるようなんだが、あいにくと今日も俺はフリー。

 

 テスト勉強も今回の範囲なら問題なさそうなので、手持ち無沙汰解消にアカネさんたちの手伝いに来ていた。

 

 事件前はテスト勉強も必死にやってたけど、予習復習をちゃんとするようになったらそこまで追い込む必要もなくなったんだよな。アカネさんと一緒にやってるから苦じゃないし。

 

 そうして廊下の片隅で響たちがグリッドマンの着ぐるみ(段ボール製)を作る手伝いをしているのだが……内海と響とでグリッドマンのデザインに意見の差があるみたいだ。

 

 二人の書いたグリッドマンと思わしき落書きを見ながらつぶやく。

 

「っていうか、違いが判るほどイラストうまくねえし」

 

「うっせっ! ほら、リュウタにも渡すから描いてみろよ、グリッドマンを!」

 

「はいはい。まあ見てろって……」

 

 シャーペンを出して、白紙のメモ帳にさらさらさらーって。

 

「ほら、できたぞ」

 

「「うわぁ……」」

 

「な、なんだよ……!」

 

 響と内海が『お前が下手とか言うなし』って視線で訴えてくる。い、いや、そりゃ殴り書きだしさ。でも特徴は俺の方が出せてると思うぞ?

 

「「ないない」」

 

「そっかなぁ……?」

 

 と、そこで宝多さんがアカネさんの側から離れて、俺たちの書いたメモを覗き込んでくる。

 

「え、それ、グリッドマン?」

 

「「「うん」」」

 

 宝多さんまで『マジっすか』って顔になってる。そんなに俺、絵心ないか?

 

「いや、バラバラすぎでしょ。グリッドマンってもっとこう……」

 

 つられて宝多さんもメモ書きにペンでさらさらと。

 

 そして一分くらいで満足な出来になったのか、メモを見せてくれるのだが……

 

「グリッドマンって、こんな肩とんがってたっけ?」

 

「いやー、ちょっと出っ張ってたけど……」

 

「えー、私のもダメ?」

 

 俺たちの感想は、宝多さん的には不満だったようだ。いや、男の殴り書き……特に響のと比べたらすごく特徴も捉えられてるとは思うけど。

 

 するとそこで、

 

「スケッチとか造形なら私の方が……」

 

「「アカネ(さん)は自分の進めて」」

 

「はい……」

 

 隅っこからスランプ中の怪獣担当が混ざりたそうにやってくるけど、一蹴。

 

「アカネはそこでカンヅメね。少しはデザイン出さない限り、こっちの会話には入れないから」

 

「六花ひどいよぉ……!」

 

「アカネさん、ガンバ……!!」

 

「うぇええええ……」

 

 そんなアカネさんを見ていると、世のデザイナーの悲哀を感じたりしてしまう。でも、締めきりを守るのがプロっていうし、こればっかりはアカネさんの成長のためにも頑張ってもらおう。……元気になってくれたみたいだし、今のうちに成功体験っていうか、やり切ったことを増やす方がアカネさんの自信につながるだろうから。

 

 そうしてちょっと賑やかに作業を進めていた時だった。

 

「……あれ、蓬君?」

 

「えーっと、夢芽が裕太君たちの学校行きたいって言うから」

 

「アカネ先輩とリュウタさんから誘ってもらったので」

 

「学校に不法侵入ってなんか悪いことしてるみたいでおもしろいっすね♪」

 

 響が顔を上げて、階段下を見る。するとそこには蓬君たちが来ていた。蓬君はなんとなく気まずそうだけど、夢芽さんとちせちゃんは堂々としたもの。

 

 それを見て、彼らの関係というか、彼らがみんなでロボットに乗っていたという時もそんな様子だったのだろうと思ってしまった。

 

 蓬君がストッパーっぽいけどしきれなくて、夢芽さんとちせちゃんがぐいぐいみたいな。

 

 でもわざわざ来てくれたなら、少しでも暇つぶしの手伝いをしないとな。みんなも手が増えるのはありがたいと言うことで、蓬君達を手招き。

 

 そして三人は俺達がいるフロアまで上がってくると、地面に散らばった四人四色なグリッドマンの落書きを見つけて、

 

「あ、これグリッドマンさんの?」

 

「似てる……いや、似てない?」

 

「これはやばいっす……」

 

 なんて各々の感想。三人も『絢』でグリッドマンと話をしていたみたいだ。三人はそこで、ちょうど見た姿だからと同じようにスケッチに取り掛かる。手つき見てるとちせちゃんが上手そうだ。

 

 うーん、でも……

 

(ちょっとはみんなも、シグマのことを考えてくれてもいいと思うんだよなぁ)

 

 仕方ないけど、スケッチに書かれるのはグリッドマン。

 

 蓬君たちはともかく、シグマは最新版台本ではとうとうカットされちゃったし、こうも話題に出ないと寂しい気持ちもある。

 

 なので、俺もこっそりメモ帳にシグマの方も。

 

 えーっと、でもシグマもグリッドマンと大体同じ造形だし……耳にパーツが特徴的だったけど、あとは色……色塗るのはめんどいな。

 

 なんてやってると、

 

「それ、かっこいいね」

 

 と宝多さんがちせちゃんに話しかけている声が聞こえた。視線の先は、ちせちゃんの腕に描いてある……タトゥーじゃないよな? 最近流行ってるって聞く、アームペイントか。数日は消えないってやつ。

 

 ちせちゃんの腕に描いてあるのはドラゴンみたいな模様だ。

 

「あ、いや……そんなにうまくできなかったんで」

 

 なんてちせちゃんは謙遜してるけど、遠目で見てもディティール細かくて上手だと思う。それを宝多さんも分かってるし、それになにより……

 

「そんなことないよ、上手にできてる。ね、アカネ?」

 

「うわぁ♪ かっこいい……! ねえねえ、それって怪獣!?」

 

「えっ……そ、そうです。ゴルドバーンって」

 

「ネーミングセンスいいっ!! こういう翼竜な感じの怪獣って、着ぐるみ的にも難しいからシリーズにそんないないんだよね!」

 

 いつのまにやら幽閉先の隅っこから飛び出したアカネさんが、目をキラキラさせながらペイントを見ている。やっぱりというか、怪獣関連だとわかって我慢できなかったようだ。

 

 逆にちせちゃんはそんなアカネさんの反応を物珍しそうに見ている。

 

「えっと……怪獣、好きなんすか?」

 

「あっ、と……えーっと……」

 

「アカネの部屋に行ったらすごいよ? 怪獣のフィギュアがいーっぱい」

 

「ちょっと六花ぁ……!」

 

「いいじゃん、最近は特に隠してないでしょ?」

 

「そうだけどさぁ……。やっぱり変っていう子もいるし」

 

「私は……いいと思います」

 

「ほんと?」

 

「はい!」

 

 そう言って、どこか遠慮していたちせちゃんはアカネさんたちに笑顔を見せていた。

 

「怪獣って、怖いとかいろいろあったりしますけど……かわいい怪獣もいたり、かっこいい怪獣もいたり、いいですよね」

 

「ちせちゃん……! そうだよ! 怪獣はすごいんだよ! それがわかるなんて、ちせちゃん才能ある!」

 

 な、なんの才能?

 

 けれどそこでアカネさんはさっきまでの落ち込みっぷりが嘘のように、スケッチブックに素早く手を動かし始めた。

 

「なんかちせちゃんのゴルドバーン見てたら、アイデア出てきた気がする……!!」

 

「え、アイデア?」

 

「アカネ、今回の劇の怪獣担当だから。ようやく火がついたかなぁ」

 

 勢いよくスケッチブックにペンを走らせるアカネさんと、なんだか慈愛の目でそんなアカネさんを見る宝多さん。

 

 俺はそんなみんなを見て、シグマっぽく描けなかった落書きをポケットにしまって笑った。

 

 きっとそろそろアカネさん製怪獣を見ることができるだろう。

 

(どんな怪獣かな……)

 

 アカネさんが今の自分だからこそって言っていた怪獣。

 

 アカネさんの心から生まれたデザイン。それを見られるのが、楽しみだった。




次回、職探し

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