SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】   作:カサノリ

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宇宙

「不要……?」

 

 ちょっと待て、待ってくれ。マジで状況が分からない。

 

 後ろで縛られているシグマのことも、目の前でにやにやとキモイ笑顔を浮かべているように見える怪獣のことも。

 

 っていうかどこだよ、ここは!?

 

 周りはまるっきり宇宙のような空間で、俺達はその中のぼんやりした球体の中に閉じ込められている。いきなりウルトラシリーズの拉致された主人公みたいなシチュエーションになって、理解が追い付いていない。

 

「リュウタ……ここは、グリッドマンユニバースの外だ……」

 

「シグマ!? 大丈夫なのか、体とか……!」

 

「ああ、この鎖は私という存在を縛るもの……話すことは、できる……」

 

 確かにシグマの言う通り、彼の言葉はかすれかすれだけど、苦痛を感じている様子はなかった。

 

 でも、こんな怪獣の目の前でとか……

 

 けれどその怪獣当人が、流ちょうな様子で続けるのだ。

 

「安心するがいい、殺しはしない。むしろ、お前たちを殺せば上位レイヤーが新たなバランサーを生み出すだろうからな。お前たちはこのまま、ユニバースの外で滅びの時を待ってもらう」

 

「ユニバース? 上位、レイヤー」

 

「リュウタ、あまり話さない方がいい。これは人間の感情を模倣した力の集合体だ。会話や説得に意味はない」

 

「でも、わかんないままじゃいられないだろ!?」

 

 まずはやめろよ、そういう専門用語をいきなり連発しだすのはさあ!!

 

 ウルトラマンだとけっこう丁寧だぞ、対象年齢が子供だから! 高校生の俺でもわからない用語連発されても、ぽかんとするだけだ。なんだっけエヴァとかああいう特撮好きのアニメ監督さんが好きそうな言い方!!

 

「リュウタ、今、この全宇宙……マルチバース全てがグリッドマンなんだ」

 

「はあ!? 宇宙がグリッドマン!?」

 

「そうだ、キミが見せてくれたウルトラマンジードでのウルトラマンキング、彼と同じような状態だ」

 

「……あっ!」

 

 シグマの言葉で、ようやく見慣れたシチュエーションと現実がリンクして、納得が生まれる。

 

 そうだ、ジードだと壊れかけた宇宙を救うためにキングが融合することで、宇宙は形を保っていた。つまりキングが宇宙そのものになっていたということ。

 

 でも、

 

「でも、グリッドマンが宇宙とか、そんな力が……」

 

 あるわけない、なんて失礼なことを思ってしまう。

 

 だって、グリッドマンは確かに強いけれど、アレクシスに最初はやられてしまったりキングみたいな神様レベルの無法な存在だとは思えないんだ。……キングもちょこちょこ出し抜かれたりしてたけどさ。

 

 俺達の世界を含めたマルチバース全体がグリッドマンとか、さらに規模が大きいし。

 

 しかし、シグマは説明を続ける。

 

「ああ、通常ならばそんな力は兄さんにはない。だが……この宇宙がグリッドマンから生まれていたなら話は別だ。兄さんがきっかけとなって生まれ、拡散していた宇宙が再び兄さんに戻るというだけなのだから」

 

「ちょ、ちょっと待て、ギブギブ……!」

 

 もうわけわからなくて頭が痛くなってきた。

 

 そもそも敵の眼前ってことでプレッシャーやばいし。いくら敵が殺さないと口約束していても、相手はアカネさん製のとは違う怪獣なんだ。

 

 なおも説明を続けるシグマの言葉を何とかかみ砕こうと、頭を抱えながら思考を巡らせる。

 

 俺の頭がだいぶ理解を拒んでいるので、これであっているかわからないけど……

 

 えっと、元々グリッドマンは人の思いや意思を受けて体を具現化させる力があって、それと逆にグリッドマンが考えたことが宇宙となって具現化されていた……とかなんとか。

 

 聞くだけで与太話だとしか思えない。

 

 蓬たちがいた宇宙もグリッドマンユニバースという、グリッドマン起点に生まれた世界。だからビッグクランチみたいに一つの世界へと圧縮されていたのではなく、グリッドマンという母体に帰って一つに統合され、全部まとめてあいまいになろうとしていたというのがが正しいと。

 

 イメージ的にはネオスのシーゴリアンとか、ダイナのマリキュラ? ああいう小型怪獣が合体してデカくなるってのとイメージは近いのかも。

 

 頭を悩ませながら光のバリアみたいなもの外を見る。

 

 そこには確かに無数の宇宙みたいな瞬きがあって、それが集まって、輪郭を作ってグリッドマンのような形になっている。

 

 頭痛がする程の非常識な光景。

 

 だけど、なんとなくなのだけど……それが正しいというように思えてしまう。

 

 俺たちの暮らしている世界は意外とフレキシブルだということを俺は知っていた。

 

 アカネさんが一人で世界を創って神様をしていたように。一人の人間でそれだけできるのなら、グリッドマンという超人ならどれほどのことができるかは想像に難くない。

 

(それに、もうシグマも怪獣もその事実を大前提にして話してる。俺も受け入れるしかない)

 

 だけど、そうすると別の疑問が生まれる。

 

 グリッドマンが自分からそんな暴走するだろうか?

 

 そりゃ響の気持ちを暴露したり常識はずれなところもあったけど、全宇宙を統合してしまおうなんて悪の親玉みたいなことは考えるはずがない。俺達のヒーローはそんなやつじゃない。

 

 するとシグマは、

 

「ああ、兄さんが原因ではない。目の前の怪獣……奴が全ての元凶だ」

 

 怪獣はシグマの言葉に笑みを深くすると、高らかに宣言する。

 

「ああ、そうだ! 今やグリッドマンを手中に収めるということは、全ての宇宙を掌握するのと同じ! 私はグリッドマンを自らのものにして、この宇宙という無限の力を手にする!!」

 

「……それで、その力でなにをするんだよ」

 

「決まっている。この世界を終焉に導き、新たなレイヤーへと混沌を進出させるのだ」

 

 またレイヤーって。

 

 このやってることの規模はデカすぎる癖に言ってることが小物っぽい……っていうかなんかイチイチグリッドマンへの執着が強すぎてキモイ怪獣の目的が判然としない。

 

 だって力を求めるってのは何かを支配したり滅ぼしたりしたいからで。

 

 他のウルトラシリーズの怪獣とか宇宙人も地球侵略や人類が宇宙の脅威だからと滅ぼすというのが目的だった。

 

 この怪獣だって、この世界の一部だというなら世界を終焉に導くとか自滅以外の何ものでもないだろ。

 

「いいや、私はお前たちの存在で気づいたのだ。このユニバースはあくまでグリッドマンの世界。だが、この無限の宇宙さえも、さらに上位のレイヤーによって創造されたものにすぎないとな。

 例えば……新条アカネのいる世界はどうだ?」

 

「……っ」

 

 いる、世界ね。

 

「あれはグリッドマンユニバースには含まれず、だからこそこちらからは干渉できない。そしてその世界のさらに外側にも、もしかしたらさらに上位のレイヤーが隠れているのかもしれない」

 

 そう、この世界というのは全てが誰かの被造物なのだよ。

 

 怪獣はさも当然のようにそんなことを言う。

 

(自分たちが誰かによってつくられた存在、か……)

 

 事実として、それはそうなのだろう。元から親がいないと生まれていない身でもあるし、それも元を辿ればアカネさんが世界を創ったことに起因しているというなら、俺は作り物だ。

 

 でも、だからって自分がやるべきこと、やりたいことは自分で決めてきたし、アカネさんに抱いている思いも自分だけのものだ。

 

 けれど、この怪獣はそれが我慢できない。

 

 グリッドマンという強大な力を手に入れても、それすら誰かの被造物であり秩序から生まれた存在。シグマが言うにはグリッドマンと対になるカオスの権化であるこいつは、その状況を打破するために宇宙全ての力を手に入れようとしている。

 

 上位レイヤーを突き破るために。

 

 そして全てを滅ぼすために。

 

 ああ、こいつの本質っていうか目的が分かってきた。

 

 混沌とか高尚なことを言ってるけど、結局はしつけを嫌がる子供の癇癪。綺麗な砂のお城ができていたら、思わず蹴って崩したいというのの世界バージョンだ。

 

 それは確かにかつてのアカネさんがアレクシスによって陥らされていた状態と同じで……その結果として生まれた怪獣の負の集合体がこいつだというのは納得できた。

 

 メタな視点で考えるなら、ウルトラマンという壮大な物語も円谷英二という神様が作り出したものというように、この世界にも創造主がいるということなのだろう。グリッドマンという存在を夢想して、生み出したものが。

 

 そんな親からこうあるべきだと言われた世界を壊したいだけなんだ。

 

(まあ、それがこいつの妄想でも、事実でも俺にはどうでもいい)

 

 俺たちの世界をそのための犠牲にしようとしているのなら許せるものではないし、グリッドマンを自分のものにしたいとか主張がやばすぎて、愛染社長みたいな厄介なオタクそのものだ。

 

 それに、

 

「じゃあ、どうして俺達をこんなところに閉じ込める!? お前が言う通りなら、俺達だってグリッドマンユニバースの一員だろ!!」

 

 こんな手の込んだことをした理由がわからない。

 

 方法はもうわかった。きっとアクセスフラッシュで体が融合するのを逆利用して、俺をこっちにまで飛ばしたんだろう。あの時に聞こえたシグマの声も、こいつが出していた撒き餌だ。

 

 だけど、なんで俺達だけが?

 

 こんな世界規模の融合から除外されているんだ。

 

「不要だからだ。お前たちという存在は、グリッドマンから完全性をそぎ落とす」

 

「…………完全性って」

 

「グリッドマンは世界を救い、秩序を保つ絶対的な存在! であればこそグリッドマンという無限の物語が無限のユニバースを生み出す! その力が純粋であればある程、私という混沌も加速する!

 ……しかし、お前たちはなんだ?」

 

 怪獣は俺達をなめまわすように見ながら言う。

 

「グリッドマンシグマ。グリッドマンと対になるハイパーエージェント。彼と同じように実体を持たず、人々の願望を反映する秩序の代行者。……グリッドマンという絶対の存在に、お前という助力は必要ない」

 

「んなわけねえだろ……!」

 

 ウルトラマンが最強だからセブンもジャックもいらないとか、そういう話をしだしたぞこいつ。

 

「それにその変身者であるお前もだ……お前はなんだ?」

 

「なにって……」

 

 馬場隆太って名前はある高校生で、アカネさんの彼氏だよ。

 

「お前のようなものは、この数多あるユニバースのどこにも存在しない。新条アカネは怪獣を生み出し、心まで怪獣に染めあげ、そしてグリッドマンによって元の世界へと送還される。

 ……それが、このグリッドマンユニバースにおける本来の在り方だ」

 

 怪獣はそんな言葉を、さも事実であるかのように手を堂々と掲げる。

 

 するとそこに無数のモニターが生まれて、いろいろな映像が流れ始める。

 

 それはグリッドマン達が活躍する世界だ。新世紀中学生に、レックスさんや蓬、なによりグリッドマン。中には結構な割合でアカネさんや六花さんの姿が出てるし、時々内海や響もいる。

 

 だけど俺はいない。

 

「オマエハダレダ?」

 

「っ……!」

 

 その怪獣の言葉に、さっき思い出してしまった昔の景色が頭をよぎる。

 

 自分で生み出しておいて、俺をいらないとばかりに背を向けて去ってしまった母親のことを。

 

「新条アカネをめぐる世界に、お前の居場所はどこにもなかった。

 あの神は世界を去り、二度と戻っては来ないはずだった。そうであればこそ、このユニバースはグリッドマンという絶対の元にまとまり、私もより強大な混沌を得ることができたはずだ」

 

「俺が、知るか……!」

 

 にらみつけても怪獣は黙らない。

 

 シグマの言う通り、言葉を発しているし、表面上のコミュニケーションは取れているように見えても無駄だ。こいつは完全に自分にしか興味がないし、それで動いている。

 

「お前たちはグリッドマンユニバースという聖典にばらまかれた余計なバグ。あるいはグリッドマンに対するバランサーとして作られた存在。

 だからこそお前たちをユニバースから除外した。グリッドマンの残滓も混沌の中に引きずり込んだ今、もはや邪魔者はいない!」

 

 怪獣の考える正史とも言うべき、グリッドマンだけが活躍する世界。

 

 今、俺達の世界も、俺がシグマを忘れてしまっていたみたいにシグマと俺の存在がかき消され、こいつの言う正史に近い状態になっている。

 

 だけれど、まだ足りない。本来の帰着を果たしていない子がいる。

 

 だからまずは、と怪獣は笑う。

 

「新条アカネにも本来の役割を果たしてもらおう」

 

 

 

 

 おかしい……おかしいよ。

 

 今、街には怪獣が出てる。どこかシーサーみたいな形をしていて、それでいてグリッドマン達をたやすく蹴散らしてしまえる怪獣。

 

 いつものように響君がグリッドマンと融合して、内海君と六花が応援していて、それから蓬君や夢芽ちゃんも。

 

 それが当たり前の景色のはずなのに、私は……

 

(イライラする……)

 

 おへその奥から吐き出したいほどの不快感をこの世界に感じている。

 

 誰か一人じゃない。

 

 世界の全てに。

 

 こんな世界があっちゃいけない。こんな世界は間違ってる。

 

 そんな世界に対する拒否感と、どこまでも頭を締め付けるイライラ。

 

(ねえなんで? なんでこの世界は続いているの? なんで六花たちは平気なの? ■■■■君がいないのに、世界はそのままなの?)

 

 これは怒り。

 

 誰にでもない、世界への癇癪。

 

「こんなとき、どうしていたっけ……」

 

 昔はよく、こんなことがあったと思う。

 

 うまくいくはずの世界がうまくいかなくて、イライラしているときだ。

 

 私は何かをして、そのイライラを発散させていた。

 

(ああ、そうだ……)

 

「怪獣、つくらないと」

 

 怪獣。

 

 私のイライラを壊してくれる素敵なバケモノ。

 

 世界に縛られない、かけがえのない自由の象徴。今はアレクシスはいないけど……できる気がする。

 

 それに、怪獣ならとっておきのがいる。

 

 文化祭のために作っていた、あの怪獣が。

 

 だから私はそれをリュックから取り出して、机に置く。手の中にはいつの間にかねじれた真珠が握られていて、それを粘土に埋め込めば完成だ。

 

 あとは……やり方を知っている。

 

 中指と薬指の間を開くように、怪獣の粘土に向けて……目でしっかりと怪獣の本質を、その圧倒的に自由な破壊を捉える。

 

 そして呪文を唱えればいい。

 

「インスタンス・ドミネーション」

 

 これで世界はまた……私のものだ。




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