SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

46 / 50
就活

「なあ、馬場君……異世界で就職ってできるのかな?」

 

「え゛……」

 

 唐突に、本当に唐突にぼそっと三十代無職が言った言葉に、俺は何とも言えない声を出しながら頬をひきつらせた。

 

 穏やかな昼下がりにしては、なんとも湿気たっぷりというかカビが生えていそうというか……

 

 暦さんは『絢』のカウンターに座りながら、現実逃避をするように続ける。

 

「ほら、異世界だけど言葉は通じるし。っていうか日本だし。別に異世界人だから働いたらダメって法律はないだろ? 外国で働いてる人もいるし」

 

 いやいや、

 

「法律に異世界人とかないですから。外国人の人とかはそういうのあると思いますし」

 

「記憶喪失って言い張ったら何とか」

 

「そこまで人としての尊厳を捨てていいなら、俺は何も言いません」

 

「……ダメか」

 

「よかった、正気が残ってて」

 

「はぁ、そっかぁ……いい考えだと思ったんだけどなぁ」

 

 そう言って、力なくテーブルに顔を突っ伏した暦さん。

 

 元から日当たりはよくない店内だけど、今はそこだけが一段階暗く見えてしまう。

 

 きっと店に客が来たならぎょっとして立ち去るだろう、辛気臭い光景。

 

(失意のあまりに暴れたりはなさそうだけど……)

 

 っていうか三十代無職が俺にとっては未知の種族過ぎるんだよ……!

 

 なんだかんだで亡くなる前の父も、いなくなる前の母親も働いてたし、学校の友人の親はまともだし。どういう行動をとってくるかまるでわからない。

 

 それでも店番を任されている身としては、店内の安全を守るためにも、ついでに接客の精神的にも会話を続けないといけないのだろう。

 

 そんなに悪い人じゃないし、っていうかヒーローサイドの人だし、でも何考えてるかよくわからないからちょっと怖いし。とりあえず話を続けてコミュニケーションをとらないと。

 

 異星人とファーストコンタクトを迎えた防衛チームの科学担当のように、慎重に、相手を荒立てないように。

 

 話の話題、話題……

 

「…………えっと、そんなに就活ってやばいんですか?」

 

 結局考えても出てきたのは、そんな話題だった。

 

 あとは、ちょっとだけ自分も気になってたし。すると暦さんはそっと顔をもたげて、

 

「…………ふふ」

 

「いや、意味深に笑うなよ。怖いよ」

 

「あ、ごめん。やばすぎて思い出したくなくなっちゃって」

 

 暦さんは俺が出したジュースをちびちび飲みながら、愚痴るように言う。

 

「就活っていうのはね、君にはまだわからないと思うけどじわじわと自分を削っていく感覚なんだよ。人生を一枚の紙に書いて、俺の人生なんにもないなぁとか三十年生きてきてこれだけかぁとか思って、それで提出したら今度は面接官から「え、これだけですか?もっとないです?」みたいな目をされながら質問を受けるんだよ。あの時だけは野生動物の気持ちがわかるよね。危機センサーってやつでさ、あー、今から辛い攻撃が来ますよ、っていうか……で、それをなんとか言い訳しながら考えるんだ。でも俺はダイナストライカー動かせるしなって。そうしたら何も知らない人より優位が取れたような気持ちになってさ。でもダイナゼノンに乗ってたこと履歴書には書けないよなぁってまたマイナス思考に入って」

 

「あ、もういいです」

 

 愚痴が……長いっ!!!! 暗い!!!!

 

 数分間、ただ聞いただけなのに心臓の奥がきゅっとなる。人生を大きく踏み外したらこんな試練が待っていると思うとマイナスエネルギーが発生しそうになる。

 

 とにかく今の暦さんと話を続けるのは危険だ。自分が無職の沼に引きずり込まれる

 

 異世界で何にもできないまま数日経過した暦さん。他のメンバーはなんだかんだ順応して学校に遊びに来たりとエンジョイしてるけど、学生でもないし、元気もないし、金もないし。ついでに宝多さんちに居座り続けるのも気まずいしで、『絢』と買い物先を往復する日々。

 

 そんな状態が精神を圧迫しているに違いない。

 

 えーっとたしか就職面接で、三十回くらい落ちてるんだっけ?

 

 でも何回面接に落ちたとしても、まだ就活というやるべきことが残っている元の世界の方が気が楽だったのだろう。

 

 そして内緒のアルバイト中な俺がバーテンダーみたいにカウンターの中に入ってしまっていて、暦さんは泥酔するお客さんみたいな立ち位置。

 

 自分がそうなるのは想像できないけど、ドラマの中だと居酒屋で愚痴るのって普通だし、そんな気分になってしまったのかな。

 

 暦さんはぼーっと俺を見ながら言う。

 

「馬場君は偉いね、俺より一回り年下なのに休日も働いてて」

 

「まあ、学校にもアカネさんにも内緒なので、わりとギルティですけどね」

 

 とりあえず話題が変わりそうなので、ほっと一息。

 

 そう、さっきもこっそり暴露したけど、実は半年前から『絢』でのバイトを継続したりしている。

 

 平日の放課後は部活があったり、アカネさんと遊びに行ったりで難しいのだけど、休日で部活がない時間に。今日は店番だけど、いつもは商品の買い出しだったり、店長に任せられた雑用をその日ごとに担当している。

 

 で、これをアカネさんは知らない……はず。アカネさんがボランティアに行ったりで家に不在の時を狙ってるから。

 

「新条さんって、一緒に暮らしてるんでしょ? なんで黙ってるんだい」

 

「あー、それ聞いちゃいます?」

 

「え、聞いちゃダメだった?」

 

「ダメっていうか……」

 

 サプライズっていうか、買いたいものがあるというか。まあほら兄貴からの仕送りとか新条家の遺産(っていうことになってる)から出てる生活費を使っては買いたくないというか……

 

「なになに、ちょっと気になる」

 

「正気ですか!? ふつー、わかんだろ!?」

 

 遠まわしに『聞かないでお願い』してたよね!?

 

 暦さんがマッシュヘアーの奥から細い目を出して聞いてくるので、思わず声を荒げてしまった。

 

 恋人いてさあ、彼女に内緒で金をためて、それでなんか買いたいとか!

 

「いや、ぜんぜん。俺、彼女いたことないし」

 

「さっさと就職して彼女さん作ってください。とにかく店長以外には伝えてないのでナイショです。あ、夢芽さんにも黙っておいてくださいね。彼女、なに言い出すかわからないんで」

 

「南さんは……たしかに言いそうだね」

 

「ですです」

 

 暦さんはその後少しだけ無言になって、小さく「青春か」って呟く。

 

「まあ、今回だけの縁かもしれないし、失敗しちゃった奴の人生の教訓だと思って聞いてほしいんだけど……悔いがないように過ごしなよ」

 

「暦さんは悔いとかあるんですか?」

 

「あの時、一歩踏み出してたらよかったとか。そんなのばかりだよ。成功しても失敗しても、逃げたらずっと後悔が付きまとってくる」

 

 あー、確かにそれは分かるかも。

 

 最初、アカネさんの怪獣趣味を知らない頃は俺はずっと周りから逃げてた。趣味を隠して、なんとなく周りに合わせて。母親のこととか父親のこととかいろいろあったけど、今思い返すと、周りから弾かれるのが嫌だったので自分を押さえていただけ。

 

 アカネさんに会って初めて、自分が自分らしくいられるようになったとは思う。

 

 そして暦さんは……あくまで聞いている中での想像だけど、逃げてしまったことで何か大事なことをなくしてしまったんだろう。

 

 なぜか話を聞きながら想像してしまったのは響のこと。例えば響はいざという時に勇気を出せるヒーロー気質だけど、宝多さんとのことはこれまでずっと奥手だった。これでまごまごしている間に宝多さんに彼氏ができて失恋なんてことになっていたら……ずっとそれを引きずってしまうかもしれないだろうって。

 

「でも……」

 

 あまりそっちの世界のことを知らない立場だけどさ、

 

「ロボットに乗って怪獣と戦うなんてすごいことじゃないですか」

 

 レックス……ガウマさんが導いたのだろうけど、蓬君とか夢芽さんとか、年が離れた子ともなんだかなんだうまくやってるみたいだし。

 

 それに比べたら就職の一つや二つ、どうってことないんじゃ。

 

「ないない、怪獣と戦うほうがマシ」

 

「そうなの!?!?」

 

 えっ、じゃあ俺もすっごく大変なことになるの!?

 

 下手したら暦さんルート一直線!?

 

 俺だってあんまり自分に自信ないけど、シグマと一緒に戦えたからだいじょーぶだろとかたかくくってたんだけどさぁ!?

 

「ぐぅおおお……俺とアカネさんの将来プランが……」

 

「なんか変に不安にさせちゃったかな……?」

 

「五年後が不安でやばいです」

 

 二人とも大学は卒業まで行こうと決めてるけど、その後で就職できませんでしたは避けたい。

 

 生き字引がいるだけ生々しくなった未来予想図をどうしてくれようかと悩んでいる俺を見て、なんだか勝手に納得した風な雰囲気を出しながら暦さんは立ち上がる。

 

「ありがとう、話を聞いてくれて。蓬君もそうだけど、やっぱり若いって羨ましいね」

 

「その若者に嫌な将来像だけ残さないでください」

 

「まあ、それは仕方ないからうまく反面教師にしてよ。それに聞いてくれたお返しじゃないけど……いざって時は少しは役に立ってみせるから」

 

「…………そういう顔、いつもできてたら就職もうまくいくんじゃないですか?」

 

「えっ、どんな顔?」

 

 あ、戻った。

 

 一瞬、めっちゃくたびれてるけどやるときにはやりますって有能な感じがでてたのに、すぐ引っ込んでしまった。

 

 ためになったのかためにならなかったのかわからない、身内でも教師でもない赤の他人の大人との話はこれで終わり。けど……、きっとどこかの未来で俺達の役に立つんじゃないかなって気がしてた。

 

 

 

「アカネさんは将来やりたい仕事とか決めてる?」

 

 リュウタ君が家に帰ってきて、ご飯を一緒に食べて。それでなんとなくテレビでウルトラシリーズを流しているときだった。

 

 今見てるのはメビウスの有名な客演回だけど……なんか脈絡ない感じ。何度も一緒に見た話だったから、このお話を見ていることとは関係ないのかな?

 

 リュウタ君の肩に持たれかけてた頭を傾けて、素直にそれを聞いてみる。

 

 すると、

 

「いや、今日たまたま暦さんと会ったんだけど、それで就職大変だなーって話を聞いて」

 

「あー、そっか三十戦無勝だっけ?」

 

「無敗だったらかっこいいけど、無勝だとやばいね」

 

 でさ、とリュウタ君がちょっとだけ悩むそぶりを見せながら続ける。

 

「俺は……まだやりたい仕事まではないんだけど、大学でもサッカーは続けようと思ってるって話はしたじゃん? それだけで今は良いのかなって思ってたけど、もっと真剣に考えた方がいいのかなーって」

 

「考えすぎじゃないの? まだ高校生だし」

 

 特にリュウタ君は私と違ってサボり期間もないから成績優秀だし、体力もあるし、サッカーはすごく上手になってるし。サッカー部の顧問の先生が私にも、リュウタ君の噂が結構広まってるって話をしてくれたみたいに、プロとかそういう道もあるかもしれない。

 

 いろいろな選択肢があるなら十分じゃないのって思っちゃう。

 

 リュウタ君は『だよねー』と頷く。

 

「アカネさんと一緒にいたいっていうのは変わらないから、今は就職とかは二の次だなぁ。あ、でも出張多い仕事はいやかも。いろんなとこ回るのも回らせちゃうのもしんどいし」

 

「リュウタ君、ほんっとずるいよね」

 

「え……?」

 

 私はにわかに熱を持っちゃった頬を押さえながら、じとっとリュウタ君を睨んじゃう。

 

 とうの本人がまったく何を言ったのかわかってないみたいだから、ぽろっと出た本音だってことがわかっちゃうのがまた性質が悪い。

 

 だって、出張多いの嫌とか……誰のこと考えてるかまるわかりじゃん。

 

(六花ママのところでこっそりバイトしてるの隠してるのもそうだし……)

 

 いつも彼は真剣だけど、こうやって本気の本気で私とのことを考えてくれてるのを知っちゃうと、もうたまらない。胸の奥がドキドキして、抱き着いて全部をあげたくなるくらいに浮かれちゃう。

 

 テレビの画面の向こうでインペライザーにメビウスがぼっこぼっこになってるからそういうムードじゃないけどさ。

 

 けどリュウタ君の言葉はただの恋人止まりじゃなくて、もう先のことまで見てくれている証拠だから。

 

 やっぱりリュウタ君のことが大好きだし、そんな彼のために私ももっとなんて無限に思っちゃう。

 

(でも……私はどうしよっかな)

 

 グリッドマン達の話だと、私のこの体はこの世界に適合しきってるし、急に消えたりとかはあり得ないって断言してくれているけど、私も蓬君たちと同じ。この世界に生きたって記録だけしっかりしている元異世界人。

 

 自分の居場所がなくなっちゃうんじゃないかって夢に見たことも少なくない。そのたびにリュウタ君が抱きしめてくれて、私がいることを確かめてくれるけど。

 

 仕事を持ったり、ちゃんと学校を卒業したりって、私にも大事だよね。

 

 元々の動機が逃げだったとしても、今はしっかりとこの世界とこの世界のみんなを選んだって言いたいから。

 

「……私は、怪獣のお仕事とかしてみたいかも」

 

「デザイナー?」

 

「うーん、どうだろ? でも、やっぱり何かを作るの好きだし。それで誰かが喜んでくれるならいいよね」

 

 昔はアレクシスの言う通りに、自分勝手に作ってた怪獣だけど。今もレックスさんと一緒だろうダイナドラゴンとか、なんだかんだでヒーローやって見せたグリッドナイトを思うと、自分から生まれたアイデアやモノが誰かに認めてもらえるのって好きだし、それが誰かの楽しみになったら素敵だと思う。

 

 なにより、リュウタ君があの時、めんどくさいところも嫌なところもひっくるめて私を好きって言ってくれたから。そんな私が創るものを役に立てたい気持ちもあるんだ。

 

 方法は……まだちょっとわかんないし、今も部屋で作ってる文化祭用の怪獣ができないとお仕事としてやってくなんて大っぴらに言えないけどね。

 

 それを伝えると、リュウタ君は自分のことみたいに喜んでくれて、

 

「そっか……俺にできることがあったら何でも言って? ぜったいに協力するから」

 

 でも、もういっぱいもらいすぎてるんだけどなぁ。リュウタ君はまだまだ私を溺れさせたいみたいで困っちゃう。なーんて。

 

 私もその分、キミのこと助けたいんだよ?

 

 悩んでることも、がんばってることも、ほんとは全部知りたいけど。

 

 でもまずは……

 

「じゃあ、ぎゅっ♪」

 

「おっと……」

 

 思いっきり抱き着いて嬉しさのおすそ分け。

 

 きっと素直に言っても、キミのことだからごまかしちゃうし、逆に気遣わせちゃうから言わない。でも、好きだって気持ちと……

 

(私も同じ)

 

 リュウタ君とずっと一緒にいたいっていうのは、あの時から変わらない私の本音だから。




これでガウマ隊全員と交流は持ったところで

次回、恋バナ

もし面白いと感じていただけたら評価や感想をお願いいたします!

評価
感想
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。