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「天体観測ツアー? いきなり私の教室に来てどうしたの? 日菜」
放課後になり、アタシと同じ読みの名前をした大切な友人である彼女のクラスのHRが終わるのを待ち、それが終わると彼女の机に直行し、思い付きを話したアタシに対して彼女はそう返してきた。
「うん! ほらさ、去年におねーちゃんと三人で一緒に天体観測ツアーに行ったでしょ? そのツアーが今年もやるみたいでね? それでるんってきちゃって、昨日ついチラシ貰って来たんだよねー。でさでさ、今年も一緒に行かない?ほら、受験の息抜きみたい感じでさ」
アタシがそう言うと彼女は暫く考え込む。その姿を見て、おねーちゃんと似てるなー、と思ったら少しだけ笑ってしまった。私と同じ読みの名前でおねーちゃんと似てる。その事がなんだかとても気分が良か感じる。
「……何でいきなり笑ってるの、日菜? 何か変なところでもあった?」
「んーん。なんでもないよー」
笑ってるのに気付かれてしまったのか、彼女が問いかけてくるが、これは流石に誤魔化す。いくらなんでもそんな変な事を言うのはマズイというのは、おねーちゃんに貴女は遠慮が無いとよく言われるアタシでも分かる。
「そう? ならいいんだけど。で、天体観測のことよね。私としては問題無いと思うけど、お父さんの事情とかあるかもしれないし、返事は今晩にするって事で良い? あと、紗夜の事もあるよね」
「あー、おねーちゃん今年は行けそうにないってさ……。返事はそれで大丈夫だよ。じゃあ待ってるねー。……あ、そうだ! あとね、チラシ貰った帰りにるんってきそうな新作のハンバーガーを見かけたんだけど、帰りに一緒に行かない?」
「あー……。ごめん、今日は塾があるから行けないかも。紗夜でも誘って行ってみたら?絶対に行くと思うけど」
「うーん……。そう思ったんだけど、残念な事にこっちの話しももうおねーちゃんに振られた後なんだよねー」
部活が遅くなる為に行けない。そう言ったその時のおねーちゃんの顔は凄く悔しそうでしょんぼりしていて、とっても可愛らしいものだった。……まあ、それを言ってしまうと、暫く口をきいてくれないから黙っているが。
「……でも、そっか塾かー……。アタシ勉強なんて一回見たら覚えちゃうし、わざわざ塾に行くなんて考えた事も無かったなー……」
「うーわ出た、日菜の無自覚天才発言。私や紗夜はもう慣れたけど、それをあんま他の人に言わない方が良いって分かってるでしょ……」
「まぁねー。そーゆー事ならしょうがないし、アタシは一人で行くとしますかー」
本当は二人と行きたかったがしょうがない。ほんの少しの寂しさと、何故か分からない胸の痛みと共にアタシがそう言うと、荷物の整理を終えた彼女が溜息をつく。
「……行くことは行くのね。日菜、途中までは一緒に行ってあげるし、時間があるなら一緒に食べて行くから、そんなしょぼくれた顔をしないで」
「えっ、いいの! 確かに三人で行きたいなぁって思ってたからすっごい嬉しいけど、別に無理しないでいいんだよ?」
少しだけ心配だ。彼女はよくアタシ達と合わせる為に無理をしている節があるので、おねーちゃんにも程々にするように言われているのだ。その思いに気付いたのか彼女は少し困ったような笑顔をして、アタシの手を取る。……けど、どこかモヤモヤする。
「いーのいーの。最近は受験とかで日菜と遊んだり出来なかったし、これから忙しくなるからね、少しリフレッシュだよ。だから心配しないで大丈夫だから。さ、早く行かないと間に合わないし、行こ?」
「んー……。うん……。……えいっ」
「きゃっ! いきなり何するのよ日菜! びっくりするから急に抱きつくのはやめてって言ってるでしょ!」
「えへへ〜。ごめんごめん。なんか急にこうしたくなったんだよねー。あっ、でもそう言うって事はさ、事前に言えばやってもいいって事?」
「良い訳無いじゃんもう……。ほら、行かないなら置いて行くよー」
「あー! 行くから置いてかないでよー」
そうして歩き始めた彼女の笑顔は、さっきと同じ少し困ったような笑顔だったが、今の笑顔の方がアタシにとっては凄く心踊るものだった。
「るんってするなぁ……」
「どうしたの日菜? そういえば、さっきから機嫌が良いけど、なんか良い事あった?」
「んー? いやーこんな毎日が楽しくて、ずっと続けば良いのにって」
それを聞いた彼女は歩みを止めて、少しだけ笑顔を曇らせてそれを振り払うように微笑んだ。
「……そうだね。ずっと、ずっと続けば良いのにね。……あれ、そのバーガーショップって確か学校近くのこっちの方だよね。日菜」
「うん、そうだけど……。大丈夫? 本当に辛いならアタシは一人で大丈夫だから無理しないでいいんだよ?」
「大丈夫だよ、日菜。辛いとかそういう訳じゃないの。ただちょっとだけ高校になってからの事を考えてるとね、どうしようってなってるだけだから、日菜は心配しなくてもいいんだよ」
「そう? でもさ、悩んでる事があったら相談してよ! アタシだけじゃなくておねーちゃんも絶対力を貸すから!」
「うん。有難うね、日菜。その言葉だけでも凄く気分が楽になったよ。……あ、ここでいいんだっけ?」
「そうそう、ここだよー! いやー気になってたんだよねー、夏限定の夏野菜バーガー!」
話しているうちに、気付けばもう着いてしまっていたらしく、目的の店の前にある広告を見た彼女は、少しだけ唸る。
「夏野菜……ね。ナスは入ってるのかな……」
「あーナス嫌いなんだっけ? まぁアタシが食べたいだけだし、別にいいんじゃない?」
「うーん、それはそうなんだけどね……。でも全然無理って訳じゃないし、せっかくなら食べてみようかなぁって。それにあんまり混んでないし、塾にも多分間に合うと思うから」
「そう? ならアタシが注文してくるから席取っといて貰っていい? 夏野菜二つのセットで良いよね?」
「それでいいよ。はい、お金。じゃあ席取って来るねー」
ほんの少しして、注文した商品を持って彼女の座る席を探す。彼女はアタシの事に気付いたのか、手を振ってくれたのでその方へと進む。
「おまたせー」
「うん、ありがとうね。じゃあ早速食べようか」
そう言って食べ始めようとする彼女を制止して、ポケットから携帯を取り出して写真を撮り、トークアプリのおねーちゃんの項目に送信する。
「ん? どうしたの、日菜。急に写真なんか撮って」
「えへへ〜。後でおねーちゃんに送ろうかなーって」
「うわー、やめときなよ日菜ー。紗夜、絶対怒るよ?」
「うー、そうだけどさー。先週さー、おねーちゃんと一緒に服買いに出掛けたでしょー? アタシもすっごく行きたかったのに、おねーちゃんが写真送って来たから、今日はその仕返しー」
「もー、あの時だって紗夜に着せ替え人形にされて大変だったんだよー。素材が良いからお洒落を覚えておいて損はないってさー」
「まぁ実際アタシも可愛いと思うよ。さーさー、早く食べよう」
「そうかなぁ……。私は日菜や紗夜の方が可愛いと思うけどなぁ……。でも、そうだね、早く食べようか。…………あ、結構美味しいよ、これ」
そう言って食べ始めた彼女の姿を見て考える。背中の中頃まである綺麗な黒髪、タレ目で優しい印象を与える、綺麗というよりか可愛いらしい顔立ち。おねーちゃんより少し背が高く、言うなればモデル体型をしている。これで可愛いとか綺麗とかじゃないなら、いくらアタシだって少し自信を失くす。
「……ねぇ……日菜? そんなに見つめられると、その……少し食べづらいんだけど……。どうしたの?」
「えっ? あー、ごめんごめん。やっぱり可愛いなーって思ってつい見ちゃってた」
その言葉を聞いた彼女はみるみるうちに顔を赤く染め、それを誤魔化すように食べるペースを早める。
「もうさー! いきなりそんな恥ずかしい事言うのやめてよー! ……もう塾の時間だから行くね!」
「はーい。気を付けてねー。…………さて、行っちゃったし、アタシもそろそろ食べよっと。……うん、確かにるんってくる美味しさだねー」
そう言って店を出て行く彼女に手を振って、自分の分を食べ進める。また今度食べに来ようと思っていると、携帯のトークアプリアプリからの通知音。送信者はおねーちゃん。
『帰ったら話したい事があるから、私の部屋に来なさい。それと、あまり食べ過ぎてはダメよ』
「あちゃー、やっぱり怒らせちゃったかなー。しょーがない。早めに帰るとしますかー」
『天体観測ツアーの日は大丈夫だったよ。また今度必要なものとかあったら教えてね』
おねーちゃんとの話や夕食を食べだ後のアタシの部屋。待ち望んだ彼女からのその連絡が来た時のアタシの心は喜びに溢れていた。
「おねーちゃぁぁん! あの子から天体観測の日が大丈夫って連絡があったの!」
「とりあえず日菜。部屋に入る時はノックしなさいって言ってるでしょ。いきなり部屋に入って来て何事かと思ったじゃない……」
「あ……ごめんなさい。でもね! アタシすっごく嬉しくて、るるんって感じなの!」
アタシは気が付けばおねーちゃんの部屋に入っていて、ギターの練習をしてたらしいおねーちゃんは、驚いたのかピックに床に落としていた。
「そう……。私は行けないから貴女達の話を楽しみにしてるから、楽しんで来なさい。……あぁでも、あまりあの子に迷惑掛けてはだめよ」
「はーい。じゃあおねーちゃん、おやすみー」
「ええ、おやすみなさい、日菜。後、さっきの声、私の部屋まで響いて来たから、静かにするようにね」
そのおねーちゃんの言葉に返事をして、部屋を後にする。そうして足早にアタシの部屋に帰って、ベッドに飛び込む。彼女と一緒に出掛ける。それだけでとても嬉しくて、口元の緩みが収まらない。アタシは近くにあるチラシを手に取る。天体観測の日は二週間後、その日までの時間が果てしなく遠いもののように感じる。
「あー、早く二週間過ぎないかなぁ」
そんな事を呟いて横になっているうちにアタシの意識は深い闇に沈んでいくのであった……。
「やっと着いたー! ねぇねぇ、早く行こうよー! アタシすっごく楽しみでるんって感じが止まらないんだー!」
「待ってよ、日菜。そんな急がなくても天体観測は逃げないよ。ほら、ガイドさんが呼んでるから行こ?」
そうして迎えた天体観測当日。彼女の手を引いて走り出すアタシを彼女が引き留める。でも、この日を待ちわびていたのだ、この感情を抑える事なんて出来はしない。そうしてガレージに着き、ガイドの説明も終わり、それぞれで天体観測を始めら流れになった。そうして天体観測する場所を探しているうちに、アタシ達は少し離れた場所に立っていた。
「ねぇ、日菜。ちょっと離れ過ぎじゃない? あまり遠くには行かないようにってガイドさんが言ってたし、そろそろ戻らない?」
「うーん、でも中々るんってくる場所がないんだよねー。……ねぇ、あそこの丘まで行って見ない? あそこならすっごく綺麗に見れそうな気がするんだ!」
「もう、日菜ったら……。分かったよ。でも、あそこまでだからね」
──そうしてたどり着いたそこは、周りには誰もいない、二人と夜空に煌めく満天の星だけの世界だった。全ての音を置いて来たような静寂の中にアタシ達の呼吸の音どころか自分の鼓動の音まで聞こえるような世界は、アタシ達にどんな言葉を紡ぐことすら許さなかった。そして、しばらくして彼女が口を開く。
「……凄い、綺麗……。去年もここに来たけど、こんな綺麗に見える場所があるなんて知らなかった……」
「うん……。アタシもここまで綺麗な星空が見えるなんて思わなかった……。この感じをなんて言葉にしたらいいんだろう……。全然わかんないや……」
「紗夜にも見せてあげたかったね。この景色、写真なんかじゃ絶対伝わらないよ……」
そこからしばらくして、ようやくアタシ達は持ってきた望遠鏡で星空を見上げ、よりその美しさに感動したり、おねーちゃんに見せる写真を撮ったり、色々な星々を探したりした。
「ありがとうね、日菜」
そうしている途中、彼女は突然アタシにお礼を言う。正直、彼女がアタシに感謝する事が思いつかない。
「え? いきなりお礼なんてどうしたの? アタシ、なんか感謝されるような事したっけ?」
「うん。日菜には沢山のものを貰ったからそのお礼を言いたいの。もう諦めた私の夢を応援してくれたり、今日だってこんな綺麗な風景を見せてくれたんだもん。だから、お礼を言わせて。──日菜、いつもありがとうね。」
「えへへ、なんかそう言われると照れるね。でもさ、アタシも嬉しいんだよ。今までアタシにここまで着いて来てくれる人っていなかったから、こうして友達と一緒になんて思ってなかったんだ。だから、アタシからもお礼を言わせて。──いつもありがとう。これからも一緒にいようね!」
アタシの言葉に彼女は目を見開いて、涙を流しながら頷く。その姿の彼女にアタシはなんて声を掛けて良いのか分からず、悩んでるとある事を閃いた。
「ねぇ! 今思い付いたんだけどさ、この空に一緒に居られるようにお願いしようよ!」
「…………え?」
「ほら、今日は流れ星は見えないけどさ、こんな綺麗な星空なら、流れ星なんか無くてもどんな願いだって叶えられそうな気がしない?」
「……あはは。なにそれ、無茶苦茶だよ日菜。……でも、そうだね。こんな綺麗な星空なら、願えばきっと叶いそうだね」
「じゃあお願い! ──こんな風にずっと一緒に過ごせますように!」
「うん。お願い。──どんな事があっても日菜や紗夜が笑顔でいられますように」
「ええー、なにそれー? こういう時は一緒のお願いにしようよー」
「ごめんごめん。一緒にいようってお願いは日菜がしてくれたから、私は大切な二人が笑顔でいて欲しいって思ったからお願いしたんだけど……ダメだったかな?」
「ううん! 全然ダメじゃないよ! あーそれならアタシも同じ事追加でお願いしよっと」
「もう……それじゃあいつまでも終わらないでしょ。……って、そろそろ集合時間じゃん! 急ぐよ! 日菜」
そうして走り出した彼女を追いかけて、その場を後にする。流れ星は見れなかったが、きっとこの星空が願いを叶えてくれる事を信じて。
──そうして、少し秋の近づいてきた日のこの天体観測は終わりを迎えたのだった。
「うーん。やっと着いたー。……全く酷いよね。ずっと一緒いようねって言ったのに、一人で先に行っちゃうんだもん」
──そして、アタシは一年ぶりにこの場所にやってきた。隣に彼女はいない。彼女は自分を置いて手の届かない場所に行ってしまった。その事をぼやいてると、トークアプリからの通知音。
「あれ? おねーちゃんからだ。…………あちゃー。やっぱりバレてたかー。やっぱりおねーちゃんは凄いや」
『星はよく見えるかしら? あまり遅くならないように帰って来なさい。お母さん達も心配してるわよ』
此処にはどうしても一人で来たかったので、おねーちゃんには嘘をついて来たが、そのメッセージを見て、やっぱりおねーちゃんには敵わないなと思い、星空を見上げる。少しだけ雲で陰り、去年のような満天の星とはいえない空模様。その事がアタシの心にも影を作る。──大好きな彼女が居ない世界では、もうアタシには月も太陽も輝いて見えないではないか。その思いを振り払うように頬を叩く。
「しょーがない。さっさと写真でも撮って帰りますかー」
そして本来此処に来た目的である、この場所からの星空の写真を撮る。あまり綺麗な星空は撮れなかったが、あまり遅くなる訳にもいかないし、これで満足しよう。来年もまた来ようと思いつつ、この場所から踵を返し、その前にもう一度だけ空を見上げる。すると、星空に一つだけ、流れ星が流れていった。
「……なんで……なんで、今流れ星が流れるのかなぁ……。今流れるんだったら、一緒にいようねってお願いを言った時にも流れてよぉ…………!」
これがただの偶然で、アタシの八つ当たりであることは分かってる。けれど、もしもあの時にこの流れ星があったのなら、あの時の願いが叶っていたのかもしれないのに。また明日ねってよく考え無くても言えるあの子が居てくれたのかもしれないのに。アタシはそう思わずにはいられなかった。
「あはは、やっぱり届かないよね。……ほんと、遠い所に行っちゃったね。……もう一度だけ、会いたいなぁ」
──気がつけば、アタシは涙を流して星空に手を伸ばしていた。彼女が居なくなってから此処に来るまでの間、ずっと、ずっと考えていたのだ。
──人は死んだら何処へ行くのだろうと。普通に考えたら、人は死んだらそこで終わり、何処へ行くことも無いのだろう。けれど、もしも物語のように死んだ人が星になるのだとしたら、彼女が星になったのだとしたら、アタシはどれだけだって手を伸ばそう。伸ばしたこの手が光の向こうにまで届くと信じ抜こう。
──だけど、今だけはこの涙を流す事を許して欲しい。この涙が晴れた頃には、君が願ってた笑顔でいられるようにするから、しばらくこうしててもいいよね。
「…………よし! いつもの日菜ちゃん復活! ……ってあちゃー、やっぱもう流れ星見えないなー。せっかくだしおねーちゃんへのお土産に写真を撮っておきたかったけど、仕方ないか」
そうして流れる涙が晴れた頃には、もう流れ星は過ぎ去っていた。
雲が晴れて、少しだけ輝きの増した星空に伸ばした手を握り締める。何も掴む事の無い、他の人から見ればたったそれだけの意味のない行為。けれど、アタシにとってはこれは誓いなのだ。この誓いがあれば、たった一人の大好きな彼女の為にアタシは遠い空にだって飛んでみせる。もう、心に陰りは無い。彼女との輝く思い出がある限り、きっとどんな事だって乗り越えてみせる。
──だから待っててね。いつかはわからないけど、今度こそ
──そして、空にもう一つだけ流れ星が流れた。
次は紗夜視点か彼女視点やりたいなぁ……