SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】 作:カサノリ
『リュウタ……リュウ、タ……』
誰だ?
誰かが呼んでいる。
知っているはずの声、知らないはずの声。忘れちゃいけないはずの声、忘れるはずの声。
わからない、わからない……だけど、誰かが確かに俺を呼んでいて……
「リュウタ君? どうしたの、ぼーっとして」
優しい声によって、意識が現実に戻された。
横から心配そうにのぞき込んでいるのは当然にアカネさんで……
「ここ、は……」
俺はぼーっとした頭を振りながら、周囲を見渡す。
がやがやという騒がしい音に、あふれんばかりの人。それは若者やカップル、それに若年層の子供連れが大半というくらい。
あと特徴的なのは、見える範囲に並んでいる多種多様なお店と、おそらく五階ぐらいにはなるだろうフロア。吹き抜けが設置されていて、上層から下層まで同じような賑わいであることが分かる。
そこまで観察して、以前にもアカネさんと一緒に訪れたショッピングモールだと思い出した。
そしてアカネさんも今日は余所行きのオシャレな洋服に着替えて、それでいて俺の腕にがっちりと腕をからませている。
(ああ、そうだ……)
ようやく状況を理解した俺は、苦笑いしながらアカネさんに謝った。
「ごめん、デート中だったのに……」
「そうだよぉ♪ せっかくのトリプルデートなんだから、ぼーっとしてる暇ないじゃん♪」
アカネさんが朗らかに言うように今日はトリプルデートの日だった。
俺達を待っているのだろう、ちょっと離れたところには手をつないでいる蓬と夢芽さんペア。それに……響と六花さんペア。
そう、響と宝多さん改め六花さんは付き合うことになった。
響がその日に告白すると決めた文化祭はまだまだ先のこと。だけれど男女の仲はそんな劇的なイベントがなくても進展することがある。
文化祭の準備をしていたある日、響と六花さんがたまたま二人でアイスを買いに行くことになって、その帰り道にいい雰囲気になった響が意を決したのだ。
その告白文句までは教えてくれなかったけれど、これ見よがしに手をつないで帰ってきた二人を、アカネさんたちが盛大にお祝い、というより囃していたのを今でも覚えている。
(でも物語だとそういう中盤での告白イベントとか、邪魔が入りそうなものだけどな)
だけど、物語が絶対というわけはないし。俺たちが生きるのは現実だ。
それに文化祭ならせっかくだし二人で回ったり、それはそれでいい思い出にできるはず。来年は受験を控えて、文化祭を回ったりする時間はないかもしれないし、響と六花さんにとってはむしろ楽しみが増えた形になるだろう。
今もちょっと照れくさそうだけど、気合入った感じにおめかししている六花さんと響は仲睦まじく並んで立っているし。
「な、お前もそう思うだろ?」
振り返って、俺達をじーっと見ているおばけに言う。
おばけは相変わらず何も言わず、そっと姿を消した。
「まったく、相変わらず愛想がないな」
人生はもっと楽しまないと損だぞ? とか言ってみたり。
そう、楽しければそれでいい。
怪獣が出たり、あんなにいろいろなことがあったんだ。アカネさんだって、元の世界と離れてでもこの世界の残って、俺の側にいてくれる。
だったら、俺はできる限りでアカネさんを幸せにしたいし、なんの不安も感じてほしくない。アカネさんが幸せならそれでいい。
それが正しいことだろ?
だからアカネさんの手を引いて、響たちと合流する。これからの一日を楽しい思い出にするために。
「そういえば、蓬たちのとこにもこのモールあったりするの?」
「いやー、どうだろ? あっちの世界だと夢芽が人見知りしちゃうから、接客が激しい店とか選ばないし、あっても調べたり行ったことはないな」
「え、そうなの? 夢芽さん、こっちの世界だとあんなに……」
「人見知り、ねぇ……」
「いや、ほんっと、学園祭の準備に参加させるのに、向こうでどれだけ苦労したことか……」
蓬はそう言って、目頭を押さえる。
男子三人で店の前、フェンスにもたれかかりながらのなんとなくの駄弁り中だったってのに、蓬には感慨深いことだったようだ。
こっちの世界で見る夢芽さんは積極性の塊のような性格で、速攻でアカネさんと仲良くなったかと思えば蓬とも所かまわずいちゃついてるし、近寄るだけで恋してますオーラが分かりやすい子だ。
けれど蓬は遠い目をしながら言うのだ。
「向こうだと、文化祭会議を数分でバックレたし」
「そりゃ重症だ」
「でしょ? だから、こっちに来てアカネさんとか六花さんと仲良くなれたのは夢芽にとっても良かったなって」
「蓬君、なんか夢芽さんのお父さんみたいになってる」
いやいや、響よ。そういう気持ちになるのも俺は分かるよ。
アカネさんだってあの神様モード拗らせちゃってた時と比べたらさ、ボランティア頑張ってたり、クラスになじもうとしてたりするのを見ると応援したくなるし、二人の時は全力で甘やかしたくなっちゃうって。
響の場合は六花さんがかなりしっかりしてるから、そういう心配はなさそうだし。むしろ響が世話焼かれる方だと思うけど。
で、そんな男子で固まってしゃべっている間に、女子三人組はオシャレな小物ショップを物色中。なにやらちょっとしたアクセサリーでも買いたいようで、ああでもないこうでもないと三人で楽しそうにしている。
アカネさんはこだわりが強いので、店だともっぱら俺が引っ張ってもらう側なのだが、それでもいつもは俺を配慮してなるべく短時間で選んでくれていたのだろう。
女子だけの買い物って、めっちゃ長いのな。
そうして男子からは長い、けど女子にとっては最適ぐらいの時間をかけて、アカネさんたちは戻ってくると、三人の右手首にはおそろいのカワイイ感じのブレスレットがつけられていた。
長い銀の鎖を二三重にしてつけるタイプのあれだ。
「どう、似合ってる?」
アカネさんが感想を欲しいと尋ねてくるので、答えは当然一択。
「うん、すごくかわいいよ」
お世辞でもなんでもなく、アカネさんによく似合ってる。
「やったぁ♪ 六花と夢芽ちゃんとね、おそろいにしたの! トリプルデートの記念って♪ ねー、夢芽ちゃん♪」
「これ、うちの世界でも同じブランドがあるんですよ。だから向こうでも普通に使えるし、いいかなって。ほら、蓬も知ってると思うけど、異世界ブランドってたまに偽物みたいになってるのあるし」
「あー、確かに。一文字違ったり、ロゴが変だったり。あれを向こうで使ってたら、ただの偽物だから」
「「へー」」
なるほど、そんなのがあるのか。
確かに二人とも当分は帰らないだろうけど、向こうでの生活は考えなくちゃいけないこと。正規品の値段で買っておいて、向こうじゃ大っぴらに付けられないとか損でしかないもんな。
「六花がリサーチしてくれたおかげだよね。元々は別の狙いがあったみたいだけどぉ♪」
アカネさんが六花さんの方を意味深な目で見ながら言う。
すると六花さんはぎょっとした後、ちょっと頬を赤らめながら顔をそらした。
「べ、別に、変な目的じゃないし……」
「だよね♪ 響君にも似合いそうなブランド調べるのとか、普通だもんね♪」
「うぇっ!? お、おれのために!?」
「ちょっとアカネぇ!!」
「いいじゃん、もう彼氏なんだから。変なツンデレとかやめたほうがいいよ? あ、もちろんリュウタ君にも後でプレゼントあげるね♪」
「私も蓬にちゃんと買ってきたから」
アカネさんと夢芽さんはそう言って、小さな箱をバッグから出してひらひらと見せる。
お店の外で待っててと言われたのは、これも理由か。
確かに女性ものが多い店だけど、カップル用のペアリングとか、そういうのも置いてあるようで納得。それを六花さんが響との記念に買おうとしていたというのは意外だけど。
けれどアカネさんが言うように二人はカップルなわけだし、それも普通のことになるはず。もちろん二人の距離感とかはあるけど、あれだけヤキモキさせたペアなんだから最初くらい見せつけるほどいちゃついてくれないと、応援した側として面白みがない。
そうして照れてしまった六花さんと響を宥めつつ、また六人でぶらぶらと。
ゲーセンに行って、蓬たちの知り合いらしい怪獣優生思想の人たちがクレーンに苦戦しているのを遠目からからかったり、それがバレてシューティングゲームで対戦することになったり。
あとはこっそりデートをしていたらしいガウマさんとお姫様を見つけて、あれがアダルトなデートかと参考にさせてもらったり。
そうそう、アレクシスのやつがとうとう真面目に働き始めたらしくて、お総菜コーナーでソーセージを焼いてた。あの真っ黒ボディにピンクのエプロンが恐ろしく似合わなかったのだが、働いている人を悪くは言うまい。
(…………っ)
そのいつもの光景を見るたびに頭がチクリチクリと痛みを発するが……気のせいだと思って、俺は普通に歩き続ける。
手にはアカネさんのぬくもりがあって、俺達は離れることがない。
それだけで十分すぎるほどに幸福なのだから。
俺は元々こういうやつだった。たった一人、大切な人を守れればそれでよくて、そのためなら自分さえどうでもいい、そういう生き方を……
「…………本当に?」
「っ…………」
口端から飛び出したのが自分の言葉だと、気づくまで数秒。
思わず口を押えて、地面を凝視してしまう。
吐き気があるわけじゃない。気分は最高だ。なのに、なんだ、この違和感は……
この感覚に覚えがある。
なんだ、たしか……たしか……!
「リュウタ君、ほんとに大丈夫?」
「アカネ、さん……」
「熱は……ないみたいだけど、フードコートとかに行って休む?」
俺に額に手を当てて、心から心配してくれるアカネさん。
だけど、きっとこれは体調不良が原因なんかじゃない。
「アカネさんは、なにか、違和感とかないの……?」
「違和感って?」
「いや、俺たちの毎日って、こんな感じだったかなって……」
友達がいて、大切な人がいて。
そんな賑やかに楽しいだけの毎日が……
けれどアカネさんは申し訳なさそうに顔を伏せると、小さく呟いた。
「……その、ごめんなさい。私にはよくわかんない。リュウタ君の勘違いじゃないよね?」
「そう、かな……」
「そうだよ……! それよりもほら! あっち盛り上がってるし、行こうよっ!」
そう言われると途端に自信がなくなっていく。
いや、俺の優先度はあくまで自分よりもアカネさんだ。アカネさんがいいって言うなら、今は気にするべきことじゃない。
だから違和感をまた頭から追い出して、さっきとは逆にアカネさんに引かれるまま、人が集まっているところに行く。
そこは何人も若いカップルが集まっている場所だったので、催しでもやっているのかと思ったのだが、近づいてみると俺達は驚いて足を止めてしまった。
「これって……」
ショーケースに並ぶ純白のドレスに、それらが囲む広場には指輪を中心にダイヤのアクセサリー類。
上に掲げられた横断幕には、ウェディングフェアと書かれている。
そりゃ、確かにカップルには人気の場所だろうけど……
どうするかと考える間もなく、アカネさんとつないだ手から熱が上がるのを感じた。
横を見ると、アカネさんが顔を赤くしながら期待するように見上げてきていて。
「ちょっと見ていく?」
「うんっ!」
きっとアカネさんの頭に浮かんでいるのは未来予想図。その時、彼女と一緒に誰がいるのかなんて、アカネさんの熱っぽい目を見てわかってしまった。
ああ、まったく、俺の顔も赤くなってるのを響たちに見られてなければいいけど。
恐る恐るフロアに入ると、目ざとい店員さんがそっと近づいてきて、愛想のよい笑顔で話しかけてくる。
「こんにちは、何かお探しですか?」
「あ、その……私たちまだ高校生なんですけど、見てもいいですか?」
「もちろんです♪ むしろそんな若いお二人に見ていただけるなんて嬉しいことですよ♪ もしよければ、ドレスの方もご案内します」
「それじゃあアカネさん、お願いしようか?」
「う、うん……!」
きゅっと気合を入れるように両手で握りこぶしを作ったアカネさんに苦笑いしながら、店員さん、本職はウェディングプランナーさんらしい、のご厚意に甘えてドレスを見ていく。
男の俺はあんまりピンとこないけれど、最近は結婚式の形もいろいろになっている影響で、ドレスの種類も多くなっているようだ。
例えば、スカートがタイトになってて、割と脚とかの体形が出るタイプのやつ。単純な印象だけど、六花さんみたいにモデル体型な人が着るとかなり似合いそうだ。
あとはみんなで騒げるようにフリルを減らして、スカート丈も短めの機能性重視のやつとか、色も薄青色だったり、赤みがかっているのもある。
けれどその中で、
「わぁ……♪」
アカネさんの目を引いたのは、どちらかと言えばオーソドックスなもの。
ちょっと胸元が開きすぎな感じもするけれど、スカート部はバラが花開いたようにフリルが豪奢になっていて、色も薄ピンクでアカネさんの髪の色にマッチしているような気がした。
アカネさんは少し興奮したように、話しかけてくる。
「ね、ねえリュウタ君……! これ、どうかな?」
「ど、どう……?」
「もーっ! 鈍感! 言わなくてもそこは察してよ!」
いや、わかってるけどさぁ。
「…………その、正直に言っていい?」
「もちろん!」
「その……将来、これを着てるアカネさんを見られたら、俺はきっと世界で一番幸せ者だって思う」
「…………ずるじゃん」
「正直に言っていいって言ったでしょ!?」
「だからって、そんなストレートに言わないでよぉ! ……顔、戻んないじゃん」
顔を俯けて両手で頬を抑えたアカネさん。
そんな俺達を見て店員さんがあらあら、なんて微笑ましく見てくる。自分でも半分以上プロポーズみたいなこと言った自覚はあるけど、こんな綺麗なドレスを着たアカネさんを想像したら、そう思う他にないだろう。
少なくとも、この件に関してはちゃんと本音を言ったし、それに恥じることはしないと決意してる。
そう言ってアカネさんの機嫌を直そうとすると、アカネさんは俺を見ながら何やら口をきゅっと結んで考え事をしているかのようだった。
「ね、ねぇ……私たちってそろそろ付き合って一年くらいでしょ?」
「うん、そうだね」
記念日自体はちゃんと記録してるので抜かりない。
「だから、その……そろそろ、新しいこともしてみたいなーって思ってて」
「う、うん……」
「リュウタ君のこと、私だけのあだ名で呼びたいな……とか、ダメかな?」
ちょっとだけ不安そうに、だけどきっと期待しながらの小声。
けど、あだ名くらいぜんぜん平気だ。
「もちろん、アカネさんがそう呼びたいなら。その、あんまり変なのじゃ困るけど」
「へ、変なのじゃないよっ!」
「あはは、わかってる。冗談だって」
でもくぎを刺しておかないと、怪獣由来の名前とかになっちゃう可能性もあったりしそうだし。
そうしてアカネさんは小さく『もうっ』と呟くと俺をこう呼んだ。
「……リュウ、くん」
「…………っ!」
瞬間、目の前がぐらりとした。
アカネさんの姿がぶれて、遠い遠い、記憶の向こうから別の声が聞こえてくる。
『ごめんね、りゅう君』
『なんでっ!? なんで俺達を置いてくの!?』
『…………っ!』
『待って! 待ってよ!! おかあさん……!!』
まだまだ小さく、他に何にも支えがなかった弱い俺を置いて逃げた母親。
なんで置いていくんだよ、俺はいらないの? お母さんには不要なの?
疑問に答えはない。そのまま振り返ることなく走り去っていった背中が遠くに見えて……
「リュウタ君、リュウタ君!?」
「っ、いま、の……」
「大丈夫!? いま、六花たち呼ぶから……!」
気がつくと、俺はその場にうずくまって涙目になったアカネさんに介抱されていた。周りには何事かと俺達を不審そうに見ている買い物客の姿。
ああ、そっか、あの名前で呼ばれた瞬間にめまいを起こしたのか。
(……まったく、呼び方にあんまりこだわりないとか)
母親のことは自覚している地雷だったけど、なんだよ、呼び方にまで関わってくるのかよ。しかもこのこと、アカネさんに話したことなかったし。
それに、
「っ、だい、じょうぶ……! それより、ちょっと行くところあるから……!」
「リュウタ君!?」
よろよろと立ち上がりながら、申し訳ないと思いつつもアカネさんの側を離れる。
今ここで何かをして、アカネさんにまで被害が出るようなことをしたくなかった。
(ああ、くそっ! あの時といい、家族のことばっかで思い出す!)
前に記憶喪失になったときは兄貴で、そして今度は母親だ。
そのことで最近は悩んでいたとはいえ、俺の警戒アンテナは家族のことに相変わらず敏感らしい。
けど、ショック療法で頭ははっきりした。
「なんだよアレクシスとか! 知らねえよ、怪獣優生思想とか……! それに、シグマのこと……!!」
いつからだろう、大切な相棒なのにその存在を忘れてしまっていたのは。
それにアカネさんがいればどうでもいい? それはシグマと出会う前の、一度失敗したときの俺だ。もう俺はあんな考え方をしないと決めた。仲間がいる大切さを知った。
だというのに、あのシグマと一緒に戦ったことさえなかったことにされようとしている。
「これも並行世界が重なった影響……? 響や蓬も全員同じ感じになってたとか詰み間近じゃないか」
だけど、荒療治とはいえ俺は正気に戻ったんだ。
だったら……!
「シグマ……! きっと聞こえてんだろ!? シグマ!!」
右手に向かって叫ぶ。
傍からは何してんだと思われるだろうけど、知ったことか。
確証はないけれど、グリッドマンまで飲み込まれている事態なら、シグマが駆け付けないわけがない。
そして、右手に青い光が灯って
『りゅう…………た………………………』
周波数が合わないラジオみたいなか細くノイズ交じりの声だが、確かにシグマの声が聞こえたのだ。
「聞こえてる! 俺達になにが起こってんだ!? 敵はどこだ!?」
前にアカネさん謹製の幻覚怪獣によってIF世界ツアーをしたけれど、それとは違う気がする。
ここは俺達の世界だけど、根本的に何かが変わっている。そんな違和感だ。
『アク……セス……』
シグマの声とともに、右腕に光が収束してぼんやりとだけれどアクセプターの形になっていく。
ああ、わかった。
これは変身して現実に戻すっていつものパターンだろ。
だから、久しぶりの変身に緊張しつつ、シグマを信じて右腕を掲げて……
「アクセス、フラっ」
『ダメだ、リュウタ! 罠だ!!』
「…………え?」
瞬きの間に、世界が変わった。
さっきまでいたショッピングモールは跡形もなく消え去って、それどころか俺達がいた地球ですらない。
まるで宇宙、だけど、もっと広い世界のような……
そしてそんな俺の後ろには
「しぐま……?」
黒い鎖でがんじがらめにされてうずくまっているグリッドマンシグマの巨体があり、呆然とする俺の側に大きな影がやってくる。
「おま、え……」
それは怪獣だった。
怪獣というフォーマットに正確に従ったようなゴモラやそっち系統のボディ。だけど、全身の青緑色は世界に対して異物感を主張しているような姿。
そしてその怪獣は俺達を見てにやりと笑うと、静かに告げた。
「グリッドマンシグマ……お前たちはこの