SSSS.GRIDMAN うたかたのそらゆめ【完結】 作:カサノリ
・アカネから離れていったら死んでいた
・二人を馬鹿にしたらクラスメイトは死んでいた
・嫉妬で嫌がらせをしたら、男子は死んでいた
・リュウタに言い寄ろうとしたら、女子も死んでいた
・二人の時間を邪魔しようとした奴は死んでいた
残り三話となりました。とうとう○○。
少し長いですが、渾身の力で書ききったので、読んでいただけると幸いです。
午前十時、駅の前。空は快晴、気温は十八度。風は緩やかで、日差しはほどほど。何が言いたいかというと、とても過ごしやすく外出にぴったりな日和。
そんな日に外に立っているのに、俺はどうしても心が落ち着かないし、やたらと自分の姿が気になってしまう。どこか失敗はしていないか、とか、気合入れすぎて引かれないかとか。
自分では変な格好だとは思えないのだが、お互いに私服を見るのは実は初めて、これで彼女の好みに合わなかったらとか。心配事は考えるごとに募っていく。
世の中にはこんな行為を何度も繰り返している奴がいるなんて、信じられなかった。気を抜いたら爆発する、時限爆弾を巻いているみたい。そんなドキドキハラハラを何度もやりたいだなんて……。
そんな弱気なことを考えている内、時間が過ぎて。
「あー! おはよー。早いねー」
明るい声。柔らかくて、安心する声。通りの向こうから、私服姿のアカネさんがステップを刻みながらやってくる。俺は、そんな彼女によって不安を吹き飛ばされながら、今日にいたる日を思い返していた。
松葉杖の生活なんてものは直ぐに慣れてしまうが、アカネさんとの近づいた距離に慣れることはできなかった。決して、それは嫌な意味ではなくて、むしろ彼女が横に来てくれるたびに彼女が大切になっていく。最初に感じたうるさいほどの胸の鼓動は、少し落ち着いて、けれど体があったかくなるというか。
そんな変化に言葉はつけられなかったけれど、戸惑う内に次々と新しい日が訪れて。俺のことを知りたいと言ってくれた、そんな彼女の言葉通りに多くの時間をアカネさんと俺は過ごした。
「ほら、二代目ってあるよね? ゼットンとか、ベムスターとか」
「あるある。最近だと二代目どころじゃなくて、毎シーズン登場とかも」
「それでね、二代目の造形って崩れたりして色々言われるけど、私、けっこう味があるって思うんだー。初代って完成しすぎてて、それを何とかアレンジしたり。あー、でも、たまにただの劣化もあるけど」
「アレンジ、やっぱりこだわり出るよね。逆に、最近は少し小綺麗すぎるっていうか。ほら、グビラ毎回出てくるけど、もう少し形に違いがあったりすればいいのにって」
「うんうん。予算とか、世知辛いんだなって思うけど、やっぱり一工夫欲しいよね」
そんなことを俺とアカネさんはのんべんだらりと話していた。金曜の放課後、何となく、無礼講が許されそうな日。場所はいつもの学校の踊り場ではなく、商店街にあるバイキング式レストラン。
外はすっかり夕暮れの時間なのに、お客はほとんどいない。このままで経営成り立つのかなって少し心配になるけれど、味は抜群。なぜ人気が出ないのだろうか、そんな不思議な店だ。
よく怪我の功名と言うけれど、俺の怪我は正にそれで。この痛めた足は、アカネさんとの時間をくれた。今は足の怪我で堂々とサッカー部を休めるから、放課後も時間をつくることができる。そんな俺を、毎日のようにアカネさんは誘ってくれていた。
『一緒にご飯食べよ!』
なんて、素敵な笑顔で。
それはとても嬉しい提案だった。俺は一人暮らしなので、家に帰れば痛む足を引きずりながら料理をしなくてはいけない。かといって、外に出るのも、一人では億劫。何より、好きな子と食事ができるなんて、夢のよう。問題はアカネさんが家で怒られないかということだった。噂によると、彼女は結構なお嬢様だというから。
だが、こうして向かい合ってゆっくりとグラタンを食べているアカネさんは、時間を心配する素振りも見せず。さらには、
「えへへ。楽しいね! こんな風に怪獣の話しながら、一緒にご飯食べるの」
その声の調子が、噛みしめるような、心から絞り出すような物に聞こえる。だから、何かを尋ねる気にはなれなかった。俺だって、一人のさびしい夕食には戻れないほど、アカネさんとの食事は楽しい時間だったから。
(けれど、それも今日までか……)
明日には病院に行って、松葉杖なしが認められるはず。そうなれば、こうして彼女が付き合ってくれる理由もなくなるわけで……。そう考えた途端、なんだか食べていたパスタの味が無くなって、俺はフォークを置いてしまった。
それを見て、アカネさんは少し心配げに眉をひそめながら、尋ねてくる。
「あれ? どうしたの? 美味しくなかった?」
「そういうわけじゃないんだけど……。笑わない?」
「うん」
俺は一度息をのむ。
「……今日で、一緒に食べるの終わりだって思ったら、寂しくて」
小さく呟く。すると、アカネさんは少しの間ぽかんとして、
「ふ、ふふふふっ……」
次の瞬間にはアカネさんは袖で口を隠すようにして笑い出してしまった。俺はといえば、むずがゆくて仕方なくて、口をすぼませてしまう。
「ごめんごめん! そっかー、リュウタ君は寂しいんだー」
「……その通りです」
「えへへ、拗ねないの! でも、そんなリュウタ君にグッドニュースです!」
そう言うとアカネさんはずいと顔を近づけてきて、いたずらに微笑む。
「私、今日が最後だなんて言ってないよ?」
「……え?」
その言葉に俺は呆然と彼女を見て。アカネさんは、少し照れくさそうに頬を掻きながら、言葉を続けた。
「ほら、言ったでしょ? リュウタ君のことが知りたいなって。それで、なるべく一緒にいて、リュウタ君の好きなご飯とか、音楽とか。あとあと、苦手な教科とか、ちょっとは分かったの」
毎日一緒に食事して、放課後に街をふらふら歩いて、教室ではみんなの生暖かい目を受けながら宿題見せあって。確かに、この一週間で、俺もアカネさんのことを知ることができた。
「でもね、まだ答えは分かんないし。リュウタ君のこと、知らないことばっかり。だから、リュウタ君が一緒がいいって言ってくれたら……。来週からも……」
「一緒がいいです!」
「……っ。もー! 答えるのはーやーいー」
「それはっ、嬉しかったし。でも、いいの? ほら、他に友達とか……」
正直、怪我以来、俺は男子とそこまで付き合っていない。なんだかんだとクラスのアイドルが近くにいるので、自然と近づくのをためらわせてしまっている。そんな俺の友人関係なんてどうでもいいが、アカネさんにだって自分の友達がいるのだ。そういう子たちとの付き合いは大丈夫なのか、心配に思っていた。
尋ねると、アカネさんは少し考えるように、顎にパーカーに包まれた手を当てて。そして、ふっと息を吐きながら脱力。そして、アカネさんは少し気だるげな顔で、小さく愚痴をこぼしてくれた。
「しょーじきね、あんまり皆といても、面白くないんだー。気を使わなくちゃだし、色々しつこいし。リュウタ君は男の子だから、わからないかもだけど、女子ってね、色々どろどろして怖いんだよー」
言いつつ、気を抜きながら、机の下で足をふりふりとしているのだろう。いつの間にやら靴を脱いだアカネさんの足先が、気まぐれに俺の足に触れてきて、気が気じゃない。
「だーかーらー、リュウタ君と一緒の方が楽しくて、ドキドキするのー」
俺がこの一週間で知ったこと。それは、今までも不意に見せてくれた、寂しげで、周りのことに疲れがちな普通の女子高生。そんな姿がアカネさんの素顔ということだった。
クラスの中では、いつも笑顔を絶やさないし、人当たりは良いし、敵は作らない。どこか作られた完璧美少女。もちろん、それも魅力的に見えるのだろうけど。
けれど、目の前の、怪獣のことを話したり、愚痴をこぼしてくれる姿の方がずっと自然で。その姿を俺に見せてくれるのが、嬉しいし、そんな彼女のことを守りたいなんて、大それた思いまで募ってしまう。
「……嬉しいな」
「ふふ、聞こえてるよー」
「聞いて欲しかったの」
「知ってたー」
俺は笑って、パスタに手を出す。口に入れると、豊かなソースの味が広がって、美味しかった。
そうして小一時間位、今日はパワードの話で盛り上がった。あの怪獣アレンジは見事だけど、もう少し激しくアクションしても良かったよね、とか。まあ、いつも通り、怪獣大好き同盟らしく、怪獣メインでどこまでも楽しい時間が過ぎていった。
食事の後は、バスに乗っての帰り道。月曜日に初めて知ったのだが、俺の家とアカネさんの家は、案外近いらしい。それも理由にあるからか、怪我が心配だからという理由で、彼女はマンションの前まで送ってくれる。そこに付けばエレベーターがあるので、上り下りには困らない場所まで。
そうして、エントランスの前で名残惜しくも、彼女の手を離す。何時もは、それでお別れのはずだった。
「それじゃあ、また来週」
「うん! ……そういえば、リュウタ君、一人暮らしって、どうしてなの?」
不意打ち。
きっと、本当に不意に気になったとか、そんなことだったのだろう。アカネさん、結構自分の欲求には素直だから。
ふと、考えるが、すぐに教えようと決めた。特に隠すことでないし、まだ早いかもしれないけど、先のことを望むなら知ってもらうことは悪い事じゃない。それを知ってどうこうというタイプではアカネさんはないし、むしろ黙ってる方が嫌に思うだろうから。
「えっと、色々複雑ではあるんだけど……」
「うん」
「小さいころに、お袋が浮気して、家を出て、消息不明」
「……え?」
「親父は働きすぎで過労死」
「え?」
「で、兄貴は成人するなり、アメリカの超一流企業に行って、それっきり」
「……」
なるべく簡潔に説明すると、アカネさんはさすがに驚いたのか、数秒無言で過ごした後、申し訳なさそうに言いよどんだ。改めて話していて、割と深刻な家庭環境だ。
「その、ごめんね。聞きにくいこと……」
「あー、まあ、そうなるよね」
そう言ってくれるのはありがたいけれど、既に過去の話で、自分の中で色々な整理はつけている。兄貴も世間体か、あるいは申し訳なくは思っているのか生活費は振り込んでくれて、親父の遺産もあって、生活に不便はない。
「だから、気にしなくて良いよ。ここなら、夜中もウルトラシリーズ見てて怒られないし。それに、……親父のおかげでアカネさんに会えたから、ちょっと感謝してる」
「……どういうこと?」
少しだけ、昔を思い出す。
「親父さ、警察官だったんだ。まあ、コテコテのドラマみたいな。モロボシ隊長みたいな熱血野郎で、家族は二の次。でも、ウルトラシリーズのビデオテープ、好きだったのか知らないけど、たくさん残してくれて。
それを見るのが、小さいころから好きだった」
一緒に見てくれることはなかったし、お袋が出て行ってからは、ますます仕事にのめり込んだ親父。刑事なんて仕事は重労働で休みなし。過労死は時間の問題だったのだろう。
大嫌いだったのに、そのおかげでアカネさんと知り合えたのだから、人との縁ってやつは面白いものである。
「……そうなんだ」
アカネさんはそう言うと、顔をうつむけて何事かを考えているようだった。もしかして、へんな空気にしてしまったかと不安に思ったが、不意にアカネさんは俺の手を握ってくる。上げられた顔は、柔らかく微笑んでいて。
「リュウタ君、明日で松葉杖なしだよね?」
「うん、その予定だけど」
「それじゃあ、日曜日に遊びにいこうよ」
「……え?」
呆然と呟く俺に、アカネさんは明るく言うのだ。
「だーかーら、デート。デートしよう!」
どんな考えから、その提案に至ったのかは分からない。けれど、短い日々でよくわかったのは、アカネさんが意外と頑固で、割とかわいく我儘で。一度言ったら、止めないこと。つまり、俺としては唐突にデートの予定は決まってしまったということだった。
そして待ち合わせに至る。行先は隣町だった。さすがに、高校の近くで遊べば、他の連中に出会う可能性があるということ。それも、なんだかお忍びデートみたいで、楽しくはある。男はみんなそうなのかは分からないけれど、好きな子との内緒話というのは言い知れないほど魅力的。
待ち合わせ場所は、駅前広場。
不意な予定で、俺はデートプランを立てることはできなかったが、アカネさんの中では巡りたい場所は決まっているそうだ。元々、俺たち二人で何かをするときは、いつもアカネさんが主導。男らしくエスコートもしたいが。
『まあまあ、明日は任されよー!』
なんて、笑顔で言われたら何とも言えない。
そうして、俺は三十分前に到着し、緊張と不安で変なタップダンスの末、アカネさんと無事に出会うことができた。
デート相手である、好きな女の子。
休日だから当然、アカネさんも私服だった。いつかに想像したような、フリルたっぷりのお嬢様みたいな服ではなくて、どこか制服の時と雰囲気は似た。けれど、それこそがアカネさんに似合っていて。俺はすっかり目を離せなくなってしまう。
水族館でレナ隊員に見とれたGUTSの皆さんも、こんな気持ちだったのだろうか。いや、あれは水着で、アカネさんは未だ私服。俺、水着見たら、死んでしまうんじゃないだろうか。
思いが顔に出ていたのだろう。アカネさんは、にやりとからかう視線を向けてくる。
「顔真っ赤! じゃあ、似合ってるんだ? この服」
悪戯な笑み。それに黙って首を何度も降りながら、せめてと声を絞り出した。
「……うん、似合ってる」
「えへへ、これでも結構頑張ったから。そういうリュウタ君も、似合ってるよ!」
そう言い、アカネさんが手を取ってくれる。触れた手は、やっぱり現実感がなくて、柔らかくて、暖かくて、安心する。いつか言ってくれたように、彼女もそう思ってくれていたら嬉しい。
そんな我武者羅な気持ちが溢れてきて、その力をばねに、俺は手を握り返して一歩を踏み出した。行先はカノジョ任せのデートだけど、逸る気持ちは伝えたくて。横に立っているアカネさんは少し頬を染めながら頷いてくれる。
今日はこの子が最高に幸せになる、そんな日にしたかった。
始まったデート。だが、本当に俺は行先を知らなかった。ラインで尋ねても、『内緒』の一点張りで、もしや、高級レストランとか、すごい甘い雰囲気の場所に行くのではないかと、甘くも怖い空想に浸りもしていたのだが。
現実はいい意味で普通の場所だった。それは例えば駅前のゲームセンター。
「よっし! よっし! 死んだー!!!」
「……すっげえ」
アカネさんは店に入るなり、シューティングゲームを凄まじい勢いで攻略していった。一応、二人用で行ったのだが、見せ場ないどころか助けられてばかり。
雄たけびはラスボスをほぼ完封しての勝利の時のもの。大きくとったガッツポーズも、絶対に彼女が学校で見せない笑顔で、俺にだけ見せてくれた顔。その後、我に返った時の照れくさそうな姿も可愛くて。
「ふっ!!!」
今度はこちらが良いところを見せようと、手を出したのはパンチングマシン。俺は気合を入れて、マットにグローブを打ち込む。カウントされたスコアはなかなかだが、いつもよりは点数が低かった。くそ、脚に踏ん張り利いたらもう少し伸びるはずだったのに。
それでも女の子よりは力があるつもりなので、
「やっぱり男の子には勝てないねー」
「これくらいは見せ場つくらないと」
「じゃあ、かっこよかったって言ってあげるよー」
少し拗ねたように、隣でちょいちょいとマットをつついているアカネさんに苦笑いする。
その後も、二人で気ままにゲームセンター中を遊び倒していった。ロボットゲームに、メダルゲーム、ダンス系は足があるので止めておいたが、アカネさんも運動系は苦手のようだった。他にも、
「クレーンゲームって、ほんと理不尽だよ……。お店側でアームの強さ変えられるなんて、ひっどい」
「よしっ! もう一個!!」
「なのに、なんでリュウタ君はそんなに上手いかな……」
「年季があるからね。はい、プレゼント」
そうして、ゼットンのデフォルメぬいぐるみを渡したり、
「えへへへ。十連しょー!!」
「なぜ、勝てないんだ……」
格闘ゲームはズタボロだったり。アカネさんは向かいからピースサインと一緒の勝利宣言。格ゲー系列は、ソコソコできたはずなのに、程よく面白い接戦を演じられても、最後は押し切られてしまう。
ゲームセンターなんて、街中のどこにでもある場所だ。今、いる場所もガラの悪い連中がいない分、過ごしやすいだけ。家の周りにも似たような場所はある。けれど、アカネさんと二人でいるというだけで、こんなにたくさん、いつもと違うアカネさんを見れるだけで、俺にとって、思い出の場所になっていく。
「……そういえば俺、プリクラって撮るの初めてだったな」
「これ、ほんとは、あんまりおもしろくないんだよ。周りがやってるから、やってる子ばっかり。待つの長いのに、写真撮るだけ。ペイントも交代で書くとか、へんなルール多いし。いつも面倒だなーって思ってたの」
そうは言いつつ、アカネさんは笑顔で筐体を操作していく。
「でも、不思議だね。リュウタ君と一緒だと楽しいなー。あ! 怪獣娘あるけど……。リュウタ君は怪獣娘はあり? なし?」
「……あり寄りの無し!」
「おんなじー! じゃあ、別のにしよ……。あ! 普通のウルトラマンもあった。ほら、ゴモラ!」
「おお! いいね!」
それじゃあ、とアカネさんは俺の腕を引いて体を押し付けてくる。彼女の方が背が低いので、俺は少しかがんで。そうするとアカネさんは嬉しそうに頬まで寄せてくれて。
長いと思えなかった時間が終わると、照れる俺と満面の笑顔のアカネさんが、怪獣に囲まれていた。
今までの人生で、こんなに笑ったり、ドキドキした時間はないというくらい、俺とアカネさんは二人の時間を楽しんだ。ゲームセンターを出た後も、一緒にランチを食べて、街をぶらぶら歩いたり、かと思えば、ちょっとした雑貨屋で時間を過ごしたり。
けれど、時間が止まってほしいなんて思っても、理不尽な世界というのは止まってなんてくれない。段々と太陽は夕日へと変わっていく。そんな名残惜しい時間の最後に、アカネさんはあるところへと俺を誘ってくれた。
「ここって……」
駅前の通りから外れた、少し人気のない商店街。そこにぽつねんと鎮座して、俺が見上げる店は、どこか古びていた。
けれど、外見なんて問題はない。知る人が見れば、その中身は宝石のように光り輝いて見えるはずだ。看板には『万屋ウルトラ』。タイトルフォントを真似た看板がかかる、ウルトラシリーズのファンショップ。
アカネさんは腕を組みながら、興奮気味に教えてくれる。
「ここね、マニアの間でも、中々知られていない隠れた名店なんだよ! 他じゃあ売られていないソフビだったり、グッズ売ってるの」
「へえー、例えば、ササヒラーの初版とかも?」
「そうだよー。私、思わず買っちゃったもん」
「マジで!? 持ってるの!? ササヒラー!!?」
ブルマァク三種の神器等とも呼ばれる、ササヒラーのブルマァク初版は手が出せないほどプレミアがついていることで有名だ。ウン百万する激レア品。それを、持っているとは、本当にアカネさんはお嬢様のようだ。
「まあまあ、こんな店先であれですからー。早く入ろ!」
そして、押されつつ入った店内は、一言でいえば凄まじかった。四方八方、全てがウルトラグッズ。変身用のアイテムから、ソフビ、ジオラマ、食玩。最新作から初代からQまで、なんでもござれというラインナップ。
よくもまあ、こんな店がマニアに見つからず存在しているものだと感嘆すら出てしまう。
「ほんと、すごい……」
「えへへ、それを見つける私もすごいでしょ」
「うん、すごい」
手を握るアカネさんと一緒に、俺はこの不思議な店を巡り歩いた。棚一面のソフビに、キングジョー戦を再現した巨大ジオラマ。その奥には、どうやって手に入ったのか、着ぐるみまで置いてある。確か、撮影用のものは倉庫で管理されていると聞くが、どうしたのだろうか。ふと壁を見れば、出演者の方々のサイン色紙や、台本。
何時もグッズはアマゾンで購入していたが、こんな風に綺麗に飾られている場所に来ると、言葉を失うほど圧巻だった。
「すっごいな……」
「リュウタ君、すごいしか言ってないねー」
「ほんとにすごいから……」
さて、とは言いつつも、こういう店に来た以上は何も買わないのはファンとしておかしいもの。アカネさんも、俺に内緒で買いたいものがあると言うので、少しの間だけ別行動。なのだが、少しだけのはずなのに彼女と離れると、なんだか体が寒くて。それだけずっと寄り添っていたのかと不思議な感覚になった。
迷宮のような店の中を、ぐるぐると。時折、良いと思うものを見つけるけれど、値段を見て、びっくりしたり。正直に言えば、自分で生活するだけのお金は兄貴と遺産だよりで、不自由はないけれど、贅沢品を買う余裕はない。夏にでもバイトをして稼ごうかと思っている。
だから、買うなら特別なものにしたくて……。不意に、俺はあるグッズに目を奪われた。
別行動は十分くらいで終わってくれた。
「……おお」
「良いもの沢山見つけちゃって……」
照れ隠しに頭をかくのは彼女の癖。レジで待ち合わせたアカネさんは大きな紙袋を下げて、眉尻を下げている。そうはいってもいくつかの包みを紙袋に入れているので、お互い様だ。こういう時、ファンならそうしてしまうのは仕方ない。
店を出ると、辺りはすっかり暗くなろうとしていた。
「ありゃー、もうこんな時間だ。あとはご飯食べて……。それくらいしかできないね」
駅へ向かう途中、アカネさんが上を見上げながら、ぼんやりと。勘違いでなければ少し残念そうに。それを見たら、恥ずかしさは感じなかった。
「アカネさん、また来よう」
「……え?」
「まだ、一年も始まったばかりだし。夏になれば、ウルフェスとか、またイベントはいっぱいあるから。……俺、アカネさんと一緒に行きたいよ」
言って、彼女の手に熱を伝える。まったく、デートの誘い方がウルフェスなのはどういうことだと、世間一般もとい、クラスの男子たちに聞かれたら猛批判だろう。けれど、
「……うん」
そう言ってゆっくりと体を預けてくれたアカネさんを見れば、それが最高のデートコースになると、思えてならなかった。この先も、二人で時間を過ごせる。夏も冬も、その先も。大好きな人と一緒になら、どこにいても幸せだと。
そんな夢見心地が災いしたのだろうか。
「! アカネさん!!」
「ぇ!?」
俺はアカネさんの腕をつかんで、とっさに引き寄せた。足を怪我していたのを忘れて、そんなことをしたもんだから、上手く踏ん張れず、そのまま地面へと倒れ込んでしまう。けれど、アカネさんだけは俺の上に乗った形で地面に触れることはなく、俺の腕の中にいてくれた。
視界の端から二台の自転車が飛び出してきたのだ。歩道なのに、スピードを出して無灯火。引き寄せなかったら、危うくアカネさんが引っ掛けられるところ。
普通、前ぐらい見るだろうに、自転車からめんどくさそうに降りる奴はスマホ片手の上、いかにもそういうことをしそうな見た目をしている若い男。
ぶつかろうとしたくせに、アカネさんを傷つけようとしたくせにへらへらと笑ってやがる。しかも悪びれもしないで、こんなことを言い出した。
「あ! わっるいねー!」
「ってデートかよ。いちゃついてんのが悪いんだぞー」
「しかも、けっこう可愛い子連れてるし。……ん?」
二人組の片割れが怪訝な顔をして俺たちの方へと目を凝らした。その様子に、苛立ちを抑えつつ、視線をたどると、その先はアカネさんの紙袋。今の衝撃で破れたのかソフビの箱と、大きなハネジローのぬいぐるみをのぞかせている。
見た瞬間、男たちは馬鹿にしたように笑い出した。
「おいおい! その年になってかいじゅーだってよ!」
「こんなかわいいのにもったいないねー」
「もっとましな趣味見つけろよ、ガキ」
言いたい放題。それだけならまだ我慢ができた。
カシャリ
「めっちゃ可愛いけど、怪獣オタクっと」
胸にかかる強い力。腕の中でアカネさんは唇をかみ、怒鳴りたいのを我慢するように手を震わせていて。
それを見た瞬間、止まれなかった。
「……てめえ!!!」
言葉にならない叫び声をあげて、俺はスマホをかっさらうと、大きく車道へと放り投げた。地面へと落ちたそれへと運よく突っ込むのは大型トラックで。小さな音と一緒に、スマホが車の下に消えている。
ためらう気も後悔も、何も起こらなかった。ほんの数秒で、頭が燃え滾る様に熱くて、手が震えて……。
「っざけんな、このオタク野郎!」
何かとは気づけなかった。手を出したのはスマホを壊した男。俺はしたたかに一発、横っ面にくらってしまうと、倒れ込んでしまった。口に血の味が染みて、目がちかちかとする。
もしかしたら、男はさらに手を出そうとしたのかもしれない。だが、騒然となる周囲にすぐ近くの交番。もう一人の片割れの男が止めて、男たちは足早に去っていく。
残ったのは、無様に青天した俺と、散らばったソフビ人形。そして、動けるなり、見た先で、
「……」
とても不思議な顔をしたアカネさんが、呆然と座っていた。
お互いに、無言だった。
さすがに、あの場所に居続けるのは難しかったので、近くの公園のベンチに移動して。そうして座っていると、こめかみのあたりが熱をもってくる。それに冷えたペットボトルをあてながら、横に座った彼女を見た。
アカネさんは、ここに来るまで一言も話さなかった。うつむき、手を強く握って震わせている。それを見て、自分の無茶が嫌になる。
あのまま乱闘になってみろ、アカネさんが怪我をする可能性だってあった。悔しくても、アカネさんの苦しんでいる顔を見ても、耐えればよかったのに。
「……ごめん、怖い思いさせたと思う」
自分でも何が何だか分からない。俺って、こんな喧嘩売るような奴だったか、なんて。それでいて女の子を危険にさらすなんて。大馬鹿野郎もいいところだ。
せめて謝らなければ、何度も自問自答しながら、頭を下げて。自分が嫌になっていく。このままアカネさんの前から消えた方が良いんじゃないかとも思うほど、胸が苦しくて。
そっと、柔らかいものに包まれた。
「……え」
頭を上げると、今度は力が込められて。
抱きしめられている。そう気が付いたのは、耳元に暖かな吐息を感じ取った時。
「ねえ、どうして?」
小さな問いかけ。彼女の顔は、見えない。
「どうして、リュウタ君が怒ったの?」
彼女の言葉はそれだけだった。
どうして、なぜ。
それだけを尋ねる言葉。シンプルな疑問。それ以上は尋ねることなく、アカネさんはただ、俺を包んで答えを求めている。
趣味を馬鹿にされたから。
デートを邪魔されたから。
あいつが単にむかついたから。
そんな浅い理由じゃないのは分かっている。アカネさんと出会ってから、ずっと心に燻ぶらせていた、どうしようもなく偉そうで、それでも裏切れない思いがあったから。
だから、その小さな声に、俺は答えてしまった。ずっと言いたくて、怖かった言葉を。
「アカネさんのことが好きだから、大好きだから。……だから、君を傷つけたアイツが、許せなかった」
ああ、言ってしまった。
口をついて出た言葉ごと、魂が抜け出るような。なんだか、すっきりして、安らかな気持ちだった。本当はずっと考えていたんだ。あと数回デートしたら、どこかロマンチックな場所に誘って、ちゃんとしたプレゼントをもって伝えたかったのに。
頭を腫らして、こんなどこにでもある公園で。
けれど、なんだか、そうするのが自然だったように。言葉に嘘と後悔はなかった。
アカネさんから、返事はしばらく返ってこなかった。
ただ、互いに温度を交換するように。どれだけの時間がたったのか分からない。ようやくと、口を開いたアカネさんが微かな声で呟き始める。それはもしかしたら、彼女も誰に伝えるつもりはなかったかもしれないほどの繊細な声。
「……アイツ、ぶっ殺してやりたいって思った。
今日、すごく楽しかったのに、最後にぶち壊して。ぶつかってきて。せっかく買ったソフビに、リュウタ君へのプレゼントも汚して、それなのにへらへら笑って、馬鹿にしてきて、写真まで撮ろうとして……。
あんな奴生きてる価値なんてないし、殺してやりたいって思った」
「……うん」
次第に首に回される力が強くなる。彼女の震えも、温度も、はっきりと色を帯びていく。彼女が言うには、あまりにも物騒な言葉。けれど、きっと俺たちのような高校生なら、心のどこかで思う言葉。だから、俺も彼女を否定できない。俺も、同じことを考えていたから。
ふ、とアカネさんが力を抜く。
「……けど、不思議なんだ。そんなことよりも、リュウタ君が殴られた時、もっと強く思ったの。あいつ、絶対に許さないって。
……おかしいよね。私が殴られたわけじゃないのに。
いつも一緒にいてくれて、怪獣の話を笑わずに聞いてくれて、サッカーがちょっとカッコよくて、それで、私をいらいらさせない、楽しくさせてくれる」
「……けど、リュウタ君は私じゃなくて、別の人なのに。……なんで、私がこんなに怒っているんだろうね」
それが、彼女を悩ませていた、わからないことだったのかもしれない。
どうして、他人のために怒れるのか。
「けど、ようやくわかったよ……」
言い残し、アカネさんの温度が離れていく。
目の前の彼女は穏やかで、すっきりした顔をしていた。ずっと悩んでいた答えを見つけたような、ゴールにたどり着いたような表情で、とても綺麗な夢見るように。
「私もね、リュウタ君のこと、好きだったんだ」
その言葉をとっさに理解はできなかった。彼女が言うなり、唇に熱を感じたから。
直ぐ近くにアカネさんがいた。触れ合う場所は、熱くて、焼けそうで、けれどずっと触れていたい。なんだか生々しい存在感に圧倒されながらも、夢うつつのような。
彼女と唇を重ねている。そう思った瞬間の心を、俺は説明することなんてできない。
ただ、このままでいたくて。彼女のことをもっと感じたくて、ただ必死に心に振り落とされないようにアカネさんにしがみついていた。
「……」
「……」
「えっと……」
「うん……」
あれからしばらく時間がたった。結局、どちらも離れることができなくて、十分くらい、ずっと抱き合ったまま、不思議な気分で何度も口づけを交わして。
その後、子供が公園に遊びに来たのに我に返り、二人で慌てて移動したのが少し前。足元がおぼつかなかった。痛めたからとかでなくて、ふわふわと重力から離れるようで。けれど、現実感のない中、お互いに伝えあった言葉と行為だけは鮮明に焼き付いている。
お互いに手をつないだまま、赤くなった顔を寄せ合って、
「……その、改めてなんだけど、俺と付き合ってくれないかな?」
「……えへへ。うん、嬉しいな」
そうして二人、何となく恥ずかしくて、けれど優しい気持ちのまま家路につく。口数は少ないけど、手をつないでいるだけで、十分。歩いている感覚もないほど、ゆっくりと動いて。それでも、名残惜しくともゴールは近づいてしまうから。
「……着いちゃったね」
「……うん」
アカネさんの家は、驚くほどの豪邸だった。けれど、今は、驚く気にはならない。
俺は離したくないという心をしかりつけて、手を離し、彼女へと破れた紙袋を渡した。そのまま持ち運ぶのは大変だったので、俺が左手で抱えてきたのだ。
あとは、門の向こうへアカネさんを見送るだけ。けれど、彼女はじっと動かず前にいて、照れ臭そうに袋からぬいぐるみを取り出した。怪獣の名前を付けるには、可愛らしく、やさしいキャラクター。それを俺に手渡してくれる。
「……ほら、前にハネジロー好きだって言ってたでしょ? ちょっとあいつらのせいで汚れちゃったけど、プレゼント」
「あ、あー、もう、嬉しいなあ」
この年になってぬいぐるみ抱きしめて泣きそうになるなんて、思わなかった。
「そんなに好きだったの、ハネジロー?」
「アカネさんがくれたのが嬉しいんだよ」
「ちゃんとわかってるよー。私だってハネジローには嫉妬したくないからねー」
「……じゃあ、俺もこいつに嫉妬しないようにしないと」
言いつつ、俺も小さな袋を手渡す。正直に言えば、今日、こんな進展を迎えるとは思っていなかったから、もしかしたら、傍から見れば奇妙なものに見えるかもしれない。けど、それでも。
アカネさんは袋を開けると、ほほえみつつ、目を細める。
「ねーねー。女の子のプレゼントに、これ送る人って、リュウタ君くらいじゃないかな?」
「やっぱり、変だったかな? 前に大好きだって言ってたし、すごいいい出来だったから」
「んー、覚えていてくれたから、すっごい嬉しい!」
アカネさんの手に載せられるというソフビにしては最高級の扱いを受けるのは、かのティガにおけるラスボス、ガタノゾーア。リアル寄りの造形なものだから、可憐なアカネさんとのアンバランスさは凄まじい。
さて、趣味枠は終わったので。
「あと、これも……」
ソフビを見て笑っている彼女の隙をつくように、俺はそっと彼女に近づいて、首に手を回す。あー、もう、なんで上手くつけられないかな。スムーズとはいかなくても、ようやくと彼女の首につけられたのは、小さな赤い石が着いたネックレス。雑貨屋で見つけつつ、いつか渡そうと、こっそり買ってしまったもの。
それを手に取ると、アカネさんは困ったように頬を膨らませる。
「えー、ふたつもプレゼントくれるなんてずるいじゃん! 私からお返しできるの、今ないよ!」
「それは、次の時に期待してるよ」
「もう、今返してあげたいのに……。それじゃあ……」
アカネさんとの距離が近づいて、頬に柔らかいものが触れる。そっと時間をおいて離れるそれは、どんなプレゼントよりも嬉しいお返しだった。
「あー、でも、これ、やっぱりお返しじゃないね。私も、嬉しくなっちゃったし……。やっぱり、また今度ということでー」
「……。あー、もう、好きだ」
「私もすきー! えへへ」
ああ、今自分がいる場所が、夢の中だとしか思えなかった。けれど、アカネさんの暖かさと、確かな腕の感触が現実の世界だと教えてくれる。そのまま俺たちは抱き合って、何度かキスして、そうしてようやく、また明日と別れるのだった。
「そういえば、うち、今誰もいないけど、どうする?」
なんて悪戯な微笑みには、顔を真っ赤にしつつも固辞したことを最後に書き残しておく。
一人帰る暗い夜道。見上げる星のように、これからの日々が明るくなるだろう、なんて。俺は浮かれてはしゃぐ子供のように、輝く未来を想像していた。
「たっだいまー、アレクシス―!!」
『おやおや! とても上機嫌じゃないか! 何か嬉しい事でもあったのかい?』
暗く、怪獣だらけの部屋には、その声は不釣り合いだった。入るなり、嬉しくて楽しくてたまらない、幸せだと声だけでなく全身で訴えるように、少女は舞い踊る。
バッグを放り投げて、けれどプレゼントのソフビは大切に棚の上に置いて。そして首から下げたネックレスを指で撫でながら、ごみ袋の上にダイブ。少女はとろける様な笑顔で怪人へと惚気だしてしまった。
「あったんだー、すっごい嬉しいこと! うふふ、告白されてぇ、キスしちゃった!!」
その景色を思い出すなり、少女はごみ袋の上で身をよじり、笑顔のまま、何度も袋を叩いて。
それを見た怪人は少女へとそれはそれは嬉しそうに、話しかけるのだ。
『告白、かい? もしかしてお相手は……』
「うん! そうだよー、リュウタ君!! あー、もう、だいすきー!! 優しくて、私のこと分かってくれて、守ってくれて、一緒にいると楽しいリュウタ君!
ねえ、アレクシス! これが好きってことなんだね!! うふふ、だからあいつら、殺したくなったんだ! もー、あれだけ悩んでたのが馬鹿みたい!!」
『それはそれは、おめでとう。君の答えが見つかって、私も嬉しいよ! それで、付き合ったら、君たちはどうするんだい?』
怪人の言葉に、少女はきょとんと眼を丸めて、ごみ袋から立ち上がった。今は未だ目の前のことしか見えてなかったと、気づかされ、改めて先のことを考えてみる。
「あー、それ、大事だよね! すごい勢いで告白しちゃったから、あまり先のこと考えてなかったかも。でもー、今は恋人らしいこと、たくさんしたいな! 一緒にいて、楽しいこと!!
えへへー、キスとか、お泊りとか。もっと先のことはー、まだ早いかなー♪」
幸せいっぱいの笑顔。
怪人はならばこそ、少女へと提案をする。
それは親愛に満ちた父親のように、あるいは互いを知り合っている友人のように。けれど、声と裏腹に動かない表情から、彼の感情を読み取ることはできなかった。
怪人は言う。
『そうか、そうか。楽しそうだねえ。それじゃあ、そんな君に、私からもアドバイスしよう』
「えー、なにー、アレクシス、人間じゃないのにアドバイスできるの?」
『ああー、それを言われると自信が無くなるなあ。けれど、私たちのやっていることに彼も誘ってみる、なんてどうだろう?』
少女の一番の楽しみ。一番の愉悦。怪獣趣味として、最高の贅沢。
少女は目を丸くしつつ、喜色に顔を染め上げる。
「……え!? いいの!?」
『私は全然かまわないよ。君の大切な人で、怪獣が大好き! 一緒にこの世界で遊べれば、もっと楽しくなれるはずさ』
「アレクシス、それ、さいっこー!! じゃあ、さっそくリュウタ君連れてこないとね! あ、でもでも、この部屋だとちょっと呼ぶの恥ずかしいから、まずは掃除しないと……」
『フフフ、楽しみだね、アカネ君』
「うん! そうだね! 早く一緒に遊びたいなー、リュウタ君」
たどり着いた二人の関係。
少年が選択を迫られるのは、すぐ先のこと。