「時代に消された戦士達」 機動戦士Zガンダム外伝 作:ずん侍
「バスク司令、残党軍掃討作戦に向かっていた一個小隊をロスト致しました…」
「ロストだと?」
「はい、MS6機と戦艦1隻の反応が消えました」
「…」
残党軍にマラサイを超える性能のMSがあるという情報は入ってなかったはず…
「何か情報は入ってきていないのか」
「めぼしい物は得られておりません…」
「…そうか、この事を知っている者はどれ程居るのだ」
「この作戦において艦と連絡を取っていた人員数名であります」
「今ここにおいてこの情報は他言無用だ。もし話した場合は消えて貰う」
「了解であります」
「下がれ」
重厚な扉の閉まる音が鳴り響き、静寂が辺りを包む
おもむろに端末を取り出すと通話をかける
「おい、命令を与える」
「はっ、何なりと」
「この度の残党軍掃討作戦のレーダー監視任務を受けた者を全て消せ」
「了解」
内心はとても焦っていた、連邦軍の中でさえエゥーゴの動きが活発になりその対応で追われているのにも関わらず残党軍が力を持ち始めているのだ。これは知られてはいけない、もしこの情報が流れでもしたら間違いなく組織が混乱しエゥーゴにつけ込まれる。
どう処理したものか…
Truth3 、総司令室
ジオンの国旗が垂らされた舞台の上に男が座っている。その男は隠しきれない軍人としての雰囲気が出ており政治家と言うよりは軍師と言われた方がしっくりと来るような感じであった。
横に微動だにせず立っていた男が左耳に付けた通信機から届く情報に耳を傾ける
「総帥、吉報にございます」
「何だ」
「ラディ・アーデルス中尉等5人が介入した戦闘においてティターンズと思われる敵MS6機を撃墜、戦艦1隻を戦闘不能という戦果を上げたようです」
「ほう、中々の戦果ではないか」
「更に、その内MS2期と戦艦1隻はラディ中尉の戦果との事であります」
「単騎で戦艦を沈めたのか…」
「左様にございます」
「ラディ中尉のプロフィールを貰おうか」
「はい、ラディ・アーデルス 26歳 階級は中尉、サイド3出身であり士官学校に入学後ジオン特務学校へ編入。特務機関のパイロット兼兵士として活躍。一年戦争を生き残り今に至ります」
「…特務機関の出か、ならばその力も納得がいく」
「して、褒賞はどう致しましょう」
「…大尉に昇格させ、専用機を与えよう。彼にはもっと活躍して貰わんとな」
「仰せのままに…」
ティターンズの残党狩りへの介入により、ステン・ガルスの有用性が証明され量産に向けて舵が切られることとなる。だがやはり従来の量産機と比べコストは掛かる事から大量生産とは成らなかった。
技術部門 カスタム機開発部
「おーい、新たな指令が出たぞ」
「あ?内容は何だ」
「今回ロールアウトされたステン・ガルスをベースに新たに大尉に昇格したラディ・アーデルス大尉の専用機を製作せよ…だって」
「成程な、ラディ大尉ってあれだろ戦艦を単騎で沈めた奴だろ?新たなエースに専用機をってか」
「へーそりゃ凄い人じゃん、じゃあ今作ってるって噂のガンダムタイプもその人が乗るのかな」
「どーだろーな、そいつの腕次第なんじゃない。今回はたまたまかも知んねぇだろ」
「まぁそーだけどね、とにかく本人に要望を聞いてみようよ」
「ああ」
「ラディ大尉、御昇格おめでとうございます」
「ありがとう、君らが居てくれたお陰だよ」
「あ、ありがとうございます」
「そんなに気を使わなくていい、今まで通りでよろしく頼む」
「……承知致しました」
「……」
まぁ仕方がないか、大尉まで来るとこうなる物なのだろう
「ラディ大尉、カスタム機開発部よりお会いして直接話したい事が有るとの事ですが」
「分かった、今行こう」
座り心地の良い木製の椅子から立ち上がりコートを手に取る。
随分と自分も偉くなったものだ…部屋を見渡し思う。装飾が惜しみなく使われているわけでは無いものの今までと比べれば幾分と品のある部屋になっている。
私は立場が変わる事で腐って行った軍人を幾度と無く見て来た。軍人である事を忘れ、金や権力に取り憑かれていく様を…自分はあれにはなりたくないと心の底から思った。ジオンの軍人として、いや…時代の支配者となり支配欲に走る連邦軍に抗う者、レジスタンスとしての誇りを忘れたくない…その誇りがあれば腐ることは無い、総帥の様に気高く生きていける…そう信じている。
その誇りを持ち続ける為に必要な事…それはこの手で人を殺め続ける事…だから私は戦い続ける…
「待たせたな、さあ行こうか」
「お忙しい中お時間を頂きありがとうございます、ラディ・アーデルス大尉殿」
繋ぎの様な作業服を着た2人の内の優しげな好青年といった印象の男が慣れた口調で話してくる。実際職業柄慣れているのだろう。
「いや、私の専用機を造ってくれるそうではないか。礼を言わなければ成らないのは私の方だ」
「恐縮の限りでございます、大尉殿。では此方の方へどうぞ」
「ああ」
元学徒兵だろうか、MSなどについて学んでいる学生をヘッドハンティングして軍に徴兵するとは聞いていたが…会うのは初めてだ。
入ると廊下がありこの奥に応接間がある様だ。歩いていると1分も掛からずに着いた。工場には似つかない重厚な扉の先には様々な装飾に包まれた洋室があった。
相当な階級の人に対応出来るようにという事だろうか。
「今日の要件を聞こうか」
「はい、この度は大尉殿の専用機を製作するという事でご要望をお聞かせ願いたいと思った次第でございます。」
「成程な、大まかで大丈夫なのか?」
「ええ、結構です」
「なら…まずは推力だな母艦を狙うには時間がかかりすぎる。勘のいい艦長ならば早々と逃げてしまうからな」
「成程、推力でございますね」
「後はもっと射程と威力のある武装が欲しい。私は狙撃手としても活動していたからな、丁度スナイパーライフル程度の大きさの物がいい」
「スナイパーライフルですね…光学スコープも搭載してよろしいでしょうか」
「ああ、その点は任せる」
「承知致しました…塗装はどうなされましょう」
「今の黒の塗装のままで頼む。保護色でないと落ち着かないんだ」
「承知致しました…他になにかございますか?」
「特には無いな…私が求めるのは全ての距離においての戦闘能力と推力、反応速度。この3点の強化だ」
「全力を尽くし製作させて頂きます」
「ああ、楽しみにしているよ」
「何だか紳士的で普通にいい人だったね」
「ああ、腐った軍人って訳じゃないみたいだな。俺は結構長い間この役職やってんだが」
「なら対応してくれればいいのに…」
「俺はそーいうの苦手なんだから仕方ねぇだろ。まぁそれは置いといてだな、色んなエースと会ってきてその人達と同じ雰囲気がした」
「へー、どんな?」
「具体的には分かんないんだが…才能から滲み出るオーラというか、やっぱそういうのって有るんだよ。あの人からはそれを感じた」
「へー、そうなんだ」
「お前信じてないだろ」
「そんな事ないよー」
「全く…上からは出来るだけ早く作れって言われてんだ。7日間で作るぞ」
「1週間か…大変になりそうだな…」
此処でこの者達で作られたMSが後に黒い死神と呼ばれ恐れられていくことになる…
次回は戦闘シーンもりもりになる予定です!お楽しみに
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