獣を狩れ、ゴブリンもまた然り   作:YSHS

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【お知らせ】
 1、予定外ですが、この回から、急遽思い付いたオリキャラを投入します。つきましては、小説情報に『オリキャラ』タグを追加いたします。オリキャラが出ないと安心していた方には、深くお詫び申し上げます。ですが、変に出しゃばらないよう調教しておきますので、伏して宜しくお願いします。

 2、主人公の国籍、及びヤーナムの所在をチェコとしていますが、しかしDLCの漁村の事を考えると、内陸国のチェコはおかしいんじゃないかと思いました。しかしながら、既に主人公の特徴などにチェコっぽいところを付加しており、また、もう一つの候補にルーマニアがあったのですが、あそこははやたらと領土が変わっていてややこしいため、引き続きチェコの設定を使います。漁村については、皆さんの啓蒙でもって補完をお願いします。

 3、卒論が大詰めになってきたので、投稿ペースを落とします。悪しからず。


獣狩りの弟子

【0】

 

 俺は今、信じられないものを前にしている。

 

 古い狩人たちが彷徨う悪夢の世界。その中での、かつての医療教会が実験を行っていたらしい施設。そこを進んだ先にあった時計塔にて、椅子に座りながら地面に大量の血を流し切って死んでいる女を発見した。何故死んでいるのかは分からない。身体には争った痕が無いことから、自尽も考えられる。

 

 驚くことにその女は、俺が拠点としている狩人の夢に居る人形と全く同じ顔立ちをしていた。体格も似ているようだ。あの植え込みの縁に腰掛ける彼女と姿が重なる。

 

 服装から、彼女は狩人らしい。白い羽の付いた三角帽を被っている。装束は狩人の多分に漏れず暗い色だが、やけに仕立てが良く上品で、緑系のブローチがあしらわれた白いスカーフに、左肩のマントが、まるで貴族だ。

 

 足を組んで椅子に座り、膝の上には剣が置いてある。この剣は片刃で、柄尻からは短めの剣が飛び出している。成程立派な様だが、命の尽きた今となっては、膝の上から落ちようとしている剣と言い、体勢の崩れたその姿と言い、虚しく物哀しい抜け殻にしか見えない。

 

 マリア様(Lady Maria)……、たしかそうだった。実験棟に居たアデラインたち――あの頭が肥大した不気味な奴らはそう言っていた。

 

 もっと調べてみようとこの女に手を伸ばした時、突然その腕が跳ね起きて俺の腕を掴んだ。

 

 狸寝入りでも決め込んでいたのか分からないが、彼女の目は開き、俺を引き寄せて顔を近づけてきた。

 

 「死者の周りをせわしく嗅ぎ回るものじゃあない。気持ちは分からないでもないが」

 

 俺の目と鼻の先で、ひどく端正な顔が、透き通った声で囁くように警告を紡いだ。そののち、彼女は俺の腕を離した。

 

 「なるほど、悪夢の中なら何でも有りなんだな」

 

 後ずさりながら俺は一人納得した。

 

 平静を装っているが、俺の胸の内はこの女に、マリアによって激しく揺さぶられていた。死人が突如として蘇ったというホラーにではなく、その蠱惑的な気品にだ。心臓を掴まれ、鼓動を支配されているみたいに。

 

 「秘密とは、甘いモノ、そして甘く誘う者。だからこそ、そこから引き摺り出す力が要る。純然たるヌバタマの死の引力が、お前をその無粋な好奇から弾き出すだろう……」

 

 マリアはゆっくりと立ち上がった。膝にあった剣を手に取って、もう片方の手で柄尻の短剣の首を掴む。そして金属が鳴り響く音と共に引き抜き両者を分離させれば、それまで一本だった剣は、今度は長物と短物の二本となる。

 

 これが……『落葉』。穢れた血族カインハーストの近衛騎士が扱っていた異邦の武器『千景』と同邦の武器。

 

 変形させた武器を両手に、悠然と俺に迫りくる。ただそれだけのことに俺は圧倒され、手に持った長剣を構えた。

 

 それと同時に、マリアがこっちへ突撃しようと床を蹴ったのが見えて、俺は避けようと身体を動かした。

 

 だが、そうしようと重心を移動させようとする間に、それよりも速く彼女は、煙のような残像を残しつつ俺へ肉薄していた。

 

 次の瞬間、重々しい金属音が炸裂した。俺が咄嗟に剣で彼女の攻撃を防いだのだ。

 

 続け様にマリアは、二本の剣による連撃を仕掛けてきた。だが、俺が無理矢理大剣を振って弾き返す。()()は二度も同じ手は喰わない。

 

 押し返されたマリアは、自らに付けられた傷を見た。

 

 「フフフフッ、なかなかやるな……」

 

 静かに笑いながら言うと、いきなり彼女は、手にしていた二本の剣を自身に突き刺したのである。

 

 またもや自決か、とは思わなかった。何故なら、自分の血を激しく散らしながらこちらを見る彼女の眼に、まさに戦いはここからだと言わんばかりの闘争心が滾っていたからだ。

 

 急に悪寒が走って、俺は彼女から離れた。その直後に、彼女が自身の身体に突き刺していた剣を引き抜くと、強烈な衝撃と共に四方八方に血の奔流を飛ばしたのであった。それはさながら滝の如し。飛来する血でさえ、離れていたはずの俺に強い衝撃を与える。

 

 思わず腕で顔を庇ってしまい、判断が遅れる。しまったと慌ててマリアを見るがもう遅く、彼女は血の螺旋を描きながら高く飛び上がり、そこから俺に向かって一気に下降してき、剣を床に叩き付けた。瞬間、そこから爆裂が起き、俺は吹き飛ばされた。

 

 何が何だか分からない。何故爆発が起きた。

 

 素早く立ち上がって俺は再び彼女に目を向ける。彼女は落葉を元の一本に戻し、切っ先をこちらに向けつつそれを顔の横で構えていた。

 

 次に彼女が剣を突き出すと、これに伴って血が鋭く飛び出してきた。辛うじて俺はこれを躱す。が、躱した俺のすぐ横で、それが灼熱の炎となって俺の肌を焼いた。

 

 「血が、燃えているのか!……」

 

 マリアはこれに悶える暇を与えてはくれない。再び落葉を二本に分離させ、素早く振る。それらが残した血の軌跡が、直前の攻撃と同様に激しく燃えながら俺を襲う。

 

 たまらず俺は、出来る限り彼女から離れ、輸血液を自分に投与して体勢を立て直した。彼女はと言うと、俺を深追いせずに、静かに佇んでいた。手に持った剣には彼女の血が纏わり付き、禍々しい刃を形成してひとしお長くなっていた。

 

 彼女は傲然と、俺に侮蔑の眼を寄こし、

 

 「お前にはどう映る。お前はこの燃える血を、華美だと思うか、はたまた醜悪だと思うか。燃え盛るこの血は、まさしく私の怒り……。哀れなローレンス……、彼は血を制御すると気負いながら、私のこの血には耐えられず、内側からその身を灼かれてしまった……。けれども因果応報。傲慢で冒涜的な研究のために罪無き人々を踏み躙ったことを、自覚するべきだった」

 

 そして先生……、と挟むマリア。

 

 「ゲールマン先生……、私の心はあの事件以来、あなたから離れてしまった……。だのに、どうして気付いてくださらなかったのですか?……」

 

 どこか切なそうな声で、ほろりと涙を落とす。

 

 俺がこの悪夢に来た時、同じく悪夢に迷い込んでいたシモンという男が言っていた。

 

 ――秘密には、常に隠す者が居る。それが恥なら、尚更というものさ。

 

 恥を隠したいというのは、誰にでもあることだ。だが、隠し事とは辛く、息苦しい。

 

 腰に銃を仕舞い、俺は持っていた大剣を頭上に掲げる。どこからか降り注ぐ月の光を受け、その剣身は青白く輝く。輝きを纏ったこの剣は、それまでよりも一際厚く、また剣幅が広がった。

 

 「俺がこれからやろうとすることは、ただの野暮天でしか……、ただの節介でしかないかもしれない……」

 

 この発光する剣を見て、感嘆の息を漏らしてから、言葉を紡ぎ出す。

 

 「それでも俺は、この月明りの導きを頼りに真実を暴く。……押し通らせてもらうぞ」

 

 こう結び、俺はマリアに剣を向けた。

 

【1】

 

 すっかりと日の暮れた夜。ギルドはくたびれた冒険者たちで溢れ返っている。近頃ゴブリンスレイヤーとよく一緒に行動している女神官もまた、未だ慣れぬゴブリン退治に疲れ、席に座って休んでいる。

 

 彼女はつい最近冒険者登録をしたばかりである。そして最初の依頼となるゴブリン討伐を受け、しくじった。

 

 青年剣士と、その連れの女格闘家に、女魔術師の三人が居たのだが、彼らは女神官を残して全員脱落してしまった。

 

 最初に青年剣士がゴブリンに袋叩きにされて死亡した。

 

 次いで女格闘家は体格の大きなホブゴブリンという個体に脚を折られ、その後ゴブリンたちに凌辱され再起不能となった。

 

 女魔術師は毒の塗りたくられた剣で腹を刺されて死にかけたものの、幸いにも女神官の治癒(ヒール)の奇跡と、たまたま持ち合わせていた期限切れかけの解毒薬(アンチドーテ)のお陰で一命を取り留めた。が、そのまま行動不能に。

 

 で、その絶体絶命の窮地に現れたゴブリンスレイヤーによって救われ、その後洞窟内のゴブリンを殲滅したのであった。

 

 爾来、彼女はゴブリンスレイヤーと連れ立ってゴブリン退治に同行しているのであった。恩義がある、ということもあるが、何よりも彼が心配で仕方がなかった。

 

 彼は偏執的なまでにゴブリン退治に執着し、他の何もかもを捨ててしまいそうなほどにゴブリン退治にこだわっている。他に人生の目的を持たず、ただひたすらにゴブリンを退治し続けるという行動をし続ける。忌憚なく言えば、己の時間を無為に浪費していると言える。だから心配なのだ。

 

 されど、彼女が気にしていることはこれだけではない。例えば、あの最初のゴブリンの依頼で、彼女と一緒に生還した二人の内の一人である女魔術師のことだ。

 

 あれ以来女魔術師は誰とも組まず、一人で、溝さらいや大鼠退治をしているらしい。依頼を受ける度に下水の臭いを衣服に付けて持ち帰り、服を洗う余裕も悪臭を消す余裕も無く、惨めで寂しそうな冒険者生活を送っている。女神官としても、そんな女魔術師を放ってはおけなかったのだが、しかし女魔術師のほうはにべもなく女神官をあしらうばかりであった。

 

 それに女魔術師はゴブリンに対してトラウマを持っているのだ。仲間に誘うにしても、ゴブリンスレイヤーも居るとなると、必然的にゴブリン退治に彼女を引っ張ることになる。それではいたずらに彼女を傷付けるだけだというジレンマである。

 

 ギルドの扉を開け、また冒険者の一団が帰ってきた。ふと女神官は、その人物らに目を向け、そして瞠目し、思わず二度見した。

 

 入ってきたのは狩人である。女神官が受けたあの最初のゴブリンの依頼で、水薬と解毒薬を期限が切れかけていると言って譲ってくれた恩人である。

 

 で、続いて入ってきたのは女である。年は大体十代後半くらい。狩人と似たような、羽の付いた三角帽を被り、手には何やら物々しい金属製の杖を持っている。

 

 いつも一人だと聞いていた狩人が、仲間と思しき人物を当たり前のように伴っていることにも驚きではあるが、女神官が驚いたのはそこではなく、三番目に入ってきた人物にである。

 

 それはあの女魔術師だった。例のゴブリンの依頼でたった一度だけ組んだあの女魔術師その人であった。

 

 ほとほと疲れた様子でギルドに入ってきた彼女を、羽帽子の女が、さも親しげに引っ張り込んだ。

 

 「ささ、私の切り札さん! 今日は私たちコンビの初陣成功のお祝いにビールでも飲みましょう、ビール! ラガー!」

 

 対する羽帽子はやけにハイテンションである。着用している衣服のほぼ全面が血にまみれ、チョコレートのように赤黒く、これらから激しい戦いをしたことが知れる。のだが、当の本人は全く疲れが見えないくらい漲っていた。

 

 「その切り札って言うのはやめて。今回はあなたに強引に連れ出されただけで、私はあなたと組んだわけじゃない」

 

 と言い立てて女魔術師は、羽帽子の女から離れようと、離れた所にある席に一人で座ろうとする。が、それに羽帽子がついて行って勝手に同席した。女魔術師は席を立とうとしたが、他に良い場所が見当たらないということで、諦めたようだった。

 

 「というか、何で私なのよ」

 

 「え、だって先生が、相方見つけてこいって」

 

 と羽帽子が、席の近くまで来た獣の狩人を見て言った。

 

 「本当に、他を当たってよ、頼むから……」

 

 女魔術師はぼやいた。勘弁してほしいという気持ちがしみじみと伝わってくるぼやきだ。

 

 「えー、だって他に組んでくれそうなフリーの人って居なかったんですもん」

 

 「この田舎者」

 

 と怒気を含ませて女魔術師は毒づくが、気力が枯れていては最早怒りの表情すらも出ない、浮浪者のように気だるげな相好であった。

 

 「田舎者だもーん、この辺境の地の村暮らしだったんだもーん。ね、先生? あたしって田舎者ですよね。先生なら知ってるでしょう、何て言っても前にゴブリンの巣から私を救ってくれましたし、その足で一緒に村に帰りましたよね? ゴブリンスレイヤーっていう人も一緒でしたよね?」

 

 言いながら羽帽子は目の上に手をかざして周囲をキョロキョロと見渡し、それから女神官の方の、ちょうど彼女の横に来ていたゴブリンスレイヤーを見つけ、

 

 「あっ、ゴブリンスレイヤーさーん、ご無沙汰してまーす!」

 

 席から立ち上がり、手を大きく振ってゴブリンスレイヤーに挨拶をした。

 

 ただでさえ、獣の狩人という――良くも悪くも――有名な人物と一緒に居て、かつ浮いた風体をしているのに、その上そんな目立つ行動をしたものだから、羽帽子自身やゴブリンスレイヤーらは、ギルドに居た者たちからの視線を一挙に集めた。呼び掛けられた当のゴブリンスレイヤーや、羽帽子の連れである獣の狩人はそれらの視線をどこ吹く風として平然と受け止めているが、恥じらいというものを持ち合わせていた女神官(聖職者)と女魔術師(エリート)のほうは居た堪れずに俯き赤面した。

 

 快活なものである。まさかこの闊達な十代後半の乙女が、つい最近ゴブリンの集団に玩具のように凌辱され、父親が獣となって、のちにその父親が処理され、然り而して何らかの事情があって冒険者とならざるを得なくなったという残酷な運命を背負っていると、誰が考えようか。

 

 事情を知っている獣の狩人とゴブリンスレイヤーはともかく、少なくとも、現在このギルド内で彼女を見た冒険者やギルド職員らは、気持ちの良いくらい元気の良い羽帽子の彼女に、相好を崩したり、やかましい奴だと呆れたりはしても、彼女の過去を察して憐憫を抱くことはない。

 

 さながら、破滅の未来へ向けて、水面下で病が進行するみたいに。




 ゲッターロボや虚無戦記の石川賢にブラッドボーンのコミカライズを描いてもらったら面白そう。十中八九、虚無るだろうけど。
 問題があるとすれば、ゲッター線に取り込まれた石川賢氏を取り戻す方法が見つからないことぐらいか。
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